2014年11月

2014年11月30日

名歌鑑賞・小百姓の嬉しき布施や草箒 

 
************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
小百姓の嬉しき布施や草箒 
                  村上鬼城

(こひゃくしょうの うれしきふせや くさぼうき)

意味・・鬼城は耳の聞えない聾者なので、そのため生活も
    苦しい。鬼城の周りの人も貧しいが、それでも箒
    を作ってくれた。見捨てるのではなく人情厚く付
    きあってくれた。嬉しいことだ。

 注・・小百姓=貧しい農家。
    布施=福利、財物を施し与えること。

作者・・村上鬼城=むらかみきじょう。1865~1938。
    耳症のため司法官の志望をあきらめ、裁判所の
    代書人となる。子規の「ホトトギス」に参加。
 
出典・・筑摩書房「現代句集」。
 
 


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月29日

名歌鑑賞・物ごとに 秋ぞかなしき もみじつつ 移ろひゆくを

物ごとに 秋ぞかなしき もみじつつ 移ろひゆくを
かぎりと思へば           
                  読人知らず

(ものごとに あきぞかなしき もみじつつ うつろい
 ゆくを かぎりとおもえば)

意味・・何事につけても秋は悲しい思いをさせる季節で
    ある。草木が色づきながら盛りの時をむかえ、
    それがさらに色が変わってゆく様子を見ると、
    これで終りであると思われるから。
 
    木々が色あざやかな紅葉を見せながら、だんだ
    んと色あせ、やがて散ってゆく。すべて終りの
    時というものは物悲しい。人も例外ではない。
    
 注・・もみぢつつ=紅葉しながら。
    移ろひゆく=しだいに色あせ、そして散っていく。
    かぎり=限界、臨終。
 
出典・・古今和歌集・187。
 
 


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月28日

名歌鑑賞・なかなかに思へばやすき身なりけり世にひろわれぬ

 
**************** 名歌鑑賞 ****************
 
 
なかなかに 思へばやすき 身なりけり 世にひろわれぬ
みねのおち栗         
                   橘曙覧

(なかなかに おもえばやすき みなりけり よにひろわれぬ
 みねのおちぐり)

意味・・考えてみるとかえって気楽な身の上だなあ。山の
    中に落ちた栗が拾われないように、人に期待され
    ない身としては。

 注・・みね=身と峰を掛ける。
    おち栗=作者自身をを暗示。
 
作者・・橘曙覧=たちばなあけみ。1812~1868。早く父母
    に死別し、家業を異母弟に譲り隠棲。福井藩主に厚
    遇 された。
 
出典・・岩波文庫「橘曙覧全歌集」。


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月27日

名歌鑑賞・汝や知る都は野辺の夕ひばりあがるをみても

 
**************** 名歌鑑賞 ****************
 
 
汝や知る 都は野辺の 夕ひばり あがるをみても
落つる涙は
           飯尾彦六左衛門尉
           
(なれやしる みやこはのべの ゆうひばり あがるを
 みても おつるなみだは)

意味・・この京都は大乱で全く焼け野原になってしまい、
    そこから夕ひばりは空へさえずって上がって行く
    が、それを見ても落ちる私の涙を、夕ひばりよ、
    お前は知っているか。

    応仁の乱は、京都で、1467年から1477年まで10
    年余り続き、邸宅・町屋・名所古跡はあらかた灰
    になってしまった。それを見て嘆いた歌です。

 注・・汝や知る=「や」は疑問の係助詞。
    落つる涙は=「は」は叙述を強める助詞。

作者・・飯尾彦六左衛門尉=いいおひころくざえもんの
    じょう。生没年未詳。十五世紀の人。
 
出典・・応仁記(福武書店「名歌名句鑑賞辞典」)
 
      


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月26日

名歌鑑賞・見ればただなんの苦もなき水鳥の足に暇なき

 
**************** 名歌鑑賞 ****************
 
 
見ればただ なんの苦もなき 水鳥の 足に暇なき
我が思いかな
                  水戸光圀

(みればただ なんのくもなき みずとりの あしに
 ひまなき わがおもいかな)

