2014年02月

2014年02月28日

名歌鑑賞・2493

遠山に日の当たりたる枯野かな
                    高浜虚子

(とおやまに ひのあたりたる かれのかな)

意味・・日のかげった枯れ野を歩いて行くと、行く手
    の遠くに見える山の頂にぽっかりと日が当た
    っている。

    春はもうすぐそこに来ている。行く手には光
    明が見える。今は辛いがもう少しの辛抱だ。

作者・・高浜虚子=たかはまきよし。1874~1955。
    仙台第二高校退校。文化勲章を受章。

出典・・句集「五百句」(尾形仂篇「俳句の解釈と鑑賞辞典」)



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2014年02月27日

名歌鑑賞・2492

つららいし 細谷川の とけゆくは 水上よりや
春は立つらん
                 皇后宮肥後

(つららいし ほそたにがわの とけゆくは みなかみ
 よりや はるはたつらん)

意味・・氷の張っていた流れの細い谷川が解けてゆく
    のは、上流から春になるからなのであろうか。

 注・・つららいし=氷柱いし、氷いし。水面などに
     張った氷。
    細谷川=山深い川の上流。

作者・・皇后宮肥後=こうごうぐうのひご。生没年未詳。

出典・・金葉和歌集・4 。



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2014年02月26日

名歌鑑賞・2491

地に我が影 空に愁ひの 雲のかげ 鳩よ何処の
夕日と往ぬる
                  山川登美子

(ちにわがかげ そらにうれいの くものかげ はとよ
 いずこの ゆうひといぬる)

意味・・地にあるものは、憂いに沈む我が影である。空に
    たなびいて見えるものは、われとひとしき憂いに
    充ちた雲の影である。かの空へ鳩は飛んで行った。
    あの鳩よ。この愁いの夕暮れに去って、何処に赴
    かんとするのか。

    亡夫に繋(つな)がる挽歌である。登美子は23歳で
    結婚して間もなく夫は病気を患う。そして2年後
    に夫に先立たれてしまった。この頃詠んだ歌です。
    これから先、どうしたらよいのだろうか。鳩にも
    飛び去られた今、愁いがつのる一方の気持ちを詠
    んでいます。

作者・・山川登美子=やまかわとみこ。1879~1909。30歳。
    大阪・梅花女学校卒。与謝野鉄幹、与謝野晶子ら
    と「明星」で活躍。

出典・・竹西寛子著「山川登美子」。



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2014年02月25日

名歌鑑賞・2490

友がみな われよりえらく 見ゆる日よ
花を買ひ来て
妻としたしむ
             石川啄木

意味・・中学時代のクラスメート達は次々と出世して、
    自分などより偉く見える日よ。そんなみじめ
    さを感じる日、僕は、花屋さんから明るく美
    しい赤い花などを買い求め来て、家に持ち帰
    り、それを愛する妻と一緒に賞(め)でながら、
    親しく語り合っているのである。

    ささやかで平凡であるが、こんな名利を
    離れた、かけがえのない幸福感に浸って
    いると、いつしかあの子供じめたみじめ
    さなど、どこかに消えてしまうことだ。

作者・・石川啄木=いしかわたくぼく。1886~1912。
     26歳。盛岡尋常中学校中退。与謝野夫妻に
     師事するため上京。朝日新聞校正の職につ
     く。歌集「悲しき玩具」「一握の砂」。

出典・・歌集「一握の砂」。



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2014年02月24日

名歌鑑賞・2489

道の辺の 草にも花は 咲くものを 人のみあだに
生まれやはする
                 大西祝

(みちのべの くさにもはなは さくものを ひとの
 みあだに うまれやはする)

意味・・道野辺の名も知らない草さえ花をつけている。
    これを思えば人は無駄に生まれて来たのでは
    ない。何かを成すために生まれたのだ。

    草の実は風に飛ばされた所に根ずく。良い環
    境もあれば悪い環境もある。土壌の肥えた地
    に咲く花。石ころの中でも花を咲かせる草。
    育つ環境の良し悪しはあるが、どちらが幸か
    不幸かは一概には言えない。与えられた環境
    の中で、力一杯たくましく生きられたら、こ
    れは幸せだ。今、人に踏まれそうな道野辺に
    花が力一杯咲いている。これを思えば、人も
    自分の環境に応じて、自分の持てる力を出し
    切れるものだ。

