2008年06月

2008年06月30日

 名歌観賞・430

みじか夜や 伏見の戸ぼそ 淀の窓    蕪村(ぶそん)

(みじかよや ふしみのとぼそ よどのまど)

意味・・夏の夜も明けきらぬうちに、伏見から淀川
    下りの一番船に乗る。伏見の町はまだ固く
    戸を閉ざして静まりかえっていたが、淀堤
    にさしかかる頃には夜も明け、両岸の商家
    は窓を開け放ち、忙しそうに往来する人の
    姿も見られる。

    京都伏見の京橋は大阪の八軒屋との間を往
    複する三十石船の発着点であった。伏見か
    ら淀の小橋まで5.5キロの下りで、淀の
    両岸には商家が軒を連ねていた。
    
 注・・戸ぼそ=家の戸。



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2008年06月29日

名歌観賞・429

親しからぬ 父と子にして 過ぎて来ぬ 白き胸毛を
今日は手ふれぬ      土屋文明(つちやぶんめい)

(したしからぬ ちちとこにして すぎてきぬ しろき
 むなげを きょうはたふれぬ)

意味・・あまり親しくない父と子として、我々親子は
    今日まで過ごして来た。その父も今は重い病
    で臥床(がしょう)している。そのような父の
    白くなった胸毛に今日は手を触れた。思えば
    こんなこともしたことのない私だった。親子
    の縁(えにし)などというものは不思議なもの
    だ。

    「父なむ病む」の題で詠んだ歌です。
    父は農民であったが多くの事業に手を出して
    失敗ばかりした。あげくの果て家を売り村を
    捨てた。そのような父であったのでやさしくも
    してもらえず親しみを持てなかった。

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2008年06月28日

たのしみは 妻子むつまじく うちつどい 頭ならべて 物をくふ時 

たのしみは 妻子むつまじく うちつどい 頭ならべて
物をくふ時         橘曙覧(たちばなあけみ)

(たのしみは めこむつまじく うちつどい かしらならべて
 ものをくうとき)

意味・・私が楽しみとするのは、妻と子供たちと
    仲良く集まり、頭を並べて一緒にものを
    食べる時。おいしいね、おいしいねとう
    なずき合いながら口に運ぶ時は本当に楽
    しい。

    うなずき合うということは、次の歌のよう
    に親しみあう為の基本ですね。

   たのしみは 君の口癖 「そうか」が 耳に優しく
   聞こえてくる時           破茶(はちゃ)

   (うん、そうかそうか、そうだそうだ、と
    うずき合って聞いてくれる人。こういう
    人と一緒にいると、心を開いて何でもお
    しゃべりしたくなるものだ。私はこんな
    時に優しい気持になり親しみも深まって
    本当に楽しいものです。)

   



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2008年06月27日

名歌観賞・427

浮世には かかれとてこそ うまれたれ ことわりしらぬ
我が心かな       北条重時(ほうじょうしげとき)

(うきよには かかれとてこそ うまれたれ ことわりしらぬ
 わがこころかな)

意味・・憂さ辛さのあるのも浮世なら、楽しみがあるのも
    浮世である。我々、人間はその浮世に寄り掛かっ
    て住んで行けと神仏の思召しに従って生まれたの
    である。それゆえ、悲しみもあれば苦しみもある
    ものだ。この道理を知らなかった自分は、あさは
    はかだった。浮世の常を知れば、何も自分ばかり
    が苦しいのでも、辛いのでもないのだ。

    北条重時が家訓で次のような事を言った時に詠ん
    歌です。
    思わぬ失敗をしたり、不慮の災難に遭ったりなど
    して嘆かわしい事が起こったとしても、むやみと
    嘆き悲しんではなりませぬ。これも前世の報いだ
    と思って、早くあきらめなさるがよい。それでも
    悲嘆の心がやまぬならば、上記の歌を口づさみ、
    唱えていると、自然に嘆きの心も忘れて行くだろ
    う。

 注・・浮世=思いのまま楽しんで過ごす世の中。憂き世
       を掛ける。
    憂き世=辛い世の中、苦しみの満ちた世の中。
    かかれ=寄りかかる、つながりが出来る。


