2011年09月

2011年09月30日

あけぬるか 河瀬の霧の たえだえに をちかた人の 袖の見ゆるは

あけぬるか 河瀬の霧の たえだえに をちかた人の
袖の見ゆるは
                  大納言経信母
            
(あけぬるか かわせのきりの たえだえに おちかた
 ひとの そでのみゆるは)

意味・・夜が明けてしまったのであろうか。川の浅瀬に
    たちこめていた朝霧がとぎれとぎれの中に、向
    こうの方にいる人の袖が見えるのは。

 注・・をちかた人の=遠方人の。向こうの方にいる人。

作者・・大納言経信母=だいなごんつねのぶのはは。生没
    年未詳。播磨守従四位下源国盛の娘。源経信(1016
    ~1097)の母。

出典・・後拾遺和歌集・324。


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2011年09月29日

名歌鑑賞・1610

いづこにも 月はわかじを いかなれば さやけかるらん
更級の里
             隆源法師(りゅうげんほうし)
             (千載和歌集・277)
(いずこにも つきはわかじを いかなれば さやけ
 かるらん さらしなのさと)

意味・・どこに出る月であっても区別はなかろうに。
    一体どうしてさやかなのだろうか、更級の
    里では。

 注・・わかじ=分がじ。分けない。区別をしない。
    更級の里=長野県更級郡。月の名所。

隆源法師=生没年未詳。「堀河百首」の作者。

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2011年09月28日

曇りなく 千年にすめる 水の面に やどれる月の 影ものどけし

曇りなく 千年にすめる 水の面に やどれる月の
影ものどけし
                 紫式部
            
(くもりなく ちとせにすめる みずのおもに やどれる
 つきの かげものどけし)

意味・・いつまでも永久に澄みわたっていると思われる
    お屋敷の池の水面に、曇りもなく明るく照り輝い
    ている月の光、ともどもに永遠の安らかさが感じ
    られる。

 注・・曇りなく=水の濁りと、空の曇りを掛ける。
    千年にすめる=永久に澄んでいる。水と月の光に
     掛けている。
    のどけし=長閑し。心が安らかである。

作者・・紫式部=むらさきしきぶ。970頃の生まれ。

出典・・新古今和歌集・722。




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2011年09月27日

名歌鑑賞・1608

きりぎりす いたくななきそ 秋の夜の 長き思ひは
我ぞまされる
           藤原忠房(ふじわらのただふさ)
           (古今和歌集・196)
(きりぎりす いたくななきそ あきのよの ながき
 おもいは われぞまされる)

詞書・・人のもとにまかれりける夜、きりぎりすのなき
    けるをよめる。

意味・・こおろぎよ、そんなに悲しそうに鳴いてくれるな。
    秋の夜は長いけれど、それと同じように長くつき
    ない思いは、この私のほうがよほどまさっている
    のであるから。

    この家の主人の嘆き悲しむのを見て、私のほうが
    もっとつらいのですと、我が心の寂しさを詠んだ
    ものです。

 注・・まかれりける=訪ねて行った。
    きりぎりす=今のこおろぎ。
    な・・そ=禁止の意味の助詞。

作者・・藤原忠房=889~928。遣唐使。山城守。正五位下。




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2011年09月26日

いにしへの 倭文の苧環 いやしきも よきもさかりは ありしものなり

いにしへの 倭文の苧環 いやしきも よきもさかりは
ありしものなり
                  詠み人知らず
               
(いにしえの しずのおだまき いやしきも よきも
 さかりは ありしものなり)

