2011年03月

2011年03月31日

名歌鑑賞・1428

昔見し 妹がかきねは 荒れにけり つばなまじりの
菫のみして
             吉田兼好(よしだけんこう)
             (徒然草・26)

(むかしみし いもがかきねは あれにけり つばな
 まじりの すみれのみして)

意味・・以前の愛人の門に来て見たが垣根の面目は
    一変し、荒涼として茅花の茂る間に可憐な
    菫の花が少しばかり見えているばかりであ
    った。あの人の心のうちは、いま果たして
    どんなであろうか。

    哀れをさそう風情を詠んでいます。

    徒然草26段です。
    風に吹かれるまでもなく変りうつろうのが
    人の心であるから、親睦した当時を思い出
    してみると、身に沁みて聞いた一言一句も
    忘れもせぬのに、自分の生活にかかわりも
    ない人のようになってしまう恋の一般性を
    考えると、死別にもまさる悲しみである。
    それゆえ、白い糸が染められるのを見て悲
    しみ、道の小路が分かれるのを嘆く人もあ
    っのではあろう。

 注・・つばな=茅花。ちがやの花、ちがや。

作者・・吉田兼好=1283頃の生まれ。70歳。和歌四
     天王。「徒然草」。




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2011年03月30日

名歌鑑賞・1427

初花の ひらけはじむる 梢より そばへて風の
わたるなりけり
            西行(さいぎょう)
            (山家集・148)

(はつはなの ひらけはじむる こずえより そばえて
 かぜの わたるなりけり)

意味・・桜の初花が開きはじめる梢から、もうすぐ散る
    ことを思わせる風が戯れるごとく吹きわたって
    いるよ。

 注・・そばへ=戯へ。たわむれる、風が軽やかに吹く。

作者・・西行=1118~1190。「山家集」。



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2011年03月29日

名歌鑑賞・1426

あしびきの 山田のそほづ おのれさへ 我を欲してふ
うれはしきこと
             読人知らず
             (古今和歌集・1027)

(あしびきの やまだのそほず おのれさえ われを
 ほしてふ うれはしきこと)

意味・・山田の案山子さん、お前までが私をお嫁さんに
    したいという。ほんとうに困ったことだ。

    山田の案山子は、みすぼらしい男を極端に馬鹿
    にした呼びかたであり、そのような男に求婚さ
    れた女が、身震いするような調子でたまらない
    といって詠んだ歌です。

 注・・あしびき=山の枕詞。
    山田のそほづ=山田の案山子。ここでは相手の
     男を軽蔑していったもの。
    おのれさえ=お前までが。「さえ」は案山子以
     外からも求婚されている事を表す。
    我を欲してふ=私を妻に欲しいという。
    うれはし=憂はし。嘆かわしい。




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2011年03月28日

名歌鑑賞・1419~1425

(3月22日)名歌鑑賞・1419

たのめつつ 逢はで年経る 偽りに 懲りぬ心を
人は知らなん
            藤原仲平(ふじわらのなかひら)
            (後撰和歌集・967)

(たのめつつ あわでとしふる いつわりに こりぬ
 こころを ひとはしらなん)

意味・・そのうちに逢いましょうと何度も期待をさせて
    逢いもしないで歳月を過ごすという偽りにも、
    懲りずにお慕いする私の心をあなたは知ってい
    ただきたいものです。

 注・・たのめつつ=頼りにさせる、期待させる。

作者・・藤原仲平=875~945。左大臣。

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(3月23日)名歌鑑賞・1420

老いぬれど 花みるほどの 心こそ むかしの春に
かはらざりけれ
             伴蒿蹊(ばんこうけい)
             (閑田詠草)

(おいぬれど はなみるほどの こころこそ むかしの
 はるに かわらざりけれ)

意味・・老いてしまったけれど、花を見る時の浮き立つ
    ような気持は、昔の若い頃の春と変りはしない
    なあ。

 注・・花みるほどの心=花を見る時の浮き立つような
    心の状態。

作者・・伴蒿蹊=1733~1806。商人の生まれ。36歳で隠居
     し文人となる。「閑田詠草」「近世畸人伝」。

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(3月24日)名歌鑑賞・1421

春くれば 散りにし花も さきにけり あはれ別れの
かからましかば
            具平親王(ともひらしんのう)
            (千載和歌集・545)

(はるくれば ちりにしはなも さきにけり あわれ
 わかれの かからましかば)

