2015年12月

2015年12月31日

・夕されば 門田の稲葉 おとづれて 芦のまろやに 秋風ぞ吹く


****************** 名歌鑑賞 *****************


夕されば 門田の稲葉 おとづれて 芦のまろやに 
秋風ぞ吹く  
                 源経信
 
(ゆうされば かどたのいなば おとずれて あしの
 まろやに あきかぜぞふく)

意味・・夕方になると、家の前の門田の稲の葉にそよそよと
    音をさせて、芦ぶきの山荘に秋風が吹いて来る。

    田園の秋の風景を詠んだものです。
    まだ日中の暑さが残っている夕方、さわやかな風が
    吹いて来る。その秋風は稲葉を波うたせて吹いてお
    り、稲葉のそよぐ音が心地がよく、自分のいる山荘
    にも涼しさを運んでくるということです。

 注・・夕されば=夕方になると。
    門田=家の前の田。
    おとづれて=人を訪ねるの意であるが、本来は音を
       たてるの意。
    芦のまろや=芦で葺(ふ)いた粗末な仮小屋だが、ここ
       では経信の山荘のこと。

作者・・ 源経信=みなもとつねのぶ。1016~1097。大納言。


出典・・金葉和歌集・173、百人一首・71。


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2015年12月30日

・思わじと 思うも物を 思うなり 思わじとだに 思わじやきみ


*************** 名歌鑑賞 ***************


思わじと 思うも物を 思うなり 思わじとだに
思わじやきみ         
                沢庵

(おもわじと おもうもものを おもうなり おもわじ
 とだに おもわじやきみ)

意味・・思うまいと思い込むことも、そのことに
    とらわれて思っているということなので
    す。思うまいとさえ思わないことです。

    「思」の語を重ねて詠んだ歌として、
    「思ふまじ 思ふまじとは 思へども思
    ひ出して袖しぼるなり」があります。
     (意味は下記参照)

作者・・沢庵=たくあん。1573~1645。大徳寺
    の僧。

参考歌です。

思ふまじ 思ふまじとは 思へども 思ひ出だして
袖しぼるなり          
                 良寛

(おもうまじ おもうまじとは おもえども おもい
 いだして そでしぼるなり)

意味・・亡くなった子を思い出すまい、思い出すまい
    とは思うけれども、思い出しては悲しみの涙
    で濡れた着物の袖を、しぼるのである。

    文政2年(1819年)に天然痘が流行して子供が
    死亡した時の歌です。



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2015年12月29日

・源氏をば 一人となりて 後に書く 紫女年若く われは然らず


*************** 名歌鑑賞 ***************


源氏をば 一人となりて 後に書く 紫女年若く
われは然らず
                 与謝野晶子
             
(げんじをば ひとりとなりて あとにかく しじょ
 としわかく われはしからず)

意味・・源氏物語を良人宣孝(のぶたか)を亡くして
    独り身となってから書いた紫式部は、その
    年はまだ若かったけれども、良人の寛(ひ
    ろし)を失って寡婦となった私はそうではな
    い。もう60歳近くになっていることだ。

    夫を亡くした悲しみを、若くして夫を亡く
    した紫式部を思いやることにより、忘れさ
    せ気を取り直し自分を励ませた歌です。
    
 注・・源氏=源氏物語。
    紫女=紫式部。973年頃の生まれ。
    年若く=20歳後半で夫の宣孝を亡くす。
    宣孝=藤原宣孝。950~1001。
    寛=与謝野鉄幹の本名。1873~1935。
     晶子の夫。

作者・・与謝野晶子=よさのあきこ。1878~1942。
    与謝野鉄幹は夫。昭和13年頃「新々訳源氏
    物語」を刊行。その途中に夫の寛を亡くす。
    歌集は「みだれ髪」「舞姫」「白桜集」な
    ど。

出典・・歌集「白桜集」。



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2015年12月28日

・泣く涙 雨と降らなむ 渡り川 水まさりなば 帰り来るがに


**************** 名歌鑑賞 ***************


泣く涙 雨と降らなむ 渡り川 水まさりなば 
帰り来るがに
               小野たかむら

(なくなみだ あめとふらなん わたりがわ みず
 まさりなば かえりくるがに)