意味・・しずの苧環(おだまき)という語があるが、賎(しず)の
    男(いやしい者)にも、身分の高い人にも、それ相応に
    男ざかりはありましたよ。

    今でこそこんな坂道も息を切らせて登っているが、
    昔は平気で登っていたものだ。賤しい人だけでなく
    身分の高いひとも同じように年をとったもだ。

 注・・倭文(しず)の苧環(おだまき)=「倭文」は模様のある
     古代の織物の一種。「苧環」は「倭文」を織るため
     の糸を球状に巻いたもの。「倭文」は「賎(しず)」
     と同音であるので、「賎」と同義の「いやしき」に
     かけた序詞。
    いやしきも=賎しい者も。
    よきも=身分の高い方も。
    さかり=男ざかり、女ざかりの意。

出典・・古今和歌集・888。




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2011年09月25日

名歌鑑賞・1606

秋をへて 昔は遠き 大空に 我が身ひとつの
もとの月影
          藤原定家(ふじわらのていか)
          (定家卿百番自歌合・50)
(あきをへて むかしはとおき おおぞらに わがみ
 ひとつの もとのつきかげ)

意味・・幾多の秋を経て、昔は遠い彼方にある。大空には
    昔を思い出させる変わらぬ月の光、我が身ばかり
    はもとのままである。

    本歌は在原業平の次の歌です。

   「月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身ひとつは
    もとの身にして」

作者・・藤原定家=1162~1241。平安末期から鎌倉初期を
     生きた歌人。

本歌です。

月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ わが身ひとつは 
もとの身にして      
           在原業平(ありはらなりひら)
           (古今和歌集・747)
(つきやあらぬ はるやむかしの はるならぬ わがみ
 ひとつは もとのみにして)

意味・・この月は以前と同じ月ではないのか。春は去年の春と
    同じではないのか。私一人だけが昔のままであって、
    月や春やすべてのことが以前と違うように感じられる
    ことだ。

    しばらく振りに恋人の家に行ってみたところ、すっかり
    変わった周囲の光景(すでに結婚している様子)に接して
    落胆して詠んだ歌です。




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2011年09月24日

鏡だに 捨つればくもる ことわりや おもひてみがけ おのが心を

鏡だに 捨つればくもる ことわりや おもひてみがけ
おのが心を
                  田安宗武
                        
(かがみだに すつればくもる ことわりや おもいて
 みがけ おのがこころを)

意味・・鏡さえも打ち捨てて手入れをしないと曇るのが
    道理である。念を入れて磨きなさいよ、自分の
    心を。

 注・・ことわり=理。条理、道理。

作者・・田安宗武=たやすむねたけ。1715~1771。八代
    将軍徳川吉宗の次男。従三位権中納言。

出典・・悠然院様御詠草(ゆうぜんいんさまごえいそう)。


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2011年09月23日

名歌鑑賞・1604

こころみに ほかの月をも みてしがな わが宿からの
あはれなるかと
             花山院(かざんいん)
             (詞歌和歌集・300)
(こころみに ほかのつきをも みてしがな わがやど
 からの あわれなるかと)

意味・・ためしに他所の月を見てみたいものだ。見る
    場所がこの家ゆえの素晴らしさなのかどうかと。

 注・・あはれ=しみじみと心を打つさま、すてきだ。

作者・・花山院=968~1008。65代天皇。退位後出家。




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2011年09月22日

見し人は ひとり我が身に そはねども 遅れぬ物は 涙なりけり

見し人は ひとり我が身に そはねども 遅れぬ物は
涙なりけり
                   僧正行尊
         
(みしひとは ひとりわがみに そわねども おくれぬ
 ものは なみだなりけり)

意味・・親しくして来た仲間は、一人として我が身と共には
    いないが、私に遅れずに着いて来るものは、我が涙
    だけである。

    共に修行する人々が、厳しさに耐えられずに離れて
    行く、その心細さを詠んでいます。

 注・・見し人=同行の人々。
    遅れぬ物は涙=淋しさゆえの涙。

作者・・行尊=ぎようそん。1055~1135。平等院大僧正。

出典・・金葉和歌集・576。




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2011年09月21日

名歌鑑賞・1602

我も人も うそも誠も 隔てなく 照らし貫きける 
月のさやけさ
             貞心尼(ていしんあま)
             (はちすの露)
(われもひとも うそもまことも へだてなく てらし
 ぬきける つきのさやけさ)

