2010年09月

2010年09月30日

名歌鑑賞・1248

高松の この嶺も狭に 笠立てて 満ち盛りたる 
秋の香のよさ
                読人知らず
                 (万葉集・2233)

(たかまつの このみねもせに かさたてて みち
 さかりたる あきのかのよさ)

意味・・高松のこの峰も狭しとばかりに、ぎっしりと
    傘を突き立てて、いっぱいに満ち溢(あふ)れ
    ているきのこの、秋の香りの何とかぐわしい
    ことか。

    峰一面に生えている松茸の香りの良さを讃え
    た歌です。

 注・・高松の嶺=奈良市東部、春日山の南の山。
    笠立てて=松茸の生えている姿を、傘を地に
     突き立てたと見た表現。
    秋の香=ここでは秋の香りの代表として松茸
     の香り。


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2010年09月29日

名歌鑑賞・1247

秋の田の 仮庵の庵の 苫をあらみ わが衣手は
露にぬれつつ
              天智天皇(てんじてんのう)
               (後撰集・302、百人一首・1)

(あきのたの かりほのいおの とまをあらみ わが
 ころもては つゆにぬれつつ)

意味・・秋の田の仮小屋の屋根に葺(ふ)いた苫の目が
    粗いので、夜通し小屋で番をしている私の着物
    の袖は、こぼれ落ちる露に濡れていくばかりで
    ある。

    収穫期の農作業にいそしむ田園の風景を詠んだ
    歌である。しかし、農作業のつらさという実感
    は薄く、晩秋のわびしい静寂さを美ととらえた
    歌である。

 注・・仮庵=農作業のための粗末な仮小屋。「仮庵の
     庵」は同じ語を重ねて語調を整えたもの。
    苫をあらみ=「苫」は菅や萱で編んだ菰(こも)。
     「・・を・・み」は原因を表す語法。「・・
     が・・なので」
    衣手=衣の袖。

作者・・天智天皇=626~671。蘇我氏を倒し大化の改新
     を実現。近江(滋賀県)に都を開く。


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2010年09月28日

名歌鑑賞・1246

君待つと 我が恋ひ居れば 我が屋戸の 簾動かし
秋の風吹く
             額田王(ぬかたのおおきみ)
               (万葉集・488)

(きみまつと わがこいおれば わがやどの すだれ
 うごかし あきのかぜふく)


意味・・あの方のおいでを待って恋しく思っていると、
    家の戸口の簾をさやさやと動かして秋の風が
    吹いている。

    夫の来訪を今か今かと待ちわびる身は、かす
    かな簾の音にも心をときめかす。秋の夜長、
    待つ夫は来ず、簾の音は空しい秋風の気配を
    伝えるのみで、期待から失望に思いは沈んで
    行く。

 注・・屋戸=家、家の戸口。

作者・・額田王=生没年未詳。万葉の代表的歌人。


    



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2010年09月27日

名歌鑑賞・1245

難波潟 みじかき芦のふしの間も 逢はでこの世を
過ぐしてよとや
                伊勢(いせ)
           (新古今集・1049、百人一首・19)

(なにわがた みじかきあしの ふしのまも あわで
 このよを すぐしてよとや)

意味・・難波潟の芦の、その短い節と節の間のような、
    ほんのわずかな間も逢わないまま、私にこの
    世を終えてしまえと、あなたは言うのでしょ
    うか。

    実ることのない恋をしてしまった自分自身の
    人生が、いかにも痛ましいものとして見つめ
    ています。

 注・・難波潟=大阪湾の一部。「難波」は現在の大
     阪市やその周辺の古称。
    芦=イネ科の多年草。水辺に自生し、高さは
     2~4mになるが、節と節との間は短い。
    この世=男女の仲、人生、世間。ここでは
     男女の仲から人生の意に広がっている。
    過ぐしてよ=過ごしてしまえ。「てよ」は
     完了の助動詞「つ」の命令形。
    とや=「とや言ふ」の略。というのか。

作者・・伊勢=877~938。伊勢守藤原継陰の娘。代表
     的な女流歌人。


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2010年09月26日

名歌鑑賞・1244

われが身に故郷ふたつ秋の暮れ
                吉分大魯(よしわけたいろ)
                  (蘆陰句選)