 注・・みあだ=み徒。無駄。「み」は接頭語。

    
作者・・大西祝=おおにしはじめ。1864~1900。36才。
    東大文学部卒。哲学者。

出典・・未詳(木村山治郎著「道歌教訓和歌辞典」)



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2014年02月23日

名歌鑑賞・2488

霰ふる音にも世にも聾傘
                長谷川馬光

(あられふる おとにもよにも つんぼがさ)

意味・・霰が降るなかに傘をさして行くと、傘に
    ぱらぱらとうるさいほどであるはずだが、
    年をとつて耳が遠くなったので霰の音も
    それほどには聞こえない。、そのように
    公の勤めをやめた自分には、世の中の動
    きにも無頓着に、遁世したような暮らし
    をしている。

作者・・長谷川馬光=はせがわばこう。1685~
    1751。医者の家の次男。山口素堂に師事。

出典・・句集「かさねがさ」(日本古典文学全集
    「近世俳句俳文集」)



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2014年02月22日

名歌鑑賞・2487

天地の 和して一輪 福寿草 さくやこの花
幾代経るとも
              二宮尊徳

(あめつちの わしていちりん ふくじゅそう さくや
 このはな いくよふるとも)

意味・・長い冬の峠を越え、ついに春の兆しを伝える福
    寿草のつぼみが雪の中から現れた。
    この愛らしい花は、天の恵みと地の恵みが一体
    となって生まれたものである。この異なるもの
    二つが一つになる事を「和」というが、福寿草
    も和の恵みを受けて今年も花を咲かせた。来年
    も再来年も、ずっと咲き続けて福寿、すなわち
    「幸福と長寿」を子々孫々まで願いたいものだ。

    思えば、人間社会の「福」も、人と人とが和合
    して初めて生まれるものである。お互いに反発
    しあい、闘争しあっては幸福の花は咲かないも
    のである。

 注・・福寿草=金鳳花(きんぽうげ)科の花。2月から3
     月にかけて黄色の花を咲かす。「幸福と長寿」
     の一字取っているので、縁起のいい花として
     正月によく飾られる。また、南天の実とセット
     で「難を転じて福となす」という縁起ものとし
     て飾られる。

作者・・二宮尊徳=にのみやたかのり。一般にそんとくと
     読まれる。通称二宮金次郎。1786~1856。江戸
     時代の農政家・思想家。

出典・・メールマガジン「おかみさん便り」。
    


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2014年02月21日

名歌鑑賞・2486

吹きくれば 香をなつかしみ 梅の花 ちらさぬほどの
春風もがな
                 源時綱

(ふきくれば かをなつかしみ うめのはな ちらさぬ
 ほどの はるかぜもがな)

意味・・風が吹いて来ると、風が運んで来る梅の香りが
    したわしいので、風は吹いてほしいのだが、風
    が吹けば花は散ってしまう。だから、花を散ら
    さない程度の春風であつたならなあ。

作者・・源時綱=みなもとのときつな。生没年未詳。従
    五位上・肥後守。

出典・・詞花和歌集・9。



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2014年02月20日

名歌鑑賞・2485

父の部屋 いまだにずっと おいてある 昔にあげた
父の似顔絵
                   園田理恵

(ちちのへや いまだにずっと おいてある むかしに
 あげた ちちのにがおえ)

意味・・ある日、久しぶりに父の部屋に入った。壁には
    小さい頃私が描いた父の似顔絵を未だずっと飾
    っている。

作者・・園田理恵=そのだりえ。‘12年当時大阪女学院高
    等学校2年。

出典・・同志社女子大学篇「31音青春のこころ・2012」。



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2014年02月19日

名歌鑑賞・2484

我れゆ後 生まれむ人は 我がごとく 恋する道に
あひこすなゆめ
                  柿本人麻呂

(われゆのち うまれんひとは わがごとく こいする
 みちに あいこすなゆめ)

意味・・私よりも後に生まれて来る人は、この私のよう
    に、恋する道に踏みこんでくださるな、決して。

    私は恋の苦しみに悩んで来た。後世の人よ、恋
    に敗れて気力を無くす思いをしないでくれ。

 注・・ゆ=・・から。動作の時間的・空間的起点を表す。
    道=恋の苦しさを道に譬える。
    あひ=相。ともに・・(恋を)する。
    こす=下手に出て頼む意。・・してほしい。
    な=禁止の助詞。
    ゆめ=禁止表現を伴って、けっして。

