2007年07月

2007年07月31日

7月 名歌観賞 一覧 (1)

7/1 由良の門を渡る舟人梶を絶え行くへも知らぬ
    恋の道かな           曽爾好忠
7/2 玉の緒よ絶えねば絶えねながらえば忍ぶることの
    弱りもぞする          式子内親王
7/3 三井寺の門をたたかばやけふの月 芭蕉
7/4 露と落ち露と消えにしわが身かななにはのことも
    夢のまた夢           豊臣秀吉
7/5 寂しさをいかにせよと岡べなる楢の葉しだりに
    雪の降るらん          藤原国房
7/6 これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも
    逢坂の関            蝉丸
7/7 五月雨や大河を前に家二件    蕪村
7/8 富士のねを木の間木の間にかへり見て松のかげふむ
    浮き島が原           香川景樹
7/9 もののふの八十少女らが汲みまがふ寺井の上の
    堅香子の花           大伴家持
7/10 帰らじとかねて思へば梓弓なき数に入る
    名をとどむる          楠木正行
7/11 灯ちらちら疱瘡小屋の吹雪かな  一茶
7/12 梓弓春立しより年月の射るがごとく
    思ほゆるかな         凡河内みつね
7/13 香具山の尾上にたちて見渡せば大和国原
    早苗とるなり         上田秋成
7/14 入門は凍てわらじ履き永平寺  倉橋羊村
7/15 相思わぬ人を思ふは大寺の餓鬼を後に
    額ずくがごと         笠女郎
  

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7月 名歌観賞 一覧 (2)

7/16 花見んと植えけん人もなき宿の桜は去年の
    春ぞ咲かまし         大江嘉言
7/17 かたちこそ深山がくれの朽木なれ心は花に
    なさばなりなむ        兼芸法師
7/18 手をついて歌申しあぐる蛙かな 山崎宗鑑
7/19 ときはなる松の緑も春くればいまひとしほの
    色まさりけり         源宗干
7/20 田子の浦ゆうち出でて見れば真白にぞ富士の高嶺に
    雪は降りける         山部赤人
7/21 もみじ葉の流れてとまる水門には紅深き
    波や立つらむ         素性法師
7/22 いねいねと人にいはれつ年の暮 路通
7/23 淡雪のほどろほどろに降り敷けば平城の京し
    思ほゆるかな         大伴旅人
7/24 泰平のねむりをさますじょうきせんたった四はいで
    夜も寝られず
7/25 駿河なる宇津山べのうつつにも夢にも人に
    逢うはぬなりけり       在平業平
7/26 霜やけの手を吹いてやる雪まろげ  羽紅
7/27 さざ浪や志賀の都は荒れにしを昔ながらの
    山桜かな           平忠度
7/28 妹もわれも一つなれかも三河なる二見の道ゆ
    別れかねつる         高市黒人
7/29 見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春の
    錦なりける          素性法師
7/30 鍋の尻ほし並べたる雪解かな  一茶
7/31 すがる鳴く秋の萩原朝立ちて旅行く人を
    いつとか待たむ        読人しらず

   

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すがる鳴く 秋の萩原 朝たちて 旅ゆく人を  いつとか待たむ

すがる鳴く 秋の萩原 朝たちて 旅ゆく人を 
いつとか待たむ
                詠み人しらず

意味・・野には萩が一面に咲き乱れ、蜂がぶんぶんと飛び交う
    秋となった。その美しい萩の花を分けて、うちの人は
    朝立ちの旅に出るのだが、無事に帰ってくれるのは
    はたしていつのことだろうか。

    不便や危険が多かった昔、旅に出る人を送る時の
    不安な気持や夫との別れを悲しむ女性の気持を詠ん
    だものです。

 注・・すがる=腰の細い小型の蜂の古名。じが蜂。
    人=特定の人を指していう語。あの人。夫。
    いつとか待たむ=いつ帰って来ると私は待つのだろ
     うか。「いつまで待っても帰るまい」という気持
     も含まれている。

出典・・古今和歌集・399。

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2007年07月30日

名歌観賞・94

鍋の尻 ほし並べたる 雪解かな     一茶

(なべのしり ほしならべたる ゆきげかな)