(われがみに ふるさとふたつ あきのくれ)

前書・・国を辞して九年の春、都を出て一とせの秋。

意味・・故郷徳島を離れてすでに九年にもなり、その
    なつかしさは当然のことであるが、住み慣れ
    た京都を出て一年たった今となってみると、
    その京都へのなつかしさもひとしおのもので、
    秋の暮にしみじみと感慨にふけり、感じやすく
    なっている自分の心には、二つながらともに
    なつかしい故郷である。

 注・・秋の暮=秋の終わり、秋の夕べ。ここでは秋
     の夕べの意。

作者・・吉分大魯=1730~1778。阿波国(徳島県)の藩士。
     俳諧を好み職を辞して京都に上り蕪村に学ぶ。
     句集に「蘆陰(ろいん)句選」
 

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2010年09月24日

名歌鑑賞・1443

しののめの 空霧わたり 何時しかに 秋の景色に
世はなりにけり
            紫式部(むらさきしきぶ)
              (玉葉和歌集)

(しのしめの そらきりわたり いつしかに あきの
 けしきに よはなりにけり)

意味・・夏だから暑い暑いと思って過ごしていたある日、
    ふと朝早く起きて外に出てみると、ひんやりと
    秋の気配が感じられる。夜が明けきれば、日差
    しが夏の暑気をよみがえらせる。しかし、朝霧
    が立ち込めているこのひと時、思いがけない秋
    がそこに来ていた。

    早い朝の静寂さが余情として残ります。
    
 注・・しののめ=東雲。明け方のほのかに空が白んで
     くる頃。

作者・・紫式部=978~1016。「源氏物語」「紫式部日記」



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名歌鑑賞・1242

いざ歌へ 我立ち舞はむ ひさかたの 今宵の月に
寝ねらるべしや
               良寛(りょうかん)
                 (良寛歌集・1212)

(いざうたえ われたちまわん ひさかたの こよいの
 つきに いねらるべしや)

意味・・さあ、あなたは歌いなさい。私は立って歌おう。
    今夜の美しい月を見て、寝ることが出来ようか、
    いや寝ることは出来ない。

    仲秋の名月の夜に友が来たので詠んだ歌です。

 注・・ひさかたの=天、月、光、空などの枕詞。

作者・・良寛=1758~1831。



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2010年09月23日

名歌鑑賞・1241

世をあげし 思想の中に まもり来て 今こそ戦争を
憎む心よ
            近藤芳美(こんどうよしみ)
              (埃吹く街)

(よをあげし しそうのなかに まもりきて いまこそ
 せんそうを にくむこころよ)

意味・・世間の全てが軍国主義に駆り立てられていった
    状況の中で、ひそかに守ってきた思想がある。
    今こそ戦争を憎む心を高らかに表明し、その立
    場を貫きとおして行きたい。

 注・・思想=ここでは軍国主義思想の意。

作者・・近藤芳美=1913~2006。神奈川大学教授。中村健吉・
     土屋文明に師事。社会派の歌人。歌集に「早春歌」
     「埃(ほこり)吹く街」など。


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2010年09月22日

名歌鑑賞・1240

身代は まはりかねたる 車引き つらきうき世を
おし渡れども

             紀定丸(きのさだまる)
               (徳和歌後万載集)

(しんだいは まわりかねたる くるまひき つらき
 うきよを おしわたれども)

意味・・つらいこの浮世を、難儀な道に車を押すように、
    何とかして渡っていこうとするのだが、車引き
    の仕事では、車は回っても身代は回りかねて、
    とかく思うようにならない。

    横に車を押すことも出来ないような下層労働者
    の生活の嘆声を詠んでいる。

 注・・身代=生計、暮し向き。
    車引き=荷車などを引いて生活する人。今では
     派遣労働者の立場。
    まはりかねたる=思うようにいかない。
    おし渡れども=困難を排して渡る。

作者・・紀定丸=1760~1841。吉見義方。四方赤良の甥。
     御勘定組頭。「狂月望」「黄表紙」。

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2010年09月21日

名歌鑑賞・1239

夕煙 今日はけふのみ たてておけ 明日の薪は
あす採りてこむ

               橘曙覧(たちばなあけみ)
                 (橘曙覧歌集・37)