意味・・私が嘆き悲しんで泣く涙が、雨となって降って
    ほしいものだ。そのために三途の川の水かさが
    増したならば、あの人は渡ることが出来ないで
    帰って来るだろうから。

    妹が亡くなった時に詠んだ歌です。

 注・・渡り川=冥途に行く道にある川、三途の川。

作者・・小野たかむら=おののたかむら。802~ 852。
    従三位蔵人頭。遣唐使を拒み隠岐に流された。

出典・・古今和歌集・829。



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2015年12月27日

・わればかり もの思ふ人は またもあらじと 思へば水の 下にもありけり


***************** 名歌鑑賞 ******************


わればかり もの思ふ人は またもあらじと 思へば水の 
下にもありけり
              詠み人知らず
              
(わればかり ものおもうひとは またもあらじと おもえば  
 みずの したにもありけり)

意味・・私ほど悲しんでいる人はまたとあるまい。と思っていた
    ところ、まあ、この水の中にももう一人いたことでした。
 
    洗面時にたらいに映った顔を見て、恋に破れた女性が詠
    んだ歌です。

 注・・もの思ふ=思い悩む。


出典・・伊勢物語・27段。



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2015年12月26日

・みよしのの 山の白雪 踏み分けて 入りにし人の おとづれもせぬ


****************** 名歌鑑賞 ****************

みよしのの 山の白雪 踏み分けて 入りにし人の
おとづれもせぬ       
                 壬生忠岑

(みよしのの やまのしらゆき ふみわけて いりにし
 ひとの おとづれもせぬ)

意味・・俗世を逃れてみ吉野の山の白雪を踏み分けて入っ
    た人が、帰って来ないばかりでなく、便りもくれ
    ないとは、いったいどうしたわけなのだろうか。

    寒さの厳しい山で住む友を思いやる気持を詠んだ
    歌です。
    当時、次の歌のように、吉野山は、俗世を逃れ住
    む別天地でもあった。    

    み吉野の 山のあなたに 宿もがな 世の憂き時の
    かくれがにせむ   (古今集・950 詠人知らず)

   (山深い吉野山の、さらに向うに、宿でも欲しいもの
    である。この世がいやになった時の隠れ家にしたい
    と思うの

 注・・みよしの=吉野は奈良県南部の地、「み」は美称。
      ここでは、世を逃れる人の入る山。
    入りにし人=山に入って、そのまま出家した人
    おとづれ=音信、たより。

出典・・古今和歌集・327。

作者・・壬生忠岑=みぶのただみね。生没年未詳。910年
    頃活躍した人。古今集の撰者の一人。



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2015年12月25日

・初瀬山 夕越え暮れて 宿問へば 三輪の檜原に 秋風ぞ吹く


*************** 名歌鑑賞 ****************


初瀬山 夕越え暮れて 宿問へば 三輪の檜原に 
秋風ぞ吹く   
                禅性法師

(はつせやま ゆうごえくれて やどとえば みわの
 ひばらに あきかぜぞふく)

意味・・初瀬山を夕方越えていくうちに日が暮れて、宿
    を探していると、三輪の檜原に秋風が吹くこと
    だ。

    初瀬の長谷寺に参詣した道で詠んだ歌です。
    「夕方」、「檜原」、「秋風」とでわびしさ、
    心細さを深く表現しています。

 注・・三輪=奈良県桜井市穴師のあたり。
    檜原=檜(ひのき)の生えている原。

作者・・禅性法師= ぜんしょうほうし。生没年未詳。
    仁和時の僧。

出典・・新古今和歌集・966。



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2015年12月24日

・楽しみは 書よみ倦める をりしもあれ 声知る人の 門たたく時


***************** 名歌鑑賞 *****************


楽しみは 書よみ倦める をりしもあれ 声知る人の 
門たたく時 
                   橘曙覧

(たのしみは しょよみうめる おりしもあれ こえ
 しるひとの かどたたくとき) 

意味・・私の楽しみは、読書にそろそろ飽きてきたちょうど
    その時、声を聞いただけで、ああ、あの人だと分か
    る知り合いが、我が家の戸をたたいて訪ねた時です。

    似た心境として、
    長く仕事を続けていると疲れてくる。ここで一息入
    れたいところだ。でも、あともう少しあともう少し
    と思いながら仕事を進めるが、余りはかどらない。
    この時コーヒータイムしませんかと誘われると踏ん切
    りがつく。誘ったり誘われたり、こういう人間関係
    を持つことは楽しいものだ。

