2011年07月

2011年07月31日

名歌鑑賞・1550

我ならぬ 草葉も物は 思ひけり 袖より外に
置ける白露
           藤原忠国(ふじわらのただくに)
           (後撰和歌集・1281)
(われならぬ くさばもものは おもいけり そでより
 そとに おけるしらつゆ)

意味・・私だけでなく、なんと、草の葉も物を悩んでいる
    のだねえ。私の袖以外の草の葉にも、涙のような
    白露を置いているということは。

作者・・藤原忠国=詳細不明。


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2011年07月30日

名歌鑑賞・1549

幸はひの いかなる人か 黒髪の 白くなるまで
妹が声を聞く
            作者不明
            (万葉集・1411)
(さきはいの いかなるひとか くろかみの しろく
 なるまで いもがこえをきく)

意味・・あの二人はなんという仕合せな人達なんだろう。
    あのお爺さんは黒髪がすっかり白髪に変わるあの
    年まで、つれ添うたお婆さんの声を聞くなんて。
    早く妻を失った自分はうらやましいなあ。

    挽歌です。

 注・・挽歌=人の死を悼(いた)み悲しむ歌。




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2011年07月29日

名歌鑑賞・1548

み林は 何処はあれど 越路なる 三島の里の
出田の宮
           良寛(りょうかん)
           (良寛歌集・1332)
(みはやしは いずこはあれど こしじなる みしまの
 さとの いづるたのみや)

意味・・お宮の林は、どこもみな良いが、中でも越路に
    ある三島の里の、出田の宮の林はことに素晴ら
    しいものだ。

 注・・越路=越の国、ここでは新潟県。
    三島の里=ここでは、新潟県和島村島崎。
    出田(いづるた)の宮=現在は宇奈具志神社に
     合社。

作者・・良寛=1758~1831。



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2011年07月28日

名歌鑑賞・1547

涼しさは あたらし畳 青簾 妻子の留守に
ひとり見る月
           唐衣橘洲(からころもきっしゅう)
           (鶯蛙)
(すずしさは あたらしたたみ あおすだれ さいしの
 るすに ひとりみるつき)

意味・・新しい畳に青簾のさっぱりした部屋で、月を
    見上げたらさぞ涼しかろう。しかも妻子が留
    守なら、涼しさもひとしおだ。

    妻子だけでなく、広く世俗のわずらわしさか
    らも逃れたら、の願望。

作者・・唐衣橘洲=1743~1802。田安家の下級幕臣。
     天明狂歌の創始者。



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2011年07月27日

名歌鑑賞・1546

鏡山 ひかりは花の 見せければ ちりつみてこそ
さびしかりけれ
          藤原親隆(ふじわらのちかたか)
          (千載和歌集・105)
(かがみやま ひかりははなの みせければ ちり
 つみてこそ さびしかりけれ)

意味・・鏡の山の光は満開の花を光輝いて見せたのだが、
    その花が散り積もってしまってからは、光も曇
    りさびしいことだ。
    鏡山というその名にふさわしく、ひときわ照り
    輝いていた山桜、今はその花も散り果てて光を
    失ったようだ。

    緑に装いを変えた鏡山に対する一抹の哀愁の思い。

 注・・鏡山=滋賀県蒲生郡にある山。近江国の歌枕。
     ここでは徳のある人の意も含む。
    ちりつみて=散り積みて。散り積もって。

作者・・藤原親隆=1099~1165。正三位参議。
    



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2011年07月26日

名歌鑑賞・1545

山かげや 岩もる清水の おとさえて 夏のほかなる
ひぐらしの声
            慈円(じえん)
            (千載和歌集・210)
(やまかげや いわもるしみずの おとさえて なつの
 ほかなる ひぐらしのこえ)

意味・・この山陰にいると、岩を漏れ落ちる清水の音も
    冷たく澄んで聞こえ、また夏とも思えぬ蜩の鳴
    き声までが聞えてくる。

作者・・慈円=1155~1225。天台座主、大僧正。



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2011年07月25日

名歌鑑賞・1544

よきも着ず うまきも食はず 然れども 児等と楽しみ
心足らへり
              伊藤左千夫(いとうさちお)
              (左千夫歌集)
(よきもきず うまきもくわず しかれども こらと
 たのしみ こころたらえり)