意味・・一見すれば、水に浮かぶ鳥はなんの苦もないように
    泳いでいる。それと同じように、他人から見ればの
    んきそうに見えるけど、自分は大変なのだ。

    水鳥はスイスイと水面に浮いているように思える。
    でも、水面下では足をひっきりなしに動かして、見
    えない所で苦労している。
    他人のやっている事は、気楽で簡単にそうに見える。
    しかし自分でやって見ると、以外に簡単にいかない
    のが常。自分が同じ事を行う時に初めてその大変さ
    が分かる。

作者・・水戸光圀=みとみつくに。1628~1700。徳川家康
    の孫。第五代将軍徳川綱吉の長老として幕政に影響
    力を持つ。



sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月25日

名歌鑑賞・憂きことを 思ひつらねて かりがねの 鳴きこそわたれ

 
 
**************** 名歌鑑賞 ****************
 
 
憂きことを 思ひつらねて かりがねの 鳴きこそわたれ
秋の夜な夜な    
                   凡河内躬恒
          
(うきことを おもいつらねて かりがねの なきこそ
 わたれ あきのよなよな)

意味・・つらいことを一つ一つ思い連ねるように、
    雁が連なって鳴きながら秋の夜空を飛び
    渡って行く、毎夜のように。  
   
    雁を通して作者の人生苦が歌われている。
   「憂きこと」は恋の思いだけとは限らない。

 注・・憂きことを思ひつらねて=悲しい事を並べ
     たてて陳情し。「つらね」は「連らね」
     と「陳らね(述べ訴える意)」の意味を掛
     けている。
    かりがね=雁。
    夜な夜な= 毎夜毎夜。

作者・・凡河内躬恒=おうしこうちのみつね。生没年
    未詳、900年前後の人。古今和歌集の撰者の
    一人。
 
出典・・古今和歌集・213 。
 
 




sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月24日

名歌鑑賞・あはれ知れと我をすすむる夜半なれや松のあらしも

 
*************** 名歌鑑賞 ****************
 
 
あはれ知れ と我をすすむる 夜半なれや 松のあらしも
虫のなく音も       
                    明恵上人

(あわれしれ とわれをすすむる よわなれや まつの
 あらしも むしのなくねも)

意味・・松に吹く激しい風の音も虫の悲しげな鳴き声も、
    みな哀れを知れと私に勧める夜更けなのだなあ。
    しみじみと哀れを感じるよ。

    自分の実力が足りない事を自覚してくやし涙が
    出て来ることも、「哀れ」の感情のひとつです。

 注・・あはれ=悲しさ、寂しさ、気の毒だ。
    すすむ=勧む。促す。
 
作者・・明恵上人=みょうえしょうにん。1173~1232。
    華厳密教の始祖。
 
出典・・岩波書店「中世和歌集・鎌倉篇」。
 
 
  


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月23日

名歌鑑賞・朝まだき嵐の山の寒ければ紅葉の錦

 
*************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
朝まだき 嵐の山の 寒ければ 紅葉の錦
着ぬ人ぞなき
               藤原公任
(あさまだき あらしのやまの さむければ もみじの
 にしき きぬひとぞなき)

意味・・朝がまだ早く嵐山のあたりは寒いので、山から
    吹き降ろす風のために紅葉が散りかかり、錦の
    衣を着ない人はいない。

    紅葉の名所の嵐山の晩秋の景観を詠んでいます。

 注・・嵐の山=京都市右京区にある嵐山。嵐に山風を
     掛ける。

作者・・藤原公任=ふじわらのきんとう。966~1041。
    権大納言・従五位。漢詩文・和歌・管弦の三才
    を兼ねる。清少納言や紫式部らと親交。和漢朗
    詠集の編者。

出典・・(拾遺和歌集・210)


