2015年03月

2015年03月31日

名歌鑑賞・うつせみの 世にも似たるか 花ざくら 咲くと見しまに かつ散りにけり


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うつせみの 世にも似たるか 花ざくら 咲くと見しまに 
かつ散りにけり              
                   詠人知らず

(うつせみの よにもにたるか はなざくら さくとみしまに
 かつちりにけり)

意味・・はかなく崩れやすい人の世によくも似たものだ。
    咲いたかと思う間に、桜の花は片っ端から散っ
    てしまうものだ。

    盛者必衰(じょうじゃひっすい)というように、
    仏教的厭世(えんせい・悲観的な考え)観を詠ん
    だ歌です。元気な今、一日一日を精一杯生きて

    行こうということです。

 注・・うつせみ=世・命に掛る枕詞。現世のはかなさ。
    かつ=すぐに。次から次に。


出典・・古今和歌集・73。 


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2015年03月30日

名歌鑑賞・花を見て 花を見こりし 花もなし 花見こりしは 今日の花のみ


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花を見て 花を見こりし 花もなし 花見こりしは 
今日の花のみ 
                 橘曙覧

(はなをみて はなをみこりし はなもなし はなみ
 こりしは きょうのはなのみ)

意味・・花を見て美しいので、また見に来ようと思って
    も次に来た時はもう美しい花はないものだ。

    美しい花を見て楽しめるのは今日のこの日の花
    だけである。一期一会と、只今現在のこの美し
    い花を存分にたんのうしょう。

    「花」の繰り返しの面白さもあります。

 注・・こり=凝り、深く思い込む、熱中する。
    一期一会=一生に一度の出会いのことで、人と
     の出会いは大切にすべきとの戒め。ここでは
     もともと茶道の心得を説いた言葉で、今日と
     いう日、そして今いる時というものは二度と
     再び訪れるものではない。その事を肝に銘じ
     て茶道を行うべきである、の意。
    たんのう=十分に満足する、心行くまで味あう。

作者・・橘曙覧=1812~1868。紙商の家業を異母弟に
    譲り隠棲。福井藩の重臣と親交。

出典・・岩波文庫「橘曙覧全家集・875」。


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2015年03月29日

名歌鑑賞・さのみかく みし古への 恋しきは いつよりのちの うき世なるらん


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さのみかく みし古への 恋しきは いつよりのちの
うき世なるらん         
                 運慶

(さのみかく みしいにしえの こいしきは いつより
 のちの うきよなるらん)

意味・・こんなにまで、ありし昔のことが恋しく思わ
    れるのは、一体いつから後が辛い憂き世だっ
    たのであろうか。

    今を辛い世と思い、良かった昔を懐かしむの
    は人の常。ならばいつから辛い世となったの
    かと自問した歌です。

 注・・さのみ=然のみ、そのようにばかり。
    かく=斯く、このように。
    うき世=憂き世、つらい世の中。

作者・・運慶=うんけい。1293頃~1369頃。和歌四
    天王。

出典・・運慶百首(岩波書店「中世和歌集・室町篇」)


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2015年03月28日

名歌鑑賞・ももしきの 大宮人は いとまあれや 桜かざし 今日も暮らしつ


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ももしきの 大宮人は いとまあれや 桜かざして
今日も暮らしつ
                  山部赤人

(ももしきの おおみやびとは いとまあれや さくら
 かざして きょうもくらしつ)

意味・・世の中は平和で、大宮人は暇があることだ。
    昨日も今日も一日中、桜の花を折りかざして
    遊び暮らしている。

    山部赤人は万葉時代の人で750年頃の人。
    一方、新古今和歌集は1205年に成立してい
    る。新古今の撰者は桜の元で遊べるほどの
    平和を望んでいたのであろうか。


 注・・ももしき=「大宮」の枕詞。
    大宮人=宮中に仕える人。
    あれや=あるのかなあ。「や」は詠嘆を表す。
    桜かざして=桜の花を髪や冠(かんむり)に挿
     して飾った。

