2015年09月

2015年09月30日

・いざ歌へ 我立ち舞はむ ひさかたの 今宵の月に 寝ねらるべしや


***************** 名歌鑑賞 *****************


いざ歌へ 我立ち舞はむ ひさかたの 今宵の月に
寝ねらるべしや
                  良寛
                 
(いざうたえ われたちまわん ひさかたの こよいの
 つきに いねらるべしや)

意味・・さあ、あなたは歌いなさい。私は立って舞おう。
    今夜の美しい月を見て、寝ることが出来ようか、
    いや寝ることは出来ない。

    仲秋の名月の夜に友が来たので詠んだ歌です。

    童謡「証城寺」を思い出します。

    証 証 証城寺 証城寺の庭は ツ ツ 月夜だ みんな
    出て 来い来い来い おい等の友達ァ ぽんぽこ ぽ
    んの ぽん 負けるな ...

 注・・ひさかたの=天、月、光、空などの枕詞。

作者・・良寛=りょうかん。1758~1831。

出典・・良寛歌集・1212。


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2015年09月29日

・今来むと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかな


**************** 名歌鑑賞 *****************


今来むと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を
待ち出でつるかな
                 素性法師
             
(いまこんと いいしばかりに ながつきの ありあけの
 つきを まちいでつるかな)

意味・・今夜暗くなったらすぐに行くよと、あなたが
    言われたばかりに、私は9月の長い夜を待ち
    続けているうちに、待ち人はついに来なくて
    出るのが遅い月のほうが空に現れてしまいま
    した。

    作者は男であるが女の立場に立って詠んだ歌
    です。男が「今来む」と言って来たので、女
    は今か今かと待ち続けて、明け方になって有
    明の月が出てしまったと、裏切られ待ちくた
    びれた寂しい女の気持です。

 注・・今=今すぐに。
    長月=陰暦9月。
    有明の月=16日以降の、夜明け方になって
     も空に残っている月。

作者・・素性法師=そせいほうし生没年未詳。898年
    頃活躍した人。

出典・・古今集・・691、百人一首・21。



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2015年09月28日

・をのが身の をのがこころに かなはぬを 思はばものは 思ひしりなん


**************** 名歌鑑賞 *****************


をのが身の をのがこころに かなはぬを 思はばものは
思ひしりなん
                    和泉式部
               
(おのがみの おのがこころに かなわぬを おもわば
 ものは おもいしりなん)

詞書・・たがひにつつむことあるおとこの、たやすく
    逢はず、と恨みれけばよめる。

意味・・自分の身が自分の心のとおりにはならない
    ということを考えたならば、事情はよく分
    かるでしょう。

    人目を気にしているのはお互い様と、男の
    一方的恨みを封じたもの。同語の繰り返し
    が深刻さを避ける働きをしている。

 注・・つつむこと=慎むこと。人目を憚ること。
     男には妻が、女には夫がいるようなこと。

作者・・和泉式部=いずみしきぶ。生没年未詳。
    1009年中宮章子に出仕(官に仕えること)。

出典・・詞花和歌集・310。



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2015年09月27日

・星多み 晴れたる空は 色濃くて 吹くとしもなき 風ぞ涼しき


**************** 名歌鑑賞 *****************


星多み 晴れたる空は 色濃くて 吹くとしもなき 
風ぞ涼しき
                藤原為子
           
(ほしおおみ はれたるそらは いろこくて ふくとし
 もなき かぜぞすずしき)

意味・・星が多くて、晴れている夜空は美しく、吹く
    というほどでもない風が実に涼しく感じられ
    る。
    満天に輝く夏の星の美しさ、風のもたらす
    すがすがしさ、夏の夜の清涼感を歌う。

作者・・藤原為子=ふじわらのためこ。生没年未詳。
    鎌倉期の歌人。

出典・・ 風雅和歌集・393。



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2015年09月26日

・わがせこが 解き洗ひ衣も 縫はなくに 荻の葉そよぎ 秋風の吹く


****************** 名歌鑑賞 ******************


わがせこが 解き洗ひ衣も 縫はなくに 荻の葉そよぎ
秋風の吹く
                   土岐筑波子 

(わがせこが ときあらいごろもも ぬわなくに おぎのは
 そよぎ あきかぜのふく)

