2011年05月

2011年05月31日

名家鑑賞・1489

盃やなるとの入日渦桜
                 西鶴(さいかく)
                 (西鶴全句集・44)

(さかずきや なるとのいりひ うずざくら)

意味・・目の前に置かれた盃、珠塗りのかなり大きい盃で、
    内側に珍しい図柄の蒔絵が施してある。鳴門の海の
    入り日に名物の渦潮、それに鞍馬山の渦桜まで描き
    添えてある。下戸の自分でもこれには見とれてしま
    う。

 注・・渦桜=雲珠(うず)桜、鞍馬山の八重桜のこと。

作者・・西鶴=1642~1693。西山宗因に入門。談林派。
    「浮世草子」。


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2011年05月30日

名歌鑑賞・1488

花鳥の 色にも音にも とばかりに 世はうちかすむ
春のあけぼの
           心敬(しんけい)
           (寛正百首・9)

(はなとりの いろにもねにも とばかりに よは
 うちかすむ はるのあけぼの)

意味・・春の曙の、あたり一面かすんだやさしい美しさは、
    花の色にも鳥の声にもたとえようがない程、心を
    温めてくれる美しさだ。

 注・・とばかりに=花鳥の色にも音にも及ばないほどに。

作者・・心敬=1406~1475。権大僧都。



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2011年05月29日

名歌鑑賞・1487

振り放けて 三日月見れば 一目見し 人の眉引き
思ほゆるかも
           大伴家持(おおとものやかもち)
            (万葉集・994)

(ふりさけて みかづきみれば ひとめみし ひとの
 まよびき おもほゆるかも)

意味・・大空を振り仰いで三日月を見ると、ただ一目
    見た人の美しい眉が思われてなりません。

 注・・眉引(まよび)き=眉、まゆ墨で眉を書くこと。

作者・・大伴家持=718~785。大伴旅人の子。



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2011年05月28日

名歌鑑賞・1486

恋しとは 誰が名づけけむ 言ならむ 死ぬとぞただに
いふべかりける
           清原深養父(きよはらのふかやぶ)
           (古今和歌集・698)

(こいしとは たがなづけけん ことならん しぬとぞ
 ただに いふべかりける)

意味・・愛(いと)しい人を慕うことを「恋しい」とは、誰が
    名づけた言葉なのであろうか。ずばり「死ぬ」と言
    えばいいのだ。

 注・・言ならぬ=言葉なのであろうか。
    ただに=ただちに、直接に。

作者・・清原深養父=930年頃活躍した人。清少納言の曾祖父。


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名歌鑑賞・1485

もも鳥の 鳴く山里は いつしかも 蛙のこへと
なりにけるかな
              良寛(りょうかん)
              (良寛全歌集・83)

(ももとりの なくやまさとは いつしかも かわずの
 こえと なりにけるかな)

意味・・いろいろ多くの鳥が春になってさえずっていた
    この山里は、いつの間にか夏になって、蛙の声
    が耳に聞えるようになったものだなあ。

 注・・もも鳥=百鳥。数多くの鳥。

作者・・良寛=1758~1831。


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2011年05月26日

名歌鑑賞・1484

ひさかたの 天見るごとく 仰ぎ見し 皇子の御門の
荒れまく惜しも
           柿本人麻呂(かきのもとひとまろ)
           (万葉集・168)

(ひさかたの あめみるごとく あおぎみし みこの
 みかどの あらまくおしも)

意味・・大空を見るように仰ぎ見ていた草壁皇子の御殿が
    荒れてゆくのは悲しいことだ。

    草壁皇子は父が天武天皇、母は持統天皇。天武天皇
    崩御後、ライバルの大津皇子に争い勝ち、持統天皇
    と供に天下を取ったが28歳の若さで亡くなった。
    その後の宮殿の荒れて行く姿を詠んだ歌です。

 注・・御門=宮殿。

作者・・柿本人麻呂=生没年未詳。万葉時代の最大の歌人。




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2011年05月25日

名歌鑑賞・1483

あかねさす 日は照らせど ぬばたまの 夜渡る月の
隠らく惜しも
             柿本人麻呂(かきのもとひとまろ)
             (万葉集・169)