意味・・よい着物も着ず、うまい物も食わない。そんな
    質素な生活をしているけれども、子供らと日々
    を楽しく暮らして、自分の心は満足している。

作者・・伊藤左千夫=1864~1913。小説「野菊の墓」。



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2011年07月24日

名歌鑑賞・1543

吾が宿の いささ群竹 吹く風の 音のかそけき
この夕べかも
           大伴家持(おとものやかもち)
           (万葉集・4291)
(わがやどの いささむらたけ ふくかぜの おとの
 かそけき このゆうべかも)

意味・・そよそよと微(かす)かに音が聞えてくる。何だろう?
    そうだ、あれはこの邸に植えてある小さい群竹に吹く
    風の音なのだ!静かな寂しい夕暮れだなあ。

 注・・いささ群竹=ほんの小さな竹の茂み。
    かそけき=幽けき。光、色、音などが知覚出来るか
     出来ないさま。かすかに。

作者・・大伴家持=718~785。大伴旅人の子。





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2011年07月23日

名歌鑑賞・1542

いたづらに 我が身もかくや はつせ山 けふの日も又
入あひのこえ
              後西天皇(ごさいてんのう)
              (万治御点)
(いたづらに わがみもかくや はつせやま けふの
 ひもまた いりあいのこえ)

意味・・何の甲斐も無く我が身もこうして果てるのか。
    初瀬山では今日という日も又夕暮れを向かえて
    入相の鐘の音が響いている。

 注・・いたづらに=何のかいもなく、無為に。
    かくやはつせ山=「かくや果つ」と「初瀬山」
     を掛ける。

作者・・後西天皇=1661~1665の天皇。 




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2011年07月22日

名歌鑑賞・1541

うちなびく 草葉すずしく 夏の日の かげろふままに
風たちぬなり
             兼好法師(けんこうほうし)
             (兼好法師家集・96)
(うちなびく くさばすずしく なつのひの かげろう
 ままに かぜたちぬなり)

意味・・そよそよと草葉が風になびいて涼しい。夏の
    日がかげるにつれて風が出たようだ。

 注・・かげろふ=光がかげる、陰になる。
    なり=推定の助動詞。・・・のようだ。

作者・・兼好法師=1283年頃の生まれ、70歳くらい。
     「徒然草」。


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2011年07月21日

名歌鑑賞・1540

世の中に かしこきことも はかなきも 思ひしとけば
夢にぞありける
             源実朝(みなもとのさねとも)
             (金槐和歌集・715)
(よのなかに かしこきことも はかなきも おもいし
 とけば ゆめにぞありける)

意味・・世の中にあるすぐれたことも、とるに足らぬこと
    も、悟ってしまえば夢のようにはかないものだ。

    世の中には、価値のあるもの、確実なものがあり、
    一方、無価値な、不確かなものもあるが、これは
    相対的なものであり、執着するに足りないという
    事をいっている。

 注・・かしこき=すばらしい、りっぱだ。
    はかなき=たいしたこともない、愚かだ。
    思ひしとけ=思ひし解けば。考えて理解する。
     悟る。「し」は上接する語を強調する語。

作者・・源実朝=1192~1219。28歳。12歳で征夷大将軍に
     なる。鶴岡八幡宮で暗殺される。




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2011年07月20日

名歌鑑賞・1539

手に結ぶ 水に宿れる 月影の あるかなきかの
世にこそありけれ
             紀貫之(きのつらゆき)
             (拾遺和歌集・1322)
(てにむすぶ みずにやどれる つきかげの あるか
 なきかの よにこそありけれ)