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2008年06月26日

雲はみな はらひ果てたる 秋風を 松に残して  月を見るかな

雲はみな はらひ果てたる 秋風を 松に残して 
月を見るかな 
          藤原良経(ふじわらよしつね)
(新古今和歌集・418) 

(くもはみな はらいはてたる あきかぜを まつにのこして
 つきをみるかな)

意味・・雲をすっかり払ってしまった秋風を、松
    に残るさわやかな音として聞きつつ、澄
    んだ月を見ることだ。

    雲を吹き払い、松に音だけ残している秋
    風の中で、澄んだ月を見るさわやかさを
    詠んでいます。

注・・雲は=「雲をば」の意で主語ではない。

    なお、裏の意味として、
    徳川家康は武士が読書する目的は身を正
    しくせんがためであると言って、源義経
    が滅んだのは歌道に暗く「雲はみなはら 
    ひ果てたる秋風を・・」の古歌の意味も
    知らずに、身上(しんしょう)をつぶして
    平家退治に没頭したためと言っています。

    雲はみな=敵、辛いこと。
    はらひはてたる=取り除く。
    秋風を=味方。軍資金とか有能な部下、
     作戦、知識・・などなど。
    松に残して=味方が育つまで忍耐強く
        待つ。
    月を見る=勝って心地よい気分になる。

意味・・戦いに勝つにはそれなりの作戦が必要
    である。敵の内情をさぐり内部の分裂
    を策し、敵の勢力を分散させる一方、
    我が陣営は一人一人の志気を高め一つ
    にまとめて戦いに望むことが大切だ。
    勝てる体勢になるまで待って戦いを仕
    掛ける。そうしたならば勝利して心地
    良い気分を味わえるものだ。



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2008年06月25日

名歌観賞・425

水の面に あや織りみだる 春の雨   良寛(りょうかん)

(みずのもに あやおりみだる はるのあめ)

意味・・やわらかな春の雨が池の面に降りかかって
    いる。そのたびに、いろいろな波の模様が
    出来上がり、また雨の雫がその模様をかき
    乱していくさまは、見ていて飽きることな
    く面白いものだ。

    良寛は、変化して止まない水の面に、禍福
    のように変化し続ける人の世を重ねている。

 注・・あや=いろいろな模様。

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2008年06月24日

花散りし 庭の木の葉も 茂りあひて 天照る月の  影ぞまれなる

花散りし 庭の木の葉も 茂りあひて 天照る月の 
影ぞまれなる         曾禰好忠(そねのよしただ)

(はなちりし にわのこのはも しげりあいて あまてる
 つきの かげぞまれなる)

意味・・花の散った庭の桜の木の葉も、今はもう
    茂りあって、空に照る月の光がわずかに
    しかささないことだ。

 注・・花=桜の花。
    まれ=稀、たまにしかないさま。

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2008年06月23日

名歌観賞・423

われを思ふ 人を思はぬ むくいにや わが思ふ人の 
我を思はぬ              読人知らず 

(われをおもう ひとをおもわぬ むくいにや わがおもう
 ひとの われをおもわぬ)

意味・・私を愛してくれる人を愛さなかった報いが
    来たのかな。今、私が愛している人が私を
    愛してくれないのは。

    人からつれなくされて、過去の自分の行為
    を反省した歌です。

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2008年06月22日

神垣の 御室の山の 榊葉は 神のみ前に 茂り合いにけり

神垣の 御室の山の 榊葉は 神のみ前に 茂り合いにけり
                      読人知らず

(かみがきの みむろのやまの さかきばは かみのみまえに
 しげりあいにけり)

意味・・神垣に取り囲まれた神殿のある山の榊葉は
    神聖な神様をたたえるように、一面に青々
    と茂っていることだ。

 注・・神垣(かみがき)=神社の周囲にめぐらした垣。
    御室=貴人の住居の敬称、神社。
    み前=御前、神や貴人の前の敬称。

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2008年06月21日

名歌観賞・421

郭公 花橘は にほふとも 身をうの花の 垣根忘れな
                    西行(さいぎょう)