(あかねさす ひはてらせど ぬばたまの よわたる
 つきの かくらくおしも)

意味・・日は照っているが(持統天皇はおられるが)夜空を
    渡る月が隠れてしまう(草壁皇子が亡くなった)のは
    つくづく惜しまれる。

    草壁は父は天武、母は持統で、天武崩御後、ライバ
    ルの大津皇子を謀反の罪で除き、持統と供に政治を
    執っていた。草壁皇子は689年28歳で亡くなった。
    草壁即位の期待が空しくなり、嘆きを詠んだ歌です。

作者・・柿本人麻呂=生没年未詳。万葉時代の最大の歌人。




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2011年05月24日

名歌鑑賞・1482

香具山と 耳成山と 闘ひし時 立ちて見に来し
印南国原
          中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)
          (万葉集・14)

(かぐやまと みみなしやまと あいしとき たちて
 みにこし いなみくにはら)

意味・・ああ、ここが、香具山と耳成山とが争った時、
    阿菩大神(あぼのおおかみ)が立って、見に来た
    という印南国原だ。

   大和三山の妻争いの伝説を歌ったもの。大和平野
   には香具山(男山)・畝傍(うねび)山(女山)・耳成
   山(男山)が向い合い、この三山が妻争いをしたと
   いう伝説。阿菩大神が仲裁に来たという。
   神代の時代からこんなふうであり、昔もそうだか
   ら、今の世でも妻を求めて争うものだと嘆いた歌。

作者・・中大兄皇子=後の天智天皇。



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2011年05月23日

名歌鑑賞・1481

信濃道は 今の墾り道 刈りばねに 足踏ましなむ
沓はけ我が背
           信濃の国の東歌      
           (万葉集・3399)

(しなのじは いまのはりみち かりばねに あし
 ふましなん くつはけわがせ)

意味・・信濃道は、最近通じたばかりの道だから、鋭い
    切り株がほうぼうにあります。きっと踏むでし
    ようから、足を痛めないように沓をはいて行っ
    て下さいね、あなた。

    713年信濃と美濃に開通した時に詠んだ歌で、
    一般庶民の多くは裸足だった。沓は正式なも
    のは革製で、普通は布や藁(わら)、木などで
    作った。

 注・・信濃の国=今の長野県。
    墾(は)り道=開墾したばかりの道。
    刈りばね=切り株。



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2011年05月22日

名歌鑑賞・1480

心爰になきか鳴かぬか郭公

              西鶴(さいかく)
              (西鶴全句集・2)

(こころここに なきかなかぬか ほとどぎす)

意味・・私がついうっかりして他の事を考えていた為に、
    お前が折角よい声で鳴いたのに、それを聞かなか
    ったのだろうか、それともお前が鳴かなかったの
    だろうか、郭公よ。今度しっかり聞くから鳴いて
    くれないか。
   
    中国の古典「大学」の次の語句を参考にして詠ま
    れています。
    心焉(ここ)に在らざれば視れども見えず、聞けど
    も聞えず。

 注・・爰(ここ)に=ここに、すなわち。
    焉(ここ)に=いずくんぞ、これより、ここに。

作者・・西鶴=1642~1693。西山宗因に入門。談林派。
    「浮世草子」。




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2011年05月21日

名歌鑑賞・1479

こんなにも 湯呑み茶碗は あたたかく しどろもどろに
吾はおるなり
             山崎方代(やまさきほうだい)
             (左右口)

(こんなにも ゆのみちゃわんは あたたかく しどろ
 もどろに われはおるなり)

意味・・湯飲み茶碗の手ざわりというより、茶碗に茶を
    注ぎ、その温かさにしどろもどろになっている。

    方代は定職を持たず、家庭を持たず援助者の好
    意で生活をして一生を終えている。孤独の生活
    は、その裏返しの温かさをかみしめる生活の累
    積でもあった。たった一碗のお茶の温かさに心
    が揺れるほど、現実は孤独。自分の人生を振り
    返ればしどろもどろ。この先もしどろもどろ。

作者・・山崎方代=1914~1985。尋常高等小学校卒業。
     「山崎方代全歌集」。




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2011年05月20日

名歌鑑賞・1448

めづらしき 声ならなくに 郭公 ここらの年を
飽かずもあるかな
            紀友則(きのとものり)
            (古今和歌集・359)