意味・・手に掬(すく)った水に映っている月の影のように、
    この世は、あるかなきかといった、ほんとうには
    かない世の中であった。

    病が重くなり、親友の源公忠に贈った歌です。
    また、はかない人生を悲しむ辞世の歌です。

 注・・手に結ぶ水=手のひらを合せて水を掬うこと。
    宿ける月影=水に映った月の姿。
    源公忠(きんただ)=889~948。宮廷歌人。

作者・・紀貫之=872~945。土佐守・従五位上。「古今
     和歌集」の選者で仮名序を執筆。「土佐日記」。



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2011年07月19日

名歌鑑賞・1538

貧しさに 堪ふべき吾は もだしつつ 蝌蚪ある水の
ほとりを歩む
            佐藤佐太郎(さとうさたろう)
            (帰潮)
(まずしさに たうべきわれは もだしつつ かとある
 みずの ほとりをあゆむ)

意味・・「堪えるべき」貧しさはどうしょうもないので
    ある。沈黙して堪える他ない自分がいる。早春
    の池の岸に、オタマジャクシが元気に集まって
    泳いでいる。そこには確かな「生」がある。
    「貧しさ」も「堪えるべき」憂いもない。浅い
    池の底に、春の光が揺れる。それを眼にとめな
    がら、黙って歩いている。

    日本が敗戦後、最も苦しみながら再起を図って
    いた昭和24年の作です。
    当時は日本全体が貧しく、また貧しい生活の中
    にも何ものにも毒されない純粋な心が存在する
    時代でもあった。

 注・・もだしつつ=黙しつつ。だまってものをいわな
     いでいる。
    蝌蚪(かと)=お玉杓子。

作者・・佐藤佐太郎=1909~1987。岩波書店に勤める。
     斉藤茂吉に師事。「歩道」「帰潮」。



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2011年07月18日

名歌鑑賞・1537

行きなやむ 牛のあゆみに たつ塵の 風さへあつき
夏の小車
             藤原定家(ふじわらのていか)

(ゆきなやむ うしのあゆみに たつちりの かぜさえ
 あつき なつのおぐるま)

意味・・炎天に、人はもちろん牛まで、あえぎつつのろのろと
    歩む。その足元から乾いた塵ほこりが舞い立つ。風が
    吹けば涼しいはずなのに、塵を巻き上げる炎天の風は
    かえって暑苦しさを増す。

 注・・なやむ=悩む。悩ませる、苦しめる。
    小車=牛車。牛にひかせる乗用の屋形車。

作者・・藤原定家=1162~1241。「新古今和歌集」の選者。
     「百人一首」の選者。




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2011年07月17日

名歌鑑賞・1536

山の端に 思ひも入らじ 世の中は とてもかくても
ありあけの月
            藤原盛方(ふじわらのもりかた)
            (新古今和歌集・1506)
(やまのはに おもいもいらじ よのなかは とても
 かくても ありあけのつき)

意味・・有明の月が山の端に入らないでいるが、私も
    いちずに思い込み出家して山に入る事もしな
    いでいよう。世の中はどうあっても生きてい
    られるのだから。

    本歌は、
    世の中はとてもかくても同じこと 宮も藁屋も 
    果てしなければ (意味は下記参照)        

 注・・思ひも入らじ=深く思い込まないで。出家し
     ないで。
    とてもかくても=どちらにせよ、いずれにし
    ても。
    ありあけの月=有明の月の「あり」と「生き
     ている」意の「あり」を掛ける。

作者・・藤原盛方=1137~1178。従四位下・出羽守。

本歌です。

世の中は とてもかくても 同じこと 宮も藁屋も 
果てしなければ         
           蝉丸(せみまる)
           (新古今和歌集・1851)

(よのなかは とてもかくても おなじこと みやも
 わらやも はてしなければ)

意味・・この世の中ではどういう生活をしていても、
    結局は同じことだ。宮殿に住んでも藁屋に
    住んでも、人の欲望には際限がないのだから。

    蝉丸が粗末な藁屋に住んでいたのを嘲笑(ち
    ようしょう)されて詠んだ歌です。

    貴賎の差別感はむなしいものだと見て感慨
    を詠む。
    
 注・・とてもかくても=とありてもかくありても。
       結局どのように暮らしても。
    果てしなければ=限りがない。人間の欲望
       には際限がないから。