意味・・春めいてきて、信濃(しなの)の根雪も解け
    はじめる。冬の間たき火で煤けきっていた
    鍋の類も、門川の水できれいに磨きあげられ
    日向に干し並べられる。
    その磨きたてられた鍋の尻にきらめく明るい
    日差しに、長い冬からの開放感と、新しい
    季節の躍動が生き生きと感じられる。


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2007年07月29日

見渡せば 柳桜を こきまぜて 都ぞ春の  錦なりける 

見渡せば 柳桜を こきまぜて 都ぞ春の 
錦なりける 
               素性法師

(みわたせば さくらやなぎを こきまぜて みやこぞ
 はるの にしきなりける)

意味・・はるかに京を見渡すと、新緑の柳は紅の桜を
    とり混ぜて、都は春の錦だなあ。

    眺望のきく高みから臨んで、都全体を緑と
    紅の織り込まれた錦と見たものです。
    「春の」とあるのは、ふつう、錦と見立て
    られるのが秋の山の紅葉であるためです。

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2007年07月28日

名歌観賞・92

妹もわれも 一つなれかも 三河なる 二見の道ゆ
別れかねつる             高市黒人

(いももわれも ひとつなれかも みかわなる
 ふたみのみちゆ わかれかねつる)

意味・・あなたも私も一つであるからか、三河の
    国にある二見の道から別れられない。

    一、二、三の数字を詠み込んだ、洒落の
    歌です。

 注・・妹=男性から女性を親しんでいう語。
      妻・恋人にいう。

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2007年07月27日

さざ浪や 志賀の都は 荒れにしを 昔ながらの  山桜かな

さざ浪や 志賀の都は 荒れにしを 昔ながらの 
山桜かな
                 平忠度             

(さざなみや しがのみやこは あれにしを むかし
 ながらの やまざくらかな)

意味・・志賀の古い都はすっかり荒廃してしまったけれど、
    昔のままに美しく咲き匂っている長等山の山桜よ。

    古い都を壬申(じんしん)の乱で滅んだ大津京に設定し、
    その背後にある長等山の桜を配して、人間社会の
    はかなさと悠久(ゆうきゅう)な自然に対する感慨を
    華やかさと寂しさを込めて表現しています。

 注・・さざ浪=志賀の枕詞。
    ながら=接続詞「ながら」と「長等山」の掛詞。

作者・・平忠度=たいらのただのり。1144~1184。正四位下・
    薩摩守。

出典・・千載和歌集・66。

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2007年07月26日

名歌観賞・90

霜やけの 手を吹いてやる 雪まろげ   羽紅(うこう)

(しもやけの てをふいてやる ゆきまろげ)

意味・・雪まろげに興じていた子供の手を見ると、
    霜やけで赤くはれているので、息を吹き
    かけ温めてやった。

    いかにも母親らしい、子を思う情愛に
    あふれた句です。

 注・・雪まろげ=雪を丸め転がして大きくすること。
    



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2007年07月25日

駿河なる 宇津の山べの うつつにも 夢にも人に  逢はぬなりけり

駿河なる 宇津の山べの うつつにも 夢にも人に 
逢はぬなりけり            
                  在原業平

(するがなる うつのやまべの うつつにも ゆめにも
 ひとに あわぬなりけり)

意味・・私は今駿河の国にある宇津の山のほとりに来て
    いますが、現実にお会い出来ないのはもちろん、
    夢の中でさえもお会いすることが出来ません。
   (あなたはもう、私を思ってくださらないのですね)

    当時は、相手が思っていてくれる時は、その姿が夢
    に出ると信じられていた。「夢にも人に逢はぬ」は、
    その人がすでに自分のことを思っていないのではと
    嘆いているのです。

 注・・駿河なる宇津の山=静岡県宇津谷峠。「宇津」で
    「うつ」を導いています。
    うつつ=現実。
    

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2007年07月24日

名歌観賞・88

泰平の ねむりをさます じょうきせん たった四はいで
夜も寝られず

(たいへいの ねむりをさます じょうきせん たったしはいで
 よるもねられず)

意味・・日頃安らかに眠れていたのに、上喜撰というお茶をたった
    四杯飲んだら、興奮して夜になっても寝られなくなった。
    平和な世の中であったが、蒸気船がたった四隻来ただけ
    で世の中は大騒ぎとなってうかうか夜も寝られなくなった。