(めずらしき こえならなくに ほとどぎす ここらの
としを あかずもあるかな)

意味・・毎年聞いているので、もはや珍重するには当たら
    ないほとどぎすだが、それにしても、長年にわた
    って、よくもあきずに鳴いているものだ。

    長年鳴き続けるほとどぎす、それを長年聞き続け
    ることは長生きの印でありめでたい事だ、という
    気持も詠んでいます。

 注・・めづらしき・・=今年だけ聞く珍しい声ではない
     のに。
    郭公=ほとどぎす、時鳥、不如帰、子規とも書く。
    ここら=数多く、たくさん。

作者・・紀友則=~905頃没。紀貫之の従兄弟。古今和歌集
     の撰者。



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2011年05月19日

名歌鑑賞・1477

明日香川 渕にもあらぬ わが宿も 瀬にかはりゆく
ものにぞありける
            伊勢(いせ)
            (古今和歌集・990)

(あすかがわ ふちにもあらぬ わがやども せに
 かわりゆく ものにぞありける)

詞書・・家を売りてよめる

意味・・昨日の渕が今日は瀬になる飛鳥川でもない我が
    家なのに、お金に変って人手に渡るのです。
    はかないものですね。

 注・・明日香川=奈良県飛鳥地方を流れる川。
    瀬に=「銭・ぜに」をかける。

作者・・伊勢=877~938。父が伊勢守であったので伊勢
     といった。古今時代の代表女流歌人。




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2011年05月18日

名歌鑑賞・1476

べくべから べくべかりべし べきべけれ すずかけ並木
来る鼓笛隊
              永井陽子(ながいようこ)
              (樟の木のうた)

意味・・調子よく弾む「べし」の活用形の音は、すずかけの
    並木を、太鼓やシンバルなどでくっきりとリズムを
    とりながら姿勢よく演奏行進してくる鼓笛隊に調子
    が良くあっている。

    助動詞「べし」の活用形を用いて詠んだ歌です。
    遊び心の歌がのびやかである一首だが、「べし」と
    いう命令調へのやわらかな拒否の心が入っている。 

 べし=可能の意味、「一念岩を通すべし」。決意を表す意
     味、「必ず参上いたすべし」。義務を表す意味、
     「租税は納むべきものなり」。命令の意味、「ま
     すらをは名をし立つべし」。

作者・・永井陽子=1951~2000。東洋大学卒。短大教員。



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2011年05月17日

名歌鑑賞・1475

山行くは たのしからずや 高山の 青雲恋ひて
今日も山ゆく

             結城哀草果(ゆうきあいそうか)





作者・・結城哀草果=1893~1974。斉藤茂吉記念館館長。
                 


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2011年05月16日

名歌鑑賞・1474

唐土も 夢に見しかば 近かりき 思わぬなかぞ
はるけかりける
              兼芸法師(けんげいほうし)
              (古今和歌集・768)

(もろこしも ゆめにみしかば ちかかりき おもわぬ
 なかぞ はるけかりける)

意味・・中国だって私が夢に見たら近かった。愛し合わ
    ない夫婦こそ、何にもましてはるかにかけ離れ
    たものだということが、今度の夢で初めて分か
    った。

 注・・唐土=中国のこと。
    思わぬなかぞ=思っていない間柄というのは。

作者・・兼芸法師=890年ごろの人。


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2011年05月15日

名歌鑑賞・1473

ただ一人の 束縛を待つと 書きしより 雲の分布は
日々に美し
             三国玲子(みくにれいこ)
             (花前線)

(ただひとりの そくばくをまつと かきしより くもの
 ぶんぷは ひびにうつくし)

意味・・愛の束縛・・。結婚を前提にした交際を納得した
    日、手紙を書いている作者がいる。「ただ一人の
    束縛を待つ」という、絶対的な信頼をこめた手紙
    を書いた日から、仰ぐ空も雲の景色もずっと違っ
    た感情でとらえるようになった。

    「ただ一人の束縛を待つ」は愛の本質を言い当て
    いる。

作者・・三国玲子=1924~1987。川村女学院卒業。



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2011年05月14日

名歌鑑賞・1472

かくしつつ とにもかくにも ながらへて 君が八千代に
あふよしもがな
              仁和帝(にんわのみかど)
              (古今和歌集・347)

(かくしつつ とにもかくにも ながらえて きみが
 やちよに あうよしもがな)

詞書・・仁和の御時、僧正遍照に七十の賀たまひける
    ときの御歌

意味・・今日はこうして宴席を設けてあなたの七十の
    賀をともに祝っているが、自分もこれから何
    とか生きながらえて、さらにあなたの八千代
    の賀宴にあいたいものと思う。

 注・・仁和の御時=光孝天皇の仁和年間(885年)。
    かくしつつ=こうすること。70歳を祝う宴会
     を開いて楽しむこと。
    八千代=八千年。きわめて長い年代。

作者・・仁和帝=831~887。光孝天皇。




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2011年05月13日

名歌鑑賞・1471

世の中の 遊びの道に すずしきは 酔ひ泣きするに
あるべかるらし
           大伴旅人(おおとものたびびと)
           (万葉集・347)

(よのなかの あそびのみちに すずしきは えいなき
 するに あるべかるらし)

意味・・世の中の遊びの道で清々しく快いのは、酔って
    泣いたりするのにあるようだ。

    世間の遊びの道が面白くなければ、いっそ酒を
    飲んで泣き上戸にでもなるほうがいいらしい。

 注・・すずしき=涼しき。気持がさっぱりしている。
     さわやかである。

作者・・大伴旅人=665~731。従二位大納言。大伴家持
     の父。




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2011年05月12日

名歌鑑賞・1470

山高み 雲井に見ゆる 桜花 心のゆきて 
折らぬ日ぞなき
           凡河内躬恒(おおしこうちのみつね)
           (古今和歌集・358)

(やまたかみ くもいにみゆる さくらばな こころの
 ゆきて おらぬひぞなき)

詞書・・右大将定国四十の賀で。

意味・・山が高いので、大空はるかに見える桜の花は、
    実際に手折ることは出来ないが、気持だけは
    そこまで行って折り取らない日はない。

    人間以上の力にあやかって越えようとする願望
    と祈願を寿歌として詠んでいます。

 注・・雲井=雲のある所、空。
    折らぬ日ぞなき=当時の人は花や紅葉を折って
     家に持ち帰ったり、人に贈る習慣があった。
     
作者・・凡河内躬恒=900年前後に活躍した人。「古今
     和歌集」の撰者。
  


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2011年05月11日

名歌鑑賞・1469

山路来て 何やらゆかし すみれ草
                    芭蕉(ばしょう)
                    (野ざらし紀行)

(やまじきて なにやらゆかし すみれぐさ)

意味・・山路を越えて来て、ふと道のほとりにすみれが
    咲いているのに気がついた。こんな山路で思い
    がけなく見つけたすみれのなんとゆかしく、心
    がひかれることだ。

 注・・ゆかし=情趣や品位に何となく気がひかれる様。
    すみれ草=その姿形、花の色合いが、とりわけ
     可憐さを感じさせる。

作者・・芭蕉=1644~1694。「おくの細道」「野ざらし
     紀行」。


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2011年05月10日

名歌鑑賞・1468

桃の花 君に似るとは いひかねて ただうつくしと
愛でてやみしか 
             金子薫園(かねこくんえん)
             (片われ月)

(もものはな きみににるとは いいかねて ただ
 うつくしと めでてやみしか)

意味・・桃の花を、君のようだとは言えなくて(恥ずか
    しくて)、ただ綺麗だなあと賞(ほ)めるだけで
    終わってしまった。

    桃の花といえば桃の節句を、そして万葉集の
    「春の苑くれない匂ふ桃の花下照る道に出で
    立つ乙女」を連想し、若い女性をたとえるの
    に相応(ふさ)しい花です。
    (歌の意味は下記参照)

 注・・うつくし=かわいい、いとしい、きれいだ。
    愛づ=心ひかれる、褒める、愛する。

作者・・金子薫園=1876~1951。歌集「片われ月」。

参考歌です。

春の苑 紅にほふ 桃の花 下照る道に
出で立つ少女
         大伴家持(おおとものやかもち)
         (万葉集・4139)

(はるのその くれないにおう もものはな したてる
 みちに いでたつおとめ)

意味・・春の庭園に紅の色が美しく映える桃の花、その
    木の下までも照り輝いている道に出て立って
    いる娘さんよ、ともに美しいなあ。

 注・・苑=庭園。




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2011年05月09日

名歌鑑賞・1467

年ごとに かはらぬものは 春霞 たったの山の
けしきなりけり
            藤原顕輔(ふじわらのあきすけ)
            (金葉和歌集・10)

(としごとに かわらぬものは はるがすみ たったの
 やまの けしきなりけり)

意味・・いつの年も変らない風情なのは、春霞が立つ
    この頃の滝田の山の姿だなあ。

 注・・たったの山=「立つ」と{滝田の山」を掛ける。

作者・・藤原顕輔=1090~1155。正三位左京の大夫。「詞
    歌和歌集」の選者。



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2011年05月08日

名歌鑑賞・1466

山鳥の ほろほろと鳴く 声聞けば 父かとぞ思ふ 
母かとぞ思ふ
            行基菩薩(ぎょうきぼさつ)
            (玉葉和歌集・2627)

(やまどりの ほろほろとなく こえきけば ちちかとぞ
 おもう ははかとぞおもう)

意味・・山鳥がほろほろと鳴く声を聞いていると、父が
    呼ぶ声かとも母が呼ぶ声かとも思われまことに
    なつかしい。

    今は亡き父や母をしのぶ歌です。

 注・・山鳥=キジ科の野鳥。

作者・・行基菩薩=668~749。大僧正。


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名歌鑑賞・1465

世の中を 何に譬へん 弥彦に たゆたふ雲の
風のまにまに
           良寛(りょうかん)
           (良寛歌集・495)

(よのなかを なににたとえん いやひこに たゆたう
 くもの かぜのまにまに)

意味・・この世の中を過ごして行く態度として、何に譬え
    たらよいだろうか。それは、弥彦山に漂う雲が風
    の吹くのに従っているのに譬えたらよい。

    人の言うことは、否定を少なくして肯定する事を
    多くすれば人間関係をよくする・・・。

 注・・弥彦=新潟県にある弥彦山。
    たゆたふ=漂う。

作者・・良寛=1758~1831。



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2011年05月06日

名歌鑑賞・1464

みがかずば 玉も鏡も なにかせむ 学びの道も
かくこそありけれ
           昭憲皇太后(しようけんこうたいごう)

(みがかずば たまもかがみも なにかせん まなびの
 みちも かくこそありけれ)

意味・・磨く事をしないならば、玉といい鏡といっても一体
    何になろうか。学問の道もまた同じである。

    女子教育の振興のため詠んだ歌であり、次の詩は
    東京女子師範学校に贈られ、校歌となっています。
    
    金剛石(こんごうせき)も みがかずば
    玉の光は 添わざらん
    人も 学びて 後にこそ
    まことの 徳は 現れる
    時計のはりの 絶間なく
    めぐるがごとく 時のまも
    光陰(ひかげ)惜しみて 励みなば
    いかなる業(わざ)か ならざらん

    水は器に したがいて
    そのさまざまに なりぬなり
    人は交る 友により
    よきにあしきに 
    うつるなり
    己に優る よき友を
    えらび求めて もろともに
    心の駒に 鞭うちて
    学びの道に
    進めかし

作者・・昭憲皇太后=1850~1914。明治天皇の皇后。
     女子教育の振興に尽力。




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2011年05月05日

名歌鑑賞・1463

よの中よ 産ませる医者に 流すいしゃ
                    作者不明
                    (出典・雨の落葉)

(よのなかよ うませるいしゃに ながすいしゃ)

意味・・世はさまざま、子供の欲しい所には出来ないし、いらぬ
    貧家ではいくらでも生まれる。一方に産科医があれば、
    その脇では堕胎医が繁盛している。

    人は様々、価値観も様々という事をいっています。

    「世の中よ道こそなけれ思ひ入る山の奥にも鹿ぞ鳴く」
    の第一句を題とした小倉付けでもあります。
    (意味は下記参照)