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2011年07月16日

名歌鑑賞・1535

垂乳根の 母が釣りたる 青蚊帳を すがしといねつ
たるみたれども
             長塚節(なかつかたかし)
             (長塚節歌集)
(たらちねの ははがつりたる あおがやを すがしと
 いねつ たるみたれども)

意味・・久しぶりに帰郷した私のために、母がその老い
    の手で青蚊帳を吊ってくれた。少したるんでい
    るけれども、安らかに眠りに付く事が出来た。

    喉頭結核に冒され、療養先から家に帰って来た
    時に詠んだ歌です。

 注・・垂乳根の=「母」の枕詞。
    いねつ=寝つ。寝た。

作者・・中塚節=1879~1915、35歳。小説「土」「長塚
    節歌集」。


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2011年07月15日

名歌鑑賞・1534

みがきける 心もしるく 鏡山 くもりなき世に
あふがたのしさ
            大中臣能宣(おおなかとみのよしのぶ)
            (拾遺和歌集・606)
(みがきける こころもしるく かがみやま くもり
 なきよに あうがたのしさ)

意味・・心を込めて磨いた志のかいがあって、澄み切った
    鏡という名を持つ鏡山のような、曇りのない聖代
    に出会うのが楽しいことだ。

 注・・しるく=験。かいのあること、効果、ご利益。
    鏡山=滋賀県蒲生郡竜王町にある山。
    くもりなき世=徳のある世の中、聖代。

作者・・大中臣能宣=921~991。「後撰和歌集」の編纂
     をする。三十六歌仙の一人。



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2011年07月14日

名歌鑑賞・1533

世にふるは あはれしかまの 市にたつ 民も日毎の
身をぞ休めぬ
          武者小路実陰(むしやのこうじさねかげ)
          (芳雲集)
(よにふるは あわれしかまの いちにたつ たみも
 ひごとの みをぞやすめぬ)

意味・・この世に生きてゆく為には、ああかわいそうに、
    飾磨の市に立って商売する民も、毎日毎日体を
    休めることがない。

 注・・ふる=経る。月日を送る、過ごす。
    あはれ=気の毒だ、ふびんだ。
    しかま=飾磨。播磨国飾磨(兵庫県姫路市)。

作者・・武者小路実陰=1661~1738。権大納言従一位。
     「芳雲集」。


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2011年07月13日

名歌鑑賞・1532

相生の かげの朽木と おくれゐて 十とせ余りは
何残るらん
           飛鳥井雅縁(あすかいのまさより)
           (新続古今和歌集・1601)
(あいおいの かげのくちきと おくれいて とおとせ
 あまりは なにのこるらん)

詞書・・足利義満の十三回忌に墓参した時、同じ年齢で
    長年なじみ親しんでいた事が思い出されて詠ん
    だ歌。

意味・・一緒に成長したが、その一方で陰にいた朽木と
    して生き長らえて十三年、どうしてこの世に残
    っているのだろう。

 注・・相生=一緒に成長すること、同じ年齢である事。
    おくれ=生き残る、先立たれる。
    何(なに)=なぜ、どうして・・か。
    足利義満=1358~1408。

作者・・飛鳥井雅縁=1358~1428。従二位権中納言。



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2011年07月12日

名歌鑑賞・1531

さざなみや 志賀の浦風 いか許 心の内の
涼かるらん
           藤原公任(ふじわらのきんとう)
           (拾遺和歌集・1336)
(さざなみや しがのうらかぜ いかばかり こころの
 うちの すずしかるらん)

詞書・・少納言藤原統理が志賀寺に出家したので詠んで
    贈った歌。

意味・・さざなみの志賀の浦を吹く風のように、念願の
    出家をして、どれほど心の中はさわやかなこと
    だろう。

 注・・藤原統理=999年に出家。
    さざなみ=小さく立つ波、琵琶湖西南岸一帯の
     古称、志賀の枕詞。

作者・・藤原公仁=966~1041。権大納言、正二位。
     「和漢朗詠集」。



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2011年07月11日

名歌鑑賞・1530

草づたふ 朝の蛍よ みじかかる われのいのちを 
死なしむなゆめ
           斉藤茂吉(さいとうもきち)
           (あらたま)
(くさづたう あさのほたるよ みじかかる われの
 いのちを しなしむなゆめ)

意味・・朝の草の上を心細げにはっている蛍よ。お前は
    束の間の命しかもたないはかない存在だが、そ
    れは私とても同じことだ。そう思えば今お前を
    眺めているこの私の命をなんとしても死なせて
    はならない。必ず活かしてほしいと祈るような
    気持になることだ。

 注・・草づたふ=草の上をつたっている。
    朝の蛍よ=朝の明るさで光を失っている蛍よ。
    死なしむなゆめ=ゆめ死なしむなの意、決して
     死なせてくれるな。「ゆめ」は下に打消しの
     語を伴う副詞。

作者・・斉藤茂吉=1882~1953。東京大学医科卒。精神
     病医。伊藤左千夫門下に入り「アララギ」を
     創刊。「斉藤茂吉全集」56巻がある。



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2011年07月10日

名歌鑑賞・1529

あぢき無く 何のたはこと いま更に 童言する
老人にして
           作者不詳
           (万葉集・2582)
(あじきなく なんのたわこと いまさらに わらわ
 ごとする おいびとにして)

意味・・何という愚かな戯痴(たわけ)たことを私は言った
    ものか。この老人が年甲斐も無く、今更子供らの
    ような真似をして。それにしてもあの女が恋しく
    てたまらない。

 注・・あぢき無く=まともでない、つまらない、情けな
     い、味気がない。
    たはこと=戯言。根拠の無い言葉、出たら目。
    老人にして=分別のある年をして。




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2011年07月09日

名歌鑑賞・1528

閑古鳥我もさびしいか飛んで行く
                 中川乙由(なかがわおつゆう)
                 (麦林集)
(かんこどり われもさびしいか とんでゆく)

意味・・閑古鳥が飛んで行く。その声は人を寂しがらせるが、
    お前自身も寂しくて飛んで行くのか。

 注・・閑古鳥=郭公。ホトドギスに似て初夏の頃から南方
     より飛来する。
    我も=おまえも。

作者・・中川乙由=1675~1739。材木商を営む。「麦林集」。



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2011年07月08日

名歌鑑賞・1527

夏の夜は しづまる宿の まれにして ささぬ戸口に 
月ぞくまなき 
            源親子(みなもとのちかこ)
            (玉葉和歌集・392)
(なつのよは しずまるやどの まれにして ささぬ
 とぐちに つきぞくまなき)

意味・・夏の夜は寝静まる家が稀で、錠を鎖さず開けて
    いる戸口に、月が隈なく照らしている。

 注・・ささぬ=錠をおろさない、戸を閉めない。

作者・・源親子=生没年未詳。従三位。鎌倉期の歌人。


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2011年07月07日

名歌鑑賞・1526

立ちのぼる 煙につけて 思ふかな いつまたわれを
人のかく見ん
            和泉式部(いずみしきぶ)
            (後拾遺和歌集・539)
(たちのぼる けむりにつけて おもうかな いつまた
 われを ひとのかくみん)

詞書・・山里にこもっていました時に、人を火葬するのが
    見えましたので詠んだ歌。

意味・・立ちのぼる火葬の煙を見るたびに思う事だ。いつ
    かまた私の火葬の煙を人がこのように見るだろう
    と。

 注・・立ちのぼる煙=火葬の煙をいう。

作者・・和泉式部=生没年未詳、978頃の生まれ。「和泉
     式部日記」。



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2011年07月06日

名歌鑑賞・1525

海恋し 潮の遠鳴り かぞへては 少女となりし 
父母の家
              与謝野晶子(よさのあきこ)
              (曙染)

(うみこいし しおのとおなり かぞえては おとめと
 なりし ちちははのいえ)