意味・・夫の、解いて洗い直しをした袷(あわせ)の着物も
    まだ縫ってないのに、もう荻の葉がそよいで秋風
    が吹いている。

    夏は暑いので単衣(ひとえごろも)だから、春に着
    た袷は夏になると一度解いて洗い張りをし、縫い
    直して、また着ていた。夏の間に縫い直しをして
    おこうと思っていたが、もう荻の葉がそよぐ秋が
    やってきた。

    江戸時代の生活の一端をうかがい知る事が出来ま
    す。

 注・・袷(あわせ)=裏のついている着物。

作者・・土岐筑波子=ときつくばこ。生没年未詳、江戸中期
     の歌人。賀茂真渕に師事。

出典・・筑波子歌集。



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2015年09月25日

・身をつめば 入るもをしまじ 秋の月 山のあなたの 人も待つらん


***************** 名歌鑑賞 *****************


身をつめば 入るもをしまじ 秋の月 山のあなたの
人も待つらん      
                  永源法師

(みをつめば いるもおしまじ あきのつき やまの
 あなたの ひともまつらん)

意味・・「我が身をつねって人の痛さを知る」という
    わけで、月の入るのも惜しいとは思うまい。
    この美しい秋の月を山の向こう側の人も、私
    同様に待っているだろうから。

 注・・身をつめば=身を抓めば。我が身を抓(つ)ま
     んで人の痛さを知るの意。
    入るもおしまじ=月が山の陰に隠れても惜し
     まない。

作者・・永源法師=えいげんほうし。生没年未詳。観
    世音寺の僧。

出典・・後拾遺和歌集・254。



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2015年09月24日

・島廻すと 磯に見し花 風吹きて 波は寄すとも 採らずはやまじ


***************** 名歌鑑賞 *****************


島廻すと 磯に見し花 風吹きて 波は寄すとも
採らずはやまじ         
                詠人知らず

(しまみすと いそにみしはな かぜふきて なみは
 よすとも とらずはやまじ)

意味・・島を巡って漁をしょうとして磯辺で見つ
    けたあの花は、風が吹いて波が打ち寄せ
    ようとも、きっと手に入れて見せるぞ。

    周囲の反対や困難があっても、好きな人
    と結婚したいという気持ちを詠んでいま
    す。

 注・・島廻(しまみ)す=漁の獲物を求めて島の
      周辺をめぐること。
    磯に見し花=「磯」は岩の多い海岸。土
      地の美女を花にたとえる。
    風吹きて・・=比喩的には、周囲に反対
      や困難な事情があろうとも、の意を
      表わす。

出典・・万葉集・1117。



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2015年09月23日

・いつとても 恋しからずは あらねども 秋の夕べは あやしかりけり


**************** 名歌鑑賞 ******************


いつとても 恋しからずは あらねども 秋の夕べは
あやしかりけり
                   詠人知らず
              
(いつとても こいしからずは あらねども あきの
 ゆうべは あやしかりけり)

意味・・いつといって恋しくない時はないけれど、特に
    秋の夕暮れというのは不思議に人恋しいもので
    ある。

 注・・あやしかり=不思議なものだ。

出典・・古今和歌集・546。



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2015年09月22日

・いつも見る 月ぞと思へど 秋の夜は いかなるかげを そふるなるらん


***************** 名歌鑑賞 *****************


いつも見る 月ぞと思へど 秋の夜は いかなるかげを
そふるなるらん    
                  藤原長能

(いつもみる つきぞとおもえど あきのよは いかなる
 かげを そうるなるらん)

意味・・いつもながめる見馴れた月だと思うけれど
    秋の夜の月を格別に思うのはいったいどう
    いう光を加えるからなのだろうか。

    加えるのはどんな光なのか・・。
    そのうちの一つ二つです。「照り添う優しさ」
    と「昔からの世の姿を写す鏡」です。
    (下記の「荒城の月」2番4番の歌詞参照)    