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月22日

名歌鑑賞・見る人もなくて散りぬる奥山の紅葉は夜の

 
*************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
見る人も なくて散りぬる 奥山の 紅葉は夜の
錦なりけり
                 紀貫之
                
(みるひとも なくてちりぬる おくやまの もみじは
 よるの にしきなりけり)

意味・・はやす人もいないままに散ってしまう山深い
    紅葉は、まったく夜の錦である。

    この奥山の紅葉は誰にも見てもらえないで、
    自然に散ってしまうが、それは人にたとえ
    れば、都で立身出世したにもかかわらず、い
    っこうに故郷に帰って人々に知らせないよう
    なもので、はなはだ物足りない。

 注・・夜の錦=「史記」の「富貴にして故郷に帰ら
     ざるは錦を着て夜行くが如し」を紅葉を惜
     しむ意に転じる。
     (いくら立身出世しても、故郷に帰って人々
     に知ってもらわなければ、人の目に見えな
     い夜の闇の中を錦を着て歩くようなもので
     つまらない)

作者・・紀貫之=きのつらゆき。866~945。土佐守・
    従五位。「古今集」の中心的撰者。「土佐日
    記」の作者。
 
出典・・古今和歌集・297。
 
 




sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月21日

名歌鑑賞・秋の夜のほがらほがらと天のはらてる月かげに

 
*************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
秋の夜の ほがらほがらと 天のはら てる月かげに
雁なきわたる 
                  賀茂真淵
 
(あきのよの ほがらほがらと あまのはら てるつき
 かげに かりなきわたる)

意味・・秋の夜が明るく晴れて天空を月の光が満たす
    なか、雁が鳴きながら飛んで行く。

    晴れ渡った空に、月光が隈なく照っており、
    雁の声と羽ばたく姿に感動しています。

 注・・ほがらほがら=朗ら朗ら。朗らかに。
    天のはら=天の原。大空、天の広大さをいう。
    月かげ=月の光。

作者・・賀茂真淵=かものまぶち。1697~1769。神
    官の家に生れる。本居宣長(もとおりのりなが
    )らの門人を育成。「賀茂翁家集」。

出典・・賀茂翁家集・182。(河出書房新社「蕪村・一
    茶・良寛」)
 


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月20日

 夕月夜をぐらの山に鳴く鹿の声のうちにや秋は暮るらむ 

 
************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
夕月夜 をぐらの山に 鳴く鹿の 声のうちにや 
秋は暮るらむ  
                紀貫之

(ゆうづきよ おぐらのやまに なくしかの こえの
 うちにや 秋はくるらん)

意味・・夕月夜を思わせるなんとなく暗い小倉山で鹿が
    寂しそうに鳴いている。あの声とともに秋は暮
    れて行くのだろうか。

    秋の終わりの寂しさを鹿の声で表わしています。

 注・・夕月夜=小倉山の枕詞。
    小倉山=京都大堰川の北にあり嵐山と対をなす。
    声のうちにや=声のしているうちに。
 
作者・・紀貫之=きのつらゆき。868~945。従五位・
    土佐守。古今和歌集の選者。古今集の仮名序を
    著す。
 
出典・・古今和歌集・312。
 


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月19日

名歌鑑賞 股のぞき女もしてる秋の海

 
*************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
これはこれはとばかりに花の吉野山    貞室

股のぞき女もしてる秋の海        内田康夫

(これはこれは とばかりに はなのよしのやま)
(またのぞき おんなもしてる あきのうみ)

意味(貞室)・・春の吉野山は今が盛りの桜で覆われている。
      そのみごとな景色を前にすると、ただこれはこれ
      はと感嘆するばかりで、あとに言葉も続かない
      ほどだ。

意味(康夫)・・秋の青空の下、遠くまで見渡され、天の橋立の
      景色が美しい。股覗きした人が「これはこれは」と
      感嘆しているのを聞いて、恥も外聞も気にせず、女
      性も股覗きを楽しんでいる。

      天の橋立で詠んだ句です。
 
作者・・貞室=ていしつ。安原貞室。1610~1673。紙商を営
    む。松永貞徳に師事。
 
作者・・内田康夫=1934~ 。推理作家。
 
 


