2011年03月
2011年03月31日
名歌鑑賞・1428
昔見し 妹がかきねは 荒れにけり つばなまじりの
菫のみして
吉田兼好(よしだけんこう)
(徒然草・26)
(むかしみし いもがかきねは あれにけり つばな
まじりの すみれのみして)
意味・・以前の愛人の門に来て見たが垣根の面目は
一変し、荒涼として茅花の茂る間に可憐な
菫の花が少しばかり見えているばかりであ
った。あの人の心のうちは、いま果たして
どんなであろうか。
哀れをさそう風情を詠んでいます。
徒然草26段です。
風に吹かれるまでもなく変りうつろうのが
人の心であるから、親睦した当時を思い出
してみると、身に沁みて聞いた一言一句も
忘れもせぬのに、自分の生活にかかわりも
ない人のようになってしまう恋の一般性を
考えると、死別にもまさる悲しみである。
それゆえ、白い糸が染められるのを見て悲
しみ、道の小路が分かれるのを嘆く人もあ
っのではあろう。
注・・つばな=茅花。ちがやの花、ちがや。
作者・・吉田兼好=1283頃の生まれ。70歳。和歌四
天王。「徒然草」。
菫のみして
吉田兼好(よしだけんこう)
(徒然草・26)
(むかしみし いもがかきねは あれにけり つばな
まじりの すみれのみして)
意味・・以前の愛人の門に来て見たが垣根の面目は
一変し、荒涼として茅花の茂る間に可憐な
菫の花が少しばかり見えているばかりであ
った。あの人の心のうちは、いま果たして
どんなであろうか。
哀れをさそう風情を詠んでいます。
徒然草26段です。
風に吹かれるまでもなく変りうつろうのが
人の心であるから、親睦した当時を思い出
してみると、身に沁みて聞いた一言一句も
忘れもせぬのに、自分の生活にかかわりも
ない人のようになってしまう恋の一般性を
考えると、死別にもまさる悲しみである。
それゆえ、白い糸が染められるのを見て悲
しみ、道の小路が分かれるのを嘆く人もあ
っのではあろう。
注・・つばな=茅花。ちがやの花、ちがや。
作者・・吉田兼好=1283頃の生まれ。70歳。和歌四
天王。「徒然草」。
2011年03月30日
2011年03月29日
名歌鑑賞・1426
あしびきの 山田のそほづ おのれさへ 我を欲してふ
うれはしきこと
読人知らず
(古今和歌集・1027)
(あしびきの やまだのそほず おのれさえ われを
ほしてふ うれはしきこと)
意味・・山田の案山子さん、お前までが私をお嫁さんに
したいという。ほんとうに困ったことだ。
山田の案山子は、みすぼらしい男を極端に馬鹿
にした呼びかたであり、そのような男に求婚さ
れた女が、身震いするような調子でたまらない
といって詠んだ歌です。
注・・あしびき=山の枕詞。
山田のそほづ=山田の案山子。ここでは相手の
男を軽蔑していったもの。
おのれさえ=お前までが。「さえ」は案山子以
外からも求婚されている事を表す。
我を欲してふ=私を妻に欲しいという。
うれはし=憂はし。嘆かわしい。
うれはしきこと
読人知らず
(古今和歌集・1027)
(あしびきの やまだのそほず おのれさえ われを
ほしてふ うれはしきこと)
意味・・山田の案山子さん、お前までが私をお嫁さんに
したいという。ほんとうに困ったことだ。
山田の案山子は、みすぼらしい男を極端に馬鹿
にした呼びかたであり、そのような男に求婚さ
れた女が、身震いするような調子でたまらない
といって詠んだ歌です。
注・・あしびき=山の枕詞。
山田のそほづ=山田の案山子。ここでは相手の
男を軽蔑していったもの。
おのれさえ=お前までが。「さえ」は案山子以
外からも求婚されている事を表す。
我を欲してふ=私を妻に欲しいという。
うれはし=憂はし。嘆かわしい。
2011年03月28日
名歌鑑賞・1419~1425
(3月22日)名歌鑑賞・1419
たのめつつ 逢はで年経る 偽りに 懲りぬ心を
人は知らなん
藤原仲平(ふじわらのなかひら)
(後撰和歌集・967)
(たのめつつ あわでとしふる いつわりに こりぬ
こころを ひとはしらなん)
意味・・そのうちに逢いましょうと何度も期待をさせて