意味・・自分も人も偽りも誠も、区別なく照らし貫いている
    月の光は、なんとさわやかなことでしょう。

作者・・貞心尼=1798~1872。長岡藩士奥村五兵衛の娘。結婚
     したが夫と死別。無常を感じて尼となる。29歳で69
     歳の良寛の弟子となる。歌集「はちすの露」。





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2011年09月20日

雲のうえ 春こそさらに 忘られね 花は数にも  思ひ出でじを

雲のうえ 春こそさらに 忘られね 花は数にも 
思ひ出でじを
                 藤原俊成
            
(くものうえ はるこそさらに わすられね はなは
 かずにも おもいいでじを)

詞書・・遁世ののち花の歌をよめる。

意味・・宮中での春を一向に忘れられないことだ。花の
    方では私を物の数にも思い出さないだろうが。

    華やいだ頃の昔の懐旧を詠んでいます。

 注・・雲のうえの春=宮中の花の宴など。
    さらに=否定語を伴って「決して」。
    数=数えるのに価値のあるもの、ものの数。

作者・・藤原俊成=ふじわらのとしなり。1114~1204。
    正三位非参議皇太后大夫。53歳で出家。「千載
    和歌集」の撰者。

出典・・千載和歌集・1056。





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2011年09月19日

名歌鑑賞・1600

うきながら 見し世は猶も 忍ばれて 聞けば恋しき
昔なりけり
           藤原家隆(ふじわらのいえたか)
           (家隆卿百番自歌合・192)
(うきながら みしよはなおも しのばれて きけば
 こいしき むかしなりけり)

意味・・憂くつらいながらも以前見た世のことはやはり
    懐かしく忍ばれて、聞くにつけ恋しい昔だなあ。

    辛かった時を懐旧して、今の喜びをかみしめて
    いる歌です。

    参考歌です。

   「ながらへばまたこの頃や偲ばれむ憂しと見し世ぞ
    今は恋しき」

 注・・うき=憂き。つらいこと。
    猶(なほ)=やはり。

作者・・藤原家隆=1158~1237。新古今時代の中心的な歌人。

参考歌です。

ながらへば またこのごろや しのばれむ 憂しとみし世ぞ
今は恋しき                  
         藤原清輔(ふじわらのきよすけ)
         (新古今集・1843、百人一首・84)

(ながらえば またこのごろや しのばれん うしとみし
 よぞ いまはこいしき)

意味・・この先、生きながらえるならば、つらいと感じている
    この頃もまた、懐かしく思い出されることだろうか。
    つらいと思って過ごした昔の日々も、今では恋しく
    思われることだから。

    今の苦悩をどうしたらよいものか・・

 注・・憂し=つらい、憂鬱。

作者・・藤原清輔=1104~1177。当時の歌壇の第一人者。




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2011年09月18日

しづかなる 夜半の寝覚めに 世の中の 人のうれへを 思ふくるしさ

しづかなる 夜半の寝覚めに 世の中の 人のうれへを
思ふくるしさ
                   足利直義
           
(しずかなる よわのねざめに よのなかの ひとの
 うれえを おもうくるしさ)

意味・・静かな夜半の寝覚めに、世の中の人々の嘆き悲しみを
    思う我が心の苦しさよ。

    為政者の政治を思う心を述べた歌です。

 うれへ=憂へ。嘆き、悲しみ、不安。

作者・・足利直義=あしかがのたただよし。1306~1352。南北
    朝期の歌人。足利尊氏の弟。

出典・・風雅和歌集・1799。




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2011年09月17日

名歌鑑賞・1598

あまた年 もとの雫を なげききぬ 誰も葉末の
露の身にして
            橘千蔭(たちばなのちかげ)
            (うけらが花)
(あまたどし もとのしずくを なげききぬ たれも
 はすえの つゆのみにして)