意味・・春が巡って来たので去年散った花も咲いたこと
    ですね。ああ、人との別れがこのようであった
    なら嘆くこともないでしょうに。

    桜狩に行った時に、昨年亡くなった人の話題と
    なり、詠んだ歌です。

 注・・あはれ=感動を表す語。ああ、なんとまあ。
    かからましかば=斯からましかば。もしこの
     ようであったならば。

作者・・具平親王=964~1009。。中務卿・正四位上。
     村上天皇弟7皇子

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(3月25日)名歌鑑賞・1422

稚ければ 道行き知らじ まひはせむ したへの使
負ひて通らせ
            山上憶良(やまのうえおくら)
            (万葉集・905)

(わかければ みちゆきしらじ まいはせん したえの
 つかい おいてとおらせ)

意味・・私のかわいいかわいい子は突然死にました。あの
    子はまだ幼い子供ですから、冥土へ行く道の行き
    方を知りますまい。冥土からお迎えに来られた
    お役人さんよ、私は貴方にどっさり贈り物をいた
    しますから、どうか脚の弱いあの子を負んぶして
    冥土へおつれ下さいませ。
    
    長歌の一部です。

    明星の輝く朝になると、寝床のあたりを離れず、
    立つにつけ座るにつけ、まつわりついてはしゃぎ
    まわり、夕星の出る夕方になると「さあ寝よう」
    と手にすがりつき、「父さんも母さんも離れない
    で真ん中に寝る」とかわいらしく言うので、早く
    一人前になってほしい・・。

    長歌では憶良がひたすらわが子の成長を楽しんで
    いる様子が描かれ、その後に急死した悲しさが詠
    まれています。

    人が死ぬと冥土から迎えの使いが来ると信じられ
    ていた時代の歌です。

 注・・まひ=幣。謝礼として神に捧げたり、人に贈る物。
    はせむ=馳せむ。急いで・・する。
    したへ=下方。死者の行く世界、黄泉の国。
    通らせ=「せ」は尊敬の語。

作者・・山上憶良=660~733。遣唐使として3年渡唐。
     筑前守。大伴旅人と親交。





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名歌鑑賞 1423~1425

(3月26日)名歌鑑賞・1423

うぐいすの 鳴くになみだの おつるかな またもや春に
あはむとすらん
         藤原教良母(ふじわらののりよしのはは)
         (詞花和歌集・358)

(うぐいすの なくになみだの おつるかな またもや
 はるに あわんとすらん)

詞書・・夫が亡くなった後の春、鶯の鳴くのを聞いて詠む。

意味・・鶯の鳴くのを聞いても涙が落ちることだ。生きて
    再び春に逢おうとしているのだろうか。

    夫を失って、生きてゆけそうもないほどの悲しみ
の中でも、時は過ぎ春がめぐって来る事の感慨を
    詠んでいます。

 注・・あはむとすらん=春まで生きていられようとは思
    っていなかったのに、との意を含む。

作者・・藤原教良母=子の教良は日向守・従五位上。夫は
     1141年11月没。

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(3月27日)名歌鑑賞・1424

散りぬれば のちはあくたに なる花を 思ひしらずも
まどふてふかな
             僧正遍照(そうじょうへんじょう)
             (古今和歌集・435)

(ちりぬれば のちはあくたに なるはなを おもいしらずも
 まどうちょうかな)

意味・・いくら美しいかろうが散ってしまえば汚いごみに
    なる花なのに、蝶はそれを少しも知らないで、美
    しさに惑わされてひらひら飛び戯れている。

    美しいものは全て一時的にすぎないという仏教的
    思想を詠んでいます。

 注・・あくた=芥。ごみ、かす。
    まどふ=惑ふ。飛びさまようの意と、心に迷いが
     あるとの意を掛ける。     
    てふ=蝶。

作者・・僧正遍照=816~890。僧正は僧の最高の位。六歌仙
     の一人。

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(3月28日)名歌鑑賞・1425

わりなしや 人こそ人と 言わざらめ みづから身をや
思ひ捨つべき
            紫式部(むらさきしきぶ)

(わりなしや ひとこそひとと いわざらめ みずから
 みをや おもいすつべき)