(ほとどぎす はなたちばなは におうとも みをうのはなの
 かきねわすれな)

意味・・ほとどぎすよ、花橘は香り高く匂うとも、
    お前がもう宿らなくなるので、身をさび
    しく思っている卯の花の垣根のことも忘
    れないで欲しい。

    ほとどぎすは陰暦四月は卯の花に、五月
    花橘に宿るとされた。

 注・・う=「卯」と「憂」の掛詞。

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2008年06月20日

烏には 似ぬうの花ぞ 鷺の色

烏には 似ぬうの花ぞ 鷺の色   
               松永貞徳(まつながていとく) 

(からすには にぬうのはなぞ さぎのいろ)

意味・・「鵜の真似する烏」という諺があるが、
    音の響きは同じでも、卯の花は黒い烏と
    似ても似つかず、「烏鷺(うろ)」という
    言葉の「鷺」の色と同じ白である。

    「う」を中心にした言葉遊びの句です。

 注・・う=「鵜」と「烏」と「卯」を掛ける。
    烏鷺(うろ)=黒い烏と白い鷺。囲碁の
      異名(白と黒の石を使うのでいう)
    鵜の真似する烏=水に潜って魚を捕る
      のが鵜だが、烏が真似をしたらお
      ぼれてしまう。自分の能力を考慮
      しないで人の真似をすると失敗す
      るという戒め。

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2008年06月19日

名歌観賞・419

人も見ぬ よしなき山の 末までも すむらん月の 
かげをこそ思へ          西行(さいぎょう)

(ひともみぬ よしなきやまの すえまでも すむらん
 つきの かげをこそおもえ)

意味・・人の見ようとせぬ、由緒のない山の奥にまで
    照り澄んだ光を落としている月は格別に思われ
    ることだ。

    人の善し悪しの念に関係なく平等に照らす月は
    尊い、という心を詠んだ歌です。

 注・・よしなき山=由緒のない山。
    すむ=「澄む」と「住む」の掛詞。

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2008年06月18日

直き木に 曲がれる枝も あるものを 毛を吹き疵を  いふがわりなき 

直き木に 曲がれる枝も あるものを 毛を吹き疵を 
いふがわりなき     高津内親王(たかつないしんのう)

(なおききに まがれるえだも あるものを けをふききずを
 いふがわりなき)

意味・・真っ直ぐな木にだって曲がった枝がある
    ものなのに毛を拭いて疵を探しだすよう
    に非難する世間の人のわけが分からない
    ことだ。

    作者の振る舞いを咎める人々に対して
    反発して詠んだ歌です。

 注・・毛を吹き疵をいふ=強いて他人の欠点を
     暴くこと。
    わりなき=道理が通用しない、どうしょう
         もない。

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2008年06月17日

名歌観賞・417

ささなみの 志賀の辛崎 幸くあれど 大宮人の 船待ちかねつ 
              柿本人麻呂(かきのもとひとまろ)

(ささなみの しがのからさき さきくあれど おおみやびとの
 ふねまちかねつ)

意味・・志賀の辛崎は変わらずそのままにあるが、
    かってここで遊んだ大宮人の船は、いくら
    待ってもやって来ない。

    壬申(じんしん)の乱以後、都は大和に移っ
    たので大津の旧都は荒廃した。この嘆きを
    詠んだ歌です。

 注・・ささなみ=琵琶湖南部の古名。志賀の枕詞。
    幸(さき)く=幸福に、無事に、昔通り変わ
         らず。
    大宮人=宮中に仕える人。

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2008年06月16日

わが袖は 名に立つ末の 松山か そらより浪の  越えぬ日はなし

わが袖は 名に立つ末の 松山か そらより浪の 
越えぬ日はなし         土佐(とさ)

(わがそでは なにたつすえの まつやまか そらよりなみの
 こえぬひはなし)

意味・・私の袖は、あの有名な末の松山なのでしょうか。
    空から浪の越えない日はない状態で、あなたの
    嘘にあざむかれて、涙を袖に落とさない日とて
    ありません。