 注・・かげ=影、光。
    
作者・・藤原長能=ふじわらのながとう。ながよしとも。
    生没未詳。伊賀守。能因法師は彼の弟子。中古
    三十六歌仙の一人。

出典・・後拾遺和歌集・256。

参考です。

  「荒城の月」   土井晩翠詞

1. 春高楼の 花の宴
  めぐる盃 かげさして
  千代の松が枝 わけいでし
  むかしの光 いまいずこ

2. 秋陣営の 霜の色
  鳴き行く雁の 数見せて
  植うる剣に 照りそいし
  昔の光 いまいずこ

3. 今荒城の 夜半の月
  かわらぬ光 誰がためぞ
  垣にのこるは ただかつら
  松に歌うは ただ嵐

4. 天上影は かわらねど
  栄枯は移る 世の姿
  写さんとてか 今もなお
  嗚呼荒城の 夜半の月



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2015年09月21日

・住みわびて 我さへ軒の 忍ぶ草 しのぶかたがた しげき宿かな


***************** 名歌鑑賞 *****************


住みわびて 我さへ軒の 忍ぶ草 しのぶかたがた
しげき宿かな     
                周防内侍

(すみわびて われさえのきの しのぶぐさ しのぶ
 かたがた しげきやどかな)

詞書・・家を人に明け渡す時に柱に書き付けました。

意味・・住んでいることがつらくて、私までも去って
    行くこの家の軒の忍ぶ草よ、その名ではない
    が、しのび懐かしむ事がいろいろとあるこの
    家だよ。

    家族も居なくなり、自分も出て行く事になっ
    た古屋敷。この家を懐かしみ詠んだ歌です。
   
 注・・住みわびて=周防集の詞書きによると、同居
      していた母やその他親族が皆亡くなって
      おり、管理上でも住みづらくなったもの。
    軒=「退き」を掛ける。
    忍ぶ草=「しのぶかたがた」を同音で引き出
     す。忍ぶ草は古屋に生えるもので、内侍の
     の家も荒廃してきたもの。
    しのぶ=偲ぶ、懐かしむ。
    しげき=草木が茂っている。

作者・・周防内侍=すぼうのないじ。生没年未詳。大
    蔵大輔(官位の名)藤原永相の娘。白河。掘河
    帝に仕える。

出典・・金葉和歌集・591。

 


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2015年09月20日

・ながむれば 千々にもの思ふ 月にまた わが身ひとつの 峰の松風


******************* 名歌鑑賞 ******************


ながむれば 千々にもの思ふ 月にまた わが身ひとつの
峰の松風
                   鴨長明
                
(ながむれば ちぢにものおもう つきにまた わがみ
 ひとつのみねのまつかぜ)

意味・・しみじみと見入っていると、さまざまな物思い
    をさせる月に加えて、さらにまた、一人住まい
    の私の身だけに吹いて、物思いをいっそう深く
    させる松風だ。

    山の庵に一人住む身のものとして詠んだ歌です。
    次の本歌を念頭に詠んでいます。

   「月見れば千々にものこそ悲しけれ我が身ひとつの
    秋にはあらねど」   (意味は下記参照)

 注・・ながむれば=ぼんやりと思いふけると、しみじみ
     と見入っていると。
    千々に=さまざまに。
    わが身ひとつの=私の身にだけ吹いて、物思いを
     いっそう深くさせる、の意。

作者・・鴨長明=かものちょうめい。1154~1216。1204
    年出家する。「方丈記」の作者。

出典・・新古今集・397。

本歌です。

月見れば 千々にものこそ 悲しけれ わが身一つの
秋にはあらねど
                  大江千里
              
(つきみれば ちぢにものこそ かなしけれ わがみ
 ひとつの あきにはあらねど) 

意味・・月を見ると、私の想いは、あれこれと限りなく物悲
    しくなる。私一人だけの秋ではないのだけれど。
    
    秋の月を見て悲しく感じるのは、誰でも同じであろ
    うけれども、自分だけがその悲しみを味わっている
    ように思われる。

注・・ちぢに=千々に、さまざまに、際限なくの意。
    もの=自分を取りまいているさまざまな物事。


作者・・大江千里=おおえのちさと。生没年未詳。在原業平
    の甥。

出典・・古今集・193、百人一首・23。



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2015年09月19日

・世の中の 憂きもつらさも 告げなくに まづ知るものは 涙なりけり


***************** 名歌鑑賞 ****************


世の中の 憂きもつらさも 告げなくに まづ知るものは
涙なりけり             
                   詠人しらず
                   
(よのなかの うきもつらさも つげなくに まずしる
 ものは なみだなりけり)

意味・・私はこの世の憂いも辛さも告げた覚えは
    ないのだが、涙というものは真っ先に知
    るとみえて、事があればすぐに出て来る
    ものだ。

    悲しい時はすぐに涙が出て来る気持です。

 注・・憂き=つらいこと、せつないこと

出典・・古今和歌集・941。



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2015年09月18日

・鶉鳴く 古りにし里ゆ 思へども 何ぞも妹に 逢ふよしもなき


**************** 名歌鑑賞 *****************


鶉鳴く 古りにし里ゆ 思へども 何ぞも妹に
逢ふよしもなき      
                大伴家持
               
(うずらなく ふりにしさとゆ おもえども なにぞも
 いもに あうよしもなき)

意味・・鶉の鳴く古びた里にいた頃から想い続けていた
    のに、どうしてあなたに逢う機会もないのであ
    ろうか。

    家持が紀女郎(きのいらつめ)に贈った歌です。

 注・・鶉鳴く=「古る」の枕詞。草深い荒涼のさまを
     表している。
    古りにし里=ここでは旧都奈良をさす。
    ゆ=動作の時間的・空間的起点を表す。・・か
     ら。
    妹=男性から女性を親しんでいう語。妻・恋人
     にいう。

作者・・大伴家持=718~785。おおとものやかもち。
    大伴旅人の長男。万葉集後期の代表的歌人。
    中納言、従三位。

出典・万葉集・775。 


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2015年09月17日

・秋の田の 仮庵の庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ


*************** 名歌鑑賞 ****************


秋の田の 仮庵の庵の 苫をあらみ わが衣手は
露にぬれつつ
                 天智天皇
               
(あきのたの かりおのいおの とまをあらみ わが
 ころもては つゆにぬれつつ)

意味・・秋の田の仮小屋の屋根に葺(ふ)いた苫の目が
    粗いので、夜通し小屋で番をしている私の着物
    の袖は、こぼれ落ちる露に濡れていくばかりで
    ある。

    収穫期の農作業にいそしむ田園の風景を詠んだ
    歌です。しかし、農作業のつらさという実感は
    薄く、晩秋のわびしい静寂さを美ととらえた歌
    です。

 注・・仮庵=農作業のための粗末な仮小屋。「仮庵の
     庵」は同じ語を重ねて語調を整えたもの。
    苫をあらみ=「苫」は菅や萱で編んだ菰(こも)。
     「・・を・・み」は原因を表す語法。「・・
     が・・なので」
    衣手=衣の袖。

作者・・天智天皇=てんじてんのう。626~671。蘇我氏
    を倒し大化の改新を実現。近江(滋賀県)に都を開
    く。

出典・・後撰和歌集・302、百人一首・1。



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2015年09月16日

・しののめの 空霧わたり 何時しかに 秋の景色に  世はなりにけり


*************** 名歌鑑賞 *****************


しののめの 空霧わたり 何時しかに 秋の景色に
世はなりにけり
                  紫式部
              
(しのしめの そらきりわたり いつしかに あきの
 けしきに よはなりにけり)

意味・・夏だから暑い暑いと思って過ごしていたある日、
    ふと朝早く起きて外に出てみると、ひんやりと
    秋の気配が感じられる。夜が明けきれば、日差
    しが夏の暑気をよみがえらせる。しかし、朝霧
    が立ち込めているこのひと時、思いがけない秋
    がそこに来ていた。

    早い朝の静寂さが余情として残ります。
    
 注・・しののめ=東雲。明け方のほのかに空が白んで
     くる頃。

作者・・紫式部=むらさきしきぶ。978~1016。「源氏
    物語」「紫式部日記」。

出典・・玉葉和歌集。



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2015年09月15日

・逢坂の 関の清水に 影見えて 今やひくらむ 望月の駒


**************** 名歌鑑賞 ****************


逢坂の 関の清水に 影見えて 今やひくらむ
望月の駒  
               紀貫之
                 
(おうさかの せきのしみずに かげみえて いまや
 ひくらん もちづきのこま)