 注・・小倉付け=「世の中よ」など百人一首の歌の上五文字を
     笠付題とする形式。

参考歌です。

世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山のおくにも
鹿ぞ鳴くなる    
         藤原俊成(ふじわらのとしなり)
         (千載和歌集・1151、百人一首・83)

(よのなかよ みちこそなけれ おもいいる やまの
 おくにも しかぞなくなる)

意味・・世の中は逃れるべき道がないのだなあ。
    隠れ住む所と思い込んで入った山の奥
    にも悲しげに鳴く鹿の声が聞こえる。

作者・・藤原俊成=1204年没。91歳。正三位
      皇太后大夫。「千載和歌集」の選者。




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2011年05月04日

名歌鑑賞・1462

われ見ても 久しくなりぬ 住の江の 岸の姫松
いく世経ぬらむ
             読人知らず
             (古今和歌集・905)

(われみても ひさしくなりぬ すみのえの きしの
 ひめまつ いくよへぬらん)

意味・・私が親しく見始めてからでも長い年月がたって
    いる。その住の江の岸の老松はどのくらいの年
    代を経ているのだろうか。

    住の江の海岸の老松を、年老いた者が自分より
    さらに老いた物として懐かしんで詠んだ歌です。

 注・・住の江=大阪市住吉区。
    姫松=幼い松。ここでは老松を長年の親しみを
     もって呼ぶ。
    世=年代、年齢。




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2011年05月03日

名歌鑑賞・1461

(5月3日)

郭公 なくや五月の あやめぐさ あやめも知らぬ
恋もするかな
             読人知らず
             (古今和歌集・469)

(ほとどぎす なくやさつきの あやめぐさ あやめも
 しらぬ こいもするかな)

意味・・ほとどぎすの鳴く五月となり、家々には菖蒲が
    飾られている。私の恋はあやめ(理性)も失い、
    ひたすら情熱に流されるばかりである。

 注・・あやめぐさ=菖蒲。
    あやめも知らず=物事の道理もわからない。




(5月2日)

夕靄は 蒼く木立を つつみたり 思へば今日は
やすかりしかな
          尾上柴舟(おのうえさいしゅう)
            (永日)

(ゆうもやは あおくこだてを つつみたり おもえば
 きょうは やすかりし)

意味・・日も暮れなずむころ、靄がしっとりと蒼く立ち
    こめて、深い木立を静かに包んでしまった。考
    えてみるに、今日も何事もなく平穏な一日であ
    ったことだ。

    平穏な日々を暮らすことは当たり前な事であろ
    うが、当たり前と思っていた事が実はそうでは
    ないと言っています。    

作者・・尾上柴舟=1876~1957。東大国文科卒。前田
     夕暮・若山牧水らと事前草社を興す。




(5月1日)

神奈備の 石瀬の杜の 呼子鳥 いたくな鳴きそ 
我が恋まさる
           鏡王女(かがみのおおきみ)
           (万葉集・1419)

(かんなびの いわせのもりの よぶこどり いたく
 ななきそ わがこいまさる)

意味・・神奈備の石瀬の森に鳴く呼子鳥よ、そんなに鳴くな、
    私の恋しい心が増すばかりだから。

 注・・神奈備=神が宿る場所。多く山や森にこの名が与え
     られ、祭祀(さいし)の対象とされた。
    石瀬の杜=奈良県生駒郡斑鳩(いかるが)にある森。
    呼子鳥=人にうったえて呼ぶような声で鳴くという。
    いたく=強く、熱心に。

作者・・鏡王女=額田王の姉。藤原鎌足の正妻。




(4月30日)

夕されば 君来まさむと 待ちし夜の なごりぞ今も
寝ねかてにする
              読人知らず
              (万葉集・2588)

(ゆうされば きみきまさんとまちしよの なごりぞ
 いまも いねかてにする)

意味・・夕方になると以前あなたは必ず来て下さいましたね。
    で、私は夜いつも起きてお待ちしていました。習慣
    って恐ろしいものですね、誰かさんのもとに行って、
    来て下さらなくなった今でも私は、夜目がさえて眠
    ることが出来ないのですよ。

 注・・なごり=余韻、余情、習慣の残り。
    かてに=・・出来ないで、・・に耐えられないで。






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