2015年03月
2015年03月31日
名歌鑑賞・うつせみの 世にも似たるか 花ざくら 咲くと見しまに かつ散りにけり
かつ散りにけり
(うつせみの よにもにたるか はなざくら さくとみしまに
かつちりにけり)
意味・・はかなく崩れやすい人の世によくも似たものだ。
咲いたかと思う間に、桜の花は片っ端から散っ
てしまうものだ。
盛者必衰(じょうじゃひっすい)というように、
仏教的厭世(えんせい・悲観的な考え)観を詠ん
だ歌です。元気な今、一日一日を精一杯生きて
行こうということです。
注・・うつせみ=世・命に掛る枕詞。現世のはかなさ。
かつ=すぐに。次から次に。
2015年03月30日
名歌鑑賞・花を見て 花を見こりし 花もなし 花見こりしは 今日の花のみ
橘曙覧
(はなをみて はなをみこりし はなもなし はなみ
意味・・花を見て美しいので、また見に来ようと思って
も次に来た時はもう美しい花はないものだ。
美しい花を見て楽しめるのは今日のこの日の花
だけである。一期一会と、只今現在のこの美し
「花」の繰り返しの面白さもあります。
注・・こり=凝り、深く思い込む、熱中する。
一期一会=一生に一度の出会いのことで、人と
の出会いは大切にすべきとの戒め。ここでは
もともと茶道の心得を説いた言葉で、今日と
いう日、そして今いる時というものは二度と
再び訪れるものではない。その事を肝に銘じ
たんのう=十分に満足する、心行くまで味あう。
2015年03月29日
名歌鑑賞・さのみかく みし古への 恋しきは いつよりのちの うき世なるらん
うき世なるらん
(さのみかく みしいにしえの こいしきは いつより
のちの うきよなるらん)
意味・・こんなにまで、ありし昔のことが恋しく思わ
れるのは、一体いつから後が辛い憂き世だっ
たのであろうか。
今を辛い世と思い、良かった昔を懐かしむの
は人の常。ならばいつから辛い世となったの
かと自問した歌です。
注・・さのみ=然のみ、そのようにばかり。
かく=斯く、このように。
うき世=憂き世、つらい世の中。
2015年03月28日
名歌鑑賞・ももしきの 大宮人は いとまあれや 桜かざし 今日も暮らしつ
今日も暮らしつ
山部赤人
(ももしきの おおみやびとは いとまあれや さくら
かざして きょうもくらしつ)
意味・・世の中は平和で、大宮人は暇があることだ。
昨日も今日も一日中、桜の花を折りかざして
遊び暮らしている。
注・・ももしき=「大宮」の枕詞。
大宮人=宮中に仕える人。
あれや=あるのかなあ。「や」は詠嘆を表す。
桜かざして=桜の花を髪や冠(かんむり)に挿
して飾った。
作者・・山部赤人=やまべのあかひと。生没年未詳。
2015年03月27日
名歌鑑賞・城山の 山のかくめる 引田港 われ少年にして ここに船出しき
ここに船出しき
(しろやまの やまのかくめる ひきたこう われ
しょうねんにして ここにふなでしき)
意味・・ここ城山から引田港を望むと、山で囲まれた
小さな町並みの港町である。私がまだ少年で
あった時、希望を持ってこの港から公海へと
船出したものだ。
作者は、戦後初代の東大総長になった人です。
故郷に帰り昔を懐かしんで詠んだ歌です。
注・・城山=香川県東香川市にある山。
引田港=香川県東香川市引田町の港。
作者・・南原繁=なんばらしげる。1889~1974。東大法科
2015年03月26日
名歌鑑賞・道のべの 朽木の柳 春来れば あはれ昔と
しのばれぞする
(みちのべの くちきのやなぎ はるくれば あはれ
むかしと しのばれぞする)
意味・・道のほとりの朽ち木の柳は、春が来ると、
ああ、昔はさぞ美しく茂ったことであろう
と思われることだ。
作者自身の境遇を顧みて詠んでいます。
注・・朽木の柳=ほとんど枯れかかった柳の木。
あはれ昔としのばれぞする=ああ、昔はさ
ぞ美しく茂った事であろう。世に時めい
ていた頃の自分の追懐をこめている。
2015年03月25日
2015年03月24日
名歌鑑賞・故里と なりにしならの 都にも 色はかはらず 花は咲きにけり
奈良帝
(ふるさとと なりにしならの みやこにも いろは
意味・・すでに廃都となった荒涼たる平城京なので、
嵯峨天皇と不和にになり、退位後に奈良に戻
注・・故里=ここでは昔の首都。
ならの都=かっての平城京。今の奈良市の位置。
2015年03月23日
名歌鑑賞・老いぬれど 花みるほどの 心こそ むかしの春に かはらざりけれ
かはらざりけれ
伴蒿蹊
(おいぬれど はなみるほどの こころこそ むかしの
はるに かわらざりけれ)
意味・・老いてしまったけれど、花を見る時の浮き立つ
ような気持は、昔の若い頃の春と変りはしない
なあ。
注・・花みるほどの心=花を見る時の浮き立つような
心の状態。
作者・・伴蒿蹊=ばんこうけい。1733~1806。商人の
出典・・閑田詠草(小学館「近世歌集」)。
2015年03月22日
名歌鑑賞・かくしつつ 遊び飲みこそ 草木すら 春は生ひつつ 秋は散りゆく
秋は散りゆく
坂上女郎
(かくしつつ あそびのみこそ くさきすら はるは
おいつつ あきはちりゆく)
意味・・今宵はこうして楽しく遊んだり飲んだりして
下さい。草や木でさえ、春には生い茂りなが
ら秋にはもう散ってゆくのです。
草木を例として人生の短さを述べ、生きてい
る間は楽しく遊び飲もうという享楽的な心を
歌っています。
作者・・坂上女郎=さかのうえいらつめ。生没年未詳。
出典・・万葉集・995。
2015年03月21日
名歌鑑賞・わが宿に 咲きみちにけり 桜花 ほかには春も あらじとぞおもふ
あらじとぞおもふ
源道済
(わがやどに さきみちにけり さくらばな ほかには
はるも あらじとぞおもう)
意味・・私の住まいに桜がいっぱいに咲きこぼれている。
桜花よ、春は我が家だけで、桜花のないほかの
家には春もあるまいと思うよ。
注・・ほかには=桜花のないほかの所には、の意。
作者・・源道済=みなもとのみちなり。1019年没。筑前
出典・・後拾遺和歌集・126。
2015年03月20日
名歌鑑賞・思ひ出よ みちははるかに なりぬとも 心のうちは 山もへだてじ
山もへだてじ
源道済
(おもいいでよ みちははるかに なりぬとも こころの
うちは やまもへだてじ)
意味・・私のことを思いだしてください。道は遠くなって
二人の間は隔たったとしても、心の中はどんな山
だって隔てないでしょう。私もひたすらあなたの
ことを思っています。
親しい人と分かれて遠くに行く時に詠んだ歌です。
注・・思ひ出(いで)よ=私の事を思い出してください。
作者・・源道済=みなもとのみちなり。~1019。筑前守・
2015年03月19日
名歌鑑賞・わりなしや 人こそ人と 言わざらめ みづから身をや思ひ捨つべき
わりなしや 人こそ人と 言わざらめ みづから身をや
思ひ捨つべき
紫式部
(わりなしや ひとこそひとと いわざらめ みずから
みをや おもいすつべき)
意味・・辛(つら)いことだ、皆で私を仲間はずれにして
うてあってくれないのは。
宮仕えをしていて、同僚の女房から「生意気だ、
澄ましている」と陰口をされて詠んだ歌です。
注・・わりなし=つらい。
人こそ人と言はざらめ=人を人と認めない、仲
間と認めない。「ざら」は打ち消しの「ず」
の未然形。「め」は卑下する語。
みづから=その人自身、当人。
身=自分、我が身。