意味・・逢坂の関のあたりの泉の水に秋の明月の光が
    射していて、その澄んだ水に姿を映しながら
    今引かれていることだろうか。あの望月の牧
    の馬よ。

    駒迎えの屏風の絵に添えられた歌です。駒迎
    えは陰暦の8月23日に行われた。

 注・・逢坂の関=京から大津へ出る逢坂越えにある
     関所。
    望月の駒=長野県佐久郡にある放牧場の馬。
     ここの貢馬の駒迎えは8月23日。
    駒迎え=東国から朝廷への貢馬を逢坂の関で
     出迎える年中行事。

作者・・紀貫之=きのつらゆき。866~945。「古今
    集」の中心的な撰者。「土佐日記」の作者。

出典・・ 拾遺和歌集・170。


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2015年09月14日

・咲きにけり くちなし色の 女郎花 言わねどしるし 秋のけしきは


*************** 名歌鑑賞 ****************


咲きにけり くちなし色の 女郎花 言わねどしるし 
秋のけしきは
                 源縁法師
               
(さきにけり くちなしいろの おみなえし いわねど
 しるし あきのけしきは)

意味・・咲いたことだ。くちなし色の女郎花の花が。口に
    出して言わないけれど、はっきりしてきたものだ。
    秋の気配が。

 注・・くちなし色=赤味がかった濃い黄色。「口無し」
    の意を掛ける。
    しるし=知るし。わかる、感じる。

作者・・源縁法師=げんえんほうし。生没年未詳。比叡山
    の僧。
 
出典・・金葉和歌集・169。
 


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2015年09月13日

名歌鑑賞・かたはらに 秋ぐさの花 かたるらく ほろびしものは なつかしきかな


**************** 名歌鑑賞 *****************


かたはらに 秋ぐさの花 かたるらく ほろびしものは
なつかしきかな     
                  若山牧水

(かたわらに あきぐさのはな かたるらく ほろびし
 ものは なつかしきかな)

詞書・・小諸懐古園にて

意味・・廃墟となった小諸城址に、むなしく座っている
    と、かたわらで秋草の花が語ることに「亡んだ
    ものはなつかしいですねぇ」。

    牧水が恋愛にも生活にも疲れ果て、小諸の地に
    静養している時に詠んだ歌です。

    悠久(ゆうきゅう)な自然の中に滅び去ったもの
    を思い、懐かしく思う気持を詠んだ歌です。
    「荒城の月」を口すさびながら。

    春高楼の花の宴
    巡る盃 かげさして
    千代の松が枝 わけ出でし
    昔の光 いまいずこ

 注・・かたはらに=作者が座って瞑想にふけっている
     近くでの意。
    かたるらく=語ることには。
    なつかしき=過去の記憶に心ひかれしたわしい。

作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885~1928。
    43歳。早稲田大学卒業。歌集に「路上」、「
    海の声」など。

出典・・家集「路上」。


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2015年09月12日

名歌鑑賞・あしびきの 山下水に 影見れば 眉白妙に われ老いにけり


*************** 名歌鑑賞 ****************


あしびきの 山下水に 影見れば 眉白妙に
われ老いにけり 
                能因法師
                
(あしびきの やましたみずに かげみれば まゆ
 しろたえに われおいにけり)

意味・・山の麓を流れる水に映っている影を見ると、
    私は、眉が真っ白になって、老いてしまっ
    ていることだ。

    仏道修行に専念していて、山下水に映った
    自分の姿で、深まった老いにふと気づき、
    愕然とした気持を詠んでいます。

    毎日鏡で自分の顔を見ていると、老いの変
    化は気づかないけれど、古い写真を見て明 
    らかに変わっている自分の姿にびっくりし
    たことがありました。

 注・・あしびき=山の枕詞。
    山下水=山の麓を流れる水。
    影=映っている自分の姿。

作者・・能因法師=のういんほうし。む生没年未詳。
    中古三十六歌仙の一人。

出典・・新古今集・1708。



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2015年09月11日

名歌鑑賞・逢坂の 関の戸ささぬ 古へを 知るも知らぬも さぞ忍ぶらむ


**************** 名歌鑑賞 ****************


逢坂の 関の戸ささぬ 古へを 知るも知らぬも
さぞ忍ぶらむ     
                    藤原良基
             
(おうさかの せきのとささぬ いにしえを しるも
 しらぬも さぞしのぶらん)

意味・・逢坂の関の戸を鎖さなかった聖代の昔を、
    今の世のよく知る人も知らない人も、さぞ
    かし思い慕(した)っていることだろう。

    戦乱の時勢にあって平和を念じた歌です。
    戦乱になると関所は厳しくなり通行が制限
    された。

    本歌は、
    「これやこの行くも帰るも別れつつ知るも
    知らぬも逢坂の関」です。
               (意味は下記参照)    

 注・・逢坂の関=近江の国、逢坂に設けられた
     関所。
    忍ぶ=ここでは偲ぶ。過去を思い出して慕
     う。

作者・・藤原良基=ふじわらのよしもと。1320~
    1388。北朝の天皇に仕えて摂関職にあり、
    南朝と北朝が激しく攻めぎ会った戦乱期で
    あった。

出典・・詠百首和歌。

本歌です。

これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも
逢坂の関              
                  蝉丸
                   

(これやこの ゆくもかえるも わかれては しるも
 しらぬも おうさかのせき)

意味・・これがあのう、こらから旅立つ人も帰る人も、
    知っている人も知らない人も、別れてはまた
    逢うという、逢坂の関なのですよ。
    
 注・・これやこの=これが噂に聞いているあのう・・、
       という言い方。
    逢坂の関=山城国(京都府)と近江(滋賀県)の
       境の関所。

出典・・後撰和歌集。


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2015年09月10日

名歌鑑賞・朝露に 咲きすさびたる 月草の 日くたつなへに 消ぬべく思ほゆ


*************** 名歌鑑賞 ***************


朝露に 咲きすさびたる 月草の 日くたつなへに
消ぬべく思ほゆ         
                詠人知らず

(あさつゆに さきすさびたる つきくさの ひくたつ
 なへに けぬべくおもほゆ)

意味・・朝露を浴びて我が物顔に咲き誇る露草が、
    日が傾くにつれてしぼむように、日暮れ
    が近づくにつれて、私の心もしぼんで消
    え入るばかりだ。

    恋の歌です。男の訪れを待つ日暮れ時の
    女心です。

 注・・すさび=気の向くままに物事をする。
    月草=露草。朝露を受けて咲き始め午後
      になるとしぼむ。
    くたつ=日が傾く。
    なへ=・・とともに、・・につれて。

出典・・万葉集・・2281。




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2015年09月09日

名歌鑑賞・この秋は何で年よる雲に鳥


**************** 名歌鑑賞 ****************


この秋は何で年よる雲に鳥
                    芭蕉

(このあきは なんでとしよる くもにとり)

前書・・旅懐

意味・・今年の秋はどうしてこんなに身の衰えを感ずる
    のだろう。なんだか急に年を取ったかのような
    気がする。秋の空を寂しく眺めやると、遠く雲
    に飛ぶ鳥の姿が目に入るが、その頼りなげな様
    は、あたかも旅に病む私の心のようで、旅の愁
    いをひときわ深く感ずることである。

    芭蕉の健康のすぐれなかった頃、秋の空に浮か
    んでいる白い雲、その雲のかなたに遠く飛んで
    いる鳥を詠んだものです。
   
    夏が去り、秋が来る、雲が行き、木の葉が移り、
    子供の背丈が伸び、そうして我が身のうちには、
    否定しょうもなく老いが沈殿してゆくのが感じ
    られる。(上田三四二のことばより)
    上の句を詠んだ三か月後に芭蕉は亡くなってい
    ます。

 注・・雲に鳥=雁が北へ帰る時雲に見えつ隠れつする
     姿で寂しさが表現される春の季語となってい
     る。ここでは鳥は雁ではなく普通の鳥である
     が寂しさは引き継いでいる。
    
作者・・芭蕉=ばしょう。1644~1695。

出典・・笈日記(小学館「松尾芭蕉集」
   


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2015年09月08日

名歌鑑賞・伏見山 松の陰より 見わたせば 明くる田の面に 秋風ぞ吹く


**************** 名歌鑑賞 ****************


伏見山 松の陰より 見わたせば 明くる田の面に
秋風ぞ吹く
                藤原俊成
              
(ふしみやま まつのかげより みわたせば あくる
 たのもに あきかぜぞふく)

意味・・伏見山の木陰から見渡すと、夜の明ける田の
    面に、秋風が吹いている。

    夜のほのぼのと明け行く一面の稲田の稲をさ
    わやかになびかせて吹く秋風の情景を詠んで
    います。

 注・・伏見=京都市伏見区。「伏」に「臥し」を掛
     ける。
    明くる=夜が明ける。

作者・・藤原俊成=ふじわらのとしなり。1013~1104。
    非参議正三位皇太后宮大夫。「千載集和歌集」
    の撰者。

出典・・新古今和歌集・291。



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2015年09月07日

名歌鑑賞・秋来ぬと目にさや豆のふとりかな


************** 名歌鑑賞 ***************


秋来ぬと目にさや豆のふとりかな

                        大伴大江丸
               
(あききぬと めにさやまめの ふとりかな)

意味・・初秋とはいえ、日差しは厳しく風も吹かない。
    夏と同じだ。道端の畑を見ると、さや豆が大き
    くふくらんでいる。ああ、やっぱり秋は来てい
    るのだ。さや豆のふとりかたに、さやかに(はっ
    きりと)秋は感じられる。

    藤原敏行の次の歌を踏まえた句です。

   「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ
    おどろかれぬる」  (意味は下記参照)

 注・・目にさや豆=「目にさやかに」と「さや豆」の

     掛詞。
    さや豆鞘に入って食用にする豆。大豆。エンド
     ウ・ソラマメなど。


作者・・大伴大江丸=おおともおおえまる。1722~1805。

    居住地の大伴の浦から大伴大江丸と号する。
    飛脚問屋を業とする。

出典・・句集「はいかい袋」(小学館日本古典文学全集・
    近世俳句俳文集)

参考歌です。

秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ
おどろかれぬる
                   藤原敏行
              
(あききぬと めにはさやかに みえねども かぜの
 おとにぞ おどろかれぬる)

意味・・秋が来たと目にははっきり見えないけれど、
    風の音にその訪れを気ずかされることだ。

    見た目には夏と全く変化のない光景ながら、
    確実に気配は秋になっていると鋭敏な感覚
    でとらえている。とくに朝夕の風にそれが
    いち早く感じられるが、歌の調べも、その
    秋風を聞いているような感じです。

出典・・ 古今和歌集・169。




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2015年09月06日

名歌鑑賞・枝に漏る 朝日の影の 少なさに 涼しさ深き 竹の奥かな


*************** 名歌鑑賞 *****************


枝に漏る 朝日の影の 少なさに 涼しさ深き
竹の奥かな 
                京極為兼
             

(えだにもる あさひのかげの すくなさに すずしさ
 ふかき たけのおくかな)

意味・・枝の間から漏れて来る朝日の光が少ないために、
    夏の朝も涼しさが底深く感じられる、竹林の奥
    まった景色は。
    
    竹林の朝のひんやりとした涼しさを詠んでいま
    す。

作者・・京極為兼=きょうごくのためかね。1254~1332。
    正二位権大納言。1316年から死去まで土佐に配
    流される。

出典・・玉葉集・419。



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2015年09月05日

名歌鑑賞・夏の野の 茂みに咲ける 姫百合の 知らえぬ恋は 苦しきものぞ


**************** 名歌鑑賞 ****************


夏の野の 茂みに咲ける 姫百合の 知らえぬ恋は
苦しきものぞ      
                 坂上郎女

(なつののの しげみにさける ひめゆりの しらえぬ
 こいは くるしきものぞ)

意味・・夏の野の草むらにひっそり咲いている姫百合の
    ように、あの人に知ってもらえない恋は何とも
    苦しいものだ。

    片思いの切なさを詠んでいます。

 注・・姫百合の=姫百合が夏草の深い茂みにおおわれ
     人に気づかれない。「姫百合」は百合の一種。
     朱色の小さな花を咲かす。

作者・・坂上郎女=さかのうえのいらつめ。~750頃。
    大伴旅人の異母妹。

出典・・万葉集・1500。


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2015年09月04日

名歌鑑賞・かよひなれて あづまもちかし 足がらの 関路はるかに 思ひしかども


*************** 名歌鑑賞 ******************


かよひなれて あづまもちかし 足がらの 関路はるかに
思ひしかども       
                    慈円

(かよいなれて あずまもちかし あしがらの せきじ
 はるかに おもいしかど)

意味・・通い慣れて見ると、東国も近く思われるよ。
    都から足柄の関路は遙かに遠いと思って来た
    けれど。

    東国の遠路も通い慣れると、辛かったのが何
    ともなくなるという気持を詠んでいます。

 注・・足柄=相模国(神奈川県)の足柄山。関所があ
     った。

作者・・慈円=じえん。1155~1225。天台座主。
    大僧正。新古集に二番目に多く92首入首。

出典・・岩波書店「中世和歌集・鎌倉篇」。

    



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2015年09月03日

名歌鑑賞・みなれ棹 とらでぞくだす 高瀬舟 月の光の さすにまかせて


*************** 名歌鑑賞 ***************


みなれ棹 とらでぞくだす 高瀬舟 月の光の
さすにまかせて      
                 源師賢
               
(みなれざお とらでぞくだす たかせぶね つきの
 ひかりの さすにまかせて)

詞書・・「船中の月」という題で詠みました歌。

意味・・月の光のさすのに任せて、みなれ棹を取ら
    ないで高瀬舟を川下に下している。

 注・・みなれ棹=水馴れ棹。水にひたし使い慣れ
     た棹。棹は舟を漕ぐ時に用いる棒。
    くだす=下す。舟を川下にくだすこと。
    高瀬舟=底は平たくて浅い舟。
    さすに=「光が差す」と「棹をさす」の掛詞。

作者・・源師賢=みなもとのもろかた1035~1081。
    蔵人頭、正四位下。

出典・・後拾遺和歌集・836。
  


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2015年09月02日

名歌鑑賞・村雨の 露もまだ干ぬ 槙の葉に 霧立ちのぼる 秋の夕暮れ


*************** 名歌鑑賞 ***************


村雨の 露もまだ干ぬ 槙の葉に 霧立ちのぼる
秋の夕暮れ      
                寂蓮法師
        

(むらさめの つゆもまだひぬ まきのはに きり
 たちのぼる あきのゆうぐれ)

意味・・ひとしきり降った村雨が通り過ぎ、その雨
    の露もまだ乾かない杉や檜の葉に、早くも
    霧が立ちのぼって、白く湧き上がってくる
    秋の夕暮れよ。

    深山の夕暮れの風景。通り過ぎた村雨の露
    がまだ槙の葉に光っている。それを隠すよ
    うに夕霧が湧いて来て幽寂になった景観を
    詠んでいます。

 注・・村雨=にわか雨。
    露=雨のしずく。
    まだ干ぬ=まだ乾かない。
    槙(まき)=杉、檜、槙などの常緑樹の総称。

作者・・寂蓮法師=じゃくれんほうし。1139~1202。
    俗名は藤原定長。新古今集の撰者の一人。
    従五位上。

出典・・新古今集・491、百人一首・87。



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2015年09月01日

名歌鑑賞・人の世の 憂きをあはれと 見しかども 身にかへむとは思はざりしを


**************** 名歌鑑賞 ****************


人の世の 憂きをあはれと 見しかども 身にかへむとは
思はざりしを             
                   右大臣の北の方

(ひとのよの うきをあわれと みしかども みにかえん
とは おもわざりしを)

意味・・他人の夫婦仲の情けなさをしみじみと気の毒に
    見たことはありますが、自分の身に換えて袖を
    涙で濡らそうとは思いもかけませんでした。

 注・・人=他人。
    世=世の中、男女の仲、夫婦の仲。

作者・・右大臣北の方=源氏物語に登場する貴人の正妻。

出典・・源氏物語・夕霧の巻。
 


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