逢いもしないで歳月を過ごすという偽りにも、
懲りずにお慕いする私の心をあなたは知ってい
ただきたいものです。
注・・たのめつつ=頼りにさせる、期待させる。
作者・・藤原仲平=875~945。左大臣。
-------------------------------------------
(3月23日)名歌鑑賞・1420
老いぬれど 花みるほどの 心こそ むかしの春に
かはらざりけれ
伴蒿蹊(ばんこうけい)
(閑田詠草)
(おいぬれど はなみるほどの こころこそ むかしの
はるに かわらざりけれ)
意味・・老いてしまったけれど、花を見る時の浮き立つ
ような気持は、昔の若い頃の春と変りはしない
なあ。
注・・花みるほどの心=花を見る時の浮き立つような
心の状態。
作者・・伴蒿蹊=1733~1806。商人の生まれ。36歳で隠居
し文人となる。「閑田詠草」「近世畸人伝」。
----------------------------------------
(3月24日)名歌鑑賞・1421
春くれば 散りにし花も さきにけり あはれ別れの
かからましかば
具平親王(ともひらしんのう)
(千載和歌集・545)
(はるくれば ちりにしはなも さきにけり あわれ
わかれの かからましかば)
意味・・春が巡って来たので去年散った花も咲いたこと
ですね。ああ、人との別れがこのようであった
なら嘆くこともないでしょうに。
桜狩に行った時に、昨年亡くなった人の話題と
なり、詠んだ歌です。
注・・あはれ=感動を表す語。ああ、なんとまあ。
かからましかば=斯からましかば。もしこの
ようであったならば。
作者・・具平親王=964~1009。。中務卿・正四位上。
村上天皇弟7皇子
-------------------------------------------
(3月25日)名歌鑑賞・1422
稚ければ 道行き知らじ まひはせむ したへの使
負ひて通らせ
山上憶良(やまのうえおくら)
(万葉集・905)
(わかければ みちゆきしらじ まいはせん したえの
つかい おいてとおらせ)
意味・・私のかわいいかわいい子は突然死にました。あの
子はまだ幼い子供ですから、冥土へ行く道の行き
方を知りますまい。冥土からお迎えに来られた
お役人さんよ、私は貴方にどっさり贈り物をいた
しますから、どうか脚の弱いあの子を負んぶして
冥土へおつれ下さいませ。
長歌の一部です。
明星の輝く朝になると、寝床のあたりを離れず、
立つにつけ座るにつけ、まつわりついてはしゃぎ
まわり、夕星の出る夕方になると「さあ寝よう」
と手にすがりつき、「父さんも母さんも離れない
で真ん中に寝る」とかわいらしく言うので、早く
一人前になってほしい・・。
長歌では憶良がひたすらわが子の成長を楽しんで
いる様子が描かれ、その後に急死した悲しさが詠
まれています。
人が死ぬと冥土から迎えの使いが来ると信じられ
ていた時代の歌です。
注・・まひ=幣。謝礼として神に捧げたり、人に贈る物。
はせむ=馳せむ。急いで・・する。
したへ=下方。死者の行く世界、黄泉の国。
通らせ=「せ」は尊敬の語。
作者・・山上憶良=660~733。遣唐使として3年渡唐。
筑前守。大伴旅人と親交。
たのめつつ 逢はで年経る 偽りに 懲りぬ心を
人は知らなん
藤原仲平(ふじわらのなかひら)
(後撰和歌集・967)
(たのめつつ あわでとしふる いつわりに こりぬ
こころを ひとはしらなん)
意味・・そのうちに逢いましょうと何度も期待をさせて
逢いもしないで歳月を過ごすという偽りにも、
懲りずにお慕いする私の心をあなたは知ってい
ただきたいものです。
注・・たのめつつ=頼りにさせる、期待させる。
作者・・藤原仲平=875~945。左大臣。
-------------------------------------------
(3月23日)名歌鑑賞・1420
老いぬれど 花みるほどの 心こそ むかしの春に
かはらざりけれ
伴蒿蹊(ばんこうけい)
(閑田詠草)
(おいぬれど はなみるほどの こころこそ むかしの
