2009年09月

2009年09月30日

名歌鑑賞・888

角力老いて やどもつ京の 月夜かな
          大伴大江丸(おおともおおえまる)

(すもうおいて やどもつきょうの つきよかな)

意味・・地方から上京して、かっては土俵上で
    はなばなしく活躍したこともあったが、
    今は年老いて引退し、京都の町裏でひ
    っそりと余生を送っている関取。ささ
    やかながら一戸を構え、妻女とともに、
    人目のつかないひっそりとした日々を
    送っている。人の世の栄枯をよそに秋
    の月は無心に照っている。

作者・・大伴大江丸=1722~1805。蕪村との交流
      を持つ。


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2009年09月29日

名歌鑑賞・887

いづこにか 身をばよせまし 世の中に 老をいとはぬ
人しなければ     藤原為頼(ふじわらのためより)

(いずこにか みをばよせまし よのなかに おいを
 いとわぬ ひとしなければ)

意味・・一体私はどこへ身を寄せたらいいので
    あろうか。世の中に老人をいやがらな
    い人はないから。

 注・・いとはぬ=厭はぬ。いやだと思わない。
    し=上接する語を強調する副詞。

作者・・藤原為頼=生没年未詳、998年頃没。紫
      式部の伯父。

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2009年09月28日

名歌鑑賞・886

朝ゆふに 思ふこころは 露なれや かからぬ花の
うへしなければ     良暹法師(りょうせんほうし)

(あさゆうに おもうこころは つゆなれや かからぬ
 はなの うえしなければ)

題意・・野の花を思う。

意味・・朝(あした)に夕べに秋野の花を思う私の心は
    たとえて言えば露であろうか。露のかからな
    い花のないように、心の懸からない花の上は
    ひとつもないので。

 注・・露なれや=露であるからであろうか。
    かからぬ=心の「かからぬ」と露の「かからぬ」
      を掛ける。
    花のうへしなければ=花の上は一つもないの
      で。「し」は上接する語を強調したり指示
      する。

作者・・良暹法師=生没年未詳。1048頃の人。雲林院
      の歌僧。

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2009年09月27日

名歌鑑賞・885

すむとても いくよもあらじ 世の中に くもりがち
なる 秋の夜の月  藤原公任(ふじわらのきんとう)

(すむとても いくよもあらじ よのなかに くもり
 がちとなる あきのよのつき)

題意・・仲秋の八月、月が雲に隠れたのを見て
    詠んだ歌。

意味・・月がよく澄むといっても幾夜もあるまい。
    雲に隠れて光を失うことの多い秋の夜の
    月なのだ。
    (人がこの世に住むといってもそう長くは
    あるまい。人生もいろいろ支障が多く心身
    をそこなうものだ)。

 注・・すむとてもいくよもあらじ=月が澄むとい
      っても幾夜もあるまい。人がこの世に
      住むといっても幾世もあるまい。
    くもりがちなる=雲に隠れて光を失う事が
      多い。人も色々と支障が多い。

作者・・藤原公任=966~1041。正二位権大納言。
      「和漢朗詠集」等の和歌の編著も多い。
      中古三十六歌仙の一人。
    

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2009年09月26日

名歌鑑賞・884

思ひやれ こころの水の あさければ かき流すべき
言の葉もなし    藤原実行(ふじわらのさねゆき)

(おもいやれ こころのみずの あさければ かき
 ながすべき ことのはもなし)

意味・・私のつらい気持ちを想像してください。
    私の心は浅はかなので、後世まで書き
    伝える事の出来る歌もありません。

    詞花(しか)和歌集を編集したいので、
    家集を見せて下さいと言われたので
    詠んだ歌です。

 注・・心の水=心を水に喩える。
    かき流す=「書き」に「掻き」を掛け
      る。言の葉という落ち葉を掻き流
      すイメージ。
    言の葉=和歌のこと。

作者・・藤原実行=1080~1162。太政大臣従・
      従一位。


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2009年09月25日

名歌鑑賞・883

いかなれば おなじ時雨に 紅葉する ははその杜の
うすくこからん    藤原頼宗(ふじわらのよりむね)

(いかなれば おなじしぐれに もみじする ははその
 もりの うすくこからん)

意味・・同じ時雨によって紅葉するものなのに、
    どういうわけで、柞(ははそ)の森は薄か
    ったり濃かったりするのだろうか。

    参考歌として良寛の歌に「いかなれば同
    じ一つに咲く花の濃くも薄くも色を分く
    らむ」があります。(意味は下記参照)