意味・・辛(つら)いことだ、皆で私を仲間はずれにして
    うてあってくれないのは。

    宮仕えをしていて、同僚の女房から「生意気だ、
    澄ましている」と陰口をされて詠んだ歌です。

 注・・わりなし=つらい。
    人こそ人と言はざらめ=人を人と認めない、仲
     間と認めない。「ざら」は打ち消しの「ず」
     の未然形。「め」は卑下する語。
    みづから=その人自身、当人。
    身=自分、我が身。
    思ひ捨つ=見捨てる、顧みない。
    女房(にょうぼう)=宮中で部屋を持っている高
     位の女官。
    うてあわない=相手にしない。九州博多方面の
     方言。

作者・・紫式部=生没年未詳。973頃の生まれ。「源氏物
     語」。




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2011年03月21日

名歌鑑賞・1418

かくしつつ 遊び飲みこそ 草木すら 春は生ひつつ
秋は散りゆく
             坂上女郎(さかのうえいらつめ)
             (万葉集・995)

(かくしつつ あそびのみこそ くさきすら はるは
 おいつつ あきはちりゆく)

意味・・今宵はこうして楽しく遊んだり飲んだりして
    下さい。草や木でさえ、春には生い茂りなが
    ら秋にはもう散ってゆくのです。

    草木を例として人生の短さを述べ、生きてい
    る間は楽しく遊び飲もうという享楽的な心を
    歌っています。

作者・・坂上女郎=生没年未詳。大伴旅人の異母妹。




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2011年03月20日

名歌鑑賞・1417

わが恋は 吉野の山の おくなれや 思ひいれども
あふ人なし
          藤原顕季(ふじわらのあきすえ)
          (詞花和歌集・212)

(わがこいは よしののやまの おくなれや おもい
 いれども あうひとなし)

意味・・私の恋は吉野の山の奥のようなものだからで
    あろうか、吉野の山奥に入っても人に出会わ
    ないように、私もいくら深く愛しても逢い契
    ろうとする人はいない。

 注・・なれや=・・だからであろうか。
    あふ=会ふ、逢う。「会う・人と出会う」と
     「逢う・結婚するの意」を掛ける。

作者・・藤原顕季=1055~1123。修理大夫・正三位。





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2011年03月19日

名歌鑑賞・1416

百千鳥 さえづる空は 変らねど 我が身の春は 
改まりつつ
              後鳥羽院(ごとばいん)
              (遠島御百首・4)

(ももちどり さえずるそらは かわらねど わがみの
 はるは あらたまりつつ)

意味・・いろいろな小鳥がさえずる空はなんの変りもないが、
    我が身に訪れる春は、今までと大きく相違していて
    寂しいものだ。

    承久の乱(1221)によって隠岐(おき)に配流されて詠
    んだ歌であり、帰京を待ち望む孤独な心情です。

 注・・百千鳥=多くの鳥。
    改まり=新しく変る。

作者・・後鳥羽院=1180~1239。82代天皇。承久の乱で鎌倉
     幕府の北条義時に敗れ隠岐に流される。




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2011年03月18日

名歌鑑賞・1415

むらぎもの 心楽しも 春の日に 鳥の群れつつ
遊ぶを見れば
           良寛(りょうかん)
           (良寛歌集・722)

(むらぎもの こころたのしも はるのひに とりの
 むれつつ あそぶをみれば)

意味・・私の心は満ち足りて楽しくなって来る。この
    のどかな春の日に、小鳥たちが群がりながら
    遊んでいるのを見ていると。

 注・・むらぎも=「心」の枕詞。

作者・・良寛=1758~1831。


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2011年03月17日

名歌鑑賞・1414

春なれや 名もなき山の 薄霞
                  芭蕉(ばしょう)
                  (野ざらし紀行)

(はるなれや なもなきやまの うすがすみ)

意味・・さすがにもう春だなあ。名も無い山々にまで、
    薄霞がかかって、まことに明るい景色だ。


作者・・芭蕉=1644~1694。「野ざらし紀行」「奥の細道」。




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2011年03月16日

名歌鑑賞・1413

宮城野の 露吹き結ぶ 風の音に 小萩がもとを 
思ひこそやれ
           源氏物語・桐壺
           (風葉和歌集・233)

(みやぎのの つゆふきむすぶ かぜのねに こはぎが
 もとを おもいこそやれ)

意味・・宮城野を吹いて露を結ばせる風の音を聞くと、
    小萩の根元を思いやられることだ。
    宮中を吹いて涙の露を私に結ばせる風の音に、
    我が子を亡くした桐壺更衣の実家が思いやら
    れることだ。    

    桐壺の更衣は帝の寵愛を独り占めにしていた。
    その為に他の更衣からの嫉妬を受け、病気に
    なり亡くなった。帝も悲しみ、桐壺の更衣の
    母のもとに贈った歌です。

 注・・宮城野=宮城県仙台市の東方の野。宮中も
     意味している。
    子萩=「小」に「子」を掛ける。幼子。
    更衣=宮廷の高位の女官。



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2011年03月15日

名歌鑑賞・1412

陸奥の 真野の萱原 遠けども 面影にして 
見ゆといふものを
            笠女郎(かさのいらつめ)
            (万葉集・396)

(みちのくの まののかやはら とおけども おもかげ
 にして みゆというものを)

意味・・奥州の真野の萱原はほんとうに遠い所だと話に
    聞いていますが、そんなに遠い萱原でも目の前
    にその姿が浮かぶということです。
    まして近くにおいでになるあなたを恋しく思わ
    ないわけにはゆきません。

    笠女郎が大伴家持に贈った歌で、近くにいる
    家持になぜ逢えないのかと諷した歌です。

 注・・陸奥=東北地方の総称。
    真野の萱原=歌枕。福島県相馬郡鹿島町真野川
     の流域。

作者・・笠女郎=生没年未詳。大伴家持と交渉のあった
     女性。  
    





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2011年03月14日

名歌鑑賞・1411

先立たぬ 悔いの八千度 悲しきは 流るる水の
かへり来ぬなり
            閑院(かんいん)
            (古今和歌集・837)

(さきだたぬ くいのやちたび かなしきは ながるる
 みずの かえりこぬなり)

意味・・先に立たない悔いを八千度繰り返しても悲しい
    のは、流れる水がもとに戻ってこないことです。

    親しい人が亡くなって弔問の時に詠んだ歌です。
    流れる水が元に帰らないように、人間があの世
    におもむくのは世の定めと詠んでいます。       

 注・・八千度=何千回も、「八」は数や量が多いこと。
    流れる水の帰り来ぬ=流水は再び帰らない、その
     ように死者も帰らない。

作者・・閑院=920年頃の女性。



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2011年03月13日

名歌鑑賞・1410

霞晴れ 緑の空も のどけくて あるかなきかに 
遊ぶ糸遊
           作者未詳(和漢朗詠集・415)

(かすみはれ みどりのそらも のどけくて あるか
 なきかに あそぶいとゆう)

意味・・春のうららかな日、霞があがり、緑の色に晴れた
    空は、淡い陽炎(かげろう)がゆらゆらしてのどか
    なものだ。    

 注・・糸遊(いとゆう)=陽炎(かげろう)。春のよく晴れた
     日、地上から水蒸気が立ち、物の形がゆらゆらと
     揺らいで見える現象。




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2011年03月12日

名歌鑑賞・1409

ももしきの 大宮人は いとまあれや 桜かざして
今日も暮らしつ
             山部赤人(やまべのあかひと)
             (新古今和歌集・104)

(ももしきの おおみやびとは いとまあれや さくら
 かざして きょうもくらしつ)

意味・・世の中は平和で、大宮人は暇があることだ。
    昨日も今日も一日中、桜の花を折りかざして
    遊び暮らしている。

 注・・ももしき=「大宮」の枕詞。
    大宮人=宮中に仕える人。
    あれや=あるのかなあ。「や」は詠嘆を表す。
    桜かざして=桜の花を髪や冠(かんむり)に挿し
     て飾った。

作者・・山部赤人=生没年未使用。奈良時代の歌人。




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2011年03月11日

名歌鑑賞・1408

窓ちかく 吾友とみる くれ竹に 色そへてなく
鶯のこえ
           後西天皇(ごさいてんのう)
           (万治御点・まんじおてん)

(まどちかく わがともとみる くれたけに いろそえて
 なく うぐいすのこえ)

意味・・窓近くに生えて、我が友として見ている呉竹の
    その色に、音色という色を添えて鶯が鳴いている。

 注・・くれ竹=呉竹。はちくの異名。直径3~10cm、
     高さ10~15m。

作者・・後西天皇=1637~1685。


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2011年03月10日

名歌鑑賞・1407

風ふけば 波のあやをる 池水に 糸ひきそふる 
岸の青柳
          源雅兼(みなもとのまさかね)
          (金葉和歌集・25)