 注・・倦める=飽きる。

作者・・橘曙覧=たちばなあけみ。1812~1868。早く父母
    に死別。家業を異母弟に譲り隠棲した。福井藩の重
    臣と親交。

出典・・岩波文庫「橘曙覧全歌集」。

 


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2015年12月23日

・御民我れ 生ける験あり 天地の 栄ゆる時に あへらく思へば


*************** 名歌鑑賞 *****************


御民我れ 生ける験あり 天地の 栄ゆる時に
あへらく思へば  
                海犬養岡麻呂

(みたみわれ いけるしるしあり あめつちの さかゆる
 ときに あえらくおもえば)

意味・・日本の国民である私は、ほんとうに生きがいが
    あります。天地の栄える時世に生まれ遇わせた
    ことを思いますと。

    今は苦しくても、努力に努力を重ねている時は
    このような気持ちになると思います。

 注・・験(しるし)=かいのあること。効果。
    あへらく=会へらく。出会う、遭遇する。

作者・・海犬養岡麻呂=あまのいぬかいおかまろ。生没
    年未詳。734年頃活躍した人。

出典・・万葉集・996。 



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2015年12月22日

・吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 嵐といふらむ


****************** 名歌鑑賞 ******************


吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 
嵐といふらむ         
                  文屋康秀

(ふくからに あきのくさきの しおるれば むべやま
 かぜを あらしというらん)

意味・・吹くとすぐに、秋の草も木もたわみ傷つくので、
    なるほど、それで山から吹き降ろす風を「荒し」
    と言い、「嵐」とかくのだろう。

    実景としては、野山を吹きまくって草木を枯らし
    つくす晩秋の風景を詠んだものです。
    山と風の二字を合わせて「嵐」になるという文字
    遊びにもなっています。

    二字を合わせて文字にした歌、参考です。

    雪降れば 木毎に花ぞ 咲きにける いづれを梅と
    わきて折らまし    (意味は下記参照)
  
 注・・しをるれば=しぼみ、たわみ傷つくので。
    むべ=なるほど。 
    嵐=荒々しいの「荒し」を掛けている。

作者・・文屋康秀=ぶんやのやすひで。生没年未詳。890
    年頃の人。六歌仙の一人。

出典・・古今和歌集・249、百人一首・22。
  
参考歌です。

雪降れば 木毎に花ぞ 咲きにける いづれを梅と 
わきて折らまし          
                 紀友則

(ゆきふれば きごとにはなぞ さきにける いずれを
 うめと わきておらまし)

意味・・雪が降ったので、木毎(きごと)に花が真っ白に
    咲いた。「木毎」と言えば「梅」のことになる
    が、さて庭に下りて花を折るとすれば、この積
    雪の中から、どれを花だと区別して折ればいい
    のだろう。

作者・・紀友則=きのとものり。生母常未詳。貫之とは
    従兄弟にあたる。古今集の撰者であったが途中
    で没した。

出典・・古今和歌集・337。


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2015年12月21日

・君まさで 煙絶えにし 塩竃の うらさびしくも 見えわたるかな


**************** 名歌鑑賞 ******************


君まさで 煙絶えにし 塩竃の うらさびしくも 
見えわたるかな  
               紀貫之
              
(きみまさで けむりたえにし しおがまの うらさび
 しくも みえわたるかな)

意味・・ご主人が亡くなられてから、塩を焼く煙も消えて
    しまった塩釜の浦ではあるが、まさに文字どおり、
    あたり一面がうら寂しく見渡されることである。

    実力者の源融(みなもととおる)左大臣が亡くなっ
    てから詠んだ歌です。源融は河原院という大規模
    な豪邸を建て、そこには塩釜の風景を真似て造り
    海水を引き込み塩を焼いていた。

 注・・まさで=「ます」は「あり」「おり」の尊敬語。
     その未然形に打ち消しを表わす「で」がついた
     もの。お亡くなりになった。
    煙絶え=塩焼く煙が絶え。当時は塩をとるために
     海草に海水を掛けて焼いたので、その煙が「塩
     焼く煙」です。
    塩竃=宮城県塩竃市。「煙の絶えた塩の釜」と地
     名の塩釜」を掛けている。
    うら=塩釜の「浦」と「うら悲しい」を掛ける。

作者・・紀貫之=きのつらゆき。866~945。「古今和歌集」の
    中心的な撰者。「仮名序」も執筆。「土佐日記」の作者。

出典・・古今和歌集・852。



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2015年12月20日

・ぬばたまの 夜の更けゆけば 久木生ふる 清き川原に 千鳥しば鳴く


**************** 名歌鑑賞 ****************


ぬばたまの 夜の更けゆけば 久木生ふる 清き川原に 
千鳥しば鳴く       
                    山部赤人

(ぬばたまの よのふけゆけば ひさぎおうる きよき
 かわらに ちどりしばなく)

意味・・夜がしだいに更けてゆくと、久木の生える清い
    川原で千鳥がしきりに鳴いていることだ。

    夜の静寂を逆に千鳥の声により表現しています。

 注・・ぬばたま=夜の枕詞。
    夜の更けゆけば=夜が次第に深まっていくと。
    久木=のうぜんかづら科の落葉高木。赤芽柏と
     もいう。

作者・・山部赤人=やまべのあかひと。生没年未詳。730
    年頃没。 

出典・・万葉集・925。



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2015年12月19日

・里人の 裾野の雪を 踏分けて ただ我がためと 若菜つむらん


****************** 名歌鑑賞 *****************


里人の 裾野の雪を 踏分けて ただ我がためと 
若菜つむらん
               後鳥羽院

(さとびとの すそののゆきを ふみわけて ただわが
 ためと わかなつむらん)

意味・・村里の人が山の裾野の雪を踏み分けて、若菜を摘んで
    いるが、ただもう自分が生きてゆくためにと摘むので
    あろうか。

    「君がため春の野にいでて若菜つむ我が衣手に雪は
     降りつつ」(意味は下記参照)を念頭に置きつつ、
     そのように人のために摘む風流な若菜では無いと
     詠んだ歌です。

 注・・若菜=せりやなずななど、食用や薬用の草の総称。

作者・・後鳥羽院=ごとばいん。1180~1239。承久の乱で
    隠岐に流された。新古今和歌集の撰集を下命。

出典・・遠島百首(岩波書店「中世和歌集・鎌倉篇」) 

参考歌です。

君がため 春の野に出でて 若菜つむわが衣手に
雪は降りつつ
                光考天皇

意味・・あなたに差し上げるために春の野に出て若菜を摘む
    私の袖には雪がしきりに降りかかっているのです。

    雪と寒さを押して摘んだ自分の志を伝えています。

作者・・光考天皇=こうこうてんのう。820~887。

出典・・古今和歌集・21、百人一首・15。


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2015年12月18日

・入日さす 麓の尾花 うちなびき たが秋風に 鶉鳴くらん


*************** 名歌鑑賞 ****************


入日さす 麓の尾花 うちなびき たが秋風に
鶉鳴くらん     
                源通光

(いりひさす ふもとのおばな うちなびき たが
 あきかぜに うずらなくらん)

意味・・夕日のさす麓の尾花がなびき、その中に
    伏して、だれの飽き心のためにか、秋風
    に辛(つら)くなって、鶉は鳴いているの
    であろうか。

    夕日のさす山麓の秋風になびく尾花の中
    でわびしく鳴く鶉に、男の飽き心に泣き
    わびている女性の面影を見ています。

 注・・入日=夕日。
    尾花=薄の穂。
    なびき=横に倒れ伏す。尾花がなびく意
     と鶉が伏すの意を掛ける。
    秋風=「秋」に「飽き」を掛ける。
    鶉=「鶉」の「う」に「憂し」を掛ける。

作者・・源通光=みなもとのみちてる。1248年没。
    62歳。従一位太政大臣。

出典・・新古今和歌集・513。



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2015年12月17日

・落ちて行く 身と知りながら もみぢ葉の 人なつかしく こがれこそすれ


***************** 名歌鑑賞 *****************


落ちて行く 身と知りながら もみぢ葉の 人なつかしく
こがれこそすれ
                    皇女和宮

(おちてゆく みとしりながら もみじばの ひと
 なつかしく こがれこそすれ)

意味・・燃えるような紅葉の彩りは、しかし、よく見ると
    風に舞って落ちてゆく。その身の不運を知りなが
    らも、その不運を嘆くだけでなく、その一葉一葉
    にも生命があり、それを燃やし尽くしている。
    私は、政略結婚でこれから嫁いで行くのだが、不運
    を嘆くのでなく、相手の心に打ち解け、いちずに
    恋慕い尽してゆかねばと思う。

    徳川将軍家茂(いえもち)に16歳で嫁いで行く道中
    で詠んだ歌です。

 注・・なつかしく=心にひかれる。
    こがれ=焦がれ。いちずに恋したう。思い焦がれ
     る。

作者・・皇女和宮=こうじょかずのみや。1846~1877。
    31歳。政略結婚で14代徳川将軍家茂(いえもち)に
    嫁ぐ。

出典・・松崎哲久著「名歌で読む日本の歴史」。



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2015年12月16日

・若の浦に 潮満ち来れば 潟を無み 芦辺をさして 鶴鳴き渡る


**************** 名歌鑑賞 ****************


若の浦に 潮満ち来れば 潟を無み 芦辺をさして
鶴鳴き渡る       
                 山部赤人
 
(わかのうらに しおみちくれば かたをなみ あしべを
 さして たずなきわたる)

意味・・和歌の浦に潮が満ちて来ると干潟が無くなる
    ので、芦の生えている岸の方へ向かって鶴が
    鳴きながら飛んで行くよ。

 注・・若の浦=和歌山市和歌浦の玉津島神社付近。
    潟を無み=干潟が無いので。

作者・・山部赤人=やまべのあかひと。生没年未詳。
    724頃活躍した宮廷歌人。

出典・・万葉集・919。




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2015年12月15日

・朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに あらはれたる 瀬々の網代木


***************** 名歌鑑賞 ******************


朝ぼらけ 宇治の川霧 たえだえに あらはれたる 
瀬々の網代木        
                 藤原定頼
             
(あさぼらけ うじのかわぎり たえだえに あらわれたる
 せぜのあじろぎ)

意味・・明け方、あたりがほのぼのと明るくなる頃、宇治川の
    川面に立ち込めていた霧がとぎれとぎれになって、そ
    の絶え間のあちらこちらから点々と現れてきた川瀬の
    網代木よ。

    冬の早朝、霧の美しい風景を詠んでいます。

注・・あさぼらけ=夜明け方、あたりがほのぼのと明るくなる頃。
   瀬々 =「瀬」は川の浅い所。
   網代木=「網代」は川に竹や木を組み立て網のかわりにし、
        魚をとるしかけ。木はその杭。

作者・・藤原定頼=ふじわらさだより。995~1045。藤原公任(
    きんとう)の子。正二位権中納言。小式部内侍(こしきぶ
    のないし)をからかって「大江山いく野の道の遠ければま
    だ文もみず天の橋立・百人一首・60」の歌を詠ませたの
    は有名。

出典・・千載和歌集・420、百人一首・64。



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2015年12月14日

・唐衣 着つつなれにし 妻しあれば はるばる来ぬる 旅をしぞ思ふ


****************** 名歌鑑賞 ******************


唐衣 着つつなれにし 妻しあれば はるばる来ぬる 
旅をしぞ思ふ              
                 在原業平
            

らころも つつなれにし ましあれば るばるきぬる
 びをしぞおもう)

(か・・・・ き・・・・・・ つ・・・・  は・・・・・・   た・・・・・)

意味・・くたくたになるほど何度も着て、身体になじんだ衣服
    のように、慣れ親しんだ妻を都において来たので、都を
    遠く離れてやって来たこの旅路のわびしさがしみじみと
    感じられることだ。

    三河の国八橋でかきつばたの花を見て、旅情を詠んだ
    ものです。各句の頭に「かきつばた」の五文字を置い
    た折句です。この歌は「伊勢物語」に出ています。

 注・・唐衣=美しい立派な着物。
    なれ=「着慣れる」と「慣れ親しむ」の掛詞。
    しぞ思う=しみじみと寂しく思う。「し」は強調の意
     の助詞。
    三河の国=愛知県。

作者・・在原業平=ありわらのなりひら。825~880。従四位
     ・美濃権守。行平は異母兄。

出典・・古今集・410、伊勢物語・9段。



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2015年12月13日

・東路の 道の冬草 茂りあひて 跡だに見えぬ 忘水かな


**************** 名歌鑑賞 ****************


東路の 道の冬草 茂りあひて 跡だに見えぬ 
忘水かな      
               康資王母

(あずまじの みちのふゆくさ しげりあい あとだに
 みえぬ わすれみずかな)

詞書・・東に侍りける時、都の人につかはしける。

意味・・ここ吾妻では、道のほとりの冬枯れた草
    が茂り合い、人の訪れた跡さえ見えない
    野中に、忘れ水がひっそりと流れていま
    す。

    都から吾妻へ行ってしまったら、都から
    の便りも途絶えて忘れさられた寂しさを
    詠んでいます。
    
 注・・東(あづま)=東国。ここでは陸奥国。吾
     妻は群馬県吾妻。
    跡だに=人の足跡さえ。手紙も貰えない
     ことを暗示している。
    忘水=野中に隠れて人に知られない水。
     ここでは都人に忘れられている自分
     を暗示している。

作者・・康資王母=やすすけおうのはは。生没年
    未詳。筑前守高階成順の娘。

出典・・新古今和歌集・628。
 


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2015年12月12日

・行く水は 堰けばとまるを 紅葉ばの 過ぎし月日の また返へるとは


**************** 名歌鑑賞 ****************


行く水は 堰けばとまるを 紅葉ばの 過ぎし月日の
また返へるとは         
                  良寛

(ゆくみずは せけばとまるを もみじばの すぎし
 つきひの またかえるとは)

意味・・流れる水は堰き止めれば止まるのに、過ぎて
    しまった月日が再び戻ってくるとは聞いた事
    がないなあ。

    堰で秋を留めると詠んだ歌として、
    「落ちつもる紅葉を見れば大井川いせきに秋
    もとまるなりけり」があります。
         (意味は下記参照)

    うかうかしていると、生き生きとした盛んな
    年頃は過ぎ去って行く。二度と同じ月日はも
    う戻って来ない。

 注・・紅葉ばの=「過ぎ」の枕詞。

作者・・良寛=りょうかん。1758~1831。

出典・・谷川敏朗著「良寛全歌集」。
参考歌です。

落ちつもる 紅葉を見れば 大井川 ゐせきに秋も
とまるなりけり    
                 藤原公任

意味・・大井川の堰(いせき)に散り落ちて積もっている
    紅葉をみると、堰は水をせき止めるだけでなく
    紅葉を止め、秋という季節もここに止めている
    のであった。

    冬になったが、まだいせきに秋は残っている
    という事を詠んでいます。

 注・・ゐせき=堰。水をせき止める施設。

作者・・藤原公任=ふじわらのきんとう。966~1041。
    正二位権大納言。三船の才と言われて詩歌管弦
    の三方面の才能を兼備していた。和漢朗詠集を
    撰集した。

出典・・後拾遺和歌集・377。
 


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2015年12月11日

・世にふるもさらに宗祇のやどりかな


*************** 名歌鑑賞 *****************


世にふるもさらに宗祇のやどりかな
                       芭蕉
                    
(よにふるも さらにそうぎの やどりかな)

詞書・・手づから雨の侘笠(わびがさ)をはりて。

意味・・数日こうして渋笠を張りながら、旅の詩人宗祇を
    思うのも、いささか古人にあやかるところあって
    面白いが、しかしさらに考えてみれば、この人生
    そのものが、「宗祇のやどり」に他ならないので
    はなかろうか。

    宗祇の句、
    「世にふるも更に時雨のやどりかな」とさらに
    二条院讃岐の歌、
    「世に経るは苦しきものを槙の屋にやすくも過ぐる
     初時雨かな」
     を念頭に詠んだ句です。(意味は下記参照)    

 注・・手づから=自分の手で。
    侘笠(わびがさ)=侘び人にふさわしい笠。
    宗祇のやどり=時雨の晴れるのを待つ間の侘しい
     宿りのこと。

作者・・芭蕉=1644~1694。松尾芭蕉。「野ざらし紀行」
     「奥の細道」「笈の小文」。


出典・・笈日記。

宗祇の句です。

世にふるも 更に時雨の やどりかな 
                     宗祇

(よにふるも さらにしