2008年03月

2008年03月31日

3月 名歌一覧 (1)

3/1 世の中の 憂きも辛きも 情けをも わが子を思ふ
   ゆへに知れ             良寛
3/2 にほ鳥の 葛飾早稲の 新しぼり くみつつをれば
   月傾きぬ              賀茂真淵
3/3 雪しろの かかる芝生の つくづくし  良寛
3/4 み吉野の 山もかすみて 白雪の ふりにし里に
   春は来にけり            藤原良経
3/5 有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を
   忘れやはする            大弐三位
3/6 琴の音に 峰の松風 通ふなり いづれのおより
   調べそめけむ            斎宮女御
3/7 裾に置きて 心に遠き 火桶かな    蕪村
3/8 士やも 空しかるべき 万代に 語り継ぐべき
   名は立てずして           山上憶良
3/9 山桜 咲きそめしより 久方の 雲居に見ゆる
   滝の白糸              源俊頼
3/10 雁なきて 菊の花咲く 秋はあれど 春の海辺に
   住吉の浜              在原業平
3/11 ぼたん切って 気のおとろえし 夕べかな 蕪村
3/12 花を見て 花を見こりし 花もなし 花見こりしは
   今日の花のみ            橘曙覧
3/13 春日山 おして照らせる この月は 妹が庭にも
   清けかりけり            読人知らず
3/14 花さそふ 嵐の庭の 雪ならで ふりゆくものは
   わが身なりけり           藤原公径
3/15 ながめしは 野菊のくきの はじめかな 石田未得


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3月 名歌一覧 (2)

3/16 人問はば 見ずといはむ 玉津島 かすむ入江に
   春のあけぼの            藤原為氏
3/17 雄神川 紅にほふ 娘子らし 葦付取ると 
   瀬に立たすらし           大伴家持
3/18 庵結ぶ 山の裾野の 夕ひばり 上がるも落つる
   声かとぞ聞く            慶運
3/19 四天王 憤怒す百舌も また叫ぶ   水原秋桜子
3/20 七十に 御津の浜松 老いぬれど 千代の残りは
   なほぞはるけき           藤原清輔
3/21 君に恋ひ 甚も術なみ 平山の 小松が下に
   立ち嘆くかも            笠女郎
3/22 風さそう 花よりも猶 我はまた 春の名残を
   いかにとかせん           浅野内匠頭
3/23 茶摘女が いつも暮れ行く 土橋かな 原月舟
3/24 惜しめども たちもどらず ゆく春を 勿来の関の
   せきとめなん            内田康夫
3/25 石川や 瀬見の小川の清ければ 月も流れを
   尋ねてぞすむ            鴨長明
3/26 宇治の川瀬の 水車 何とうき世を めぐろう
                     閑吟集
3/27 年経たる 宇治の橋守 こと問はん 幾代になりぬ
   水の水上              藤原清輔
3/28 青梅や 島といえども 国分寺    角川源義
3/29 いざさくら 我も散りなむ ひとさかり ありなば人に
   憂きめ見えなむ           承均法師 
3/30 色も香も おなじ昔に さくらめど 年ふる人ぞ
   あらたまりける           紀友則
3/31 うつせみの 世にも似たるか 花ざくら 咲くと見しまに
   かつ散りにけり           読人知らず

   

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名歌観賞・339

うつせみの 世にも似たるか 花ざくら 咲くと見しまに 
かつ散りにけり              読人知らず

(うつせみの よにもにたるか はなざくら さくとみしまに
 かつちりにけり)

意味・・はかなく崩れやすい人の世によくも似たものだ。
    咲いたかと思う間に、桜の花は片っ端から散って
    しまうものだ。

    盛者必衰(じょうじゃひっすい)というように、
    仏教的厭世(えんせい・悲観的な考え)観を詠んだ
    歌です。

 注・・うつせみ=世・命に掛る枕詞。現世のはかなさ。
    かつ=すぐに。次から次に。

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2008年03月30日

色も香も おなじ昔に さくらめど 年ふる人ぞ  あらたまりける 

色も香も おなじ昔に さくらめど 年ふる人ぞ 
あらたまりける           
                                                             紀友則(きのとものり)

(いろもかも おなじむかしに さくらめど としふるひとぞ
 あらたまりける)

意味・・色も香りも昔と同じように咲いているのだろうが、
    年を経てここにやって来た我々の方は、姿がこの
    ように変っている。

    桜の下で年を取ったことを嘆いて詠んだ歌です。

    中国の詩句 「年々歳々花は相似たり、歳々年々
    人は同じからず」と似ています。

 注・・らめ=直接に経験していない現在の事実について
       推量すること。作者は必ずしも毎年見に来
       ているものではない。
    年ふる=年を経る。
    あらたまり=姿が変ること。ここでは老人らしく
       なること。



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2008年03月29日

名歌観賞・337

いざさくら 我も散りなむ ひとさかり ありなば人に
憂きめ見えなむ       承均法師(ぞうくほうし)

(いざさくら われもちりなん ひとさかり ありなばひとに
 うきめみえなん)

意味・・さあ桜の花よ。おまえが潔く散るように、私も
    いつかは散り果てよう。物事はひとたび盛りの
    時があると、その後できっと人にみじめな姿を
    見られるだろうから。

 注・・ひとさかり=一時の盛り。最盛期。
    憂きめ=つらいこと。みじめなこと。
    見え=見られ

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2008年03月28日

青梅や 島といえども 国分寺

青梅や 島といえども 国分寺  
                    角川源義

(あおうめや しまといえども こくぶんじ)

意味・・見るものは青梅しかないただの島だが、立派な
    国分寺が建っているものだなあ。昔は重要な島
    だったのだろうか。

    鳥取県の隠岐(おき)の島の国分寺を読んだ句。
    国分寺は奈良時代に国家の平安を祈るために
    諸国に建てられた。隠岐は大陸との交流があ  
    り重視されていた。また、後白河法皇がここ
    に島流しにされた。

作者・・角川源義=かどかわげんぎ。1917~1975。
    国文学者。俳人。

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2008年03月27日

名歌観賞・335

年経たる 宇治の橋守 こと問はん 幾代になりぬ 水の水上 
               藤原清輔(ふじわらきよすけ)

(としへたる うじのはしもり こととわん いくよになりぬ 
 みずのみながみ)

意味・・年老いた宇治の橋守に尋ねよう。どれほどこの世を
    経てしまったことか。この澄んだ水の流れは。

    河水久澄(川の水が久しく澄んで流れ続ける)の題で
    詠んだ歌です。
    繁栄したした時代が永く続いている事はめでたい事だ
    という気持です。

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2008年03月26日

宇治の川瀬の 水車 何とうき世を めぐるろう

宇治の川瀬の 水車 何とうき世を めぐるろう  (閑吟集)

(うじのかわせの みずぐるま なんとうきよを めぐるろう)

意味・・宇治川の川瀬にかけた水車は、うき世をどんな
    ものだと思いを巡らして回っているのだろう。

 注・・うき世=浮き世(この世)と憂き世(つらいことの
        絶えない世)を掛ける。
    めぐる=「回る」と「巡る」を掛ける。

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2008年03月25日

名歌観賞・333

石川や 瀬見の小川の 清ければ 月も流れを 尋ねてぞすむ 
                鴨長明(かものちょうめい)

(いしかわや せみのおがわの きよければ つきもながれを
 たずねてぞすむ)

意味・・賀茂神社がある石川の瀬見の小川の流れが
    清らかなので、月もこの流れを探し求めて澄ん
    だ影を映している。

 注・・石川や瀬見の小川=賀茂川の異名。

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2008年03月24日

惜しめども たちもどらず ゆく春を 勿来の関の  せきとめなむ

惜しめども たちもどらず ゆく春を 勿来の関の 
せきとめなむ 
                  内田康夫

(おしめども たちもどらず ゆくはるを なこそのせきの
 せきとめなん)

意味・・惜しまれるうららかな春はどんどん過ぎ去ろうと
    している。来るのを邪魔立てするという勿来の関
    よ、そこでこの世の春を堰留めてほしいものだ。

 注・・勿来=来るな。間をへだてて邪魔をする物。
    せき=堰

作者・・内田康夫=うちだやすお。1934~2018。ミステリー
    作家。

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2008年03月23日

名歌観賞・331

茶摘女が いつも暮行く 土橋かな   原月舟(はらげっしゅ)

(ちゃつみめが いつもくれゆく どはしかな)

意味・・茶摘の頃になって、里の女達は一日茶畠で働い
    ているが、帰り道は暮れかかり小川の土橋を渡る
    のがならいである。女達の渡って行く姿は仕事
    を終えた安堵感と家に急ぎ帰る様子がうかがえ
    ることだ。

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2008年03月22日

風さそふ 花よりも猶 我はまた 春の名残を いかにとやせん

風さそふ 花よりも猶 我はまた 春の名残を
いかにとやせん
             浅野内匠頭長矩
             (あさのたくみのかみながのり)
(かぜさそう はなよりもなお われはまた はるのなごりを
 いかにとやせん)

意味・・風に吹かれて散る花よりも、私はもっとはかない身で、
    名残り惜しい。わが身の名残りをこの世にどうとどめ
    ればよいのであろうか。

.             桜の花が散っているこの庭から、遠く山の向こうの
    赤穂を想うと、わが世の春を楽しむ庶民の生活があ
    るだろう。私は、この春が終わった後はどうなるの
    かと心残りがする。

    浅野内匠頭が切腹する時に詠んだ辞世の歌です。
    赤穂では家中、家族、領民一同、今日一日が穏やか
    に暮れたように、明日も穏やかで平和の日々がある
    事を信じて、今日の終わりを迎えているだろう。
    家族や親しい者たちとの楽しい団欒やささやかな幸
    せ、それを自分の一瞬の激発が奪ってしまったのだ。
    「皆の者、許せ」と内匠頭が胸中に詫びた時、桜の
    花びらが一ひら、あるともなしの風に乗ってここま
    で運ばれて来たのである。死にたくない。

作者・・浅野内匠長矩=1667~1701。赤穂藩の藩主。「忠臣
     蔵」の発端になった人。

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2008年03月21日

名歌観賞・329

君に恋ひ 甚も術なみ 平山の 小松が下に 立ち嘆くかも 
                笠女郎(かさのいらつめ)

(きみにこい いたもすべなみ ならやまの こまつがもとに
 たちなげくかも)

意味・・あなたを恋い慕わっているものの、全くどうしょうも
    ないので、奈良山の松の下に立って嘆きながら待って
    いるのです。

    笠女郎が大伴家持に贈った歌です。

 注・・甚(いた)も=甚だしい。
    術(すべ)なみ=手段がない。
    平山(ならやま)=奈良山、奈良北方の山。
    小松=「小」は接頭語、小さいの意ではない。
       「待つ」を掛ける。

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2008年03月20日

七十に 御津の浜松 老いぬれど 千代の残りは  なほぞはるけき

七十に 御津の浜松 老いぬれど 千代の残りは 
なほぞはるけき        
                藤原清輔

(ななそじに みつのはままつ おいぬれど ちよののこりは
 なおぞはるけき)

意味・・七十歳になった御津の浜松は老いてしまったけれど、
    樹齢の千歳からすると、残りはまだ遥か先のことだ。

    七十歳の賀に際して長寿を祝った歌です。

作者・・藤原清輔=ふじわらのきよすけ。

出典・・新古今和歌集・744。1104~1177。

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2008年03月19日

名歌観賞・327

四天王 憤怒す百舌も また叫ぶ  水原秋桜子
                 (みずはらしゅうおうし)   
(してんのう ふんぬす もずも またさけぶ)

意味・・阿弥陀如来は美しく、近づいて接すると願いを
    聞いてくれるという。如来を守っているのが、
    四天王(広目天・持目天・増長天・多聞天)。
    広目天は怒り顔で邪鬼(邪気)を足で踏み付け
    ている。百舌の鳴き声が聞こえる。これはあた
    かも邪鬼(邪気)の悲鳴のようだ。    

 注・・百舌(もず)=頭は茶色、背中は灰茶色。
          キーツ、キキキキキと鋭い声で鳴く。


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2008年03月18日

庵結ぶ 山の裾野の 夕ひばり 上がるも落つる 声かとぞ聞く

庵結ぶ 山の裾野の 夕ひばり 上がるも落つる 
声かとぞ聞く 
               慶運

(いおむすぶ やまのすそのの ゆうひばり あがるもおつる
 こえかとぞきく)

意味・・私が草庵に住んでいるこの山の、裾野で鳴く
    夕日ひばりは、空高く飛び上がる時の声も降
    りていく声かと聞こえるものだ。それほど我
    が庵(いおり)は高い所にあるのだ。

    大げさな表現だが、春ののどかなゆったり
    した気分を詠んでいます。    

 注・・結ぶ=構える、構成する。



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2008年03月17日

名歌観賞・325

雄神川 紅にほふ 娘子らし 葦付取ると 瀬に立たすらし
              大伴家持(おおともやかもち)

(おがみがわ くれないにおう おとめらし あしつきとると
 せにたたすらし)

意味・・庄川の向こう岸に赤っぽく見えるのは赤い服を
    着た少女たちが、川海苔を採っているのだろう。
    静かでのどかな風景だなあ。
 
 注・・雄神川=富山県の庄川の古名。
    紅にほふ=色が赤く映えている意。娘たちの衣装の
       色が赤い事をさす。
    葦付(あしつき)=川海苔、淡水藻。
    瀬=川や海の浅い所。

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2008年03月16日

人問はば 見ずとやいはむ 玉津島 かすむ入江の  春のあけぼの

人問はば 見ずとやいはむ 玉津島 かすむ入江の 
春のあけぼの         藤原為氏(ふじわらためうじ)

(ひととわば みずとやいわん たまつしま かすむいりえの
 はるのあけぼの)

意味・・人が尋ねたなら「見ませんでした」と言おうか。
    この玉津島のある入江に霞のかかった春の曙の
    景色を。言葉でとうていこの美しさを言い表す
    ことは出来ないから。

 注・・玉津島=紀伊の和歌の浦にあった小島。


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2008年03月15日

名歌観賞・323

ながめしは 野菊のくきの はじめかな  石田未得(いしだみとく)

(回文)(ナガメシハ ノギクノクキノ ハジメカナ)

意味・・野菊の長い茎の先の花を美しいと思って眺めて
    いると、それがもの思いの始まりとなった。

    菊作りが趣味となり道楽となって生きがいになった。
    そして今では菊作りの大家になった。そのきっかけ
    は、一本の長い茎の菊、その美しさに惚れた時だ。

 注・・ながめ=物思いをする意の「眺め」と「長め」を
        掛ける。


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2008年03月14日

花さそふ 嵐の庭の 雪ならで ふりゆくものは わが身なりけり

花さそふ 嵐の庭の 雪ならで ふりゆくものは わが身なりけり
                 藤原公経(ふじわらきんつね)

(はなさそう あらしのにわの ゆきならで ふりゆくものは
 わがみなりけり)

意味・・花を誘って散らす風の吹く庭に、雪のように桜が
    降り敷くが、降り行くものは花吹雪ではなくて、
    老いてゆくこの我が身なのだった。

    誰でが感じる老いの嘆きを詠んだものです。

 注・・嵐=山風。
    ふり=「振る」と「古る(老いる)」を掛ける。
  

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2008年03月13日

春日山 おして照らせる この月は 妹が庭にも 清けかりけり

春日山 おして照らせる この月は 妹が庭にも 清けかりけり 
                        読人知らず

(かすがやま おしててらせる このつきは いもがにわにも
 さやけかりけり)

意味・・春日山に一面に照り渡っているこの月の光は、
    あの人の庭にもさやかに照っている事だろう
    なあ。

 注・・春日山=奈良市の東部にある山。
    おして=上から一面に及ぼす。
    妹=男性が女性を親しみを込めて呼ぶ語。

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2008年03月12日

花を見て 花を見こりし 花もなし 花見こりしは 今日の花のみ

花を見て 花を見こりし 花もなし 花見こりしは 今日の花のみ 
                   橘曙覧(たちばなあけみ)

(はなをみて はなをみこりし はなもまし はなみこりしは
 きょうのはなのみ)

意味・・花を見て美しいので、また見に来ようと思っても
    次に来た時はもう美しい花はないものだ。
    美しい花を見て楽しめるのは今日のこの日の花だ
    けである。一期一会と、只今現在のこの美しい花
    を存分にたんのうしょう。

    「花」の繰り返しの面白さもあります。

 注・・こり=凝り、深く思い込む、熱中する。
    一期一会=一生に一度の出会いのことで、人との
       出会いは大切にすべきとの戒め。ここでは
       もともと茶道の心得を説いた言葉で、今日
       という日、そして今いる時というものは
       二度と再び訪れるものではない。その事を
       肝に銘じて茶道を行うべきである、の意。
    たんのう=十分に満足する、心行くまで味あう。


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2008年03月11日

名歌観賞・319

ぼたん切って 気のおとろひし ゆふべかな  蕪村(ぶそん)

(ぼたんきって きのおとろいし ゆうべかな)

意味・・花の王といわれる牡丹が美しく咲いた。活け花に
    して楽しもうか、切らずにこのままで楽しもうか
    と、あれこれと考えたあげく活け花にすることに
    した。蕪村流といえるような活け花に仕上げ終えた。
    その後は緊張感が一気に萎(な)えてしまった。

    高浜虚子の「十五代将軍」という小説の中で徳川
    慶喜(よしのぶ)に呼ばれて俳句を講じている時、
    この句を言うとすごく感銘したという。徳川三百
    年の大政を奉還した時の気持が「気のおとろえし」
    だったのです。

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2008年03月10日

雁なきて 菊の花さく 秋はあれど 春の海辺に  住吉の浜

雁なきて 菊の花さく 秋はあれど 春の海辺に 
住吉の浜
           在原業平(ありはらのなりひら)
           (伊勢物語・68段)
(かりなきて きくのはなさく あきはあれど はるの
 うみべに すみよしのはま)

意味・・雁が鳴き菊の花が咲きかおる秋もよいが、この
    住吉の浜の春の海辺は実に住み良いすてきな浜
    だ。

 注・・秋はあれど=秋は面白くあれど、の意
    住吉の浜=大阪市住吉区の浜。地名に「住み良
     い浜辺」を掛けている。

作者・・在原業平=825~880。美濃権守・従四位上。六
     歌仙の一人。「伊勢物語」。


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2008年03月09日

名歌観賞・318

山桜 咲きそめしより 久方の 雲居に見ゆる 滝の白糸
              源俊頼(みなもととしより)

(やまざくら さきそめしより ひさかたの くもいにみゆる
 たきのしらいと)

意味・・山桜が咲き始めた頃から、はるか遠くの山の景色は
    空から落ちる滝の白糸のように見えることだ。
  
    山頂から山裾にかけて咲く山桜の遠望を、天から落
    ちる滝に見立てて詠んだ歌です。

 注・・久方=光や雲の枕詞。
    雲居=空のこと。
   

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2008年03月08日

士やも 空しかるべき 万代に 語り継ぐべき 名は立てずして

士やも 空しかるべき 万代に 語り継ぐべき 名は立てずして 
                山上憶良(やまのうえおくら)

(おのこやも むなしかるべき よろずよに かたりつぐべき
 なはたてずして)

意味・・男子たるものはむなしく朽ち果ててよかろうか、いや
    そうあってはならないのである。万代ににも語り継が
    れるような立派な名を立てないで。

    長く病床にあって、再起不能を自ら悟って詠んだもの。
    自分の一生を顧みて、後世に長く名を留めるような事
    を何一つしなかったことに対するやるかたない悲憤と
    悔恨の情を込めて歌っています。

 注・・士(おのこ)やも=男子たるものは。
    空しかるべき=むなしく朽ち果てるべきであろうか。
           いや、そうあってはならない。

作者・・山上憶良=やまのうえのおくら。660~733。

出典・・万葉集・978。

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2008年03月07日

名歌観賞・315

裾に置きて 心に遠き 火桶かな   蕪村(ぶそん)

(すそにおきて こころにとおき ひおけかな)

意味・・底冷えする日、火桶を裾に置いて手をあぶって
    いても、心まではなかなか暖まらない。

    いやなことがあり、外から帰ってきて火鉢に
    当たるのだが、むしゃくしゃした心は暖まら
    ず、ほぐされない。

 注・・火桶=木をくりぬいて作った丸火鉢。

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2008年03月06日

琴の音に 峰の松風 通ふなり いづれのおより 調べそめけむ

琴の音に 峰の松風 通ふなり いづれのおより 調べそめけむ 
               斎宮女御(さいぐうのにょうご) 