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月18日

名歌鑑賞 落ちて行く身と知りながらもみぢ葉の人なつかしく

 
**************** 名歌鑑賞 ****************
 
 
落ちて行く 身と知りながら もみぢ葉の 人なつかしく
こがれこそすれ
              皇女和宮

(おちてゆく みとしりながら もみじばの ひと
 なつかしく こがれこそすれ)

意味・・燃えるような紅葉の彩りは、しかし、よく見ると
    風に舞って落ちてゆく。その身の不運を知りなが
    らも、その不運を嘆くだけでなく、その一葉一葉
    にも生命があり、それを燃やし尽くしている。
    私は、政略結婚でこれから嫁いで行くのだが、不運
    を嘆くのでなく、相手の心に打ち解け、いちずに
    恋慕い尽してゆかねばと思う。

    徳川将軍家茂(いえもち)に16歳で嫁いで行く道中
    で詠んだ歌です。

 注・・なつかしく=心にひかれる。
    こがれ=焦がれ。いちずに恋したう。思い焦がれ
     る。

作者・・皇女和宮=こうじょかずのみや。1846~1877。
    31歳。政略結婚で14代徳川将軍家茂(いえもち)に
    嫁ぐ。
 
出典・・松崎哲久著「名歌で読む日本の歴史」。
 
 


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月17日

名歌鑑賞 大方の秋の別れも悲しきに鳴く音な添えそ

 
**************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
大方の 秋の別れも 悲しきに 鳴く音な添えそ
野辺の松虫
               源氏物語・賢木
               
(おおかたの あきのわかれも かなしきに なくね
 なそえそ のべのまつむし)

意味・・一般的な秋との別れも悲しいのに、そのうえ
    私はあなたと別れねばならない。野辺の松虫
    よ、鳴き声を加えていっそう悲しませないで
    ほしい。

 注・・大方=一般的に、だいたい。
 
出典・・風葉和歌集・1122。
 

 


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月16日

名歌鑑賞 寂しさにたへたる人のまたもあれな

 
***************  名歌鑑賞 ***************
 
 
寂しさに たへたる人の またもあれな 庵ならべん
冬の山里
                   西行

(さびしさに たえたるひとの またもあれな いおり
 ならべん ふゆのやまざと)

意味・・私のように寂しさに耐えている人が他にいると
    いいなあ。そうしたらその人と庵を並べて共に
    住もう。この冬の山里で。

      冬の山里の寂しい生活に耐えて来た、また耐え
    ていこうと決心しつつも、一方で自分自身を理
    解してくれる人を思う人恋しさの表白です。
 
    寂しい思いをする場面はさまざまあります。
    知人も誰もいない寂しさ、誰にも相手にされ
    ない寂しさ、自分の行為を評価されない寂しさ
    叱られた時の寂しさ・・。
    こんな時、相慰める友がほしいものです。

注・・またもあれな=自分以外にもいて欲しいものだ。
 
作者・・西行=1118~1190。
 
出典・・新古今和歌集・627。
 

 


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月15日

名歌鑑賞 白露に風の吹きしく秋の野は

 
*************** 名歌鑑賞 ****************
 
 
白露に 風の吹きしく 秋の野は 貫きとめぬ 
玉ぞちりける
                文屋朝康
 
(しらつゆに かぜのふきしく あきののは つらぬきとめぬ
 たまぞちりける)

意味・・草葉の上に結んだ白露に風がしきりに吹きつける
    秋の野は、その露が散って、あたかも緒で貫き通
    していない玉が散りこぼれるようだ。

    露をいっぱい集めた木草が秋風に揺れ、露がその
    たびごとに白く輝きながらぱらぱら乱れ散ってい
    る情景です。

 注・・白露=草葉の上で露が白く光るのを強調した表現。
    吹きしく=しきりに吹く。
    貫きとめぬ=玉は糸を通してつなぐが、その糸で
       貫き通していない。
    玉=ここでは真珠のこと。
 
作者・・ 文屋朝康=ぶんやのあさやす。生没年未詳。10
     世紀初頭の歌人。
 
出典・・後撰和歌集・308。百人一首・37。


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月14日

名歌鑑賞 手を折りてうち数ふればこの秋も

 
*************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
を折りて うち数ふれば この秋も すでに半ばを
過ぎにけらしも               
                  良寛

(てをおりて うちかぞうれば このあきも すでに
 なかばを すぎにけらしも)

意味・・(病気になって、人の家にお世話になっていたが)
     指を折って数えて見ると今年の秋も、もう半分
     過ぎてしまったようだ。(早く治って元気にな
     りたいものだ)

     病気になって人のお世話になっている時に詠ん
     だ歌です。
 
 注・・けらしも=「けり」と言い切ってよいところを婉
     曲(えんきょく)に表現したり、詠嘆的に軽く推
     量する意を表す。・・したのだったなあ。
 
作者・・良寛=りょうかん。1758~1831。
 
出典・・谷川敏郎著「良寛全歌集」。
 
   


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月13日

名歌鑑賞 霧たちて雁ぞなくなる片岡の

 
*************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
霧たちて 雁ぞなくなる 片岡の 朝の原は 
もみぢしぬらむ
                詠み人しらず

(きりたちて かりぞなくなる かたおかの あしたの
 はらは もみじしぬらむ)

意味・・空には霧が立ち込め、雁の鳴き声が聞こえて来る。
    秋も深くなったから片岡の朝(あした)の原の木々
    はきれいに紅葉したことであろう。

    晩秋の自然をとらえた歌です。

 注・・片岡=奈良県北葛城郡王寺町の一部。
    朝の原=場所不明。
 
出典・・古今和歌集・252。


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月12日

名歌鑑賞 木枯らしや岩に裂け行く水の声

 
*************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
閑かさや 岩にしみ入る 蝉の声      芭蕉

木枯らしや 岩に裂け行く 水の声     蕪村

(しづかさや いわにしみいる せみのこえ)
(こがらしや いわにさけゆく みずのこえ)

意味(芭蕉)・・あたりはひっそりと静まりかえっている。
       その静寂のうちに鳴き出した蝉の声に耳を
       傾けていると、澄み切った声は岩にしみ入
       るように感じられることだ。

意味(蕪村)・・岩にぶつかって裂けた水が木枯らしの中
       で叫び声をあげている。激しい水の音と木枯
       らしの風の音のすさまじいことだ。

 注・・木枯らし=晩秋から初冬にかけて吹く強い風。
 
作者・・芭蕉=ばしょう。松尾芭蕉。1644~1694。
    蕪村=ぶそん。与謝蕪村。1716~1783。


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月11日

名歌鑑賞 緑なる一つ若葉と春は見し

 
*************** 名歌鑑賞 ****************
 
 
緑なる 一つ若葉と 春は見し 秋はいろいろに
紅葉けるかも
               良寛

(みどりなる ひとつわかばと はるはみし あきは
 いろいろに もみじけるかも)

意味・・緑一色である若葉だと春に見た山が、秋はさ
    まざまの色で葉が色づいたことだ。若葉の時
    もよいが、紅葉も美しいものだ。
    
    若葉から青葉そして紅葉、落葉となっていく。
    どれもそれなりの良さがあるものだ。人も少
    年から大人そして老人となる。それぞれ他に
    ない得手(えて)があるものだなあ。
 
作者・・良寛=りょうかん。1758~1872。
 
出典・・谷川敏郎著「良寛全歌集・336」
 

 


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月10日

 終宵秋風聞くやうらの山

  
終宵秋風聞くやうらの山     
                  曾良

(よもすがら あきかぜきくや うらのやま)

意味・・旅で病み師と別れ、一人でこの寺に泊まったが
    一晩中ちっとも眠られず、裏山に吹く秋風の音
    を聞いたことだ。
    
    師である芭蕉と奥の細道を四ヶ月共に旅をして
    来たが、病状の身になり師と別れ全昌寺に泊ま
    った時に詠んだ句です。
    一人旅の不安と、師である芭蕉の身を案じ、眠
    られない想いを詠んでいます。