はるに かわらざりけれ)
意味・・老いてしまったけれど、花を見る時の浮き立つ
ような気持は、昔の若い頃の春と変りはしない
なあ。
注・・花みるほどの心=花を見る時の浮き立つような
心の状態。
作者・・伴蒿蹊=1733~1806。商人の生まれ。36歳で隠居
し文人となる。「閑田詠草」「近世畸人伝」。
----------------------------------------
(3月24日)名歌鑑賞・1421
春くれば 散りにし花も さきにけり あはれ別れの
かからましかば
具平親王(ともひらしんのう)
(千載和歌集・545)
(はるくれば ちりにしはなも さきにけり あわれ
わかれの かからましかば)
意味・・春が巡って来たので去年散った花も咲いたこと
ですね。ああ、人との別れがこのようであった
なら嘆くこともないでしょうに。
桜狩に行った時に、昨年亡くなった人の話題と
なり、詠んだ歌です。
注・・あはれ=感動を表す語。ああ、なんとまあ。
かからましかば=斯からましかば。もしこの
ようであったならば。
作者・・具平親王=964~1009。。中務卿・正四位上。
村上天皇弟7皇子
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(3月25日)名歌鑑賞・1422
稚ければ 道行き知らじ まひはせむ したへの使
負ひて通らせ
山上憶良(やまのうえおくら)
(万葉集・905)
(わかければ みちゆきしらじ まいはせん したえの
つかい おいてとおらせ)
意味・・私のかわいいかわいい子は突然死にました。あの
子はまだ幼い子供ですから、冥土へ行く道の行き
方を知りますまい。冥土からお迎えに来られた
お役人さんよ、私は貴方にどっさり贈り物をいた
しますから、どうか脚の弱いあの子を負んぶして
冥土へおつれ下さいませ。
長歌の一部です。
明星の輝く朝になると、寝床のあたりを離れず、
立つにつけ座るにつけ、まつわりついてはしゃぎ
まわり、夕星の出る夕方になると「さあ寝よう」
と手にすがりつき、「父さんも母さんも離れない
で真ん中に寝る」とかわいらしく言うので、早く
一人前になってほしい・・。
長歌では憶良がひたすらわが子の成長を楽しんで
いる様子が描かれ、その後に急死した悲しさが詠
まれています。
人が死ぬと冥土から迎えの使いが来ると信じられ
ていた時代の歌です。
注・・まひ=幣。謝礼として神に捧げたり、人に贈る物。
はせむ=馳せむ。急いで・・する。
したへ=下方。死者の行く世界、黄泉の国。
通らせ=「せ」は尊敬の語。
作者・・山上憶良=660~733。遣唐使として3年渡唐。
筑前守。大伴旅人と親交。
名歌鑑賞 1423~1425
(3月26日)名歌鑑賞・1423
うぐいすの 鳴くになみだの おつるかな またもや春に
あはむとすらん
藤原教良母(ふじわらののりよしのはは)
(詞花和歌集・358)
(うぐいすの なくになみだの おつるかな またもや
はるに あわんとすらん)
詞書・・夫が亡くなった後の春、鶯の鳴くのを聞いて詠む。
意味・・鶯の鳴くのを聞いても涙が落ちることだ。生きて
再び春に逢おうとしているのだろうか。
夫を失って、生きてゆけそうもないほどの悲しみ
の中でも、時は過ぎ春がめぐって来る事の感慨を
詠んでいます。
注・・あはむとすらん=春まで生きていられようとは思
っていなかったのに、との意を含む。
作者・・藤原教良母=子の教良は日向守・従五位上。夫は
1141年11月没。
--------------------------------------------
(3月27日)名歌鑑賞・1424
散りぬれば のちはあくたに なる花を 思ひしらずも
まどふてふかな
僧正遍照(そうじょうへんじょう)
(古今和歌集・435)
(ちりぬれば のちはあくたに なるはなを おもいしらずも
まどうちょうかな)
意味・・いくら美しいかろうが散ってしまえば汚いごみに
なる花なのに、蝶はそれを少しも知らないで、美
しさに惑わされてひらひら飛び戯れている。
美しいものは全て一時的にすぎないという仏教的