    1853年ペリーが浦賀沖に四隻の蒸気船に乗ってやって
    来た。当時、徳川幕府は鎖国をしていたものの長崎のみで
    朝鮮・中国・オランダとの交易をしていた。ペルーは長崎
    以外の港も認めるべしと恫喝外交でせまって江戸湾にも
    艦隊を進入させ徳川幕府を驚かした。

 注・・じようきせん=宇治の銘茶である「上喜撰」、カフェイン
       の度が強いので飲むと興奮して夜は寝られない。
       それと「蒸気船」を掛けている。

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2007年07月23日

淡雪の ほどろほどろに 降り敷けば 平城の京し  思ほゆるかも

淡雪の ほどろほどろに 降り敷けば 平城の京し 
思ほゆるかも
                  大伴旅人

(あわゆきの ほどろほどろに ふりしけば ならのみやこし
 おもおゆるかも)

意味・・泡のような雪がひらひらと降って一面に降り敷くと、
    あの奈良の都が思われることだなあ。

    大宰府に居た時の作です。大宰府は都に比べれば雪が
    珍しく、それたけに、雪を見るとすぐさま都に思いを
    はせたものです。

 注・・ほどろほどろ=はらはらと、まだらに。
    平城の京し(ならのみやこし)=奈良の都が。


    

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2007年07月22日

名歌観賞・86

いねいねと 人にいはれつ 年の暮   路通

(いねいねと ひとにいわれつ としのくれ)

意味・・年の暮、人に頼って生活をするような境遇の
    自分は、あちらでもこちらでも「あっちへ行け」
    と言われ、冷たくあしらわれることだ。

    漂泊の僧として乞食生活を送った路通らしい
    句です。同門のみならず芭蕉にも不評を買った
    身の上を「いねいね」という語で厳しく見つめて
    います。

 注・・いね=去ね、行け。

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2007年07月21日

もみぢ葉の 流れてとまる 水門には 紅深き  波や立つらむ

もみぢ葉の 流れてとまる 水門には 紅深き 
波や立つらむ
                  素性法師

(もみじばの ながれてとまる みなとには くれないふかき
 なみやたつらん)

意味・・(龍田川にはもみじ葉が流れているが)もみじ葉の
    流れて行き着く河口では、(もみじ葉がたまって)
    紅色の濃い波が立っているであろうか。

    屏風に、龍田川に紅葉が流れているさまを描いて
    あったのを題として詠んだものです。       

 注・・とまる=泊まる。行き着く所。
    水門(みなと)=川の口・入り江の口などで、
       両岸が狭くなっている所。

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2007年07月20日

名歌観賞・84

田子の浦ゆ うち出でて 見れば真白にそ 富士の高嶺に
雪は降りける                
             山部赤人(やまべのあかひと)
             (万葉集・321)
(たごのうらゆ うちいでて みればましろにそ ふじの
 たかねに ゆきはふりける)

意味・・田子の浦を通って眺望のきく所へ出て見ると、
    真っ白に富士の高い峰に雪が降り積っている
    ことだ。

    作者の位置を明らかにしつつ、富士の景観を
    嘆美したものです。簡潔でよく形も整い、声調
    も張り満ちた歌になっています。

    「新古今集・675、百人一首・4」では、

    「田子の浦に うち出でてみれば 白妙の 富士の
    高嶺に 雪は降りつつ」(山部赤人)

    と収められています。

 注・・田子の浦=駿河国(するが・静岡県)の海岸。
    白妙(しろたえ)=こうぞの木の繊維で織った布
     のように真っ白い状態をいう。富士の枕詞。

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2007年07月19日

ときはなる 松の緑も 春くれば いまひとしほの 色まさりけり

ときはなる 松の緑も 春くれば いまひとしほの
色まさりけり     
            源宗干(みなもとむねゆき)

(ときわなる まつのみどりも はるくれば いま
 ひとしおの いろまさりけり)
 
意味・・松の緑は一年中、色が変わらないが、その松
    までも春が来たので今日は一段と色がまさって
    いることだ。

    「松の緑も」というこで、他の木々には当然
    春色が訪れている事を語っています。

 注・・ときは=常盤、永久に状態の変わらないこと。
    いまひとしほ=さらに一段と。

出典・・古今和歌集・24。

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2007年07月18日

手をついて 歌申しあぐる 蛙かな 

手をついて 歌申しあぐる 蛙かな   山崎宗鑑

(てをついて うたもうしあぐる かわずかな)