    約束の固さにもかかわらず男が裏切ったことを
    恨んで詠んだ歌です。
    男女の約束を破ったなら、次の歌のように、
    浪が越える事の無い末の松山も越えると言われ
    ている。

 「君をおきて あだし心を わがもてば 末の松山
  浪も越えなむ」(08年2月27日名歌観賞・306)

 注・・末の松山=宮城県多賀城市にあるという山。
       末の松山を浪が越えないとされている。
    そら=「空」と「虚」を掛ける。

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2008年06月15日

名歌観賞・415

死にそこなって 虫を 聴いている    山頭火(さんとうか)

(しにそこなって むしを きいている)

意味・・死のうと思っても死ねない。死を意識して、死に
    対して用意するときほど、冷静に自己を観照する
    ことはない。
    しみじみ自分の命を知ってみて、虫の声を聴いて
    いる。虫の声が、静かにひびく。あんな小さな虫
    でも、一生懸命に生きている。とにかく、恥ずか
    しめられても、生きてゆこう。生きて、歩いて、
    自分にはそれしかない。
    妥協することは難しい事ではあるが、過酷な事で
    はあるが、それを選ばなければならない。

    山頭火は日記を書き、それを句にしています。
    それで、日記は句の解説となっています。
    また、山頭火は薬を飲んで数度自殺を図っていま
    す。

 注・・観照(かんしょう)=主観をまじえないで現実を
             冷静に見つめること。

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2008年06月14日

わたのはら たつ白波の いかなれば なごりひさしく  見ゆるなるらん

わたのはら たつ白波の いかなれば なごりひさしく 
見ゆるなるらん           源朝任(みなもとともとう) 

(わたのはら たつしらなみの いかなれば なごりひさしく
 みゆるなるらん)

意味・・海原に立っている白波が、なんで余波がいつまでも
    静まらないのだろうか。
    あなたは私に対して恨んでいるようだが、どうして
    いつまでも腹を立てているのだろうか。もういい加
    減にしてほしいものだ。

    人にした仕打ちが憎まれていた時分、その相手に
    詠んで贈った歌です。

 注・・わたのはらたつ白波=「わたのはら(海原)」と
      「腹(立つ)」、「(腹)立つ」と「立つ(白波)」
       の掛詞。
    なごり=「余波」、海辺に打ち寄せた波が引いたあと。
        「名残」、事のあったこと、余情。この二つ
        を掛ける。
     

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2008年06月13日

名歌鑑賞・413

あしきだに なきはわりなき 世の中に よきを取られて
われいかにせむ 
            宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)

意味・・世の中には、悪い物でさえ、無いとどうしょうも
    なく都合の悪いことがあるものなのに、よき(斧)を
    取り上げられてしまって、私はどうしたらよいもの
    でしょうか、途方にくれています。

    説話物語に出て来る歌です。
    ある男が他人の山林で盗伐していて、山番に斧を
    取り上げられてしょんぼりしている折、山番に今
    の状況を歌に詠めば許す、と言われて詠んだ歌です。
    芸(和歌を詠む事)は身を助ける、という説話です。
    また、「悪い物も無いと都合の悪い」となぞなぞ
    のように取れますので、「必要悪」も説いています。
    たとえば、
    物が腐食することは人間にとっては悪いことだが、
    物を分解して土に戻すことは自然界にとっては大切
    な働きです。ストライキは生産を止める事なので悪
    い事ですが、働く人の労働条件を良くするので必要
    悪です。また「心を鬼にする」ことも時には必要です。
   
 注・・わりなき=どうしょうもない、するすべがない。
    よき=「斧」と「良き」を掛ける。
    心を鬼にする=可愛そうだとか、気の毒だという
      気持になった時、人間の情を持たない鬼のよう
      なつもりになって、相手のため非情な態度に出
      ること。

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2008年06月12日

人の親の 心は闇に あらねども 子を思ふ道に まどひぬるかな 

人の親の 心は闇に あらねども 子を思ふ道に まどひぬるかな 
                 藤原兼輔(ふじわらかねすけ)