 注・・時雨=秋から冬にかけて降ったり止ん
      だりする小雨。
    ははその杜=柞の森。柞はイヌブナ科の
      落葉高木。コナラ、クヌギなど。

作者・・藤原頼宗=993~1065。藤原道長の次男。
      従一位右大臣。堀川右大臣と呼ばれ
      和歌が巧みであった。

参考歌です。

いかなれば 同じ一つに 咲く花の 濃くも薄くも
色を分くらむ               良寛

(いかなれば おなじひとつにさくはなの こくもうすくも
 色をわくらん)

意味・・どうしたことで、同じ一つの時期に咲く花が、
    濃い色や薄い色に色を分けて咲くのだろうか。    

 注・・いかなれば=どうして。

蛇足・・人も持ち場や立場で、また得て不得手により
    色々の花を咲かせるものである。




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2009年09月24日

名歌鑑賞・882

年へぬる 秋にもあかず 鈴虫の ふりゆくままに
声のまされば     藤原公任(ふじわらのきんとう)

(としへぬる あきにもあかず すずむしの ふりゆく
 ままに こえのまされば)

意味・・幾年も経った秋にもいやにならない事だ。
    鈴虫は鈴を振るように鳴いて、年老いて
    行くにつれて声がよりよくなるのだから。

    自分自身の気持ちであり、年々良くなっ
    て行く我が人生の喜びを詠んでいます。   

 注・・としへぬる=年経ぬる。幾年も経た。
    ふりゆく=鈴を振って鳴く「振り」と
      年老いるの「古り」を掛ける。

作者・・藤原公任=966~1041。正二位権大納言。
      「和漢朗詠集」等の和歌の編著も多い。
      中古三十六歌仙の一人。

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2009年09月23日

名歌鑑賞・881

菊の香やならには古き仏達   芭蕉(ばしょう)

(きくのかや ならにはふるき ほとけたち)

意味・・昨日から古都奈良に来て、古い仏像を拝んで
    まわった。おりしも今日は重陽(ちょうよう)
    で、菊の節句日である。家々には菊が飾られ
    町は菊の香りに満ちている。奥床しい古都の
    奈良よ。慕(した)わしい古い仏達よ。

    重陽の日(菊の節句・陰暦9月9日)に奈良で詠
    んだ句です。菊の香と奈良の古仏の優雅さと
    上品さを詠んでいます。

作者・・松尾芭蕉=1644~1694。「奥の細道」、「笈
      (おい)の小文」など。



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2009年09月22日

名歌鑑賞・880

きりぎりす 鳴くや霜夜の さ莚に 衣片敷き
ひとりかも寝ん    藤原良経(ふじわらのよしつね)

(きりぎりす なくやしもよの さむしろに ころも
 かたしき ひとりかもねん)

意味・・こおろぎの鳴く、霜の降りる寒い夜、莚
    の上に衣の片袖を敷いて一人寂しく寝る
    のであろうか。

    「きりぎりす」や「さ莚」の語から山里
    での一人住みや旅の仮寝が思われる。
    恋の情調を漂わせながら、暮れ行く秋の
    寂しさ、孤独な一人寝のわびしさを詠ん
    でいます。なお、この歌を詠む直前に妻
    に先立たれたと言われています。

 注・・きりぎりす=今のこおろぎ。
    さ莚=さは接頭語。藁や菅などで編んだ
      粗末な敷物。「寒し」を掛ける。
    衣片敷き=昔、共寝の場合は、互いの衣
      の袖を敷き交わして寝た。片敷きは
      自分の衣の片袖を下に敷くことで、
      一人寝のこと。   

作者・・藤原良経=1169~1206。従一位太政大臣。
      新古今集の仮名序を執筆。

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2009年09月21日

名歌鑑賞・879

朽ちもせぬ ながらの橋の はし柱 久しきことの
見えもするかな      平兼盛(たいらのかねもり)

(くちもせぬ ながらのはしの はしばしら ひさしき
 ことの みえもするかな)

題意・・摂政藤原兼家の60歳の祝賀の宴で、
    屏風の長柄橋の絵を見て詠んだ歌。

意味・・いつまでたっても朽ちない長柄の橋
    の橋柱の久しいように、あなたさま
    の行く末も久しく末長く続くことが
    見られもすることでございます。