作者・・柿本人麻呂=かきのもとのひとまろ。生没年
    未詳。810年頃死亡。宮廷歌人。

出典・・万葉集・2375。



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2014年02月18日

名歌鑑賞・2483

空を突く 岩に照る日の てりかへし 谷のひかげのみ
雪を照らす
                  三井甲之

(そらをつく いわにてるひの てりかえし たにの
 ひかげのみ ゆきをてらす)

詞書・・御嶽に遊ぶ。

意味・・思いリュックを背負って山登りをしています。
    かなり登った所で一休み。周りの風景を見渡
    します。
    遠くは山々が連なり、間近は空を突き刺すよ
    うに、あるいは削り立った高い岩が見えます。
    空は晴れて青空が見えます。日影になった谷
    には雪が消え残っており、岩に反射された光
    によって白々とはっきり見える。
    うん、ここまでよく登ったものだ。さあ元気
    をだして出発。

 注・・御嶽=御嶽山。長野県と岐阜県にまたがる
     3067mの山。

作者・・三井甲之=みついこうし。1883~1953。
    東大文学部卒。右翼思想家。根岸短歌会に属
    し伊藤左千夫の指導を受ける。

出典・・湯浅竜起著「短歌鑑賞十二か月」。



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2014年02月17日

名歌鑑賞・2482

心から うきたる舟に 乗りそめて 一日も浪に
濡れぬ日ぞなき
                 小野小町

(こころから うきたるふねに のりそめて ひとひも
 なみに ぬれぬひぞなき)

意味・・自分の心のままに「浮き」ではなく「憂き」た
    る舟に乗りそめて、一日も浪ならぬ涙に濡れな
    い日はありません。

    誰に強制されたものでなく、自分からその男と
    の関係を作り、今、つれない態度をとられたの
    であって、誰をも怨むことも出来ないと、嘆い
    ています。

 注・・心から=我が心から。
    うきたる舟=「浮き」に「憂き」を掛ける。
    浪=「波」に「涙」を掛ける。

作者・・小野小町=おののこまち。生没年未詳。840年
    頃、後宮(こうきゅう・ 王や皇帝などの后妃が
    住まう場所)に仕えた。六歌仙の一人。絶世の
    美女という小町伝説がある。    

出典・・後撰和歌集・779。



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2014年02月16日

名歌鑑賞・2481

梅の花 夢に語らく みやびたる 花と我れ思ふ
酒に浮かべこそ
                大伴旅人

(うめのはな ゆめにかたらく みやびたる はなと
 われおもう さけにうかべこそ)

意味・・梅の花が夢でこう語った。「私は風雅な花だ
    と自負しています。無駄に私を散らさないで
    ほしい。どうか酒の上に浮かべてください」。

    風も無く静かに散る梅の花。これを盃で受け
    ながら、歌を詠む。風流の極みを詠んでいる。

作者・・大伴旅人=おおともたびと。665~731。大宰
    帥(そち) の後、大納言になる。従二位。

  
出典・・万葉集・852。



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2014年02月15日

名歌鑑賞・2480

「寒いね」と 話しかければ 「寒いね」と 答える人の
いるあたたかさ
                     俵万智

(「さむいね」と はなしかければ 「さむいね」と こたえる
 ひとの いるあたたかさ)

意味・・「今日は寒いね」と話しかけたら、「この冬一番の
    寒さだね」と答えてくれる人が、自分の側にいる。
    なんと嬉しいことでしょう。

作者・・俵万智=たわらまち。1962~ 。早稲田大学文学部卒。
    歌集「サラダ記念日」は300万部のベストセラー。

出典・・歌集「サラダ記念日」
    


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2014年02月14日

名歌鑑賞・2479

手のひらに 豆腐をのせて いそいそと いつもの角を
曲がりて帰る
                   山崎方代

(てのひらに とうふをのせて いそいそと いつもの
 かどを まがりてかえる)

意味・・私の楽しみは豆腐を食べることである。豆腐を
    つまみに酒を飲むと何ともいえない幸せを感じ
    る。
    豆腐を入れる器はいらない、とにかく豆腐が手
    に入ればいいのである。
    今日も売り切れずに買う事が出来た。良かった。
    さあ急いで帰ろう。角を曲がれば我が家はすぐ
    そこだ。手のひらにのった豆腐はうまいぞ、酒
    がうまいぞ。