(かぜふけば なみのあやおる いけみずに いとひき
 そうる きしのあおやぎ)

意味・・風が吹くと、綾織物のように波立っている池の
    水に、糸を引き加えるように吹き寄せられてい
    る岸辺の青柳だなあ。

 注・・あや=波の紋様、綾織物に見立てる。

作者・・源雅兼=1079~1143。権中納言。


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2011年03月09日

名歌鑑賞・1406

勅なれば 思ひな捨てそ 敷島の 道にものうき
心ありとも
          二条良基(にじょうのよしもと)
          (新続古今和歌集・1899)

(ちょくなれば おもいなすてそ しきしまの みちに
 ものうき こころありとも)

意味・・勅命であるので和歌の道を思い捨ててはいけない。
    たとえ和歌の道につらいことがあったとしても。

 注・・勅=天皇が下す命令。
    な・・そ=禁止の意を表す。
    敷島の道=和歌の道、歌道。

作者・・二条良基=1320~1388。関白右大臣。南北朝期
     の歌人。



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2011年03月08日

名歌鑑賞・1405

沖つ島 荒磯の玉藻 潮干満ち い隠り行かば 
思ほえむかも
          山部赤人(やまべのあかひと)
          (万葉集・919)

(おきつしま ありそのたまも しおひみち いかくり
 ゆかば おもほえんかも)

意味・・沖の島の荒磯に生えている玉藻刈りもしたが、
    今に潮が満ちてきて荒磯が隠れてしまうなら、
    心残りがして、玉藻を恋しく思うだろう。

    清らかな渚、風が吹くと白波が立ち騒ぐ美しい
    沖つ島。この沖つ島の玉藻に焦点を合せ、心残
    りを詠んでいます。

 注・・沖つ島=沖の島。
    荒磯(ありそ)=「あらいそ」の転で、岩のある
     海岸。
    玉藻=美しい藻。「玉」は美称の接頭語。
    潮干=潮の引いた所。
    い隠り行かば=(玉藻が水に)隠れ行ったならば。
     「い」は接頭語。
    思ほえんかも=(玉藻が)思われるであろうかなあ。
     「思ほえ」は「思はゆ」から転じた「思ほゆ」
     の未然形。「か」は疑問、「も」は詠嘆を表す
     係助詞。

作者・・山部赤人=生没年未詳。奈良時代の宮廷歌人。




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2011年03月07日

名歌鑑賞・1404

大魚つる 相模の海の 夕なぎに みだれていづる 
海士小舟かも
            賀茂真淵(かものまぶち)
            (賀茂翁家集)

(おおなつる さがみのうみの ゆうなぎに みだれて
 いずる あまおぶねかも)

意味・・夕凪時に大魚を釣る相模の海へ、漁夫の小舟が
    乱れ漕ぎ出ている。

    実景の面白さを見たまま詠んだものです。

 注・・大魚(おおな)=魚、肴(さかな)。魚・野菜など
     副食物を「な」といった。「大」は意味が無
     く、下句の「小舟」に対させたもの。
    夕なぎ=夕凪。夕方の無風状態。漁に適している。
    海士(あま)=海人。漁夫。

作者・・賀茂真淵=1697~1769。本居宣長をはじめ多くの
     門人を育成。「賀茂翁家集」。
    



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2011年03月06日

名歌鑑賞・1403

ひとりして 世をし尽くさば 高砂の 松のときはも
かひなかりけり
             紀貫之(きのつらゆき)
             (拾遺和歌集・1271)

(ひとりして よをしつくさば たかさごの まつの
 ときわも かいなかりけり)

意味・・ただ一人で生き長らえ、寿命を全うしたと
    しても、常緑で朽ちることのない高砂の松
    のように、無為孤独でさびしくてたまらず、
    なんの生き甲斐もないことだ。

   老後の余生の不安を詠んでいます。

 注・・世をし=「し」は上接する語を強調。「世」
     は人生・寿命の意。
    高砂=播磨(兵庫県)の歌枕。松はその景物
     で老後の無為孤独の表象。
    かひ=甲斐。値打ち、価値。    

作者・・紀貫之=872頃~945頃。土佐守・従五位上。
    古今集の撰者。「土佐日記」。




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2011年03月05日

名歌鑑賞・1402

春や疾き 花や遅きと 聞き分かん うぐひすだにも
鳴かずもあるかな
           藤原言直(ふじわらのことなお)
           (古今和歌集・10)

