2008年07月

2008年07月31日

名歌観賞・461

思ひ立つ 重きその荷を 卸すなよ 力車は 
くだけぬるとも         宗川儀八(むねかわぎはち)

(おもいたつ おもきそのにを おろすなよ ちから
ぐるまは くだけぬるとも)

意味・・志を立てたなら、その志を貫くという事は
    重い荷を背負うと同じ困難さがあるので、
    荷を積んだ荷車が朽ちたとしても荷を卸さ
    ずに進んでくれ。どんな困難があろうとも
    志を捨てずに進んでいって欲しい。

 注・・力車=荷車。

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2008年07月30日

名歌観賞・460

急がずば ぬれざらましを 旅人の あとよりはるる
野路の村雨           太田道灌(おおたどうかん)

(いそがずば ぬれざらましを たびびとの あとより
 はるる のじのむらさめ)

意味・・もしも急がなければ、濡れなかったであろうに。
    旅人が通った後から晴れていく野の道に降った
    にわか雨だなあ。

    急いだばかりにずぶ濡れになった旅人の後から
    皮肉にも晴れていく村雨の景は「急(せ)いては
    事を仕損じる」の教訓として詠まれています。

 注・・村雨=にわか雨。

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2008年07月29日

名歌観賞・459

この里も ゆふだちしけり 浅茅生に 露のすがらぬ
くさの葉もなし      源俊頼(みなもととしより)

(このさとも ゆうだちしけり あさじうに つゆのすがらぬ
 くさのはもなし)

意味・・この里でも夕立が降ったのだなあ。浅茅生
    には露がすがりついていない草の葉もない。

    旅の途中ですでに夕立に会い、草葉に置い
    た露でここも夕立が降ったことを知る。

 注・・浅茅生(あさぢう)=丈の低い茅が生えてい
      る野原。

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2008年07月28日

名歌観賞・458

石切の 鑿冷したる 清水かな   蕪村(ぶそん)

(いしきりの のみひやしたる しみずかな)

意味・・日盛りの石切り場で、石切人夫が
    石を切り出していたが、夏の暑さ
    にのみも熱くなったので、かたわ
    らの清水にのみをつけて冷やして
    いる。いかにも涼しげそうだ。

    一仕事をすると、のみも熱くなる
    し汗もかく。一息入れるためのみ
    を冷やすのである。

  

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2008年07月27日

名歌観賞・457

高山の 影をうつして 行く水の 低きにつくを 
心ともがな                 読人知らず

(たかやまの かげをうつして ゆくみずの ひくきにつくを
 こころともがな)

意味・・高い山の春夏秋冬の美しい風景を写して
    流れ行く川が低い方に流れて行くように
    私もそのように心掛けて行きたいものだ。

    美しい川は自分を自慢した態度は取らず
    下手に流れて行くように。

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2008年07月26日

名歌観賞・456

夕立の まだ晴れやらぬ 雲間より おなじ空とも 
見えぬ月かな           俊恵法師(しゅんえほうし)

(ゆうだちの まだはれやらぬ くもまより おなじそらとも
 みえぬつきかな)

意味・・夕立が降ったばかりの雲の間より、
    今夕立を降らした空とも思えない
    ような美しい月が見えることだ。

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2008年07月25日

名歌観賞・455

駒とめて なほ水かはむ 山吹の 花の露添う 
井出の玉川          藤原俊成(ふじわらとしなり)

(こまとめて なおみずかはん やまぶきの はなのつゆ
 そう いでのたまがわ)

意味・・馬を止めてやはり水を飲ませよう。山吹の
    花の露が加わる井出の玉川で。

    岸一体が明るい山吹の花。花から光こぼれる
    露。その露の加わった流れ。去りがたく馬を
    止めている人の風景です。

 注・・水かはむ=水を飲ませよう。
    井出の玉川=京都綴喜(つづき)井出町を
      流れる川。

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2008年07月24日

名歌観賞・454

あはれにも みさをに燃ゆる 蛍かな 声立てつべき
この世と思ふに         源俊頼(みなもととしより)

(あわれにも みさおにもゆる ほたるかな こえたてつ
 べき このよとおもうに)