意味・・雨模様の空の下で、けろりとした顔で
    鳴いている蛙の様子は、まるで偉い人
    の前でかしこまって、手をついて歌を
    申し上げているような姿である。

    「古今集」仮名序の「花に鳴く鶯、水に
    住む蛙の声を聞けば、生きとし生けるもの
    いづれか歌をよまざりける」という有名な
    一節を念頭に置いています。

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2007年07月17日

かたちこそ 深山がくれの 朽木なれ 心は花に なさばなりなむ

かたちこそ 深山がくれの 朽木なれ 心は花に
なさばなりなむ           
                  兼芸法師

(かたちこそ みやまがくれの くちきなれ こころは
 はなに なさばなりなん)

意味・・私はみかけこそ奥山に隠れた朽ち木ですがね。
    けれども、心にはきれいな花を咲かそうと
    思えば咲かせられますよ。

    作者の姿を軽蔑されたので詠んだ歌です。

 注・・かたち=顔かたち、容貌。
    深山がくれ=奥山に隠れている。

出典・・古今和歌集・875。

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2007年07月16日

花見んと 植えけん人も なき宿の 桜は去年の  春ぞ咲かまし

花見んと 植えけん人も なき宿の 桜は去年の 
春ぞ咲かまし
                大江嘉言(おおえのよしとき)

(はなみんと うえけんひとも なきやどの さくらはこぞの
 はるぞさかまし)

意味・・花を見ようと思って、植えた人が亡くなった
    この家の桜は、去年の春に咲いたらよかったで
    あろうに。

    ある人が桜を植えたその後に亡くなってしまった。
    その翌年、初めて花が咲いたのを見た友人である
    嘉言(よしとき)が詠んだ歌です。

    親しかった人の生前の願いが、その人の死後に
    実現した時の悔しさ、嘆きを詠んでいます。


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2007年07月15日

相思はぬ 人を思ふは 大寺の 餓鬼の後に  額づくがごと

相思はぬ 人を思ふは 大寺の 餓鬼の後に 
額づくがごと
               笠女郎

(あいおもわぬ ひとをおもうは おおでらの がきの
 しりえに ぬかずくがごと)

意味・・互いに思わない人を一方的に思うのは、大寺
    の餓鬼を後から額をこすりつけて拝んでいる
    ようなものだ。

    片思いは仏ならぬ餓鬼に、しかも後から拝む
    ように、何のかいもないことだと、我が恋を
    自嘲するものです。

 注・・相思はぬ=片思いのこと。
    後(しりえ)に=後から。


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2007年07月14日

名歌観賞・78

入門は 凍てわらじ履き 永平寺   倉橋羊村

(にゅうもんは いてわらじはき えいへいじ)

意味・・永平寺は修業の厳しさで知られています。
    入門するには、凍てわらじを履き厳しさを
    味わってその覚悟をするということです。

    修業の目標は「私は坊主です、俗世の事は
    何も気にしません、耳障りな言葉も気に
    なりません」、「吾・唯・知・足」など。
    

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2007年07月13日

香具山の 尾上にたちて

香具山の 尾上にたちて みわたせば 大和国原
早苗とるなり            
                  上田秋成

(かぐやまの おのえにたちて みわたせば やまと
 くにはら さなえとるなり)

意味・・香具山の山頂に立って見渡すと、大和の
    平原では田植え仕度に苗代田から早苗を
    取っている。

    初夏の風物を大きく伸びやかに描いています。

    万葉集の「大和には群れ山あれどとりよろふ
    天の香具山、登り立ち国見をすれば国原は煙
    立ち立つ」を念頭に置いています。

    (大和の国には多くの山々があるけれど、
     中でも立派に整っているのは天の香具山だ。
     その山に登り国見をしてみると、国の広い
     所には炊飯の煙があちらこちらに立って、
     民が安泰な生活をしている)      

 注・・香具山=奈良県桜井市にある山。
    尾上(おのえ)=山の上。

作者・・上田秋成。

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2007年07月12日

名歌観賞・76

梓弓 春立ちしより 年月の 射るがごとく 思ほゆるかな
                     凡河内みつね

(あずさゆみ はるたちしより としつきの いるが
 ごとく おもおゆるかな)