意味・・故郷の海が恋しい。海辺に寄せては返す潮の、遠く
    から聞えてくる波の音を数えては少女として成長し
    てきた父と母の家が恋しい。

作者・・与謝野晶子=1878~1942。歌集「みだれ髪」「舞姫」。




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2011年07月05日

名歌鑑賞・1524

有明の 月の光を 待つほどに 我が世のいたく
ふけにけるかな
             藤原仲文(ふじわらのなかぶみ)
             (拾遺和歌集・436)

(ありあけの つきのひかりを まつほどに わがよの
 いたく ふけにけるかな)

意味・・有明の月の出を待つ間に、夜はしんしんと更けて
    しまったが、それにつけても、人生の有明の頃に
    は栄達の光がと心待ちにしているうちに、私もた
    いそう年老いてしまったことだ。

 注・・有明の月=夜が明けても空に残っている月。

作者・・藤原仲文=923~992。加賀守、正五位下。





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2011年07月04日

名歌鑑賞・1523

鹿をさして 馬といふ人 ありければ かもをもをしと
思ふなるべし
            藤原仲文(ふじわらのなかぶみ)
            (拾遺和歌集・535)

(かをさして うまというひと ありければ かもをも
 をしと おもうなるべし)

詞書・・能宣(よしのぶ)に車に敷く毛織の敷物(氈・おし)を
    貸して欲しいと頼んだら断られたので贈った歌。

意味・・昔、鹿を指して馬といった人があったから、あなた
    も鴨のことを鴛鴦(おし)と思って、私に氈(おし)
    を貸すのを惜しいと思われたのでしょう。

 注・・をし=鴛鴦(おし)、氈(おし)、惜しを掛ける。
    氈=毛織の敷物。
    能宣=921~991。大中臣能宣(おおなかとみのよし
     のぶ)

作者・・藤原仲文=923~992。加賀守、正五位下。




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2011年07月03日

名歌鑑賞・1522

緑濃き 日かげの山の はるばると おのれまがわず
渡る白鷺
             徽安門院(きあんもんいん)
             (風雅和歌集。1739)
(みどりこき ひかげのやまの はるばると おのれ
 まがわず わたるしらさぎ)

意味・・緑濃い、日の光がさす山ははるばる見渡され、
    そこに、姿のまぎれることなくはっきりと飛
    んで行く白鷺。清々しいことだ。

 注・・ひかげ=日影。日光、日差し。
    まがわず=紛わず。紛れるずに。

徽安門院=1318~1358。南北朝時代の歌人。



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2011年07月02日

名歌鑑賞・1521

我が盲ふる 安けきごとし うすうすに 百日紅の 
咲くを待ちつつ
            北原白秋(きたはらはくしゅう)
            (牡丹の木)

(わがしうる やすけきごとし うすうすに ひゅくじつこうの
 さくをまちつつ)

意味・・作者は目がかすんでしまったあきらめの安らかさの
    中にいる。いや、しいて安らかさにあるかのように
    振舞っている。そしてわずかに、毎夏咲き誇った庭
    の百日紅が咲いて、うっすらとでも目にうつる日を、
    心待ちにしているのである。ささやかな病者の心頼
    みである。

 注・・百日紅=さるすべり。紅色の細かい花は花期が長い
     為、百日紅と書く。幹がつるつるで猿も滑って登
     れないということから名がついた。

作者・・北原白秋=1885~1942。詩集「邪宗門」歌集「桐
     の花」「牡丹の木」。




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2011年07月01日

名歌鑑賞・1520

一つ松 幾代か経ぬる 吹く風の 音の清きは
年深みかも
           市原王(いちはらのおおきみ)
           (万葉集・1042)
(ひとつまつ いくよかへぬる ふくかぜの おとの
 きよきは としふかみかも)

意味・・この岡の一本松は一体どのくらい年代がたって
    いるのだろうか。この松を訪れて吹く風の音が、
    こんなに澄み切って聞えるのは、この木がさだ
    めし年久しく経っているからであろう。じつに
    よい音だ。

    枝の太い老松は細い若松と違って、風に対する
    抵抗が強いので、その響きが著しく冴えて聞え
    る。「年深みかも」と詠嘆して樹齢数百年の老
    松であることを示している。

作者・・市原王=志貴皇子の孫。743年従五位下。備中守。




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