    芭蕉も一日遅れてここに泊まった時、一夜を隔
    てているだけであるが、寂しさのため、まるで千
    里も隔たっているように思われると言っています。
 
    全昌寺境内にこの句の句碑が建っています。
 
 注・・全昌寺=石川県大聖寺町にある禅寺。
 
作者・・曾良=そら。河合曾良。1649~1710。芭蕉に
    師事。「奥の細道」の旅に随伴した。
 
出典・・奥の細道。
 


    


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月09日

名歌鑑賞 秋さらば見つつ偲べと妹が植えし

 
************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
秋さらば 見つつ偲べと 妹が植えし やどのなでしこ
咲きにけるかも          
                  大伴家持 

(あきさらば みつつしのべと いもがうえし やどの
 なでしこ さきにけるかも)

意味・・秋になったら、花を見ながらいつも私を偲んで
    下さいね、と妻が植えた庭のなでしこ、そのな
    でしこの花が咲きはじめた。

    亡くなった妻を偲んで詠んだ歌です。

 注・・妹=男性から女性を親しんでいう語。妻、恋人。
    やど=宿、屋敷内の庭
 
作者・・大伴家持=おおとものやかもち。718~785。
    大伴旅人の長男。万葉集の編纂(へんさん)を
    した。
 
出典・・万葉集・464。


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月08日

名歌鑑賞 唇のさむきのみかは秋のかぜ

 
************** 名歌鑑賞 **************
 
 
唇の さむきのみかは 秋のかぜ 聞けば骨にも
徹る一こと
                橘曙覧

(くちびるの さむきのみかは あきのかぜ きけば
 ほねにも とおるひとこと)

物いへば 唇さむし 秋の風     芭蕉

意味(俳句)・・秋風の身にしみる今日このごろ、物を
      言うとその寒さが唇にこたえることだ。
      口はつぐんでいることにこしたことはな
い。

      人の短所や自分の長所をあれこれ言うと、
      後悔して唇に秋風の冷たさを感じさせる
      ことだ。
      転じて、余計なことを言えば災いを受け
      たり、対人関係がまずくなったりしがち
      だから口を慎めということ。

意味(和歌)・・芭蕉の「物いえば・・」の俳句は秋風
      の寒さが唇にこたえるというだけではなく、
      よくよく噛締めて味わうと骨にまで染み渡
      る味わいのある言葉である。人生において
      対人関係ほど大切なものはない。
 
作者・・橘曙覧=たちばなあけみ。1812~1868。家業
    を異母弟に譲り隠棲。本居宣長の高弟田中大秀
    に師事。福井藩主に厚遇される。
 
出典・・岩波文庫「橘曙覧全歌集」。
 
 



sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月07日

名歌鑑賞 大門のいしずえ苔にうづもれて

 
*************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
大門の いしずえ苔に うづもれて 七堂伽藍
ただ秋の風
                 佐々木信綱
             
(だいもんの いしずえこけに うずもれて しちどう
 がらん ただあきのかぜ)

意味・・大門の礎石もすでに苔に埋もれて、その昔は
    大伽藍に目を奪うばかりの壮大な
規模の建物
    も、今はことごとく消亡して、今は寂寥(せき
     りょう)たる野原に、聞くはただ秋の風の音の
    みである。

      岩手県の平泉で「毛越寺」の題で詠んだ歌
    です。当時はまだ再建されずに礎石のみが
    残っていた状況です。
 
           唱歌「荒城の月」が思い浮かびます。
           https://youtu.be/SbLuhlq-qik

 注・・毛越寺=岩手県の平泉に、850年藤原基衡
     (もとひら)により創建。1226年の火災、
     1573年の兵火により長年礎石を残すだ
     けとなる。1989年に現在の本堂が再建
     された。
    七堂伽藍=寺院で、金堂・講堂・鐘楼・塔
     経蔵・僧房・食堂の七つの建物。