(ゆうけぶり きょうはきょうのみ たてておけ あすの
 たきぎは あすとりてこん)

意味・・夕煙を今日は今日だけ立てておこう。明日の
    薪は、また明日採ってこよう。

    日記を詳細に記していたが、煩わしくなり怠
    るようになった。罪悪感に捕らわれず、良く
    も悪くも自分の心の向かうままに従おう、と
    いう気持の時に詠んだ歌です。

 注・・夕煙=夕飯を炊く煙。

作者・・橘曙覧=1812~1868。越前福井の紙商の長男。
     早く父母に死別し、家業を異母弟に譲り隠
     棲(いんせい)。本居宣長の高弟の田中大秀
     に入門。「独楽詠」、「信濃夫舎歌集」。


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2010年09月20日

名歌鑑賞・1238

百草の 花の盛りは あるらめど したくだしゆく 
我ぞともしき
               良寛(りょうかん)
                 (良寛歌集・・538)

(ももくさの はなのさかりは あるらめど したく
 だしゆく われぞともしき)

意味・・沢山の草には、それぞれ花の盛りがある
    ようだが、次第に衰えていく私の身には
    まことに恨めしいことだ。

 注・・したくだし=次第に衰える。
    ともしき=うらめしい。

作者・・良寛=1758~1831。

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2010年09月19日

名歌鑑賞・1237

ほどもなく 夏の涼しく なりぬるは 人に知られで
秋や来ぬらん
           藤原頼宗(ふじわらよりむね)
             (後拾遺和歌集・229)
(ほどもなく なつのすずしく なりぬるは ひとに
 しられで あきやきぬらん)

意味・・待つほどもなく、いつのまにか夏が涼しく
    なってしまったのは、人に知られないで秋
    がこっそり来たからなのだろうか。

 注・・ほどもなく=程も無く。間もなく。涼しく
     なる秋を待つ間もなく。

作者・・藤原頼宗=993~1065。道長の次男。従一位
     右大臣。堀河右大臣とよばれた。

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2010年09月18日

名歌鑑賞・1236

松風の琴の唱歌や蝉のこえ
              野々口立圃(ののぐちりゅうほ)
                (そらつぶて)

(まつかぜの ことのしょうかや せみのこえ)

意味・・松吹く風は琴をかなでるように聞こえ、
    おりからの蝉の声は、それに合わせて
    うたう唱歌のようである。

 注・・唱歌=楽器に合わせて歌をうたう。

作者・・野々口立圃=1595~1669。雛人形の細工
     を業とする。源氏物語に詳しく「十帖
     源氏」を著す。他に句集「はなひ草」
     「そらつぶて」。

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2010年09月17日

名歌鑑賞・1235

秋の野の くさむらごとに をく露は 夜なく虫の
なみだなるべし
             曾禰好忠(そねのよしただ)
               (詞花和歌集・118)

(あきののの くさむらごとに おくつゆは よるなく
 むしの なみだなるべし)

意味・・秋の野のどの草むらにも置いている露は、夜
    ないた虫の涙に違いない。

    虫の鳴き声を悲しみの泣き声と聞き、露はその
    涙だと考えたもの。

 注・・なく=「鳴く」と「泣く」の掛詞。

作者・・曾禰好忠=生没年未詳。十世紀後半の人。中古
     三十六歌仙の一人。



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2010年09月16日

名歌鑑賞・1234

咲きにけり くちなし色の 女郎花 言わねどしるし 
秋のけしきは
             源縁法師(げんえんほうし)
               (金葉和歌集・169)

(さきにけり くちなしいろの おみなえし いわねど
 しるし あきのけしきは)

意味・・咲いたことだ。くちなし色の女郎花の花が。口に
    出して言わないけれど、はっきりしてきたものだ。
    秋の気配が。

 注・・くちなし色=赤味がかった濃い黄色。「口無し」
    の意を掛ける。
    しるし=知るし。わかる、感じる。

作者・・源縁法師=生没年未詳。比叡山の僧。
 

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2010年09月15日

名歌鑑賞・1233

月にこそ むかしの事は おぼえけれ 我をわするる
人にみせばや
            中原長国(なかはらのながくに)
              (詞花和歌集・305)
(つきにこそ むかしのことは おぼえけれ われを
 わするる ひとにみせばや)