意味・・梓弓につがえて射る矢は見る間に飛び去るが、
    その弓に張るという言葉に違わず、春になつた
    と思うやいなや、それから始まった新しい年月
    が矢を射たようにすばやく飛んでいく。

    「光陰矢の如し」です。

    梓弓(あずさゆみ)=春に掛る枕詞。



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2007年07月11日

灯ちらちら 疱瘡小屋の 吹雪かな

灯ちらちら 疱瘡小屋の 吹雪かな    一茶

(ひちらちら ほうそうごやの ふぶきかな)

意味・・長崎郊外に設けられた大村藩の人里離れた
    隔離病舎を詠んだ句です。
    降りしきる吹雪の中で、病舎の灯がちらちら
    とまたたく情景です。
    病舎といっても人に忌(い)まれる天然痘患者
    を収容した粗末な小屋なのです。

    人に忌み嫌われる病気、治るのかどうか不安
    の中、そして寒さに寂しさ。この逆境の中で
    必死になって生きている患者を念頭に詠んだ
    句です。

 注・・疱瘡(ほうそう)=天然痘のこと。法定伝染病
      の一つで、高熱・発疹(ほっしん)を生じ
      あばたを残す。


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2007年07月10日

名歌観賞・74

帰らじと かねて思へば 梓弓 なき数に入る
名をとどむる           楠木正行

(かえらじと かねておもえば あづさゆみ なき 
 かずにいる なをとどむる)

意味・・とうてい勝ち目のない戦いなので、勝って
    帰れないと思うが、自分が生きていた証(
    あかし)に、名をここに刻み、必死の覚悟で
    出陣をしょう。

    650年前、正行(まさつら)がとうてい勝目
    のない足利の大軍を四条畷(しじょうなわて・
    現大阪府)に迎え打つための出陣で、吉野の
    如意輪寺の扉に矢尻で刻んだ、辞世の歌です。

 注・・かねて=前もって。
    梓弓(あづさゆみ)=入るに掛る枕詞。
    なき数に=一つの群れに属するもの、この
      歌の場合は死者の仲間。


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2007年07月09日

もののふの 八十少女らが 汲みまがふ 寺井の上の 堅香子の花

もののふの 八十少女らが 汲みまがふ 寺井の上の
堅香子の花               
                   大伴家持

(もののふの やそおとめらが くみまがう てらいの
 うえの かたかごのはな)

意味・・大勢の少女たちが入り乱れて水を汲んでいる
    寺の井のほとりに咲くかたくりの花のかれん
    なことだ。

    「八十少女」と「かれんな花」の個性的な美が
    互いに結びあって総合的な美の世界をかもし出
    しています。

 注・・もののふ=物の部(文武の官)が多くある
     ことから、「八十」にかかる枕詞。
    八十(やそ)=数の多いこと。
    汲みまがふ=入り乱れて汲む。
    寺井の上の=寺にある井のほとり。「井」は
     湧き水をたたえて汲めるようにした所。
    堅香子(かたかご)=ユリ科の多年草。今の
      かたくりのこと。

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2007年07月08日

名歌観賞・72

富士のねを 木の間木の間に かへりみて 松のかげふむ
浮き島が原                 香川景樹

(ふじのねを このまこのまに かえりみて まつの
 かげふむ うきしまがはら)

意味・・富士の峰を松並木の木の間ごとに振返って
    眺めながら、木陰の道を踏んでゆくここ
    浮島が原よ。

    美しい風景の中を旅行く楽しさを感じさせる
    一首です。

 注・・浮島が原=静岡県愛鷹(あしたか)山に広がる
     東海道の名所。北に富士山を仰ぎ見ることが
     でき、南は海を見渡すという眺望のすぐれた
     ところです。

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2007年07月07日

五月雨や 大河を前に 家二軒

五月雨や 大河を前に 家二軒     蕪村

(さみだれや たいがをまえに いえにけん)

意味・・何日も降り続く五月雨のために、水かさを
    増して荒れ狂うように流れる大河。
    対岸には、今にも押し流されそうな二軒の
    小さな家が寄り添うように建っている。

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2007年07月06日

名歌観賞・70

これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも
逢坂の関                   蝉丸

(これやこの ゆくもかえるも わかれては しるも
 しらぬも おうさかのせき)