作者・・佐々木信綱=ささきのぶつな。1872~1963。
    国文学者。万葉集の研究で有名。
 
出典・・歌集「思草」。
 
「荒城の月」参考です。
          土井晩翠作詞・滝廉太郎作曲
 
    春高楼の 花の宴
    巡る盃 かげさして
    千代の松ヶ枝 わけ出でし
    昔の光 いまいずこ
 
    秋陣営の 霜の色
    鳴き行く雁の 数見せて
    植うる剣に 照りそいし
    昔の光 いまいずこ
 
    いま荒城の 夜半の月
    かわらぬ光 たがためぞ
    垣に残るは ただかつら
    松に歌うは ただ嵐
 
    天上影は かわらねど
    栄枯は移る 世の姿
    写さんとてか 今もなお
    嗚呼荒城の 夜半の月

 


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月06日

名歌鑑賞 寂しさはその色としもなかりけり

 
************* 名歌鑑賞 **************
 
 
寂しさは その色としも なかりけり 槙立つ山の
秋の夕暮れ     
                  寂連法師
            
(さびしさは そのいろとしも なかりけり まきたつ
 やまの あきのゆうぐれ)

意味・・この寂しさはとりたてて特にどの色から
    ということはないのだがなあ。山全体か
    ら寂しさが漂よって来る。杉や檜の茂る
    秋の夕暮れは。

    一見、秋らしくない常緑樹の山のいい難
    い寂しさを巧みに詠んだ歌です。

    三夕(さんせき)の歌の一つです。
    三夕の歌は、
   「心なき身にもあはれは知られけり鴫(しぎ)
    立つ沢の秋の夕暮れ・西行」
   「見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の
    秋の夕暮れ・藤原定家」  

注・・しも=上接する語を強調する。よりによって。
   槙(まき)=杉や檜など常緑樹の総称。

作者・・寂連法師=じゃくれんほうし。1202没。
    新古今集の撰者の一人。
 
出典・・新古今和歌集・361。



sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月05日

名歌鑑賞 いのちなき砂のかなしさよさらさらと

 
*************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
いのちなき 砂のかなしさよ さらさらと 握れば指の
あひだより落つ     
                    石川啄木

(いのちなき すなのかなしさよ さらさらと にぎれば
 ゆびの あいだよりおつ)

意味・・しっかりと掴(つか)まえていないと砂は指の間
    からさらさらと落ちる。悲しい事に、それが命
    のない砂というものだ。

    主体性のない砂のように、社会の流れに押し流
    されるこの自分の悲しさよ。掴まえた幸福も、
    気を緩めると砂と同じように逃げていく。

作者・・石川啄木=いしかわたくぼく。1886~1912。
    26歳。盛岡尋常中学校を中退後上京。「一握
    の砂」「悲しき玩具」などの歌集を刊行。
 
出典・・歌集「一握の砂」。
 
 


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月04日

名歌鑑賞 時ありて花も紅葉も一さかり

 
*************** 名歌鑑賞 **************
 
 
時ありて 花も紅葉も 一さかり あはれに月の 
いつも変らぬ
                藤原為子

(ときありて はなももみじも ひとさかり あわれに
 つきの いつもかわらぬ)

意味・・ある決まった時節があって、花も紅葉も
    ひとときの盛りを見せるものだが、あわ
    れ深いことに、月はいつもかわらぬ姿で
    空にかかっていることだ。

    参考句です。

   「樫の木の花にかまわぬ姿かな」  芭蕉
      (意味は下記参照)

 注・・時=季節。
    あはれ=情趣が深い、しみじみと心を
     打つさま。すてきだ、気の毒だ。
    
作者・・藤原為子=ふじわらのためこ。生没年
    未詳。鎌倉時代の歌人。
 
出典・・風雅和歌集・159。

参考句です。

樫の木の 花にかまはぬ 姿かな  
                  芭蕉

(かしのきの はなにかまわぬ すがたかな)

意味・・春の百花は美しさを競っているが、
    その中であたりにかまわず高く黒々
    とそびえる樫の木は、あでやかに
    咲く花よりもかえって風情に富む
    枝ぶりであることだ。

    前書きは「ある人の山家にいたりて」、
    山荘の主人が世の栄華の暮らしに混
    じることなく、平然として清閑を楽
    しんでいるさまを樫の木の枝ぶりに
    例えて挨拶として詠んだ句です。



sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月03日

 月花や四十九年のむだ歩き

 
************* 名歌鑑賞 **************
 
 
月花や四十九年のむだ歩き
                   一茶

(つきはなや しじゅうくねんの むだあるき)

意味・・月だ花だのと、何の足しにもならない俳諧など
    を弄(もてあそ)んで、四十九年の人生をうかう
    かと過ごしてしまった。

    俳諧を否定するのはなく、惰性で作る俳句から
    納得のゆく俳句をめざそうとしたものです。
 
    納得とは「人の顔色を見る弱さ」を捨て「自分
    しか出来ない」ものをめざし、また「人の良さ
    も見出して」行くというのも、その一つです。

 注・・月花=月は秋、花は春の季節のものであるが、
       ここでは風雅を代表する語。
    四十九年=五十歳は論語に「五十にして天命を
       知る」年であるから四十九は過去を精算
       すべき転機の年。

作者・・小林一茶=1763~1827。信濃(長野県)の農民
    の子。3歳で生母と死別。継母と不和のため江
    戸に出て奉公生活。亡父の遺産をめぐって義弟
    と長く抗争した。51歳で故郷に帰住、結婚。


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月02日

名歌鑑賞 幾山河越えさり行かば寂しさの

 
*************** 名歌鑑賞 ***************
 
 
幾山河 越えさり行かば 寂しさの はてなむ国ぞ 
今日も旅ゆく
                 若山牧水
 
(いくやまかわ こえさりゆかば さびしさの はてなむ
 くにぞ きょうもたびゆく)


意味・・幾つもの山を越え、幾つもの河を越えて過ぎて
    行ったなら、この寂しさの消える国に到り着く
    ことであろうか。ああ、今日も私はさすらいの
    旅を続けていくのである。

    「寂しさ」は人の世の悩ましさ、悲しさ、寂し
    さであってそうした寂しさの消えるような国を
    求めて、巡礼のような旅を続けているのです。

    この歌はドイツの詩人カール・ブッセの詩「山
    のあなた」の影響を受けていると言われて
    います。

    山のあなたの空遠く 
    幸い住むと人のいふ
    ああ、われ、ひとと尋(と)めゆきて 
    涙さしぐみ、かへり来ぬ
    山のあなたのなほ遠く
    幸い住むと人の云ふ

作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885~1928。
    早稲田大学卒。
 
出典・・海の声(武川忠一編「和歌の解釈と鑑賞辞典」)

 


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句 

2014年11月01日

名歌鑑賞 今朝の朝明雁が音聞きつ春日山

 
**************  名歌鑑賞 ***************
 
今朝の朝明 雁が音聞きつ 春日山 もみぢにけらし
我が心痛し
                         穂積皇子
               

(けさのあさけ かりがねききつ かすがやま もみじ
 にけらし わがこころいたし)

意味・・今日の明け方、雁の鳴く声を聞いた。ああ
    春日山は紅葉してきたであろう。つけても
    私の心は痛んでくる。
 
    心が痛む気持を例えて見れば、
    就職のシーズンのニュースを聞くにつけて、
    息子が思い出されてくる。学校は出たのだが
    フリーターの生活をしている。正社員の道を
    歩むように段取りをしているだろうか。考え
    ると心が痛んでくる。
    
    この歌は穂積皇子が但馬皇女との悲恋を込め
    て詠んだ歌といわれています。

作者・・穂積皇子=ほずみのみこ。~715。天武天皇
    第五皇子。
 
出典・・万葉集・1513。
 


sakuramitih31 at 08:00|PermalinkComments(0)和歌・短歌・俳句