意味・・月によってこそ昔の事は思い出されてくる
    ものなのだなあ。私を忘れている人に見せ
    たいものだ。

    昔、月を一緒に見た友とは今は途絶えている
    が、月を見れば当時の様子が思い出される。
    友も月を見たら私を思い出して欲しいという
    気持です。

 注・・おぼえけれ=覚えけれ。思い浮かばれる。

作者・・中原長国=~1054。肥前守・従四位。


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2010年09月14日

名歌鑑賞・1232

年を経て 世の憂きことの まさるかな 昔はかくも
思はざりしを
             藤原良基(ふじわらのよしもと)
               (詠百歌・88)

(としをへて よのうきことの まさるかな むかしは
 かくも おもわざりしを)

意味・・年を経るにつけて世の中のつらいことがまさる
    ことだ。昔はこうも思わなかったのだが。

    青年期と壮年期とを比較して力の弱ったことを
    述懐した歌です。

 注・・憂き=つらいこと、せつないこと。

作者・・藤原良基=1320~1388。南朝と北朝の対立の時
     後醍醐天皇の信任を受け北朝の摂関職になる。


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2010年09月13日

名歌鑑賞・1231

今来むと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を
待ち出でつるかな
            素性法師(そせいほうし)
             (古今集・・691、百人一首・21)

(いまこんと いいしばかりに ながつきの ありあけの
 つきを まちいでつるかな)

意味・・今夜暗くなったらすぐに行くよと、あなたが
    言われたばかりに、私は9月の長い夜を待ち
    続けているうちに、待ち人はついに来なくて
    出るのが遅い月のほうが空に現れてしまいま
    した。

    作者は男であるが女の立場に立って詠んだ歌
    です。男が「今来む」と言って来たので、女
    は今か今かと待ち続けて、明け方になって有
    明の月が出てしまったと、裏切られ待ちくた
    びれた寂しい女の気持です。

 注・・今=今すぐに。
    長月=陰暦9月。
    有明の月=16日以降の、夜明け方になって
     も空に残っている月。

作者・・素性法師=生没年未詳。898年頃活躍した人。





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2010年09月12日

名歌鑑賞・1230

涙やは 又もあふべき つまならん 泣くよりほかの 
なくさめぞなき
           藤原道雅(ふじわらのみちまさ)
             (後拾遺和歌集・742)

(なみだやは またもあうべき つまならん なくより
 ほかの なぐさめぞなき)

意味・・涙というものは再び逢えるきっかけになる
    ものだろうか、いやそうではない、なのに
    泣けば心が慰められる。今はもう泣くこと
    以外の慰めはないことだ。

 注・・やは=反語の係助詞。・・だろうか、いや
     ・・ではない。
    つま=端。端緒、手がかり、きっかけ。

作者・・藤原道雅=993~1054。左京大夫・従三位。

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2010年09月11日

名歌鑑賞・1229

ながむれば 千々にもの思ふ 月にまた わが身ひとつの
峰の松風
              鴨長明(かものちょうめい)
                (新古今集・397)

(ながむれば ちぢにものおもう つきにまた わがみ
 ひとつのみねのまつかぜ)

意味・・しみじみと見入っていると、さまざまな物思い
    をさせる月に加えて、さらにまた、一人住まい
    の私の身だけに吹いて、物思いをいっそう深く
    させる松風だ。

    山の庵に一人住む身のものとして詠んだ歌です。
    次の本歌を念頭に詠んでいます。

   「月見れば千々にものこそ悲しけれ我が身ひとつの
    秋にはあらねど」  (意味は下記参照)

 注・・ながむれば=ぼんやりと思いふけると、しみじみ
     と見入っていると。
    千々に=さまざまに。
    わが身ひとつの=私の身にだけ吹いて、物思いを
     いっそう深くさせる、の意。

作者・・鴨長明=~1216。62歳。従五位。1204年出家する。
     「方丈記」の作者。

本歌です。

月見れば 千々にものこそ 悲しけれ わが身一つの
秋にはあらねど
             大江千里(おおえのちさと)
              (古今集・193、百人一首・23)

(つきみれば ちぢにものこそ かなしけれ わがみ
 ひとつの あきにはあらねど) 