思ひ捨つ=見捨てる、顧みない。
女房(にょうぼう)=宮中で部屋を持っている高
位の女官。
うてあわない=相手にしない。九州博多方面の
方言。
作者・・紫式部=生没年未詳。973頃の生まれ。「源氏
2015年03月18日
名歌鑑賞・風ふけば 波のあやをる 池水に 糸ひきそふる 岸の青柳
岸の青柳
源雅兼
(かぜふけば なみのあやおる いけみずに いとひき
そうる きしのあおやぎ)
意味・・風が吹くと、綾織物のように波立っている池の
水に、糸を引き加えるように吹き寄せられてい
る岸辺の青柳だなあ。
注・・あや=波の紋様、綾織物に見立てる。
作者・・源雅兼=みなもとのまさかね。1079~1143。
2015年03月17日
2015年03月16日
名歌鑑賞・吹きのぼる 尾の上の松に 浪ぞこす 梅さく谷の 春の川風
春の川風
正徹
(ふきのぼる おのへのまつに なみぞこす うめさく
たにの はるのかわかぜ)
意味・・梅の咲く谷間から春の川風が、白い花びらを
吹き上げているが、それはまるで峰の松を浪
が越えているようだ。
参考歌です。
「君おきてあだし心をわがもたば末の松山
波も越えなむ」 (意味は下記参照)
注・・尾の上=山の頂。
浪=白い梅の花を比喩。
作者・・正徹=しょうてつ。1381~1459。字は清岩。
君をおきて あだし心を わがもたば 末の松山
波も越えなむ
読人知らず
(きみをおきて あだしごころを わがもたば すえの
まつやま なみもこえなん)
意味・・あなたをさしおいて、ほかの人に心を移すなんて
ことがあろうはずはありません。そんなことがあ
れば、あの海岸に聳(そび)える末の松山を波が越
えてしまうでしょう。
心の変わらないことを誓った歌です。
注・・あだし心=浮気心、うわついた心。
末の松山=宮城県の海辺にあるという山。
2015年03月15日
名歌鑑賞・雲居まで 生ひのぼらなむ 種まきし 人も尋ねぬ 峰の若松
峰の若松
たずねぬ みねのわかまつ)
詞書・・生まれ給うへるみこを見給ひて。
意味・・大空まで成長して届いてほしい。(帝位にま
注・・みこ=皇子。
雲居=宮中、空。
狭衣(さごろも)物語=堀川関白の一人息子・
2015年03月14日
名歌鑑賞・常盤なす 岩室は今も ありけれど すみける人ぞ 常なかりける
常なかりける
(ときわなす いわやはいまも ありけれど すみける
意味・・常に変わらず岩室は今もあるけれど、ここに
参考です。
草の戸も 住み替はる代ぞ ひなの家
(くさのとも すみかわるよぞ ひなのいえ)
意味・・このみすぼらしい草庵も、人の住み替わる
2015年03月13日
2015年03月12日
名歌鑑賞・色香をば 思ひもいれず 梅の花 つねならぬ世に よそへてぞ見る
よそへてぞ見る
(いろかをば おもいもいれず うめのはな つねならぬ
よに よそへてぞみる)
意味・・梅の花の色香のすばらしさよ、しかし私は
そのすばらしさにひかれて執着するのでは
ない、花の咲き散る姿に無常な人間の世を
なぞらえて見ることだ。
花山天皇は在位2年で王位を捨てて出家し
て詠んだ歌です。美しい梅の花にも、やが
て散るその姿に無常の思いを浮かべていま
す。
注・・思ひもいれず=深く思い込まない。
つねならぬ=はかない、無常だ、世の中に
あるすべての物は絶え間なく生滅変化し、
永久不変でないこと。
2015年03月11日
名歌鑑賞・聞く人ぞ 涙は落つる 帰る雁 鳴きてゆくなる あけぼのの空
あけぼのの空
(きくひとぞ なみだはおつる かえるかり なきてゆく
意味・・その声を聞くと私のほうが涙が落ちてくることだ。
本歌です。
鳴きわたる 雁のなみだや 落ちつらむ 物思ふ宿の
萩の上の露