(ひとのおやの こころはやみに あらねども こをおもうみちに
 まどいぬるかな)

意味・・親の心は夜の闇ではないのに、子供の事を思う
    道には、何もかも分からなくなってしまい、迷
    ってしまうことだ。

    子供のことについては闇も同然で、盲目になる
    親心を詠んだ歌です。

 注・・まどひぬる=どうしたらよいか分からなくなる。
 

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2008年06月11日

名歌観賞・411

植えおいて いまはとならむ 世の末に 誰とどまりて 
君をしのばむ        明恵上人(みょうえしょうにん)

(うえおいて いまはとならん よのすえに たれとどまりて
 きみをしのばん)

意味・・あなたが花を植えておいて亡くなったはるか
    後の世に、誰がこの世に残ってあなたを懐か
    しく偲ぶであろうか。ただ花だけがあなたを
    偲ぶがごとく咲きつづけるでしょう。

 注・・いまは=今は、臨終。
    世の末=はるか後の世。

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2008年06月10日

花に来ぬ 人笑ふらし 春の山

花に来ぬ 人笑ふらし 春の山   杉木望一(すぎきもいち)

(はなにこぬ ひとわらうらし はるのやま)

意味・・春の山はどこか明るく、山全体がなんだか
    笑っているようであるが、それはきっと、
    この山の美しい満開の桜を見に来ない人を
    笑っているのであろう。

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2008年06月09日

名歌観賞・409

撫子は いづれともなく にほへども おくれて咲くは
あはれなりけり        藤原忠平(ふじわらただひら)

(なでしこは いづれともなく におえども おくれてさくは
 あわれなりけり)

意味・・撫子はどれがどうとも優劣つけがたく美しく
    咲き映えているが、遅れて咲いた撫子は特に
    可憐に思われる。そのように子供達はだれも
    区別なく可愛いものだが、遅く生まれた子供
    というものは、とりわけ可愛いものだ。

    忠平の末の子が撫子の花を持っていたので、
    母親に花に添えて詠んで持たせたものです。
    末子は他の兄弟より年が離れていた。

 注・・にほへども=美しく色づいているが。
    あはれ=いとしい。


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2008年06月08日

誰ならん 荒田の畔に すみれ摘む 人は心の わりなかるべし

誰ならん 荒田の畔に すみれ摘む 人は心の わりなかるべし 
                      西行(さいぎょう)

(たれならん あらたのくろに すみれつむ ひとはこころの
 わりなかるべし)

意味・・誰であろう、荒れ果てた田の畦で菫を
    摘んでいる人がいるが、きっとあの人
    は何ともいえない思いに駆られて摘ん
    でいることであろう。

    戦乱で荒れた世の中でも、美を求める
    人がいるが、その人々のやるせない気
    持を詠んでいます。

 注・・畔(くろ)=田のふち、畦(あぜ)。
    荒田の畔=「戦乱の世の中」を荒田にたと
      えている。
    菫=「美を求める心」を象徴している。
    わりなし=やるせない、どうしょうもない。

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2008年06月07日

名歌観賞・407

時により 過ぐれば民の 嘆きなり 八大竜王 雨やめたまえ 
                 源実朝(みなもとさねとも)

(ときにより すぐればたみの なげきなり はちだいりゅうおう
 あめやめたまえ)

意味・・恵の雨も、時によっては降りすぎると民の
    嘆きを引きおこします。八大竜王よ雨を止
    めてください。

    1211年の洪水に際して、祈念を込めて
    詠んだ歌であり、為政者としての責任から
    出た歌でもあります。
    
 注・・八大竜王=八体の竜神で雨を司ると信
      じられていた。

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2008年06月06日

あるがまま 雑草として 芽をふく

あるがまま 雑草として 芽をふく
                種田山頭火(たねださんとうか)

(あるがま ざっそうとして めをふく)

意味・・背伸びもせず、周辺を気にもせず、あるがままに
    身分相応の雑草として芽を吹くことは気持ちよく、
    また素晴しいことだ。

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2008年06月05日

名歌観賞・405

わが心 慰めかねつ 更級や 姥捨山に 照る月を見て
                    読人知らず

(わがこころ なくさめかねつ さらしなや うばすてやまに
 てるつきみて)