意味・・月を見ると、私の想いは、あれこれと限りなく物悲
    しくなる。私一人だけの秋ではないのだけれど。
    
    秋の月を見て悲しく感じるのは、誰でも同じであろ
    うけれども、自分だけがその悲しみを味わっている
    ように思われる。

注・・ちぢに=千々に、さまざまに、際限なくの意。
    もの=自分を取りまいているさまざまな物事。


    


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2010年09月10日

名歌鑑賞・1228

伏見山 松の陰より 見わたせば 明くる田の面に
秋風ぞ吹く
            藤原俊成(ふじわらのとしなり)
              (新古今和歌集・291)

(ふしみやま まつのかげより みわたせば あくる
 たのもに あきかぜぞふく)

意味・・伏見山の木陰から見渡すと、夜の明ける田の
    面に、秋風が吹いている。

    夜のほのぼのと明け行く一面の稲田の稲をさ
    わやかになびかせて吹く秋風の情景を詠んで
    います。

 注・・伏見=京都市伏見区。「伏」に「臥し」を掛
     ける。
    明くる=夜が明ける。

作者・・藤原俊成=~1104。91歳。非参議正三位皇太
     后宮大夫。「千載集和歌集」の撰者。

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2010年09月09日

名歌鑑賞・1227

風の音の 身にしむばかり 聞ゆるは 我が身に秋や
ちかくなるらん           
                読人知らず
                 (後拾遺和歌集・708)

(かぜのおとの みにしむばかり きこゆるは わがみに
 あきや ちかくなるらん)

意味・・風の音が身にしむほど冷たく悲しく聞えるのは、
    季節の秋とともに、私の身にあの人の「飽き」
    が近づいてきたからなのだろうか。

    男女の仲が疎遠になった頃詠んだ歌です。

 注・・我が身に秋=「季節の秋」と「あの人の飽き」
     を掛ける。

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2010年09月08日

名歌鑑賞・1226

夏はつる 扇と秋の 白露と いづれかまづは 
置かむとすらん
            壬生忠岑(みぶのただみね)
              (新古今集・169)

(なつはつる おうぎとあきの しらつゆと いずれか
 まずは おかんとするらん)

意味・・夏には手から放さずに持っていた扇も、夏が
    終わって手放すのと、秋の白露が葉末に置く
    のと、どちらが先なのだろうか。

 はつる=果つる。果てる、終わる。
 置く=いらなくなった扇子を手放す意と、白露が
  草木に置くとを掛ける。

作者・・壬生忠岑=生没年未詳。「古今集」の撰者。
     三十六歌仙の一人。

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2010年09月07日

名歌鑑賞・1225

逢坂の 関の清水に 影見えて 今やひくらむ
望月の駒  
               紀貫之(きのつらゆき)
                 (拾遺和歌集・170)

(おうさかの せきのしみずに かげみえて いまや
 ひくらん もちづきのこま)

意味・・逢坂の関のあたりの泉の水に秋の明月の光が
    射していて、その澄んだ水に姿を映しながら
    今引かれていることだろうか。あの望月の牧
    の馬よ。

    駒迎えの屏風の絵に添えられた歌です。駒迎
    えは陰暦の8月23日に行われた。

 注・・逢坂の関=京から大津へ出る逢坂越えにある
     関所。
    望月の駒=長野県佐久郡にある放牧場の馬。
     ここの貢馬の駒迎えは8月23日。
    駒迎え=東国から朝廷への貢馬を逢坂の関で
     出迎える年中行事。

作者・・紀貫之=866~945。「古今集」の中心的な撰者。
     「土佐日記」の作者。

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2010年09月06日

名歌鑑賞・1224

松かげの 岩井の水を むすびつつ 夏なき年と
おもひけるかな 
              恵慶法師(えぎょうほうし)
                (拾遺集)

(まつかげの いわいのみずを むすびつつ なつなき
 としと おもいけるかな)

意味・・松の木かげに湧く岩井の清水を掬い上げすくい
    あげするたびに、あまりの冷たさに今年は夏の
    ない年かなと思う。

 注・・岩井の水=岩石を井筒に囲み湧出する泉の井戸。

作者・・恵慶法師=生没年未詳。992年頃活躍した人。中
     古三十六歌仙の一人。家集に「恵慶法師集」

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2010年09月05日

名歌鑑賞・1223

夕月夜 心もしのに 白露の 置くこの庭に
こほろぎ鳴くも 
             湯原王(ゆはらのおおきみ)
               (万葉集・1552)