意味・・いとしくも平然と燃える蛍だなあ。苦しさに
    悲鳴をあげてしまいそうなこの世だと思うのに。

 注・・あはれ=いとしい、ふびんだ。
    みさを=平気なこと。

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2008年07月23日

名歌観賞・453

夏河を 越すうれしさよ 手に草履  蕪村(ぶそん)

(なつかわを こすうれしさよ てにぞうり)

意味・・流れも浅い夏の川を、手に草履を持って
    はだしで渡ってみる。底砂の冷たい感触
    も快く、このような水遊びが出来ること
    に嬉しくなってくる。

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2008年07月22日

名歌観賞・452

沢水に 空なる星の うつるかと 見ゆるは夜半の 
蛍なりけり       藤原良経(ふじわらよしつね) 

(さわみずに そらなるほしの うつるかと みゆるは
 よわの ほたるなりけり)

意味・・沢の水面に空の星が映っているのかと
    思ったら、星ではなくて夜半の蛍であった。   

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2008年07月21日

名歌観賞・451

夕立の 晴れ行く峰の 雲間より 入日涼しき 露の玉笹
                後鳥羽院(ごとばいん)

(ゆうだちの はれゆくみねの くもまより いりひすずしき
 つゆのたまささ)

意味・・夕立が晴れて、山の頂の雲の切れ間から
    入日が笹に射して、笹の上に置く露が玉
    のように光って、まことに涼しく感じられる。
    

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2008年07月20日

名歌観賞・450

世の中に おもひやれども 子を恋ふる おもひにまさる
おもひなきかな         紀貫之(きのつらゆき)

(よのなかに おもいやれども こをこうる おもいにまさる
 おもいなきかな)

意味・・世の中にある色々の悲しみや嘆きを
    あれこれと思いめぐらして見るが、
    亡き子を恋い慕う嘆きにまさる嘆き
    はないものだなあ。

    四国の羽根という所で無邪気な子供
    を見ていると、任国で亡くした子供
    が悲しく思い出され、古今集の次の
    歌を思いながら詠んだ歌です。

 北へゆく 雁ぞ鳴くなる 連れてこし 数はたらでぞ
 かへるべらなる (07年8月14日 名歌観賞・109)

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2008年07月19日

名歌観賞・449

鳴る神の 音もとどろに ひさかたの 雨は降り来ね 
我が思ふとに            良寛(りょうかん)

(なるかみの おともとどろに ひさかたの あめは
 ふりこね わがおもうとに)

意味・・雷の音が、ごろごろ鳴りひびくばかりで、
    雨が降って来て欲しいものだ。日照りで
    困っていると、私が思っている人の所に。

    旱魃の時に詠んだ歌です。 

 注・・鳴る神=雷。
    ひさかた=「雨」の枕詞。
    来ね=来てほしい。「ね」は願望の意の助詞。

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2008年07月18日

名歌観賞・448

言出しは 誰ならなくに 小山田の 苗代水の 
中よどみする              読人知らず

(ことでしは たれならなくに おやまだの なわしろ
 みずの なかよどみする)

意味・・最初に言い出したのは誰でもない、あなた
    ですよ。それが山田の苗代水が途中で引っ
    かかって淀むように、今になって足踏みす
    るとは。

    ようやっとその気になった後、梯子を外さ
    れた気持です。

 注・・言出(ことで)し=言いだしっぺ。
    小山田=「小」は接頭語。
    苗代水=苗代に引き入れる小さな流れ。
    中よどみする=途中で淀むように、流れが
        止まる。

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2008年07月17日

名歌観賞・447

年をへて 星をいただく 黒髪の ひとよりしもに 
なりにけるかな  
           大中臣能宣(だいちゅうしんよしのぶ)

(としをへて 星をいただく くろがみの ひとよりしもに
 なりにけるかな)

意味・・長年の間、朝は星のあるうちに登庁し夜は
    星を見て退庁するほどに精勤し続けて、黒
    髪は霜のように白くなった。その私が人よ
    りも下位になってしまったとはなあ。

    自分より官位の劣るものに越されてしまっ
    たので、見直しを期待して詠んだ歌です。

 注・・星をいただく=星を戴いて出で星を戴いて
      帰ること、早朝に出かけ夕方は星が出
      て家に帰ること。勤務に励むたとえ。
    しも=「下」に「霜」を掛ける。

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2008年07月16日

名歌観賞・446

種まきし わがなでしこの 花ざかり いく朝露の
をきてみつらん      藤原顕季(ふじわらあきすけ)

(たねまきし わがなでしこの はなざかり いくあさ
 つゆの おきてみつらん)

意味・・私が種をまいた撫子の花は今花盛りだ、
    朝露の置いた花をもう幾朝起きては見た
    事だろう。

    藤原長実(ながさね)大臣の家の歌合で
    詠んだ歌です。顕季は長実の父親。
    わが子の「花盛り」を讃えている。

 注・・わがなでしこ=「我が撫でし児」を掛ける。
    をきて=「置き」に「起き」を掛ける。

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2008年07月15日

名歌観賞・445

夏山や 一足づつに 海見ゆる  一茶(いっさ)

(なつやまや ひとあしずつに うみみゆる)

意味・・うっそうと茂る樹木を分けて、汗まみれ
    で山路を登りつめ、ようやく頂上近くに
    なると、視界が開け、一足ごとに明るい
    夏の海が姿を現してくる。その輝くよう
    な青さと広がりに、息を飲む思いである。

    海に近い小高い山に登った時に詠んだ歌
    です。

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2008年07月14日

名歌観賞・444

蟻と蟻 うなづきあひて 何か事 ありげに奔る 
西へ東へ             橘曙覧(たちばなあけみ)

(ありとあり うなずきあいて なにかこと ありげにはしる
 にしへひがしへ)

意味・・蟻は這い回り餌を求めて巣に戻るのだが、
    西へ行く蟻と東へ行く蟻がすれ違うとき、
    何か出来事を伝えているようで、蟻の行
    列を見ていると面白いものだ。

    兼好法師は徒然草74段で次のように書
    いています。
    蟻のように集まって、東へ西へと急ぎ、
    南へ北へと奔走している。身分の高い人
    もおり、低い人もいる。老人もいるし若
    者もいる。皆は、一体なんのためにそん
    なにせかせかと急ぐのか。
    出かけて行く所もあり帰る家もある。
    夜には寝る事も出来、朝になれば起きる。
    どこが不満なのだろうか。「つれづれ」
    を楽しむ余裕がほしいものだ。

    

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2008年07月13日

名歌観賞・443

花のごと 世の常ならば 過ぐしてし 昔はまたも
かへりきなまし           読人知らず

(はなのごと よのつねならば すぐしてし むかしは
 またも かえりきなまし)

意味・・花が毎年咲くように、人の世が変わらず
    常にあるものならば、すでに過ぎ去って
    しまった楽しかった私の過去だって、も
    う一度ぐらい帰って来てくれればいいの
    に。

 注・・世の常ならば=人の世が常住不変ならば。
      散りやすい花を、この歌では毎年咲く
      から常住とみている。

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2008年07月12日

名歌観賞・442

柏木の 森のわたりを うち過ぎて 三笠の山に
われは来にけり       壬生忠岑(みぶただみね)

(かしわぎの もりのわたりを うちすぎて みかさの
 やまに われはきにけり)

意味・・私は柏木の森を通り過ぎて三笠の山まで
    やって来ました。
    兵衛府でのお勤めをすました私は、この
    たび皆様のおられる近衛府にお勤めする
    事になりました。

    兵衛府から近衛府に栄転した時のお祝い
    の席で詠んだ歌です。

 注・・柏木=奈良市にある地名。兵衛府(ひよう
    えいふ)、衛門府(えいもんふ)の異称、
    皇居を守る仕事をする。
    三笠=奈良市にある山の名。近衛府(こんえ
    いふ)の異称、天皇の護衛の仕事をする。

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2008年07月11日

名歌観賞・441

まがねふく 吉備の中山 帯にせる 細谷川の 
音のさやけさ                
            読人知らず
            (古今和歌集・1072)
(まがねふく きびのなかやま おびにせる ほそ
 たにがわの おとのさやかさ)

意味・・吉備の中山の麓を帯のように流れている細い
    谷川の音のなんとすがすがしいことよ。

 注・・まがねふく=鉄を溶かして分けること。吉備国は
      鉄を産したので、ここでは吉備の枕詞。
    吉備=備前、備中、備後、美作の四国。岡山県と
      広島県の一部。
    中山=備前と備中の境の山。

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2008年07月10日

名歌観賞・440

昼顔や どちらの露の 情けやら  良寛(りょうかん)

(ひるがおや どちらのつゆの なさけやら)

意味・・昼顔が夏の暑さにもめけず、愛らしく
    咲いている。その可愛らしさは、朝露
    の趣を受けたのか、それとも夕露の趣
    によるのか、思い迷うことだ。

    昼顔は、昼に花が咲いて夕方にしぼむ。
    そこで、露の趣を加えてみたいが、朝
    露にしても夕露にしても、時間的に間
    に合わないという。

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2008年07月09日

名歌観賞・439

たのしみは 朝おきいでて 昨日まで 無かりし花の
咲ける見る時         橘曙覧(たちばなあけみ)

(たのしみは あさおきいでて きのうまで なかりし
 はなの さけるみるとき)

意味・・私の楽しみは、朝起きて何気なく庭に目を
    やると、昨日まで無かった花があざやかに
    咲いた時です。その感動は大きいものです。

    アメリカの元クリントン大統領はこの歌を
    演説に取り入れています。
    日々新しい難題が生まれて来る世の中であ
    るが、日一日新たな日と共に確実に新しい
    花が咲き物事が進歩して、人々の友情を育
     (はぐく)む関係改善の兆しを見つけた時が
    私の喜びです。

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2008年07月08日

年ごとに せくとはすれど 大井川 むかしの名こそ なほながれけれ

年ごとに せくとはすれど 大井川 むかしの名こそ
なほながれけれ      源道済(みなもとみちなり)

(としごとに せくとはすれど おおいがわ むかしのなこそ
 なおながれけれ)

意味・・大井川は(田の用水として)毎年水を堰止めてい
    るけれども、昔の名高い評判だけは、せき止め
    られることもなく、今でもやはり流れ伝わって
    いることだ。

    川を堰止めるので大堰川(おおいがわ)とも
    呼ばれ、紅葉の葉がおびただしく流れるの
    で有名。
    藤原資宗(すけむね)は大井川で遊んだ折り
    「紅葉水に浮かぶ」の題で次の歌を詠んで
    います。

  筏士よ 待て言問はむ 水上は いかばかり吹く
  山の嵐ぞ  (07年5月28日 名歌観賞・31)  
    
 注・・せくとはすれど=(大井川は田の用水として
      井堰をつくって)堰き止めているけれど。
    大井川=大堰川とも言う、京都嵐山の近くを
      流れる川。上流を保津川、下流を桂川と
      呼ばれる。
            

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2008年07月07日

名歌観賞・437

武隈の 松は二木を みやこ人 いかがととはば
みきとこたへん        橘季通(たちばなすえみち)

(たけくまの まつはふたきを みやこびと いかかと
 とわば みきとこたえん)

意味・・武隈の松は二本あるのだが都の人がどうで
    したかと問うたなら「来て見ましたところ
    三本でしたよと」答えよう。

    有名な武隈の二本松を見て詠んだ歌です。
    「二木(ふたき)」だけれど、都人がどうで
    したと尋ねたら「三木(見き・見て来ました)」
    と答えようという、洒落の歌です。

 注・・武隈=宮城県名取郡岩沼町武隈。
    松は二木=現在は八代目の松だが、歴代の
      松は根際から二股に分かれている巨木
      なので二本の松のように見える。
    みきとこたへん=来て見てたら三本あった、と
      答えよう。「みき」は「三木」と「見き」
      の掛詞。
    


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2008年07月06日

夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月やどるらむ

夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに
月やどるらむ      清原深養父(きよはらふかやぶ)

(なつのよは まだよいながら あけぬるを くもの
 いずこに つきやどるらん)

意味・・今夜はまだ宵の口だと思っていたら
    そのまま空が明るくなってしまったが
    これでは月が西に沈む暇があるまい。
    進退窮まった月は、どの雲に宿を借り
    ているのだろうか。

    暮れたと思うとすぐに明るくなる夏
    の夜の短い事を誇張したものです。

 注・・宵=夜に入って間もないころ。

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2008年07月05日

名歌観賞・435

家ありや 芒の中の 夕けむり  
              童門冬二(どうもんふゆじ)

(いえありや すすきのなかの ゆうけむり)

意味・・家の周りは通常、田や畑であって作物が
    育っているはずなのだが、ここは薄に被
    われて生活をしていることだ。

    作句の動機、状況。
    貧困の部落のため、堤の修理もままなら
    ず、そのために毎年水害が発生するよう
    になった。その結果投げやりになって本
    業をやめて、遊びや博打も含めて他の余
    業に精を出すようになった。その結果、
    田や畑は薄や茅(かや)が茂るようになっ
    だ。村人の心に薄が生い茂っているのだ。
    心の中の薄や茅を刈り取らねばと言った
    ものです。       

 注・・夕けむり=夕煙、夕食の炊飯の煙。

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2008年07月04日

うたた寝に 恋しき人を 見てしより 夢てふものは 頼みそめてき 

うたた寝に 恋しき人を 見てしより 夢てふものは
頼みそめてき           小野小町(おののこまち)

(うたたねに こいしきひとを みてしより ゆめてふものは
 たのみそめてき)

意味・・うたた寝の夢で、恋しいあの人を見てから
    といものは、はかない夢というものでさえ
    頼りに思い始めるようになってしまった。

 注・・見てしおり=見てし時より、「時」を補う。


 

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2008年07月03日

名歌観賞・433

生ける者 遂にも死ぬる ものにあれば この世にある間は
楽しくをあらな      大伴旅人(おおとものたびびと)

(いけるもの ついにもしぬる ものにあれば このよに
 あるまは たのしくをあらな)

意味・・生きる者はいずれ死ぬのだから、この世
    に生きている間は酒を飲んで楽しく過ご
    したいものだ。

    題意は「酒を讃(ほ)める歌」です。
    作歌動機は大宰府に伴った妻と死別して
    悲嘆と失望にあり、酒でまぎらわせよう
    としたものです。 

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2008年07月02日

石見のや 高角山の 木の間より 我が振る袖を 妹見つらむか

石見のや 高角山の 木の間より 我が振る袖を 妹見つらむか 
              柿本人麻呂(かきのもとひとまろ)

(いわみのや たかつのやまの このまより わがふるそでを
 いもみつらんか)

意味・・石見の、高角山の木の間から名残を惜しんで
    私が振る袖を、妻は見てくれたであろうか。

    国司として石見にいた人麻呂が、結婚して間も
    ない現地の妻を残して上京する時の歌です。

 注・・石見=島根県西部地方。
    高角山=島根県都野津町付近の高い山。

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2008年07月01日

名歌観賞・431

慰むる 心はなしに 雲隠り 鳴き行く鳥の 
音のみし泣かゆ       山上憶良(やまのうえおくら)

(なぐさむる こころはなしに くもがくり なきゆくとりの
 ねのみしなかゆ)

意味・・あれこれと思い悩んで気が晴れることもなく、
    雲に隠れて飛んで行く鳥が声高く鳴くように
    私も声をあげて泣きたくなって来る。

    「年老いた身に病気を加え、長年苦しみながら
    子供を思う歌」という題で詠まれたものです。

    この歌の前に状況を説明した長歌があります。

    この世に生きてある限りは無事平穏でありたい
    し、障害も不幸もなく過ごしたいのに、世の中
    の憂鬱で辛い事は、ひどい傷に塩を振り掛ける
    というように、ひどく重い馬荷に上荷をどっさ
    り重ね載せるように、老いたわが身の上に病魔
    まで背負わされている有様なので、昼は昼で嘆
    き暮らし、夜は夜でため息をついて明かし、年
    久しく病み続けたので、幾月も愚痴ったりうめ
    いたりして、いっそうのこと死んでしまいたい
    と思うけれど、真夏の蝿のように騒ぎ廻る子供
    たちを放ったらかして死ぬことも出来ず、じっ
    と子供を見つめていると、逆に生の思いが燃え
    立って来る。こうして、あれやこれやと思い悩
    んで、泣けて泣けて仕方がない。

     

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