作者・・山部赤人=やまべのあかひと。生没年未詳。
    奈良時代の歌人。

出典・・新古今和歌集・104。



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2015年03月27日

名歌鑑賞・城山の 山のかくめる 引田港 われ少年にして ここに船出しき


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城山の 山のかくめる 引田港 われ少年にして
ここに船出しき        
               南原繁

(しろやまの やまのかくめる ひきたこう われ
 しょうねんにして ここにふなでしき)

意味・・ここ城山から引田港を望むと、山で囲まれた
    小さな町並みの港町である。私がまだ少年で
    あった時、希望を持ってこの港から公海へと
    船出したものだ。

    作者は、戦後初代の東大総長になった人です。
    故郷に帰り昔を懐かしんで詠んだ歌です。


 注・・城山=香川県東香川市にある山。
    引田港=香川県東香川市引田町の港。

作者・・南原繁=なんばらしげる。1889~1974。東大法科
    卒。東大総長。    



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2015年03月26日

名歌鑑賞・道のべの 朽木の柳 春来れば あはれ昔と


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道のべの 朽木の柳 春来れば あはれ昔と
しのばれぞする    
               菅原道真

(みちのべの くちきのやなぎ はるくれば あはれ
 むかしと しのばれぞする)

意味・・道のほとりの朽ち木の柳は、春が来ると、
    ああ、昔はさぞ美しく茂ったことであろう
    と思われることだ。

    作者自身の境遇を顧みて詠んでいます。

 注・・朽木の柳=ほとんど枯れかかった柳の木。
     左遷されて世に埋もれている自分の姿を
     見ている。
    あはれ昔としのばれぞする=ああ、昔はさ
     ぞ美しく茂った事であろう。世に時めい
     ていた頃の自分の追懐をこめている。

作者・・菅原道真=すかわらのみちざね。845~903。
    従二位右大臣。大宰権帥(そち)に左遷された。

出典・・新古今和歌集・1449。


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2015年03月25日

名歌鑑賞・樫の木の 花にかまはぬ 姿かな


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樫の木の 花にかまはぬ 姿かな   
                    芭蕉

(かしのきの はなにかまわぬ すがたかな)

意味・・春の百花は美しさを競っているが、その中で
    あたりにかまわず高く黒々とそびえる樫の木
    は、あでやかに咲く花よりもかえって風情に
    富む枝ぶりであることだ。

    前書きは「ある人の山家にいたりて」。
    山荘の主人が世の栄華の暮らしに混じること
    なく、平然として清閑を楽しんでいるさまを
    樫の木の枝ぶりに例えて挨拶として詠んだ句。

作者・・芭蕉=ばしよう。1644~1695。

出典・・野ざらし紀行。


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2015年03月24日

名歌鑑賞・故里と なりにしならの 都にも 色はかはらず 花は咲きにけり


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故里と なりにしならの 都にも 色はかはらず 
花は咲きにけり 
                奈良帝

(ふるさとと なりにしならの みやこにも いろは
 かわらず はなはさきにけり)

意味・・すでに廃都となった荒涼たる平城京なので、
    今では昔の面影がなくなったけれど、花とい
    うものは、色は変らずに昔と同じように咲く
    ものだ。
    
    嵯峨天皇と不和にになり、退位後に奈良に戻
    って住むようになり、昔を偲んで詠んだ歌で
    す。

 注・・故里=ここでは昔の首都。
    ならの都=かっての平城京。今の奈良市の位置。

作者・・奈良帝=ならのみかど。807頃の平城天皇と
    言われている。 

出典・・古今和歌集・90。


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2015年03月23日

名歌鑑賞・老いぬれど 花みるほどの 心こそ むかしの春に かはらざりけれ


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老いぬれど 花みるほどの 心こそ むかしの春に
かはらざりけれ
                 伴蒿蹊
             

(おいぬれど はなみるほどの こころこそ むかしの
 はるに かわらざりけれ)

意味・・老いてしまったけれど、花を見る時の浮き立つ
    ような気持は、昔の若い頃の春と変りはしない
    なあ。

 注・・花みるほどの心=花を見る時の浮き立つような
    心の状態。

作者・・伴蒿蹊=ばんこうけい。1733~1806。商人の
    生まれ。36歳で隠居し文人となる。「閑田詠草」
    「近世畸人伝」。

出典・・閑田詠草(小学館「近世歌集」)。


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2015年03月22日

名歌鑑賞・かくしつつ 遊び飲みこそ 草木すら 春は生ひつつ 秋は散りゆく


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かくしつつ 遊び飲みこそ 草木すら 春は生ひつつ
秋は散りゆく
                  坂上女郎
             

(かくしつつ あそびのみこそ くさきすら はるは
 おいつつ あきはちりゆく)

意味・・今宵はこうして楽しく遊んだり飲んだりして
    下さい。草や木でさえ、春には生い茂りなが
    ら秋にはもう散ってゆくのです。

    草木を例として人生の短さを述べ、生きてい
    る間は楽しく遊び飲もうという享楽的な心を
    歌っています。

作者・・坂上女郎=さかのうえいらつめ。生没年未詳。
    大伴旅人の異母妹。

出典・・万葉集・995。


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2015年03月21日

名歌鑑賞・わが宿に 咲きみちにけり 桜花 ほかには春も あらじとぞおもふ


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わが宿に 咲きみちにけり 桜花 ほかには春も
あらじとぞおもふ
                源道済
             
(わがやどに さきみちにけり さくらばな ほかには
 はるも あらじとぞおもう)

意味・・私の住まいに桜がいっぱいに咲きこぼれている。
    桜花よ、春は我が家だけで、桜花のないほかの
    家には春もあるまいと思うよ。

    我が家の庭に桜が美しく咲き、自分の家にだけ
    春が来たような嬉しい気持ちです。

 注・・ほかには=桜花のないほかの所には、の意。

作者・・源道済=みなもとのみちなり。1019年没。筑前
    守正五位下。

出典・・後拾遺和歌集・126。


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2015年03月20日

名歌鑑賞・思ひ出よ みちははるかに なりぬとも 心のうちは 山もへだてじ


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思ひ出よ みちははるかに なりぬとも 心のうちは
山もへだてじ
                   源道済
             
(おもいいでよ みちははるかに なりぬとも こころの
 うちは やまもへだてじ)

意味・・私のことを思いだしてください。道は遠くなって
    二人の間は隔たったとしても、心の中はどんな山
    だって隔てないでしょう。私もひたすらあなたの
    ことを思っています。

    親しい人と分かれて遠くに行く時に詠んだ歌です。
    遠くに離れて行ってもあの人が思っていてくれる
    と元気になります。

 注・・思ひ出(いで)よ=私の事を思い出してください。

作者・・源道済=みなもとのみちなり。~1019。筑前守・
    正五位下。

出典・・後拾遺和歌集・484。



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2015年03月19日

名歌鑑賞・わりなしや 人こそ人と 言わざらめ みづから身をや思ひ捨つべき


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わりなしや 人こそ人と 言わざらめ みづから身をや
思ひ捨つべき
                  紫式部

(わりなしや ひとこそひとと いわざらめ みずから
 みをや おもいすつべき)

意味・・辛(つら)いことだ、皆で私を仲間はずれにして
    うてあってくれないのは。

    宮仕えをしていて、同僚の女房から「生意気だ、
    澄ましている」と陰口をされて詠んだ歌です。


    味方になってくれる人は「何を言われても素知
    らぬ顔で受け流しなさい、いじめて喜んでいる
    人は一部の人にすぎないから」と言ってくれる
    が・・。


 注・・わりなし=つらい。
    人こそ人と言はざらめ=人を人と認めない、仲
     間と認めない。「ざら」は打ち消しの「ず」
     の未然形。「め」は卑下する語。
    みづから=その人自身、当人。
    身=自分、我が身。
    思ひ捨つ=見捨てる、顧みない。
    女房(にょうぼう)=宮中で部屋を持っている高
     位の女官。
    うてあわない=相手にしない。九州博多方面の
     方言。

作者・・紫式部=生没年未詳。973頃の生まれ。「源氏

    物語」。

出典・・ライザー・ダルビー著「紫式部物語」。



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2015年03月18日

名歌鑑賞・風ふけば 波のあやをる 池水に 糸ひきそふる 岸の青柳


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風ふけば 波のあやをる 池水に 糸ひきそふる 
岸の青柳
                源雅兼          

(かぜふけば なみのあやおる いけみずに いとひき
 そうる きしのあおやぎ)

意味・・風が吹くと、綾織物のように波立っている池の
    水に、糸を引き加えるように吹き寄せられてい
    る岸辺の青柳だなあ。

    池の水が波紋を描いている美しい景色に加えて、
    清々しい若葉の柳が揺れているさまを詠んでい
    ます。

 注・・あや=波の紋様、綾織物に見立てる。

作者・・源雅兼=みなもとのまさかね。1079~1143。
    権中納言。

出典・・金葉和歌集・25。


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2015年03月17日

名歌鑑賞・春なれや 名もなき山の 薄霞


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春なれや 名もなき山の 薄霞
                  芭蕉
                  
(はるなれや なもなきやまの うすがすみ)

意味・・ああ、いよいよ春が来たのかなあ。春の大和路
    を心に描きながらたどる山路の、四方の名前も
    知らぬ山々に一刷毛(ひとはけ)霞が棚引いて見
    える。気持ちの良い景色だ。

    詞書は奈良に出る道すがらです。

作者・・芭蕉=ばしょう。1644~1694。「野ざらし紀行」
    「奥の細道」。

出典・・野ざらし紀行。



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2015年03月16日

名歌鑑賞・吹きのぼる 尾の上の松に 浪ぞこす 梅さく谷の 春の川風


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吹きのぼる 尾の上の松に 浪ぞこす 梅さく谷の
春の川風
                  正徹
             
(ふきのぼる おのへのまつに なみぞこす うめさく
 たにの はるのかわかぜ)

意味・・梅の咲く谷間から春の川風が、白い花びらを
    吹き上げているが、それはまるで峰の松を浪
    が越えているようだ。

    参考歌です。
    「君おきてあだし心をわがもたば末の松山
    波も越えなむ」 (意味は下記参照)

 注・・尾の上=山の頂。
    浪=白い梅の花を比喩。

作者・・正徹=しょうてつ。1381~1459。字は清岩。
    室町中期の歌僧。「草根集」「正徹物語」。

出典・・正徹詠草・44(岩波書店「中世和歌集。室町
    篇」)

参考の歌です。

君をおきて あだし心を わがもたば 末の松山 
波も越えなむ
            読人知らず
            

(きみをおきて あだしごころを わがもたば すえの
 まつやま なみもこえなん)

意味・・あなたをさしおいて、ほかの人に心を移すなんて
    ことがあろうはずはありません。そんなことがあ
    れば、あの海岸に聳(そび)える末の松山を波が越
    えてしまうでしょう。

    心の変わらないことを誓った歌です。

 注・・あだし心=浮気心、うわついた心。
    末の松山=宮城県の海辺にあるという山。
 
出典・・古今和歌集・1093。




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2015年03月15日

名歌鑑賞・雲居まで 生ひのぼらなむ 種まきし 人も尋ねぬ 峰の若松    


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雲居まで 生ひのぼらなむ 種まきし 人も尋ねぬ 
峰の若松
            
            狭衣物語・嵯峨院皇后宮

(くもいまで おいのぼらなん たねまきし ひとも
 たずねぬ みねのわかまつ)

詞書・・生まれ給うへるみこを見給ひて。

意味・・大空まで成長して届いてほしい。(帝位にま
    で昇ってほしい)。種を蒔いた人(実の父親・
    狭衣)も尋ねてくれない峰の松ではあるが。

    私生児として不幸に生れた児を見て詠んだ
    歌です。

 注・・みこ=皇子。
    雲居=宮中、空。
    狭衣(さごろも)物語=堀川関白の一人息子・
     狭衣と五人の女君たちが織りなす恋愛物語。
     平安時代の作。

作者・・嵯峨院皇后宮=狭衣物語の登場人物。

出典・・物語二百番歌合(樋口芳麻呂著「王朝物語秀歌
    選」)



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2015年03月14日

名歌鑑賞・常盤なす 岩室は今も ありけれど すみける人ぞ 常なかりける


**************** 名歌鑑賞 ****************


常盤なす 岩室は今も ありけれど すみける人ぞ
常なかりける         
                 博通法師

(ときわなす いわやはいまも ありけれど すみける
 ひとぞ つねなかりける)

意味・・常に変わらず岩室は今もあるけれど、ここに
    住んでいた人は替わってしまってもう居ない。

    芭蕉の俳句、参考です。
    「草の戸も住み替はる代ぞひなの家」
             (意味は下記参照)

 注・・常盤なす=「常盤」は常に変わらない岩、
    「なす」は、・・のように。
    岩室=和歌山県日高郡美浜町にある岩窟。
    常なかり=変わっている。

作者・・博通法師=はくつうほうし。伝未詳。

出典・・万葉集・308。

参考です。

草の戸も 住み替はる代ぞ ひなの家     
                    芭蕉

(くさのとも すみかわるよぞ ひなのいえ)

意味・・このみすぼらしい草庵も、人の住み替わる
    時がやって来た。新しく住む人は、世捨て
    人みたいな自分と違って弥生(三月)の節句
    には雛も飾ることであろう。こんな草庵で
    も移り替わりはあるものだ。

    旅立ちに際して芭蕉庵を娘のいる人に譲っ
    た時に詠んだ句です。

    方丈記の次の文を思わせます。
    「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もと
    の水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、か
    つ消えかつ結びて、久しくとどまりたる例(
    ためし)なし。世の中にある人と栖(すみか)と、
    またかくのごとし」

意味・・流れゆく河の水は、絶えることもなく、いつ
    も変わらず流れているように見えるものだが、
    それでは同じ水が流れているかというと、そ
    の流れる水はもとの水が今流れているのでは
    ない。流れの停滞している所に浮かぶ泡は、
    一方で消えたかと思うと、一方に浮かび出て、
    長いこと同じ状態のままでいるということは、
    今までに例がない。世の中に存在する人間も、
    その住まいも、またちょうどこのようなもの
    である。


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2015年03月13日

名歌鑑賞・昨日こそ 年はくれしか 春霞 かすがの山に はやたちにけり


*************** 名歌鑑賞 ****************


昨日こそ 年はくれしか 春霞 かすがの山に
はやたちにけり        

               読人知らず

(きのうこそ としはくれしか はるがすみ かすがの
 やまに はやたちにけり)

意味・・つい昨日、年が暮れたばかりなのに、春霞が

    はやもう、春日の山に棚引き始めた。いかに
    も春めいたことだ。

出典・・万葉集・1843。


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2015年03月12日

名歌鑑賞・色香をば 思ひもいれず 梅の花 つねならぬ世に よそへてぞ見る


**************** 名歌鑑賞 ***************


色香をば 思ひもいれず 梅の花 つねならぬ世に
よそへてぞ見る         
                花山院

(いろかをば おもいもいれず うめのはな つねならぬ
 よに よそへてぞみる)

意味・・梅の花の色香のすばらしさよ、しかし私は
    そのすばらしさにひかれて執着するのでは
    ない、花の咲き散る姿に無常な人間の世を
    なぞらえて見ることだ。

    花山天皇は在位2年で王位を捨てて出家し
    て詠んだ歌です。美しい梅の花にも、やが
    て散るその姿に無常の思いを浮かべていま
    す。
    下記「いろは歌」を参考にして下さい。

 注・・思ひもいれず=深く思い込まない。
    よそへて=なぞらえる、たとえる。
    つねならぬ=はかない、無常だ、世の中に
     あるすべての物は絶え間なく生滅変化し、
     永久不変でないこと。

作者・・花山院=かざんいん。968~1008。65代
    天皇。19歳で出家した。拾遺和歌集の撰者。

出典・・新古今和歌集・1445。

参考です。


  色はにほへど 散りぬるを
  我が世たれぞ 常ならむ
  有為の奥山  今日越えて
  浅き夢見じ  酔ひもせず

  自分はかって栄光の座で華やかに生きていた
  事もあったが、それはもはや遠い過去のもの
  となってしまった。この世の明日は分らない。
  自分に代わって、今栄光を極める者も、今に
  どうなるのか分らないのである。生死の別れ
  目の厳しい運命の時を迎えた今日、自分はも
  う何の夢を見る事も無いし、それに酔う事も
  ない。
      


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2015年03月11日

名歌鑑賞・聞く人ぞ 涙は落つる 帰る雁 鳴きてゆくなる あけぼのの空


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聞く人ぞ 涙は落つる 帰る雁 鳴きてゆくなる 
あけぼのの空     
               藤原俊成

(きくひとぞ なみだはおつる かえるかり なきてゆく
 なる あけぼののそら)

意味・・その声を聞くと私のほうが涙が落ちてくることだ。
    帰る雁の鳴いていくのが聞こえる曙の空よ。

    雁が寂しそうに泣いて帰るように、鳴くの聞いた
    作者ももらい泣きしたくなる気持を詠んでいます。
    本歌のように、悲しみや悩みなどの物思いを心に
    秘めて詠まれたものです。
    本歌は「鳴きたる雁の涙や落ちつらむものを思ふ
    宿の萩の上の露」 (意味は下記参照)    

 注・・聞く人ぞ涙は落つる=鳴き渡る雁の涙が落ちたの
     だろうか、と詠んだ人がいると聞くが、私も涙
     が出て来る。本歌を念頭に詠んだもの。
    帰る雁=春になって北へ帰る雁。
    鳴く=「泣く」を掛ける。

作者・・藤原俊成=ふじわらのとしなり。1114~1204。
    正三位皇太后宮大夫。千載和歌集を撰集。

出典・・新古今和歌集・58。

本歌です。

鳴きわたる 雁のなみだや 落ちつらむ 物思ふ宿の
萩の上の露        
                   詠み人知らず

(なきわたる かりのなみだや おちつらん ものおもう
 やどの はぎのうえのつゆ)

意味・・空を鳴きながら飛ぶ雁が昨夜落としていった
    悲しみの涙なのだろうか。それがちょうど我
    が家の庭の萩におかれた露になったのだろう。
    その家の主人である私もまた物思いによって
    泣きたいものだ。

    萩の露を雁の涙かと思い、その露によって作
    者の悲しみを表しています。

 注・・鳴きわたる=鳴いて空を飛ぶ。「泣く」を掛
     ける。
    落ちつ=「つ」は瞬間的動作を表す、ポトリ
     と落ちた。
    物思う=心配事などに思い悩む、物思いにふける。
    宿=庭先。

出典・・古今和歌集・221。 


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2015年03月10日

名歌鑑賞・年経たる 宇治の橋守 こと問はん 幾代になりぬ 水の水上


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年経たる 宇治の橋守 こと問はん 幾代になりぬ 
水の水上 
                 藤原清輔

(としへたる うじのはしもり こととわん いくよに
 なりぬ みずのみながみ)

意味・・年老いた宇治の橋守に尋ねよう。どれほどこの
    世を経てしまったことか。この澄んだ水の流れ
    は。

    河水久澄(川の水が久しく澄んで流れ続ける)
    の題で詠んだ歌です。
    繁栄した時代が永く続いている事はめでたい事
    だという気持です。

 作者・・藤原清輔=ふじわらきよすけ。1104~1177。

出典・・新古今和歌集・743。


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2015年03月09日

名歌鑑賞・みしま江に つのぐみわたる 芦の根の ひとよのほどに 春めきにけり


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みしま江に つのぐみわたる 芦の根の ひとよのほどに
春めきにけり        

                   曽禰好忠

(みしまえに つのぐみわたる あしのねの ひとよの

 ほどに はるめきにけり)

意味・・見ると三島江一帯に芦が芽を出し始めている。

    まるで芦の根の一節(ひとよ)とでもいうように、
    ほんの一夜のうちに春らしくなったことだ。

 注・・三島江=大阪府高槻市淀川沿いのあたり。
    つのぐむ=角ぐむ。草木の新芽が角のように
    出始める。
    ひとよ=「一夜」と「一節」を掛ける。節(よ)

     はふしとふしの間をいう。

作者・・曾禰好忠=そねのよしただ。生没年未詳。985

    年頃に活躍し人。

出典・・ 後拾遺和歌集・42。


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2015年03月08日

名歌鑑賞・からさきや 春のさざ浪 うちとけて 霞を映す しがの山陰


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からさきや 春のさざ浪 うちとけて 霞を映す
しがの山陰       

                  藤原良経

(からさきや はるのさざなみ うちとけて かすみを
 うつす しがのやまかげ)

意味・・唐崎では、春になって湖の氷が解けて
    さざ波が立ち、目を転じると、志賀の
    山陰あたりに霞がゆったりと移動して
    いる。

    琵琶湖湖畔の天地の春の風景を詠んで
    います。

 注・・からさき=唐崎、滋賀県大津市。近江
      八景の一つ。
    春のさざ浪うちとけて=氷が解けて春の
      さざ浪がたつ、の意。


作者・・藤原良経=ふじわらのよしつね。1159
    ~1206。38歳。従一位・摂政太政大臣。
    新古今集仮名序作者。

出典・・岩波書店「中世和歌集・鎌倉篇」。 


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2015年03月07日

名歌鑑賞・閉じたりし 岩間の氷 うち解けば をだえの水も 影見えじやは


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閉じたりし 岩間の氷 うち解けば をだえの水も
影見えじやは        
                 紫式部

(とじたりし いわまのこおり うちとけば おだえの
 みずも かげみえじやは)

意味・・春になり岩間の水も解け出すでしょう。凍って
    いた水に、今ひとたび、私の姿が映ればよいの
    ですが。

    氷は人の仲がうまくいかない事を暗示していま
    す。氷が解けて途絶えていた人との交際も出来
    るようになればいいのだが、という気持を詠ん
    だ歌です。

 注・・をだえ=緒絶え。緒が切れること。
    影=水や鏡に映る姿。
    やは=反語の意を表す、・・だろうかいや・・
      ではない。

作者・・紫式部=むらさきしきぶ。970~1016。

出典・・ライザー・ダルビー著「紫式部物語」。 


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2015年03月06日

名歌鑑賞・忘るなよ たのむの沢を 立つ雁も いなばの風の 秋の夕暮れ


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忘るなよ たのむの沢を 立つ雁も いなばの風の
秋の夕暮れ        
                 藤原良経

(わするなよ たのむのさわを たつかりも いなばの
 かぜの あきのゆうぐれ)

意味・・田つづきの沢を飛び立って北に帰っていく雁も、
    帰っていったら、稲葉を風の吹き渡る秋の夕暮
    れを忘れないで、また来てくれよ。

 注・・たのむの沢=田続きの沢。
    いなば=稲葉。「往なば」を掛ける。

作者・・藤原良経=ふじわらのよしつね。1169~1206。
    従一位太政大臣。「新古今集」仮名序を執筆。

出典・・新古今和歌集・61。


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2015年03月05日

名歌鑑賞・どうしてもなくて七癖しうとの目


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どうしてもなくて七癖しうとの目 
                     作者不明  

(どうしても なくてななくせ しゅうとのめ)

意味・・どうしても、姑の目から逃げることは出来ない。
    人それぞれに癖がある。悪い所、欠点を探す気に
    なれば、いくらでも出てくるはずだから、その意
    地悪い目を逃れることは出来ないのである。

 注・・しうとの目=「しゅうとめ(姑)」と「姑の目」を
     掛ける。

出典・・川柳「雪の笠」(小学館「日本古典文学・川柳」)
 


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2015年03月04日

名歌鑑賞・咲いたって散るわ変る値撤退さ


************** 名歌鑑賞 ***************


咲いたって散るわ変る値撤退さ  
                    嶋村桂一


(サイタッテ チルワカワルチ テッタイサ)

意味・・美しく咲いた花は散るものだ。最盛期もいつか
    は過ぎてしまう。その時はいさぎよく後進の者
    に譲ろう。

 
    回文となっています。

    次の歌の気持と似ています。
    「いざさくら我も散りなむひとさかりありなば
     人に憂きめ見なむ」  (意味は下記)

 注・・変る値=この前に、「最高になると」の言葉を
     補う。最盛期が過ぎると。

作者・・嶋村桂一=しまむらけいいち。詳細未詳。回文
    作家。 

出典・・嶋村桂一著「回文川柳辞典」。

参考歌です。
いざさくら 我も散りなむ ひとさかり ありなば人に
憂きめ見えなむ       
                   承均法師

(いざさくら われもちりなん ひとさかり ありなば
 ひとに うきめみえなん)

意味・・さあ桜の花よ。おまえが潔く散るように、私も
    いつかは散り果てよう。物事はひとたび盛りの
    時があると、その後できっと人にみじめな姿を
    見られるだろうから。

 注・・ひとさかり=一時の盛り。最盛期。
    憂きめ=つらいこと。みじめなこと。

作者・・承均法師=ぞうくほうし。880年頃の僧。

出典・・古今和歌集・77。



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2015年03月03日

名歌鑑賞・劫初より つくりいとなむ 殿堂に われも黄金の 釘一つ打つ


**************** 名歌鑑賞 *****************


劫初より つくりいとなむ 殿堂に われも黄金の
釘一つ打つ        
                 与謝野晶子

(ごうしょより つくりいとなむ でんどうに われも
 こがねの くぎひとつうつ)

意味・・はるか昔の、世の初めから、人類が造り営ん
    で来た美の世界、芸術の立派な建物に、いま
    自分も、一本ではあるが、輝く黄金の釘を打
    つのである。

    短歌創作の意気込みを詠んでいます。
 

 注・・劫初=この世の初め。
    殿堂=高く立派な建物。ここでは芸術の殿堂。

作者・・与謝野晶子=よさのあきこ。1878~ 1942。
    堺女学校卒。鉄幹と結婚。歌集「みだれ髪」。

出典・・歌集「草の夢」(大塚寅彦著「名歌即訳・与謝
    野晶子」)


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2015年03月02日

名歌鑑賞・石川や 瀬見の小川の 清ければ 月も流れを 尋ねてぞすむ


***************** 名歌鑑賞 ******************


石川や 瀬見の小川の 清ければ 月も流れを 
尋ねてぞすむ 

                鴨長明

(いしかわや せみのおがわの きよければ つきも

 ながれを たずねてぞすむ)

意味・・賀茂神社がある石川の瀬見の小川の流れが

    清らかなので、月もこの流れを探し求めて
    澄んだ影を映している。

 注・・石川や瀬見の小川=賀茂川の異名。

作者・・鴨長明=かものちょうめい。1155~ 1216。
    方丈記で有名。

出典・・新古今和歌集・1894。


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2015年03月01日

名歌鑑賞・君に恋ひ 甚も術なみ 平山の 小松が下に 立ち嘆くかも


**************** 名歌鑑賞 *****************


君に恋ひ 甚も術なみ 平山の 小松が下に 
立ち嘆くかも 
               笠女郎

(きみにこい いたもすべなみ ならやまの こまつが
 もとにたちなげくかも)

意味・・あなたを恋い慕わっているものの、全くどう
    しょうもないので、奈良山の松の下に立って
    嘆きながら待っているのです。

    笠女郎が大伴家持に贈った歌です。

 注・・甚(いた)も=甚だしい。
    術(すべ)なみ=手段がない。
    平山(ならやま)=奈良山、奈良北方の山。
    小松=「小」は接頭語、小さいの意ではない。
    「待つ」を掛ける。

作者・・笠女郎=かさのいらつめ。生没年未詳。大伴家持と
    交渉のあった女性歌人。 

出典・・万葉集・593。


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