(ことのねに みねのまつかぜ かようなり いずれのおより
 しらべそめけん)

意味・・静かな夜、美しい琴の音に、峰の松風の音の調べが
    通い合い、美しく響いてくる。いったい、琴か峰の
    どちらの「お」(緒・尾)から奏(かな)で始められた
    のであろうか。

 注・・通ふ=交差する。ここでは、一つに響き合うの意。
    お=「琴の緒(弦)」と「峰の尾」を掛ける。
    調べ=演奏する。


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2008年03月05日

名歌観賞・313

有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする
          大弐三位(だいにのさんみ)(紫式部の娘)  

(ありまやま いなのささはら かぜふけば いでそよひとを
 わすれやわする)

意味・・有馬山から猪名の笹原に風が吹くと、「そよそよ」と
    音をたててなびきますが、いやそれですよ、揺れて頼
    りのないのはあなたの心のほうで、私はあなたを忘れ
    などしましょうか、忘れはしませんよ。

    題は「途絶えがちな男が、気がかりです、どうしてい
    ますか、などといって来ましたので詠んだ歌」です。
    上三句は「そよ」を導き出す序詞(じょことば)ですが
    風の吹く笹原の情景は寂しい気分、雰囲気を出して
    います。

 注・・有馬山=兵庫県有馬地方の山。
    猪名=兵庫県川辺郡の猪名川に沿った平地。
    いで=さあ、いや。勧誘・決意などの意の副詞。
    そよ=それですよ。そのことですよ。


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2008年03月04日

み吉野は 山もかすみて 白雪の ふりにし里に 春は来にけり

み吉野は 山もかすみて 白雪の ふりにし里に 
春は来にけり 
                藤原良経(ふじわらよしつね)

(みよしのは やまもかすみて しらゆきの ふりにしさとに
 はるはきにけり)

意味・・吉野は山も霞むようになり、白雪の降っていたこの旧里
    にも春が訪れてきたことだ。

    寂(さび)れた古都だが、雪が融け春のきざしに明るさが
    やって来た事を詠んでいます。

 注・・ふりにし里=ふりは「降り」と「旧り」を掛ける。
    旧りにし里=奈良時代のその昔に、吉野宮滝付近に
     離宮があり、その地を「ふるさと」と言われた。

sakuramitih31 at 20:14|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2008年03月03日

名歌観賞・311

雪しろの かかる芝生の つくづくし  良寛(りょうかん)

(ゆきしろの かかるしばうの つくづくし)

意味・・雪どけの水があふれて、荒地の草の間から生えた
    つくしまで覆っているが、つくしは水に負けず、
    力強く頭を持ち上げていることだ。

    良寛の住んでいた当時の越後は、水害の連続であった。
    雪融け、梅雨末期、秋の長雨に農民は苦労していた。
    小川や田からあふれた水は、道を覆い草を覆ってしまう。
    しかし、春の大地は力強い。水の中からつくしが伸び
    蕗(ふき)のとうが頭を持ち上げる。そうした生命力に
    良寛は感嘆して詠んだ句です。
    そして、農民の努力にも。

 注・・雪しろ=雪どけの水。
    芝生(しばう)=荒地や道の端に生えた雑草。
    つくづくし=つくし。

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2008年03月02日

にほ鳥の 葛飾早稲の 新しぼり くみつつをれば 月傾きぬ

にほ鳥の 葛飾早稲の 新しぼり くみつつをれば 月傾きぬ
                  加茂真渕(かもまぶち)

(におどりの かつしかわせの にいしぼり くみつつおれば
 つきかたむきぬ)

意味・・葛飾早稲で醸造した新酒を盃についで飲んでいる
    うちに、月は西に傾いてしまった。

注・・にほ鳥=葛飾の枕詞。
    しぼり=搾り、酒を醸造すること。

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2008年03月01日

名歌観賞・309

世の中の 憂きも辛きも 情けをも わが子を思ふ 
ゆへにこそ知れ        良寛(りょうかん)

(よのなかの うきもつらきも なさけをも わがこをおもう
 ゆえにこそしれ)

意味・・世間の悲しいことも、辛いことも、思いやる気持も、
    みな自分の子供を思うことから味わうものなのである。

 注・・憂き=つらい、憂鬱。


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