(なきわたる かりのなみだや おちつらん ものおもう
意味・・空を鳴きながら飛ぶ雁が昨夜落としていった
2015年03月10日
名歌鑑賞・年経たる 宇治の橋守 こと問はん 幾代になりぬ 水の水上
(としへたる うじのはしもり こととわん いくよに
意味・・年老いた宇治の橋守に尋ねよう。どれほどこの
2015年03月09日
名歌鑑賞・みしま江に つのぐみわたる 芦の根の ひとよのほどに 春めきにけり
みしま江に つのぐみわたる 芦の根の ひとよのほどに
春めきにけり
曽禰好忠
(みしまえに つのぐみわたる あしのねの ひとよの
ほどに はるめきにけり)
意味・・見ると三島江一帯に芦が芽を出し始めている。
はふしとふしの間をいう。
作者・・曾禰好忠=そねのよしただ。生没年未詳。985
2015年03月08日
名歌鑑賞・からさきや 春のさざ浪 うちとけて 霞を映す しがの山陰
からさきや 春のさざ浪 うちとけて 霞を映す
しがの山陰
藤原良経
(からさきや はるのさざなみ うちとけて かすみを
うつす しがのやまかげ)
意味・・唐崎では、春になって湖の氷が解けて
さざ波が立ち、目を転じると、志賀の
山陰あたりに霞がゆったりと移動して
いる。
琵琶湖湖畔の天地の春の風景を詠んで
います。
注・・からさき=唐崎、滋賀県大津市。近江
八景の一つ。
春のさざ浪うちとけて=氷が解けて春の
さざ浪がたつ、の意。
2015年03月07日
名歌鑑賞・閉じたりし 岩間の氷 うち解けば をだえの水も 影見えじやは
影見えじやは
(とじたりし いわまのこおり うちとけば おだえの
みずも かげみえじやは)
意味・・春になり岩間の水も解け出すでしょう。凍って
いた水に、今ひとたび、私の姿が映ればよいの
ですが。
氷は人の仲がうまくいかない事を暗示していま
す。氷が解けて途絶えていた人との交際も出来
るようになればいいのだが、という気持を詠ん
だ歌です。
注・・をだえ=緒絶え。緒が切れること。
影=水や鏡に映る姿。
やは=反語の意を表す、・・だろうかいや・・
ではない。
2015年03月06日
名歌鑑賞・忘るなよ たのむの沢を 立つ雁も いなばの風の 秋の夕暮れ
秋の夕暮れ
(わするなよ たのむのさわを たつかりも いなばの
意味・・田つづきの沢を飛び立って北に帰っていく雁も、
2015年03月05日
2015年03月04日
名歌鑑賞・咲いたって散るわ変る値撤退さ
嶋村桂一
(サイタッテ チルワカワルチ テッタイサ)
意味・・美しく咲いた花は散るものだ。最盛期もいつか
は過ぎてしまう。その時はいさぎよく後進の者
に譲ろう。
次の歌の気持と似ています。
「いざさくら我も散りなむひとさかりありなば
人に憂きめ見なむ」 (意味は下記)
注・・変る値=この前に、「最高になると」の言葉を
補う。最盛期が過ぎると。
憂きめ見えなむ
(いざさくら われもちりなん ひとさかり ありなば
意味・・さあ桜の花よ。おまえが潔く散るように、私も
いつかは散り果てよう。物事はひとたび盛りの
時があると、その後できっと人にみじめな姿を
見られるだろうから。
注・・ひとさかり=一時の盛り。最盛期。
憂きめ=つらいこと。みじめなこと。
2015年03月03日
名歌鑑賞・劫初より つくりいとなむ 殿堂に われも黄金の 釘一つ打つ
釘一つ打つ
(ごうしょより つくりいとなむ でんどうに われも
意味・・はるか昔の、世の初めから、人類が造り営ん
2015年03月02日
2015年03月01日
名歌鑑賞・君に恋ひ 甚も術なみ 平山の 小松が下に 立ち嘆くかも
(きみにこい いたもすべなみ ならやまの こまつが
意味・・あなたを恋い慕わっているものの、全くどう