思想を詠んでいます。
注・・あくた=芥。ごみ、かす。
まどふ=惑ふ。飛びさまようの意と、心に迷いが
あるとの意を掛ける。
てふ=蝶。
作者・・僧正遍照=816~890。僧正は僧の最高の位。六歌仙
の一人。
-------------------------------------------------
(3月28日)名歌鑑賞・1425
わりなしや 人こそ人と 言わざらめ みづから身をや
思ひ捨つべき
紫式部(むらさきしきぶ)
(わりなしや ひとこそひとと いわざらめ みずから
みをや おもいすつべき)
意味・・辛(つら)いことだ、皆で私を仲間はずれにして
うてあってくれないのは。
宮仕えをしていて、同僚の女房から「生意気だ、
澄ましている」と陰口をされて詠んだ歌です。
注・・わりなし=つらい。
人こそ人と言はざらめ=人を人と認めない、仲
間と認めない。「ざら」は打ち消しの「ず」
の未然形。「め」は卑下する語。
みづから=その人自身、当人。
身=自分、我が身。
思ひ捨つ=見捨てる、顧みない。
女房(にょうぼう)=宮中で部屋を持っている高
位の女官。
うてあわない=相手にしない。九州博多方面の
方言。
作者・・紫式部=生没年未詳。973頃の生まれ。「源氏物
語」。
うぐいすの 鳴くになみだの おつるかな またもや春に
あはむとすらん
藤原教良母(ふじわらののりよしのはは)
(詞花和歌集・358)
(うぐいすの なくになみだの おつるかな またもや
はるに あわんとすらん)
詞書・・夫が亡くなった後の春、鶯の鳴くのを聞いて詠む。
意味・・鶯の鳴くのを聞いても涙が落ちることだ。生きて
再び春に逢おうとしているのだろうか。
夫を失って、生きてゆけそうもないほどの悲しみ
の中でも、時は過ぎ春がめぐって来る事の感慨を
詠んでいます。
注・・あはむとすらん=春まで生きていられようとは思
っていなかったのに、との意を含む。
作者・・藤原教良母=子の教良は日向守・従五位上。夫は
1141年11月没。
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(3月27日)名歌鑑賞・1424
散りぬれば のちはあくたに なる花を 思ひしらずも
まどふてふかな
僧正遍照(そうじょうへんじょう)
(古今和歌集・435)
(ちりぬれば のちはあくたに なるはなを おもいしらずも
まどうちょうかな)
意味・・いくら美しいかろうが散ってしまえば汚いごみに
なる花なのに、蝶はそれを少しも知らないで、美
しさに惑わされてひらひら飛び戯れている。
美しいものは全て一時的にすぎないという仏教的
思想を詠んでいます。
注・・あくた=芥。ごみ、かす。
まどふ=惑ふ。飛びさまようの意と、心に迷いが
あるとの意を掛ける。
てふ=蝶。
作者・・僧正遍照=816~890。僧正は僧の最高の位。六歌仙
の一人。
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(3月28日)名歌鑑賞・1425
わりなしや 人こそ人と 言わざらめ みづから身をや
思ひ捨つべき
紫式部(むらさきしきぶ)
(わりなしや ひとこそひとと いわざらめ みずから
みをや おもいすつべき)
意味・・辛(つら)いことだ、皆で私を仲間はずれにして
うてあってくれないのは。
宮仕えをしていて、同僚の女房から「生意気だ、
澄ましている」と陰口をされて詠んだ歌です。
注・・わりなし=つらい。
人こそ人と言はざらめ=人を人と認めない、仲
間と認めない。「ざら」は打ち消しの「ず」
の未然形。「め」は卑下する語。
みづから=その人自身、当人。
身=自分、我が身。
思ひ捨つ=見捨てる、顧みない。
女房(にょうぼう)=宮中で部屋を持っている高
位の女官。
うてあわない=相手にしない。九州博多方面の
方言。
作者・・紫式部=生没年未詳。973頃の生まれ。「源氏物
語」。
2011年03月21日
2011年03月20日
2011年03月19日
2011年03月18日
2011年03月17日
2011年03月16日
名歌鑑賞・1413
宮城野の 露吹き結ぶ 風の音に 小萩がもとを
思ひこそやれ
源氏物語・桐壺
(風葉和歌集・233)
(みやぎのの つゆふきむすぶ かぜのねに こはぎが
もとを おもいこそやれ)
意味・・宮城野を吹いて露を結ばせる風の音を聞くと、
小萩の根元を思いやられることだ。
宮中を吹いて涙の露を私に結ばせる風の音に、
我が子を亡くした桐壺更衣の実家が思いやら
れることだ。
桐壺の更衣は帝の寵愛を独り占めにしていた。
その為に他の更衣からの嫉妬を受け、病気に
なり亡くなった。帝も悲しみ、桐壺の更衣の
母のもとに贈った歌です。
注・・宮城野=宮城県仙台市の東方の野。宮中も
意味している。
子萩=「小」に「子」を掛ける。幼子。
更衣=宮廷の高位の女官。
思ひこそやれ
源氏物語・桐壺
(風葉和歌集・233)
(みやぎのの つゆふきむすぶ かぜのねに こはぎが
もとを おもいこそやれ)
意味・・宮城野を吹いて露を結ばせる風の音を聞くと、
小萩の根元を思いやられることだ。
宮中を吹いて涙の露を私に結ばせる風の音に、
我が子を亡くした桐壺更衣の実家が思いやら
れることだ。
桐壺の更衣は帝の寵愛を独り占めにしていた。
その為に他の更衣からの嫉妬を受け、病気に
なり亡くなった。帝も悲しみ、桐壺の更衣の
母のもとに贈った歌です。
注・・宮城野=宮城県仙台市の東方の野。宮中も
意味している。
子萩=「小」に「子」を掛ける。幼子。
更衣=宮廷の高位の女官。
2011年03月15日
名歌鑑賞・1412
陸奥の 真野の萱原 遠けども 面影にして
見ゆといふものを
笠女郎(かさのいらつめ)
(万葉集・396)
(みちのくの まののかやはら とおけども おもかげ
にして みゆというものを)
意味・・奥州の真野の萱原はほんとうに遠い所だと話に
聞いていますが、そんなに遠い萱原でも目の前
にその姿が浮かぶということです。
まして近くにおいでになるあなたを恋しく思わ
ないわけにはゆきません。
笠女郎が大伴家持に贈った歌で、近くにいる
家持になぜ逢えないのかと諷した歌です。
注・・陸奥=東北地方の総称。
真野の萱原=歌枕。福島県相馬郡鹿島町真野川
の流域。
作者・・笠女郎=生没年未詳。大伴家持と交渉のあった
女性。
見ゆといふものを
笠女郎(かさのいらつめ)
(万葉集・396)
(みちのくの まののかやはら とおけども おもかげ
にして みゆというものを)
意味・・奥州の真野の萱原はほんとうに遠い所だと話に
聞いていますが、そんなに遠い萱原でも目の前
にその姿が浮かぶということです。
まして近くにおいでになるあなたを恋しく思わ
ないわけにはゆきません。
笠女郎が大伴家持に贈った歌で、近くにいる
家持になぜ逢えないのかと諷した歌です。
注・・陸奥=東北地方の総称。
真野の萱原=歌枕。福島県相馬郡鹿島町真野川
の流域。
作者・・笠女郎=生没年未詳。大伴家持と交渉のあった
女性。
2011年03月14日
2011年03月13日
2011年03月12日
2011年03月11日
2011年03月10日
2011年03月09日
2011年03月08日
名歌鑑賞・1405
沖つ島 荒磯の玉藻 潮干満ち い隠り行かば
思ほえむかも
山部赤人(やまべのあかひと)
(万葉集・919)
(おきつしま ありそのたまも しおひみち いかくり
ゆかば おもほえんかも)
意味・・沖の島の荒磯に生えている玉藻刈りもしたが、
今に潮が満ちてきて荒磯が隠れてしまうなら、
心残りがして、玉藻を恋しく思うだろう。
清らかな渚、風が吹くと白波が立ち騒ぐ美しい
沖つ島。この沖つ島の玉藻に焦点を合せ、心残
りを詠んでいます。
注・・沖つ島=沖の島。
荒磯(ありそ)=「あらいそ」の転で、岩のある
海岸。
玉藻=美しい藻。「玉」は美称の接頭語。
潮干=潮の引いた所。
い隠り行かば=(玉藻が水に)隠れ行ったならば。
「い」は接頭語。
思ほえんかも=(玉藻が)思われるであろうかなあ。
「思ほえ」は「思はゆ」から転じた「思ほゆ」
の未然形。「か」は疑問、「も」は詠嘆を表す
係助詞。
作者・・山部赤人=生没年未詳。奈良時代の宮廷歌人。
思ほえむかも
山部赤人(やまべのあかひと)
(万葉集・919)
(おきつしま ありそのたまも しおひみち いかくり
ゆかば おもほえんかも)
意味・・沖の島の荒磯に生えている玉藻刈りもしたが、
今に潮が満ちてきて荒磯が隠れてしまうなら、
心残りがして、玉藻を恋しく思うだろう。
清らかな渚、風が吹くと白波が立ち騒ぐ美しい
沖つ島。この沖つ島の玉藻に焦点を合せ、心残
りを詠んでいます。
注・・沖つ島=沖の島。
荒磯(ありそ)=「あらいそ」の転で、岩のある
海岸。
玉藻=美しい藻。「玉」は美称の接頭語。
潮干=潮の引いた所。
い隠り行かば=(玉藻が水に)隠れ行ったならば。
「い」は接頭語。
思ほえんかも=(玉藻が)思われるであろうかなあ。
「思ほえ」は「思はゆ」から転じた「思ほゆ」
の未然形。「か」は疑問、「も」は詠嘆を表す
係助詞。
作者・・山部赤人=生没年未詳。奈良時代の宮廷歌人。
2011年03月07日
名歌鑑賞・1404
大魚つる 相模の海の 夕なぎに みだれていづる
海士小舟かも
賀茂真淵(かものまぶち)
(賀茂翁家集)
(おおなつる さがみのうみの ゆうなぎに みだれて
いずる あまおぶねかも)
意味・・夕凪時に大魚を釣る相模の海へ、漁夫の小舟が
乱れ漕ぎ出ている。
実景の面白さを見たまま詠んだものです。
注・・大魚(おおな)=魚、肴(さかな)。魚・野菜など
副食物を「な」といった。「大」は意味が無
く、下句の「小舟」に対させたもの。
夕なぎ=夕凪。夕方の無風状態。漁に適している。
海士(あま)=海人。漁夫。
作者・・賀茂真淵=1697~1769。本居宣長をはじめ多くの
門人を育成。「賀茂翁家集」。
海士小舟かも
賀茂真淵(かものまぶち)
(賀茂翁家集)
(おおなつる さがみのうみの ゆうなぎに みだれて
いずる あまおぶねかも)
意味・・夕凪時に大魚を釣る相模の海へ、漁夫の小舟が
乱れ漕ぎ出ている。
実景の面白さを見たまま詠んだものです。
注・・大魚(おおな)=魚、肴(さかな)。魚・野菜など
副食物を「な」といった。「大」は意味が無
く、下句の「小舟」に対させたもの。
夕なぎ=夕凪。夕方の無風状態。漁に適している。
海士(あま)=海人。漁夫。
作者・・賀茂真淵=1697~1769。本居宣長をはじめ多くの
門人を育成。「賀茂翁家集」。
2011年03月06日
名歌鑑賞・1403
ひとりして 世をし尽くさば 高砂の 松のときはも
かひなかりけり
紀貫之(きのつらゆき)
(拾遺和歌集・1271)
(ひとりして よをしつくさば たかさごの まつの
ときわも かいなかりけり)
意味・・ただ一人で生き長らえ、寿命を全うしたと
しても、常緑で朽ちることのない高砂の松
のように、無為孤独でさびしくてたまらず、
なんの生き甲斐もないことだ。
老後の余生の不安を詠んでいます。
注・・世をし=「し」は上接する語を強調。「世」
は人生・寿命の意。
高砂=播磨(兵庫県)の歌枕。松はその景物
で老後の無為孤独の表象。
かひ=甲斐。値打ち、価値。
作者・・紀貫之=872頃~945頃。土佐守・従五位上。
古今集の撰者。「土佐日記」。
かひなかりけり
紀貫之(きのつらゆき)
(拾遺和歌集・1271)
(ひとりして よをしつくさば たかさごの まつの
ときわも かいなかりけり)
意味・・ただ一人で生き長らえ、寿命を全うしたと
しても、常緑で朽ちることのない高砂の松
のように、無為孤独でさびしくてたまらず、
なんの生き甲斐もないことだ。
老後の余生の不安を詠んでいます。
注・・世をし=「し」は上接する語を強調。「世」
は人生・寿命の意。
高砂=播磨(兵庫県)の歌枕。松はその景物
で老後の無為孤独の表象。
かひ=甲斐。値打ち、価値。
作者・・紀貫之=872頃~945頃。土佐守・従五位上。
古今集の撰者。「土佐日記」。
2011年03月05日
2011年03月04日
名歌鑑賞・1401
吹きのぼる 尾の上の松に 浪ぞこす 梅さく谷の
春の川風
正徹(しょうてつ)
(正徹詠草・44)