 注・・ながらの橋=大阪市大淀区の淀川に
      架かっている橋。河口が広く流
      れが変わるためよく決壊し修理
      繰り返された。
    はし柱=橋を支える堅固な主柱。

作者・・平兼盛=~990。駿河守。36歌仙の一人。
    

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2009年09月20日

名歌鑑賞・878

わが心 なほ晴れやらぬ 秋霧に ほのかに見ゆる
有明の月        源公胤(みなもとのこういん)

(わがこころ なおはれやらぬ あきぎりに ほのかに
 みゆる ありあけのつき)

意味・・私の心は、まだ晴れきらない秋霧の中に
    ほのかに見えている有明の月のようだ。

    心の曇りの晴れる時が期待される気持ち
    を詠んでいます。良い事がある前触れの
    兆候のような気持ちです。

 注・・有明の月=夜明けまで残っている月。

作者・・源公胤=1216没、72歳。三井寺僧正。
    

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2009年09月19日

名歌鑑賞・877

清滝の 瀬々の岩波 高雄山 人もあらしの
声ぞさびしき    明恵上人(みょうえしょうにん)

(きよたきの せぜのいわなみ たかおやま ひとも
 あらしの こえぞさびしき)

意味・・清滝川の瀬々の岩波の音が高く聞こえて
    くるこの高雄山では、訪れる人もなく、
    峰の嵐の音だけが寂しく聞こえてきます。

    いかがお過ごしですか、と問われて詠ん
    だ歌です。人との交流が少なくなって寂
    しい気持ちを詠んでいます。

 注・・清滝川=京都市右京区栂尾・高雄を流れ
      る川。
    高雄山=京都市右京区にある山。「山名」
      に「高し」を掛ける。
    あらし=嵐。「有らじ」を掛ける。

作者・・明恵上人=1173~1232。鎌倉時代の栂尾
      高山寺の僧。

 

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2009年09月18日

名歌鑑賞・876

さらぬだに 玉にまがひて 置く露を いとどみがける
秋の夜の月      藤原長実(ふじわらのながさね)

(さらぬだに たまにまがいて おくつゆを いとど
 みがける あきのよのつき)

意味・・そうでなくてさえ玉と見まがうように
    置いている露を、いっそう磨きをかけ
    て輝かせている秋の夜の月よ。

    澄んだ光を放つ秋の月が、露の輝きに
    よって表現されている。

 注・・さらぬ=然らぬ。そうでない。
    まがひ=紛ひ。交じり合って見分けがつかない。

作者・・藤原長実=1075~1133。権中納言、正三位。

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2009年09月17日

名歌鑑賞・875

いろいろの 花のひもとく 夕暮れに ちよまつ虫の
声ぞ聞こゆる    清原元輔(きよはらのもとすけ) 

(いろいろの はなのひもとく ゆうぐれに ちよ
 まつむしの こえぞきこえる)

意味・・いろいろの秋野の花が美しく紐解き咲く
    夕暮れ時に誰を待つやら、千代を待つと
    いう縁起のよい松虫の声が聞こえている。

 注・・ひもとく=紐解く。女性が衣服の紐を解
      く、つぼみが咲く。この二つの意を
      兼ねる。
    ちよまつ虫=「千代を待つ」「夜を待つ」
      「松虫」を掛ける。「千代待つ」に
      賀の意を含める。

作者・・清原元輔=908~990。肥後守、従五位。
      清少納言の父。

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2009年09月16日

名歌鑑賞・874

能因にくさめさせたる秋はここ
        大伴大江丸(おおともおおえまる)

(のういんに くさめさせたる あきはここ)

前書・・白河の関で詠んだ句。

意味・・能因法師は秋風に吹かれて白河の関を
    越えて来て、奥州の冷気にさぞくしゃみ
    をしただろうが、その旧跡はここなのだ。

    古歌を滑稽化した作。能因法師が白河の
    関で詠んだという「都をば霞とともに立
    ちしかど秋風ぞ吹く白河の関」を踏まえ
    た句です。(意味は下記参照)

 注・・白河の関=福島県白河市。645年頃の関。
    能因法師=988~?。中古36歌仙の一人。

作者・・大伴大江丸=1722~1805。蕪村との交流
      を持つ。

参考歌です。

都をば 霞とともに 立ちしかど 秋風ぞ吹く 
白河の関       能因法師(のういんほうし)

(みやこおば かすみとともに たちしかど あき
 かぜぞふく しらかわのせき)

意味・・都を春霞が立つ頃に旅立ったが、もう秋風
    が吹いている、この白河の関では。

    白河の関で秋を感じ、春に都を出発したが、
    もう秋になったのか、ずいぶん長い月日の
    旅をしてはるばるとやって来たものだ、と
    いう感慨を詠んだものです。
    また、「月日に関守なし」というが、時の
    たつのは早いという事も言っています。

 注・・白河の関=福島県白河市付近にあった。


  
   



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2009年09月15日

名歌鑑賞・873

大堰川 いはなみ高し 筏士よ きしの紅葉に
あからめなせそ    藤原経信(ふじわらのつねのぶ)

(おおいがわ いわなみたかし いかだしよ きしの
 もみじに あからめなせそ)

意味・・大堰川は岩にあたる波が高いことだ。筏士よ
    岸の紅葉の美しさに目を奪われるなよ。

 注・・あからめ=よそ見。

作者・・藤原経信=1016~1097。大納言。正二位。

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2009年09月14日

名歌鑑賞・872

黄菊白菊其外の名はなくもがな 
           服部嵐雪(はっとりらんせつ)

(きぎくしらぎく そのほかのなは なくもがな)

意味・・眼前には色とりどりの菊があって、互いに
    妍(けん)を競っている。けれども、菊の清
    爽(せいそう)な風趣を愛する者には黄菊と
    白菊があればよいので、その他の菊はむし
    ろ無いほうがよい。

    江戸時代には菊の品種がむやみと増加して、
    大輪のものも作られ、夏菊20種、秋菊230種
    がありその後も増加する勢いであった。

 注・・なくもがな=いっそ、無いほうがよい。
    其外の名は=其外の菊は。菊の重複を避け
      た表現。
    妍を競う=あでやかさを競う。 
    清爽=清らかでさわやかなこと。

作者・・服部嵐雪=1654~1707。30歳半ばまて武士
      で20歳頃より芭蕉に師事した。

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2009年09月13日

名歌鑑賞・871

おくと見る ほどぞはかなき ともすれば 風に乱るる
萩の上露           源氏物語・紫の上

(おくとみる ほどぞはかなき ともすれば かぜに
 みだるる はぎのうわつゆ)

題意・・紫の上が数ヶ月にわたる病気の時、起き
    ている時に光源氏がご気分はいかがです
    かと言ったのに答えて詠んだ歌です。

意味・・私は起きていると見える間もない果かな
    い命です。どちらかといえば風に乱れる
    萩の葉の上の露同然です。

 注・・おく=「起く」と「置く」を掛ける。
    ほど=間、時間、月日。
    はかなき=心細い、すぐに消えるさま。
    ともすれば=ややもすると、なにかとい
      うと。

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2009年09月12日

名歌鑑賞・870

小倉山 たちども見えぬ 夕霧に 妻まどはせる 
鹿ぞ鳴くなる       江侍従(こうじじゅう)

(おぐらやま たちどもみえぬ ゆうぎりに つま
 まどわせる しかぞなく)

意味・・その名も小倉山で、暗くて立っている所
    も見えない夕霧の中に、雌鹿を見失った
    牡鹿が鳴いている声が聞こえる。

    寂しくなって行く秋を詠んでいます。

 注・・小倉山=京都市右京区嵐山の付近の山。
      小暗い事を含ませる。
    たちど=立ち処。立っているところ。
    まどはせる=惑はせる。迷わす、見失う。

作者・・江侍従=生没年未詳。1020年頃の人。

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2009年09月11日

名歌鑑賞・869

君なくて 荒れたる宿の 浅茅生に うづらなくなり 
秋の夕暮れ       源時綱(みなもとのときつな)

(きみなくて あれたるやどの あさじうに うずら
 なくなり あきのゆうぐれ)

意味・・愛するあなたがいなくなって、荒れ果てた
    住まいの浅茅生に鶉が鳴いている。わびし
    い秋の夕暮れ時だなあ。

    参考歌に藤原俊成の「夕されば野辺の秋風
    身にしみて鶉なくなり深草の里」がありま
    す。(意味は下記参照)

 注・・君=あなた(愛する人)。万葉集では女性
      から男性に対して、その以降は親しい
      男女が互いに用いた。ここでは女性に
      対していう。
    浅茅生=たけの低い茅の生えている所。
    うづら=鶉。鶉は荒れた野や里に鳴くもの
      として歌に詠まれている。

作者・・源時綱=生没年未詳。1088年頃の人。肥後
      守従五位上。

参考歌です。

夕されば 野辺の秋風 身にしみて 鶉鳴くなり 
深草の里       藤原俊成(ふじわらとしなり)

(ゆうされば のべのあきかぜ みにしみて うずら
なくなり ふかくさのさと)

意味・・夕暮れになると野辺を吹き渡ってくる秋風が
    身にしみて感じられ、心細げに鳴く鶉の声が
    聞こえてくる。この深草の里では。

    捨て去られた女が鶉の身に化身して寂しげに
    鳴く晩秋の夕暮れの深草の情景です。
    (伊勢物語より)

 注・・夕されば=夕方になると。
    秋風=「秋」には「飽き」が掛けられている。

    

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2009年09月10日

名歌鑑賞・868

限りあらん 仲ははかなく なりぬとも 露けき萩の
上をだにとへ       和泉式部(いずみしきぶ)

(かぎりあらん なかははかなく なりぬとも つゆけき
 はぎの うえだにとえ)

意味・・たとえ二人の仲は、限りがあってむなしく
    絶えたとしても、せめて露を置いてしめり
    がちな萩のあたりまで訪ねて下さい。
 
    二人の仲が遠のいている時に詠んだ歌です。
    もう二人は結ばれないだろうが、たまには
    傷心の私を思い出して欲しいという気持を
    詠んでいます。

 注・・限りあらん仲=限界のある仲、二人の仲の
      限界、すなわち恋が結ばれない意。
    露けき萩をとへ=露を置いた風情のある萩
      のあたりを訪ねてきてください。裏に
      涙の露に濡れた傷心の私を思い出して
      ください、の意を含める。
    とへ=訪へ、訪れる。

作者・・和泉式部=生没年未詳、977頃の生まれ。      
      作品に「和泉式部日記」など。

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2009年09月09日

名歌鑑賞・867

牛飼が 歌よむ時に 世の中の 新しき歌
大いに起る       伊藤左千夫(いとうさちお)

(うしかいが うたよむときに よのなかの あたらしき
 うた おおいにおこる)

意味・・牛飼をなりわいとする自分までが歌を
    詠む時、初めて世の中に新しい時代の
    新しい歌がさかんに起こるのだ。

 注・・牛飼=牛ひきをする人。ここでは牛乳
      搾取業を営んでいる本人をさす。
    新しき歌=新時代にふさわしい新しい
      歌の意。

作者・・伊藤左千夫=1865~1913。眼病のため
      退学して26歳の時牛乳搾取業を
      始めた。子規の門下。小説「野菊
      の墓」などの作品がある。

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2009年09月08日

名歌鑑賞・866

さびしさに 宿を立ち出でて ながむれば いづくも同じ
秋の夕暮れ        
          良暹法師(りょうせんほうし)
          (後拾遺和歌集・333、百人一首・70)

(さびしさに やどをたちいでて ながむれば いずくも
 おなじ あきのゆうぐれ)

意味・・堪えかねる寂しさによって、住まいを出て
    あたりをしみじみと眺めて見ると、慰める
    物もなく、どこもかしこもやはり同じよう
    にわびしい、秋の夕暮れであるよ。

    人気のない山里の草庵をつつむ寂寥(せきり
    ょう)の世界が描かれ、求める相手もいない
    寂しさを詠んでいます。

作者・・良暹法師=生没年未詳。1048頃の人。雲林
      院の歌僧。

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2009年09月07日

名歌鑑賞・865

おしなべて ものを思はぬ 人にえ 心をつくる
秋の初風        西行法師(さいぎょうほうし)

(おしなべて ものをおもわぬ ひとにさえ こころを
 つくる あきのはつかぜ)

意味・・一様に、もの思いをしない人にさえ、もの
    思いの心を起こさせる秋の初風だ。

 注・・おしなべて=すべて、一様に。 
    ものを思はぬ=もの思いをしない人、情趣
      を感じない人。
    心をつくる=物思いの心を起こさせる。

作者・・西行法師=1190年没、73歳。鳥羽上皇北面
      の武士。23歳の時出家。新古今集に
      最も入集歌が多い。

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2009年09月06日

名歌鑑賞・864

采女の 袖吹きかへす 明日香風 都を遠み
いたづらに吹く        志貴皇子(しきのみこ)

(うねめの そでふきかえす あすかかぜ みやこを
 とおみ いたづらにふく)

詞書・・明日香の宮より藤原の宮に遷りし後に
    作りし歌。

意味・・采女の袖をあでやかに吹き返す明日香
    風も、都が遠のき采女もいなくなって
    今は虚しく吹いているばかりだ。

    華やかだった頃の都が寂びれ、かって
    の面影がなくなった寂しさを詠む。

 注・・明日香の宮=672年に遷都した明日香
      清御原(きよみはら)の宮。奈良県
      明日香村。
    藤原の宮=694年藤原京に遷都時の宮。
      奈良県橿原市。
    采女(うねめ)=後宮で天皇の食事など
      の世話した女官。容姿の整った者
      から選ばれた。
    いたづら=むなしいさま、つまらない
      さま。

作者・・志貴皇子=~715。天智天皇の皇子。

sakuramitih31 at 20:13|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2009年09月05日

名歌鑑賞・863

白雲に 羽うちかはし 飛ぶ雁の かずさへ見ゆる
秋の夜の月           読人知らず

(しらくもに はねうちかわし とぶかりの かずさえ
 みゆる あきのよのつき)

意味・・高い空を仲良く羽を連ねて列になって
    飛んでいく雁の、その数までが数えら
    れる明るい秋の夜の月だ。

 注・・白雲=雲のある高い空をさす。
    羽うちかはす=鳥同士が羽を重ねて。
      雁が列をなして飛ぶこと。
    かずさへ=「さへ」で鳥である事が
      分かるうえに、月光の明るさで
      数まで分かるという意。

sakuramitih31 at 19:30|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2009年09月04日

名歌鑑賞・862

木の葉もる 片割れ月の ほのかにも たれか我が身を
思ひいづべき    僧正行尊(そうじょうぎょうそん)

(このはもる かたわれづきの ほのかにも たれか
 わがみを おもいいずべき)

意味・・木の間を漏れてくる半月の光がほのかな
    ように、ほんのかすかにでも、誰が私の
    身を思い出してくれようか。

    山林修行中の寂しさから詠まれた歌です。
    人に相手にされない寂しさです。

 注・・片割れ月=七、八日頃の月、上限の半月。

作者・・僧正行尊=1055~1135。平等院大僧正。

sakuramitih31 at 18:28|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2009年09月03日

名歌鑑賞・861

おく露に たわむ枝だに あるものを いかでかをらん
宿の秋はぎ       橘則長(たちばなののりなが)

(おくつゆに たわむえだだに あるものを いかでか
 おらん やどのあきはぎ)

詞書・・我が家の萩を人が分けて欲しいというので
    詠んだ歌。

意味・・置く露によって撓(たわ)む枝さえ痛ましく
    思うのに、我が宿の秋萩をどうして折れま
    しょうか、折れはしません。(さしあげる
    ことは出来ません、悪しからず)

    とは言うものの、人のたっての所望を断り
    おおせず、見事な枝にこの歌をつけて贈っ
    たという。

 注・・おく露にたわむ枝だにあるものを=置く露
      によってしなえる枝さえ痛ましく思う
      のに。
    宿=家屋、住居、屋敷内の庭。

作者・・橘則長=生没年未詳。越中守従五位下。
      清少納言の長男。

sakuramitih31 at 18:41|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2009年09月02日

名歌鑑賞・860

たれが世も わがよもしらぬ 世の中に まつほどいかが
あらんとすらん     藤原道信(ふじわらのみちのぶ)

(たれがよも わがよもしらぬ よのなかに まつほど
 いかが あらんとすらん)

詞書・・友が遠い田舎に行く時に詠だ歌。

意味・・人の寿命も、自分の寿命もいつまであるか
    分からないはかない世の中に、あなたの帰
    京を待つ間、生き長らえて再会出来るであ
    ろうか、おぼつかないことです。

 注・・たれが世も=誰の寿命も、暗に遠方に行く
      友をさす。「世」は寿命のこと。

作者・・藤原道信=972~994、23歳。左近中将従四位。
      中古36歌仙の一人。

sakuramitih31 at 18:53|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2009年09月01日

名歌鑑賞・859

庭草に 村雨降りて こほろぎの 鳴く声聞けば
秋づきにけり          読人知らず

(にわくさに むらさめふりて こおろぎの なく
 こえきけば あきずきにけり)

意味・・庭草に村雨が降り注いで、こおろぎが
    鳴いている、その声を聞くとほんとに
    秋らしくなったものだ。

 注・・庭草=庭に生えている草。
    村雨=にわか雨。

sakuramitih31 at 17:56|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句