    今のスーパーでビニール入りの豆腐を買うので
    はなく、「お豆腐屋さん」に行って買う時代で
    ある。無職に近い方代は器なんか気にしない。
    買う金が無い時もある。売り切れて買えない時
    もある。豆腐が買えた事が嬉しい。この豆腐で
    美味い酒が飲めるのは楽しみだ。急いで帰ろう。

    豆腐が買えた喜びと、これで美味い酒が飲める
    という楽しみ、この喜び二つを詠んでいます。

    病気のお母さんが豆腐を食べたいと言ったので、
    湯豆腐にして食べさせて喜んでもらおうと、豆腐
    を買って、いそいそと家に帰っていると鑑賞して
    もよい。

    日々の生活に、「嬉しきこと二つ」を持つ事は、
    「喜び」を意識するという事は、いい事である。    

    古典に見る「嬉しきこと二つ」、枕草子・129段
    参考です。

    経房(つねふさ)中将おはして、
   「頭弁(とうのべん)はいみじう褒めたまふとは、知
    りたりや。一日(ひとひ)の文にありし言(こと)な
    ど語りたまふ。想う人の、人に褒めらるるは、い
    みじう嬉しき」など、まめまめしうのたまふも、
    をかし。
   「嬉しきこと二つにて。かの褒めたまふなるに、ま
    た、想ふ人のうちにはべりけるをなむ」といへば、
   「それめづらしう、今のことのようにもよろこびた
    まふかな」など、のたまふ。

    ある時、清少納言の所に、ボーイフレンドの源経房
    がやって来て、「清少納言さん、あなたの事を藤原
    行成がベタほめしていましたよ。自分の好きな人が、
    他の人に褒められのは嬉しい事ですね」と言った。
    うてば響くように、清少納言は答えた。
   「あら、嬉しきこと二つですわ。行成様が褒めてくだ
    さった事が一つ、その上に、また、あなたが思う女
    の中に加えていただけた事、それで、二つですわ」

作者・・山崎方代=やまざきほうだい。1914~1985。甲
    府市・右左口(うばぐち)尋常小学校卒。1941年戦
    傷で右目を失明。靴の修理をしながら各地を放浪。
    毎年9月鎌倉の瑞泉寺で方代忌か催されている。

出典・・尾崎佐永子著「鎌倉百人一首を歩く」。




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2014年02月13日

名歌鑑賞・2478

夕暮れの 心の色を 染めぞおく 果てつる鐘の
声のにほひに
                正徹

(ゆうぐれの こころのいろを そめぞおく はてつる
 かねの こえのにおいに)

意味・・仕事が一段落した夕暮れの、落ち着いた気分に
    なったこういう時を、長く心に留めておこう。
    撞き終わる寺の晩鐘の余韻に浸る事によって。

    どどどん~、どどどん~という太鼓の音を聞け
    ば気持ちを奮い立たせてくれるが、その反面、
    ご~んという梵鐘の音は、静けさをもたらし心
    を落ち着かせてくれる。この鐘の音を聞きなが
    ら、今日一日の無事に感謝し、ゆったりした気
    持ちになり明日に備えよう。    

 注・・心の色=心の様子、深く思っている心の状態。
    染めぞおく=深く心に染(し)み入れておく。
    声のにほひに=美しく映える鐘の音に。

作者・・正徹=しょうてつ。1381~1459。東福寺の僧。
     冷泉為尹(れいぜいためまさ)に師事。

出典・・歌集「草根集」(窪田章一郎編「和歌鑑賞辞典」)。




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2014年02月12日

名歌鑑賞・2477

七里浜 夕日漂ふ 波の上 伊豆の山々
果てし知らずも
             西田幾太郎

(しちりはま ゆうひただよう なみのうえ いずの
 やまやま はてししらずも)