意味・・これがあのう、こらから旅立つ人も帰る人も、
    知っている人も知らない人も、別れてはまた逢う
    という、逢坂の関なのですよ。

    会っては別れ、別れてはまた会うことを繰り返す
    のが人生のならいだ、会うは別れのはじめだ、と
    する「会者定離(えしゃじょうり)」の理(ことわり)
    を詠んでいます。

 注・・これやこの=これが噂に聞いているあのう・・、
       という言い方。
    逢坂の関=山城国(京都府)と近江(滋賀県)の
       境の関所。


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2007年07月05日

寂しさを いかにせよとて 岡べなる 楢の葉しだり 雪の降るらん

寂しさを いかにせよとて 岡べなる 楢の葉しだり
雪の降るらん             
                                                                藤原国房

(さびしさを いかにせよとて おかべなる ならのは
 しだりに ゆきのふるらん)

意味・・寂しさをこの上どうせよというので、岡の
    ほとりに立っている楢の葉を垂れさせて、
    雪が降っているのであろうか。

    田舎の宿で降る雪を眺めていると、寂しさ
    がいよいよ深まって来て、詠んだ歌です。

 注・・いかにせよとて=どのようにせよというのか。
    しだり=垂り、下に垂れる。

出典・・新古今和歌集・670。

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2007年07月04日

名歌観賞・68

露と落ち 露と消えにし わが身かな なにはのことも
夢のまた夢                
            豊臣秀吉(とよとみひでよし)
            (詠草)
(つゆとおち つゆときえにし わがみかな なにわの
 ことも ゆめのまたゆめ)

意味・・露のようにこの世に身を置き、露のように
    この世から消えてしまうわが身であった。
    何事も、あの難波のことも、すべて夢の中
    の夢である。

    死の近いのを感じた折に詠んだもので結果的
    には辞世の歌となっています。    

 注・・なにはのこと=難波における秀吉の事業、また
    その栄華の意と「何は(さまざま)のこと」を
    掛けています。

作者・・豊臣秀吉=1536~1598。木下藤吉朗と称し織田
     信長に仕える。信長の死後明智光秀討ち天下
     を統一する。難波に大阪城を築く。

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2007年07月03日

三井寺の 門をたたかばや けふの月

三井寺の 門をたたかばや けふの月 
                                                               芭蕉

(みいでらの もんをたたかばや けふのつき)

意味・・今日は中秋の名月、この美しい月のもとで、
    月にゆかりのある三井寺に赴き、門でも
    敲(たた)きたいものだ。

    謡曲「融(とおる)」の「げにげに月の出でて
    候ふや。・・鳥は宿す池中の樹、僧は敲く
    月下の門、推すも敲くも故人の心、今目前の
    秋暮にあり・・」を念頭に詠んだ句です。

 注・・三井寺=大津にある園城寺のこと。
    けふの月=陰暦8月15日の月。

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2007年07月02日

名歌観賞・66

玉の緒よ 絶えねば絶えね ながらへば 忍ぶることの
弱りもぞする              式子内親王

(たまのおよ たえねばたえね ながらえば しのぶる
 ことの よわりもぞする)

意味・・私の命よ、絶えるならいっそ絶えてしまえ。
    もし、生き長らえたら、心に秘めて耐え忍ぶ
    力が弱まって、恋が外にあらわれてしまうと
    いけないから。 

    恋している相手にも、世間にも知られまいと
    する恋を詠み、心に秘めた恋の苦しさに耐え
    きれなくなった瞬間を歌ったものです。

注・・玉の緒=命のこと。

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2007年07月01日

名歌観賞・65

由良の門を 渡る舟人 梶を絶え 行へも知らぬ 
恋の道かな
                曾禰好忠

(ゆらのとを わたるふなびと かじをたえ ゆくえも
 しらぬ こいのみちかな)

意味・・由良の瀬戸を漕ぎ渡っていく舟人が、梶がなく
    なって行く先も分からずに漂よううに、これから
    の行く末の分からない恋の前途だなあ。

    ただてさえ潮流の激しい海峡で、梶を無くして
    しまった舟人が、どうすることも出来ずに翻弄
    (ほんろう)されてしまう。それと同じように、
    自分の恋もこれからの先のことがまるで分から
    ない、というものです。

 注・・門(と)=海峡。
    由良の門=和歌山県紀伊海峡。流れが早い。

そねのよしただ

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