(はるやとき はなやおそきと ききわかん うぐいす
 だにも なかずもあるかな)

意味・・春が来たのに一向に春らしくないのは、春の
    来かたが早すぎたのか、花の咲くのが遅いの
    かと、聞いて判断しょうにも、その相手の鶯
    までも鳴きもしない。

 注・・聞き分かん=聞き分ける、聞いて判断する。
    鳴かずもあるかな=「も」は強調の語。現在
     も「鳴かない」→「鳴きもしない」の言い
     方がある。

作者・・藤原言直=生没年未詳。




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2011年03月04日

名歌鑑賞・1401

吹きのぼる 尾の上の松に 浪ぞこす 梅さく谷の
春の川風
             正徹(しょうてつ)
             (正徹詠草・44)

(ふきのぼる おのへのまつに なみぞこす うめさく
 たにの はるのかわかぜ)

意味・・梅の咲く谷間から春の川風が、白い花びらを
    吹き上げているが、それはまるで峰の松を浪
    が越えているようだ。

    参考歌です。
    「君おきてあだし心をわがもたば末の松山
    波も越えなむ」 (意味は下記参照)

 注・・尾の上=山の頂。
    浪=白い梅の花を比喩。

作者・・正徹=1381~1459。字は清岩。室町中期の
     歌僧。「草根集」「正徹物語」。

参考の歌です。

君をおきて あだし心を わがもたば 末の松山 
波も越えなむ
            読人知らず
            (古今和歌集・1093)

(きみをおきて あだしごころを わがもたば すえの
 まつやま なみもこえなん)

意味・・あなたをさしおいて、ほかの人に心を移すなんて
    ことがあろうはずはありません。そんなことがあ
    れば、あの海岸に聳(そび)える末の松山を波が越
    えてしまうでしょう。

    心の変わらないことを誓った歌です。

 注・・あだし心=浮気心、うわついた心。
    末の松山=宮城県の海辺にあるという山。




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2011年03月03日

名歌鑑賞・1400

花に染む 心のいかで 残りけん 捨て果ててきと 
思ふわが身に
             西行(さいぎょう)
             (山家集・76)

(はなにそむ こころのいかで のこりけん すてはて
 てきと おもうわがみに)

意味・・この俗世間をすっかり捨て切ってしまったと思う
    我が身に、どうして桜の花に執着する心が残って
    いたことであろうか。

    物欲や名誉をすべて捨てて、悩みや束縛から抜け
    出て安らかな心境にある自分だと思うのに、花に
    深く心を動かされるのはどうしてだろうか。

    花の美しさに感動するだけでなく、人と供に喜び
    人と供に泣くという人の心は失わず、感動する心
    は捨てていないという境地を詠んでいます。

 注・・染む=心に深く感じること。
    てき=・・してしまった。完了の助動詞「つ」の
     連体形+過去の助動詞「き」。

作者・・西行=1118~1190。俗名佐藤義清。下北面武士として
     鳥羽院に仕える。23歳で出家。高野山で仏者として
     修行。家集は「山家集」。



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2011年03月02日

名歌鑑賞・1399

梅遠近 南すべく 北すべく
               蕪村(ぶそん)
               (蕪村句集・111)

(うめおちこち みんなみすべく きたすべく)

意味・・梅の開花の知らせが近隣からも遠方からも
    届いた。さて南の梅を見に行こうか、それ
    とも北へ行こうか。忙しい春になったぞ。

 注・・遠近(おちこち)=遠い所近い所、あちこち。

作者・・蕪村=1716~1783。与謝蕪村。南宗画の大家。

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2011年03月01日

名歌鑑賞・1398

雲居まで 生ひのぼらなむ 種まきし 人も尋ねぬ 
峰の若松
            狭衣物語(さごろもものがたり)
            (物語二百番歌合・138)

(くもいまで おいのぼらなん たねまきし ひとも
 たずねぬ みねのわかまつ)

詞書・・生まれ給うへるみこを見給ひて。

意味・・大空まで成長して届いてほしい。(帝位にまで
    昇ってほしい)。種を蒔いた人(実の父親・狭衣)
    も尋ねてくれない峰の松ではあるが。

 注・・みこ=皇子。
    雲居=宮中、空。
    狭衣物語=堀川関白の一人息子・狭衣と五人の
     女君たちが織りなす恋愛物語。平安時代の作。



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