意味・・私の心はついに慰められなかった。更級の
    姥捨山の山上に輝く月を見た時はかえって
    悲しくなった。

    「大和物語」説話によると、信濃国に住む
    男が、親の如く大切にして年来暮らして来
    た老いた伯母を、悪しき妻の誘いに負けて
    山へ捨てて帰るが、家に着いてから山の上
    に出た限りなく美しい月を眺めて痛恨の思
    いに堪えず詠んだ歌、です。

    大江千里の次の歌
    「月見れば ちぢに物こそかなしけれ わが身 ひとつの 
     秋にはあらねど」(07・5月22日 名歌観賞・25)

     の気持です。

 注・・更級=長野県更級の地。
    姥捨山=更級郡善光寺平にある山。観月の名所。

  

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2008年06月04日

冬ごもり 春の大野を 焼く人は 焼き足らねかも 我が心焼く

冬ごもり 春の大野を 焼く人は 焼き足らねかも 我が心焼く
                        読人知らず

(ふゆごもり はるのおおのを やくひとは やきたらねかも
 わがこころやく)

意味・・春の大野を焼く人は、野を焼くだけでは
    物足りないのか、私の心まで焼いている。

    恋する相手を好きで好きでたまらなくな
    った気持を詠んでいます。

 注・・冬ごもり=「春」の枕詞。
    大野=原野。
    焼く人=焼畑に従事する人。恋する相手に
       たとえたもの。
    心焼く=胸の中に恋の焔(ほのお)をかき
        たてること、のたとえ。

sakuramitih31 at 20:19|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2008年06月03日

名歌観賞・403

をしなべて こずえ青葉に なりぬれば 松の緑も わかれざりき 
                    白河院(しらかわいん)

(おしなべて こずえあおばに なりぬれば まつのみどりも
 わかれざりけり)

意味・・木々の梢が全て青葉になってしまったので、
    松の緑も見分けがつかなくなったことだ。

    松は常緑なので他の時期なら、ひときわ目立
    ったのに、今は目立たなくなった。

 注・・わかれ=分かれ、区別、違い、見分け。

sakuramitih31 at 20:24|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2008年06月02日

たのしみは いやなる人の 来たりしが 長くもをらで  かへりけるとき

たのしみは いやなる人の 来たりしが 長くもをらで 
かへりけるとき            橘曙覧(たちばなあけみ)

意味・・私の楽しみは、嫌いな人がやって来て、いやな
    気分だったのに、長居をせずに早々と帰ってく 
    れたときです。憂鬱だっただけにほっとする気
    持だ。

    「客と白鷺は立ったが見事」であり「禍福は糾
     (あさなえる)縄の如し」です。

 注・・客と白鷺は立ったが見事=白鷺は立った姿が
      素晴しい。客も長居せずに早く立つのが
      良い、ということ。
    禍福は糾える縄の如し=災厄と幸運とはより
      合わせた縄のように表裏一体をなしてい
      て、代わる代わるやって来る、ということ。
   

sakuramitih31 at 21:12|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2008年06月01日

名歌観賞・401

斯う活きて 居るも不思議ぞ 花の陰   一茶(いっさ)

(こういきて いるもふしぎぞ はなのかげ)

意味・・木の陰と違って花の陰は誰からも注目されない
    ように、私も日陰者のように生きてきた。漂泊の
    この36年間のつらく、苦しい思いに満ちた半生
    を振り返ると今日まで命をつないで生きてきた事
    が不思義に思われることだ。

    この句の前に書かれた日記に「漂泊の36年間
    千辛万苦して一日も心楽しむこと無く、己を知
    らずしてついに、白頭の翁になる」と記されて
    います。
    自分の存在の不思議さ、数奇な運命にもまれな
    がら、今日まで生き続けた自分の命の不思議さ
    に胸を打たれ、野心を秘めて詠んだ句です。

 注・・千辛万苦(せんしんばんく)=さまざまな難儀や
        苦労。
    

sakuramitih31 at 17:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句