意味・・東京にいる時と比べ鎌倉にいると、ゆったり
    した時が流れている。急がなくてもいい。あ
    わてなくてもいい。そんな気分にしてくれる
    のが七里ガ浜である。今、藁の上に寝ころん
    でいる。
    今、夕日が沈み波の上は赤く光輝いている。
    山側では、富士山のシルエット、その右には
    丹沢、手前に箱根、左に天城山から伊豆半島
    全てが影絵のように浮かび上がる。そして、
    自分の小天地に入り、瞑想の世界に入って行
    く。
    今日も一日が無事に終わろうとしている。私
    の人生は波乱万丈であった。その苦悩の果て
    今は安らぎを感じさせてくれる。

    西田幾多郎の言葉「人間の至福は高屋にあら
    ず、風景にあらず、ただ無事平常の中にあり」
    の心境を詠んだ歌です。

    七里ガ浜にはこの歌の歌碑が建てられていま
    す。

注・・果てし知らず=「山々が果てなく続いている」
     の意と「苦悩の果てに安らかである」の意。

作者・・西田幾多郎=にしだきたろう。1870~1945。
     東大選科修了。京大教授。若い時肉親(姉・
     弟・娘二人・長男)の死、父の事業の失敗で
     破産、妻との離縁と多くの苦難を味わった。

出典・・尾崎佐永子著「鎌倉百人一首を歩く」。



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2014年02月11日

名歌鑑賞・2476

草も木も ふりまがへたる 雪もよに 春待つ梅の
花の香ぞする
                  源道具

(くさもきも ふりまがえたる ゆきもよに はるまつ
 うめの はなのかぞする)

意味・・雪が吹きしきる中、早くも白梅が咲いているの
    か。草も木も真っ白で見分けられないが、春を
    待つ梅の花の香りが匂ってきているように思
    われる。

 注・・ふりまがへたる=降り紛へたる。区別がつかな
     いように降る。
    雪もよに=雪が盛んに降るなかで。

作者・・源通具=みなもとのみちとも。1170~1227。
     新古今和歌集の撰者の一人。

出典・・新古今和歌集・684。 



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2014年02月10日

名歌鑑賞・2475

野も山も 冬はさびしと 思ひけり 雪に心の
うかるるものを
                 賀茂真淵

(のもやまも ふゆはさびしと おもいけり ゆきに
 こころの うかるるものを)

意味・・野も山も、冬に限っては、さびしいと思って
    いたのだが、雪が降れば、野も山も雪景色と
    なり、その美しさに気持ちが高ぶってくるも
    のだ。

   
 注・・冬は=「は」他の季節に対させたもの。
    うかるる=浮かるる。面白さに心が奪われる。
     興にのる。

作者・・賀茂真淵=かものまぶち。1697~1769。本居
    宣長ら多くの門人を育成した。

出典・・「賀茂翁家集」(日本の古典「蕪村・良寛・一茶」)

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2014年02月09日

名歌鑑賞・2474

巨勢山の つらつら椿 つらつらに 見つつ思はな
巨勢の春野は
                 坂門人足

(こせやまの つらつらつばき つらつらに みつつ
 おもわな こせのはるのは)

意味・・巨勢山に行ってみれば、連なりあふれ咲いて
    いる椿は、いま、葉が照り輝いているだけで、
    花は咲いていない。でも、椿の樹をつくづく
    と見て、巨勢の春の野に花咲く椿を偲びまし
    よう。

    椿が咲く前の姿を見て詠んだ歌です。参考歌
    は椿が満開に咲いた時の春日老の歌です。

    川のへの つらつら椿 つらつらに 見れど
    飽かず 巨勢の春野は   (万葉集・56)

 
   (川のほとりに満開となって咲く椿の花は、念入
    りにじっくり見ても飽きはしない。巨勢の春の
    野の 景色は)

 注・・つらつら椿=連ら連ら椿。連なっている椿。沢  
     山の椿の花が満開になった状態。
    つらつらに見れど=熟に見れど。つくづく見る。
     念を入れて見る。
    巨勢(こせ)=奈良県御所(ごせ)市古瀬の地。大和
     と紀伊とを結ぶ交通の要所であった。

作者・・坂門人足=さかとのひとたり。伝未詳。

出典・・万葉集・54。



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2014年02月08日

名歌鑑賞・2473

はなはだも 降らぬ雪ゆえ こちたくも 天つみ空は
曇らひにつつ
                  詠み人知らず

(はなはだも ふらぬゆきゆえ こちたくも あまつ
みそらは くもらいにつつ)