意味・・長年、草木の根元の雫のはかなさを人々は嘆いて
    きた。誰もが葉の先の露のようにもっとはかなく
    消えやすい身なのに。

    知人の17回忌で詠んだ歌です。

    参考歌です。

   「末の露もとの雫や世の中の遅れ先立つためしなるらん」

作者・・橘千蔭=1735~1808。江戸町奉行与力。賀茂真淵門。


参考歌です。

末の露 本の雫や 世の中の 後れ先立つ
ためしなるらん  
         僧正遍照(そうじょうへんじょう)
         (新古今和歌集・757)

(すえのつゆ もとのしずくや よのなかの おくれ
 さきだつ ためしなるらん)

意味・・葉先から落ちる露、草木の根元からしたたる
    滴(しずく)は、無常な世の中が、遅速の違い
    があってもいつかはすべて亡びるというよい
    実例であろうか。

    無常の真理を自然を鏡として確かめた歌です。

 注・・末の露本の雫=草木の先のほうの露と根元の
     ほうの雫。
    後れ先立つ=人が後れて死に、先立って死ぬ。
    ためし=実例。
    無常=全ての物が生滅変転してとどまらない
     こと、人の死。

作者・・僧正遍照=890年没、75歳。僧正は僧の一番上
     の位。素性法師の父。36歌仙の一人。




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2011年09月16日

よそになど 仏の道を たづぬらん わが心こそ しるべなりけれ

よそになど 仏の道を たづぬらん わが心こそ
しるべなりけれ
                 藤原忠通
           
(よそになど ほとけのみちを たづぬらん わが
 こころこそ しるべなりけれ)

意味・・どうして他所に仏の道を探し求めたのだろうか。
    我が心こそが仏道の案内者だったのだ。

 注・・しるべ=導。手引き、道案内。

作者・・藤原忠通=ふじわらのただみち。1097~1164。
    太政大臣・従一位。

出典・・詞花和歌集・413。



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2011年09月15日

名歌鑑賞・1596

玉ぐしげ あけぬくれぬと いたづらに 二度もこぬ 
世をすぐすかな
           木下長嘯子(きのしたちょうしょうし)
           
(たまぐしげ あけぬくれぬと いたづらに ふたたびも
 こぬ よをすぐすかな)

意味・・夜が明けた、日が暮れたといって、何をなすこともなく、
    二度と来ないこの世を過ごすことだ。
 
    何事も成し得ない無力な自分を嘆いた歌です。

 注・・玉くしげ=「あけ」に掛かる枕詞。
    あけぬくれぬ=夜が明けた、日が暮れたと言って年月を
     過ごすこと。

作者・・木下長嘯子=1569~1649。秀吉の近臣として厚遇される。
     若狭小浜の城主。関が原合戦の前に伏見城から逃げ出し
     隠とん者となる。

出典・・歌集「林葉累塵集」(古典文学全集・中世和歌集)




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2011年09月14日

草の原 涼しき風や わたるらん 夕露またぬ  虫のこえごえ

草の原 涼しき風や わたるらん 夕露またぬ 
虫のこえごえ
                心敬
            
(くさのはら すずしきかぜや わたるらん ゆうづゆ
 またぬ むしのこえごえ)

意味・・草原を夕方の涼しい風が吹き渡っているから
    だろうか。夕露を待ちきれず鳴き出した虫の
    声々が聞える。
 
    夕べを待ちきれず鳴き出した虫の声に、季節
    の変化を感じている。

 夕露=はかない命を暗示。虫も短い命を力いっぱい
  鳴いていることも暗示している。

作者・・心敬=しんけい。1406~1475。権大僧都。

出典・・寛正百首・41(岩波書店「中世和歌集」)

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2011年09月13日

名歌鑑賞・1594

ことわりや いかでか鹿の 鳴かざらん 今宵ばかりの
命と思へば
             和泉式部(和泉式部)
             (後拾遺和歌集・1000)
(ことわりや いかでかしかの なかざらん こよい
 ばかりの いのちとおもえば)

詞書・・丹後の国にて保昌(やすまさ)朝臣、あす狩せん
    といひける夜、鹿の鳴くをききてよめる。

意味・・鳴くのも道理ですよ。どうして鹿が鳴かないで
    しょうか。鳴きもしますよ。今宵だけの命だと
    思えば。

 注・・ことわりや=理や。当然ですよ。
    保昌朝臣=藤原保昌。1036年没。丹後守・正四位下。

作者・・和泉式部=生没年未詳。1007年藤原保昌と結婚。
     「和泉式部日記」。



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2011年09月12日

行く水の 渕瀬ならねど あすか風 きのふにかはる 秋は来にけり

行く水の 渕瀬ならねど あすか風 きのふにかはる
秋は来にけり
                 頓阿法師
            
(ゆくみずの ふちせならねど あすかかぜ きのうに
 かわる あきはきにけり)

意味・・流れ行く水の渕瀬ではないけれど、飛鳥の里に
    吹く風は昨日に変り、今日秋が訪れたよ。

    参考歌です。
   「世の中はなにか常なる飛鳥川昨日の渕ぞ今日は
    瀬になる」

 注・・あすか=飛鳥の里。奈良朝以前に都が置かれた所。

参考歌です。

世の中は なにか常なる 飛鳥川 昨日の渕ぞ
今日は瀬になる         
                 詠み人しらず
            
(よのなかは なにかつねなる あすかがわ きのう
 のふちぞ けふはせになる)

意味・・この世の中は、いったい何が変わらないのか、
    不変のものは何一つない。飛鳥川の流れも昨
    日渕であった所が今日はもう浅瀬に変わって
    いる。

    世の中の移り変わりが速いことを詠んだもの
    です。

 注・・あすか川=奈良県飛鳥を流れる川。明日を掛
     けている。
    渕=川の深く淀んでいる所。
    瀬=川の浅く流れの早い所。

出典・・古今和歌集・933。




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2011年09月11日

名歌鑑賞・1592

藤袴 着て脱ぎかけし 主やたれ 問へどこたへず 
野辺の秋風
           源実朝(みなもとのさねとも)
           (金槐和歌集・215)
(ふじばかま きてぬぎかけし ぬしはたれ とえど
 こたえず のべのあきかぜ)

意味・・香りがただよっている。誰が脱ぎかけた藤袴なの
    だろう。野辺の秋風に問えど答えずに吹き去って
    行く。

作者・・源実朝=1192~1219。28歳。源頼朝の次男。鎌倉
     幕府の三代将軍。鶴岡八幡宮で暗殺される。
     「金槐和歌集」


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2011年09月10日

手に取れば 袖さへにほふ 女郎花 この白露に  散らまく惜しも

手に取れば 袖さへにほふ 女郎花 この白露に 
散らまく惜しも
                 詠み人知らず
             
(てにとれば そでさえにおう おみなえし この
 しらつゆに ちらまくおしも)

意味・・手に取ると袖まで染まる色美しい女郎花なのに、
    この白露のために散るのがはや今から惜しまれる。

 女郎花=秋の七草の一。黄色い花が粟に似ているから粟花」
  の別名がある。

出典・・万葉集・2115。



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2011年09月09日

名歌鑑賞・1590

秋の野に 咲きたる花を 指折り かき数ふれば 
七種の花 (その一)          
            山上憶良(やまのうえのおくら)
            (万葉集・1537)
(あきののにさきたるはなを およびおり かき
 かぞうれば ななくさのはな)

意味・・秋の野に咲いている花を、指折り数えて見ると、
    七種の花がある。


萩の花 尾花葛花 なでしこの花 をみなへし
また藤袴 朝顔の花 (その二)
             山上憶良(やまのうえのおくら)
             (万葉集・1538)
(はぎのはな おばなくずばな なでしこのはな おみなえし
 またふじばかま あさがおのはな)

意味・・萩の花、尾花、葛の花、なでしこの花、おみなえし
    それから藤袴、朝顔の花。

    秋の七草は山上憶良が選定して今に至っている。

注・・朝顔=今の桔梗のこと。

作者・・山上憶良=660~733。遣唐使。筑前守。



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2011年09月08日

梨棗 黍に粟つぎ 延ふ葛の 後も逢はむと 葵花咲く

梨棗 黍に粟つぎ 延ふ葛の 後も逢はむと
葵花咲く
              詠み人知らず
         
(なしなつめ きみにあわつぎ はうくずの のちも
 あわんと あおいはなさく)

意味・・梨・棗・黍(きび)・粟と次々に実のっても、私は
    早々に離れた君と今は逢えないけれど、延び続け
    る葛のように後には逢えようと、葵の花が咲いて
    いる。

    植物六種の取り合せと掛詞の面白さを詠む。

 注・・梨棗=字音の等しい「離・早(りそう)」を掛ける。
    黍(きみ)に粟つぎ=「君に逢わず」を掛ける。
    延(は)ふ葛=「後は逢はむ」の枕詞。
    葵(あふひ)=アオイ科の草。「逢う日」を掛ける。

出典・・万葉集・3834。



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2011年09月07日

名歌鑑賞・1588

朝顔は 朝露負ひて 咲くといへど 夕影にこそ 
咲きまさりけれ
             読人知らず
             (万葉集・2104)
(あさがおは あさつゆおいて さくといえど ゆうかげに
 こそ さきまさりけれ)

意味・・朝顔はその名のように朝露を浴びて咲くものだと
    聞いていたが、夕方の淡い光の中でこそ、ひとき
    わ見事に咲きにおうものである。

    名と違って、夕方の見事さに気づいて詠んだ歌。

 注・・あさがお=今の朝顔、槿(むくげ)、桔梗など。
     ここでは桔梗。

     


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2011年09月06日

人皆は 萩を秋と言ふ よし我は 尾花が末を 秋とは言はむ

人皆は 萩を秋と言ふ よし我は 尾花が末を
秋とは言はむ
                詠み人知らず
           
(ひとみなは はぎをあきという よしわれは 尾花が
 うれを あきとはいわん)

意味・・世間の人は皆、萩こそが秋を告げる花と言う。
    よしそれならば、私は尾花の穂先だって秋ら
    しいのだと言おう。

    萩の花に秋の到来を喜ぶ一方、尾花に秋の風情
    の深まりを期待する歌です。

 注・・よし=縦。不満足ではあるがしかたがないと
     許容・放任する意を表す。ままよ。
    尾花=薄のこと。

出典・・万葉集・2110。




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2011年09月05日

名歌鑑賞・1586

野辺見れば なでしこの花 咲きにけり 我が待つ秋は 
近づくらしも
             作者不詳
             (万葉集・1972)
(のべみれば なでしこのはな さきにけり わがまつ
 あきは ちかづくらしも)

意味・・野辺を見やると、なでしこの花がもう一面に
    咲いている。私が首を長くして待っている秋
    は、もうそこまで来ているようだ。



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2011年09月04日

我が背子を いつぞ今かと 待つなへに 面やは見えむ 秋の風吹く

我が背子を いつぞ今かと 待つなへに 面やは見えむ
秋の風吹く
                   藤原宇合
             
(わがせこを いつぞいまかと まつなえに おもやは
 みえん あきのかぜふく)

意味・・あの人はいつ来るだろうか、今にでもすぐに
    来ると待っているが、ひょっとしてらお顔を
    見せないのではなかろうか。いたづらに秋の
    風が吹いてくる。

    女の立場に立って宴席で詠んだ歌です。

 注・・背子=妻が夫を女性が恋人を呼ぶ語。
    なへに=・・とともに、・・するにつれて。

作者・・藤原宇合=ふじわらのうまかい。694~737。
    遣唐使。陸奥守。正三位。

出典・・万葉集・1533。





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2011年09月03日

名歌鑑賞・1584

風をだに 恋ふるは羨し 風をだに 来むとし待たば
何か嘆かむ
            鏡王女(かがみのおおきみ)
            (万葉集・489)
(かぜをだに こうるはともし かぜをだに こんとし
 またば なにかなげかん)

意味・・風の音さえ恋心がゆさぶられるとは羨ましい
    ことです。風にさえ胸ときめかして、もしや
    おいでかと待つというのなら、何を嘆く事が
     ありましょう。
  
    自分には訪れてくれる人のあてもない嘆きを
    詠んでいます。

    万葉集の488に額田王の次の歌が並べられてい
    ます。

   「君待つと 我が恋ひ居れば 我が屋戸の 簾動かし
    秋の風吹く」

作者・・鏡王女=生没年未詳。額田王の姉か。舒明天皇(640
年頃の人)の娘または孫。

参考歌です。

君待つと 我が恋ひ居れば 我が屋戸の 簾動かし
秋の風吹く
             額田王(ぬかたのおおきみ)
             (万葉集・488)       
(きみまつと わがこいおれば わがやどの すだれ
 うごかし あきのかぜふく)

意味・・あの方のおいでを待って恋しく思っていると、
    家の戸口の簾をさやさやと動かして秋の風が
    吹いている。

    夫の来訪を今か今かと待ちわびる身は、かす
    かな簾の音にも心をときめかす。秋の夜長、
    待つ夫は来ず、簾の音は空しい秋風の気配を
    伝えるのみで、期待から失望に思いは沈んで
    行く。

 注・・屋戸=家、家の戸口。

作者・・額田王=生没年未詳。万葉の代表的歌人。


    


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2011年09月02日

とまるべき 宿をば月に あくがれて 明日の道行く  夜半の旅人

とまるべき 宿をば月に あくがれて 明日の道行く 
夜半の旅人
            京極為兼(きょうごくのためかね)
            
(とまるべき やどをばつきに あくがれて あすの
みちゆく よわのたびびと)

意味・・泊まるはずの宿を、美しい月に心が誘いだされて、
    明日行くはずの道を歩み始めた、夜更けの旅人よ。

 注・・あくがれて=心がうかうかと落ち着かない。

作者・・京極為兼=1254~1332。伏見院の近臣であったが
     土佐に流される。鎌倉期歌人。「玉葉集」の選者。

出典・・玉葉和歌集・1142。




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2011年09月01日

名歌鑑賞・1582

吹く風の 色こそ見えね 高砂の 尾の上の松に
秋は来にけり
            藤原秀能(ふじわらひでよし)
            (新古今和歌集・290)
(ふくかぜの いろこそみえね たかさごの おのえの
 まつに あきはきにけり)

意味・・吹く風の色は秋とは見えないが、高砂の峰の松に、
    秋は来たことだ。

    本歌は、
   「秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ
    おどろかれぬる」

 注・・高砂=兵庫県加古川市尾上町。松の名所。

作者・・藤原秀能=1284~1240。正五位上・出羽守。
     承久の乱に破れて出家。


本歌です。

秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ
おどろかれぬる
          藤原敏行(ふじわらのとしゆき)
          (古今和歌集・169)

(あききぬと めにはさやかに みえねども かぜの
 おとにぞ おどろかれぬる)

意味・・秋が来たと目にははっきり見えないけれど、
    風の音にその訪れを気ずかされることだ。

    見た目には夏と全く変化のない光景ながら、
    確実に気配は秋になっていると鋭敏な感覚で
    とらえている。とくに朝夕の風にそれがいち
    早く感じられるが、歌の調べも、その秋風を
    聞いているような感じです




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