(ふきのぼる おのへのまつに なみぞこす うめさく
たにの はるのかわかぜ)
意味・・梅の咲く谷間から春の川風が、白い花びらを
吹き上げているが、それはまるで峰の松を浪
が越えているようだ。
参考歌です。
「君おきてあだし心をわがもたば末の松山
波も越えなむ」 (意味は下記参照)
注・・尾の上=山の頂。
浪=白い梅の花を比喩。
作者・・正徹=1381~1459。字は清岩。室町中期の
歌僧。「草根集」「正徹物語」。
参考の歌です。
君をおきて あだし心を わがもたば 末の松山
波も越えなむ
読人知らず
(古今和歌集・1093)
(きみをおきて あだしごころを わがもたば すえの
まつやま なみもこえなん)
意味・・あなたをさしおいて、ほかの人に心を移すなんて
ことがあろうはずはありません。そんなことがあ
れば、あの海岸に聳(そび)える末の松山を波が越
えてしまうでしょう。
心の変わらないことを誓った歌です。
注・・あだし心=浮気心、うわついた心。
末の松山=宮城県の海辺にあるという山。
春の川風
正徹(しょうてつ)
(正徹詠草・44)
(ふきのぼる おのへのまつに なみぞこす うめさく
たにの はるのかわかぜ)
意味・・梅の咲く谷間から春の川風が、白い花びらを
吹き上げているが、それはまるで峰の松を浪
が越えているようだ。
参考歌です。
「君おきてあだし心をわがもたば末の松山
波も越えなむ」 (意味は下記参照)
注・・尾の上=山の頂。
浪=白い梅の花を比喩。
作者・・正徹=1381~1459。字は清岩。室町中期の
歌僧。「草根集」「正徹物語」。
参考の歌です。
君をおきて あだし心を わがもたば 末の松山
波も越えなむ
読人知らず
(古今和歌集・1093)
(きみをおきて あだしごころを わがもたば すえの
まつやま なみもこえなん)
意味・・あなたをさしおいて、ほかの人に心を移すなんて
ことがあろうはずはありません。そんなことがあ
れば、あの海岸に聳(そび)える末の松山を波が越
えてしまうでしょう。
心の変わらないことを誓った歌です。
注・・あだし心=浮気心、うわついた心。
末の松山=宮城県の海辺にあるという山。
2011年03月03日
名歌鑑賞・1400
花に染む 心のいかで 残りけん 捨て果ててきと
思ふわが身に
西行(さいぎょう)
(山家集・76)
(はなにそむ こころのいかで のこりけん すてはて
てきと おもうわがみに)
意味・・この俗世間をすっかり捨て切ってしまったと思う
我が身に、どうして桜の花に執着する心が残って
いたことであろうか。
物欲や名誉をすべて捨てて、悩みや束縛から抜け
出て安らかな心境にある自分だと思うのに、花に
深く心を動かされるのはどうしてだろうか。
花の美しさに感動するだけでなく、人と供に喜び
人と供に泣くという人の心は失わず、感動する心
は捨てていないという境地を詠んでいます。
注・・染む=心に深く感じること。
てき=・・してしまった。完了の助動詞「つ」の
連体形+過去の助動詞「き」。
作者・・西行=1118~1190。俗名佐藤義清。下北面武士として
鳥羽院に仕える。23歳で出家。高野山で仏者として
修行。家集は「山家集」。
思ふわが身に
西行(さいぎょう)
(山家集・76)
(はなにそむ こころのいかで のこりけん すてはて
てきと おもうわがみに)
意味・・この俗世間をすっかり捨て切ってしまったと思う
我が身に、どうして桜の花に執着する心が残って
いたことであろうか。
物欲や名誉をすべて捨てて、悩みや束縛から抜け
出て安らかな心境にある自分だと思うのに、花に
深く心を動かされるのはどうしてだろうか。
花の美しさに感動するだけでなく、人と供に喜び
人と供に泣くという人の心は失わず、感動する心
は捨てていないという境地を詠んでいます。
注・・染む=心に深く感じること。
てき=・・してしまった。完了の助動詞「つ」の
連体形+過去の助動詞「き」。
作者・・西行=1118~1190。俗名佐藤義清。下北面武士として
鳥羽院に仕える。23歳で出家。高野山で仏者として
修行。家集は「山家集」。