意味・・たいして多く降るわけでもない雪なのに、空は
    ひどく曇っている。

    降るだけ降ったなら、雲はたちまち晴れようも
    のを。降りしぶって暗い雪雲の空だと、うっと
    しい天候に支配され、気分がさえないものだ。

 注・・はなはだ=甚だ。過度に、とても、たいそう。
    こちたくも=言痛くも。人の噂がうるさい。大
     げさな、仰々しい。

出典・・万葉集・2322。



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2014年02月07日

名歌鑑賞・2472

悲しさよ まさりにまさる 人の世に いかに多かる
涙なりけり
                  伊勢

(かなしさよ まさりにまさる ひとのよに いかに
 おおかる なみだなりけり)

意味・・どうしてこんな悲しい事が続き、前の悲しみ
    より次の悲しみは、どうしてこんなに深くな
    るのか。私はこの人生に、いったい、どれ程
    の涙を流せばいいのだろう。

作者・・伊勢=生没年未詳。宇多天皇の皇后に仕える
     女官。皇后の弟と恋仲になるが恋人に捨て
     られる。宇多天皇との間に子供が生まれた
     が引き離された。その子は5歳で亡くなっ
     た。天皇の死、そして天皇の親王と恋仲に
     なり子供を生む。このような波乱万丈の人
     生を送る。

出典・・清川妙著「人生をたのしむ言葉」。



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2014年02月06日

名歌鑑賞・2471

浦ちかく ふりくる雪は 白浪の 末の松山
こすかとぞ見る
                藤原興風

(うらちかく ふりくるゆきは しらなみの すえの
 まつやま こすかとぞみる)

意味・・海岸には、雪が風に乗って一面に降っているが、
    それは海から白波が押し寄せて来るようだ。そし
    て、波が絶対に越す事がないといわれる陸奥(み
    ちのく)の末の松山まで越すのではなかろうかと
    見えることだ。

    参考です。

    君おきてあたし心をわが持てば末の松山波も越え
    なむ         (古今集・1093)

   (あなたをさしおいて他の人に心を移すことなんて
    事があろうはずはありません。そんな事があれば
    あの海岸に聳える末の松山を波だって越えてしま
    うでしょう)

 注・・浦ちかく=海岸の付近。
    末の松山=宮城県多賀城市八幡。

作者・・藤原興風=ふじわらのおきかぜ。生没年未詳。

出典・・古今和歌集・326。


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2014年02月05日

名歌鑑賞・2470

あぶないもの ばかり持ちたがる 子の手から 次々にものを
とり上げてふっと寂し
                      五島美代子

(あぶないもの ばかりもちたがる このてから つぎつぎに
 ものを とりあげてふっとさびし)

意味・・怪我をしては大変だと、ひやひやさせられるような
    危ない物ばかり持ちたがる幼児、何でも口に入れた
    がる幼児。これら次々に、幼児の手から物を取り上
    げたあと、ふと寂しくなった。

    親は目を離せない一時期がある。怪我をさせたら大
    変だという気持ちから、幼児の手から次々に取り上
    げた時、幼児の好奇心をそげるような行為に、ふと
    寂しくなった。

作者・・五島美代子=ごとうみよこ。1898~1978。東大聴
     講生として国文学を学ぶ。専修大学教授。佐々木
     信綱に師事。五島茂は夫。

出典・・五島美代子歌集(窪田章一郎編「現代短歌鑑賞辞典」)




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2014年02月04日

名歌鑑賞・2469

早生りの 津軽のりんご かたく酸し 噛みて亡き吾娘の
ごとしと思ふ
                 五島茂

(はやなりの つがるのりんご かたくすゆし かみて
 なきあこの ごとしとおもう)

意味・・秋を待って成熟するりんごではなく、早生り種
    の津軽りんごは硬く酸っぱい。このりんごを噛
    んで食べていると、この味は、早く亡くなった
    我が娘が思い出されてくる。一人の人間として
    人生的にも未熟であったのが、父として傷まし
    い。せめて一人前になるまで、生きていてほし
    かった。

    東大在学中に亡くなった娘が亡くなって半年後
    に詠んだ歌です。

 注・・早生りの津軽のりんご=8月下旬から9月中旬に収
     穫される。硬い味と少し酸い味がある。

作者・・五島茂=ごとしげる。1900~2003。東大経済学
     部卒。明大教授。経済学博士。

出典・・五島茂歌集(窪田章一郎編「現代短歌鑑賞辞典」)。



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2014年02月03日

名歌鑑賞・2468

うつせみの 世やも二行く 何すとか 妹にも逢はずて
我がひとり寝む
                  大伴家持

(うつせみの よやもふたゆく なにすとか いもにも
 あわずて あがひとりねん)