(ゆうづくよ こころもしのに しらつゆの おくこの
 にわに こおろぎなくも)

意味・・月の出ている夕暮れ、心がしんみりするほどに、
    白露のおりているこの庭で、秋の虫が鳴いてい
    るなあ。

 注・・しのに=しみじみと、しんみりと。
    こほろぎ=当時は今のコオロギ・松虫・鈴虫・
     キリギリスなど秋に鳴く虫を総称した。

作者・・湯原王=生没年未詳。奈良時代の人。志貴皇子
     の子。

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2010年09月04日

名歌鑑賞・1222

秋来ぬと目にさや豆のふとりかな

             大伴大江丸(おおともおおえまる)
               (はいかい袋)

(あききぬと めにさやまめの ふとりかな)

意味・・初秋とはいえ、日差しは厳しく風も吹かない。
    夏と同じだ。道端の畑を見ると、さや豆が大き
    くふくらんでいる。ああ、やっぱり秋は来てい
    るのだ。さや豆のふとりかたに、さやかに(はっ
    きりと)秋は感じられる。

    藤原敏行の次の歌を踏まえた句です。

   「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ
    おどろかれぬる」  (意味は下記参照)

 注・・目にさや豆=「目にさやかに」と「さや豆」の
     掛詞。

作者・・大伴大江丸=1722~1805。居住地の大伴の浦から
     大伴大江丸と号する。飛脚問屋を業とする。
     句文集に「俳懺悔」「はいかい袋」など。

参考歌です。

秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ
おどろかれぬる
            藤原敏行(ふじわらのとしゆき)
              (古今集・169)

(あききぬと めにはさやかに みえねども かぜの
 おとにぞ おどろかれぬる)

意味・・秋が来たと目にははっきり見えないけれど、
    風の音にその訪れを気ずかされることだ。

    見た目には夏と全く変化のない光景ながら、
    確実に気配は秋になっていると鋭敏な感覚
    でとらえている。とくに朝夕の風にそれが
    いち早く感じられるが、歌の調べも、その
    秋風を聞いているような感じです。



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2010年09月03日

名歌鑑賞・1221

あしびきの 山下水に 影見れば 眉白妙に
われ老いにけり 
              能因法師(のういんほうし)
                (新古今集・1708)

(あしびきの やましたみずに かげみれば まゆ
 しろたえに われおいにけり)

意味・・山の麓を流れる水に映っている影を見ると、
    私は、眉が真っ白になって、老いてしまって
    いることだ。

    仏道修行に専念していて、山下水に映った
    自分の姿で、深まった老いにふと気づき、
    愕然とした気持を詠んでいます。

 注・・あしびき=山の枕詞。
    山下水=山の麓を流れる水。
    影=映っている自分の姿。

作者・・能因法師=生没年未詳。中古三十六歌仙の
     一人。

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2010年09月02日

名歌鑑賞・1220

形見こそ 今はあたなれ これ無くは 忘るる時も
あらましものを           読人知らず
                   (古今集・746)

(かたみこそ いまはあたなれ これなくは わするる
 ときも あらましものを)

意味・・あの人の形見こそ今は私を苦しめる敵になって
    しまった。これが無かったら忘れる時もあろう
    ものを。

 注・・形見=過去の思い出となるもの。死んだ人や別
     れた人の思い出になるもの。
    あた=敵、自分を苦しめるもの。



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2010年09月01日

名歌鑑賞・1219

いまぞ知る 人をも身をも 恨めしは 我がをろかなる
心なりけり 
             藤原良基(ふしわらのよしもと)
               (詠百首和歌・96)

(いまぞしる ひとをもみをも うらめしは わが
 おろかなる こころなりけり)

意味・・今となって初めて理解できたよ。他人をそして
    自分を恨んだりしたのは、私の愚かな心のなせ
    ることだったと。

    利己的利害にとらわれて、種々の軋轢(あつれき)
    を生じていた頃を述壊しての作と思われます。

作者・・藤原良基=1320~1388。南朝と北朝の対立が激し
     い時代の北朝の摂関職にあった。

sakuramitih31 at 08:29|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句