意味・・この現実の世がもう一度繰り返される事があろ
    うか。それなのに、このかけがえのない夜を、
    あなたに逢わないで、寂しく、ひとり寝が出来
    ようか。
    出来ない、あなたに是非逢いたい。

    大伴家持が恋人の大伴坂上大嬢(おおとものさか
    のうえのいらつめ)にあてた恋の歌です。

    人は死に、二度とは生き返らない。人生は一度き
    り、二度と再生はきかない。このかけがえのない
    人生。あなたと楽しい人生を送りたい。

    ゛存命の喜び、日々楽しまざるべけんや ゛
                      兼好法師

    (いのち長らえている事の喜びを、日々かみしめて
    楽しく生きていこう。そうしないでいいものか。)      

 注・・うつせみの=世にかかる枕詞。現世。現実の。
    やも=反語。
    二行(ふたゆ)く=繰り返される事。
    うつせみの世やも二行く=この現実の世の中がも
     う一度繰り返される事があろうか。人生は二度
     あるわけではない。
    何すとか=どうして。反語の意を表す。

作者・・大伴家持=おおとものやかもち。718~785。大伴
     旅人の長男。少納言。万葉集の編纂をする。

出典・・万葉集・733。


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2014年02月02日

名歌鑑賞・2467

灯火の 影にかがよふ うつせみの 妹が笑まひし
面影に見ゆ
                 詠み人知らず

(ともしびの かげにかがよう うつせみの いもが
 えまいし おもかげにみゆ)

意味・・灯火の光に揺れて輝いているあの娘(こ)の笑
    顔が、今も目の前に浮かんで来る。

    この歌の作者の男は、その娘と離れているの
    でしょうか。でも、この歌は、とりようによ
    っては、今は亡きその娘が、現身・・つまり、
    まだ生きていた時の面影がありありと目に浮
    かんで来るという意味にも取れます。

    古典解説者の前川妙さんのお話です。

    「私の亡き夫の思い出も、とりたてて大きな
    出来事というのではなく、何かの時に、ふっ
    といい笑顔を見せたという事が、一番心に残っ
    ているのです。我が家の前は小路になっている
    のですが、ある時、私はその道を、南の方から
    家に向かって帰っていたら、向こうの北の方か
    らやって来る夫の姿が見えたのです。夫はとて
    も嬉しそうな顔をして、「おーい」と、私に向
    けて大きく手を振ったのです。まあ、あんなに
    にっこり笑って、手まで振って、近所の人に見
    られたら恥ずかしい、と、私はてれて、小さく
    笑っただけです。
    でも、その時の彼の笑顔と声は、私の中にはっ
    きり刻みつけられました。今でも、家に帰ろう
    と小路の角を曲がると、あの日の笑顔が面影と
    して目の前に浮かび、声さえ蘇(よみがえ)って
    来るのです」。

 注・・かがよふ=ちらちら揺れて光る。
    うつせみ=現身。現実の姿の意。
    面影=目の前にいない人の顔や姿が、いかにも
     あるように目の前に浮かぶ事。

出典・・万葉集・2642。



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2014年02月01日

名歌鑑賞・2466

あたらしく 冬きたりけり 鞭のごと 幹ひびきあい
竹群はあり
宮柊二

(あたらしく ふゆきたりけり むちのごと みき
ひびきあい たかむらはあり)

意味・・身の引き締まるような、冬の寒さの到来である。
    吹きすさぶ寒風に、鞭のような鋭い音を立てて、
    群らがり生えた竹がしなって揺れている。

    厳しい冬の到来。それは鞭で打たれるような厳
    しさである。寒さに震え、身体が縮れ込むので
    はなく、鞭打たれる時の、身を引き締める力が
    湧いて来る。

 注・・竹群(たかむら)=竹林、竹やぶ。

作者・・宮柊二=みやしゅうじ。1912~1986。新潟・
    長岡中学卒。北原白秋に師事。日本芸術院賞
    を受賞。

     
出典・・インターネット「中学受験学習資料・短歌」



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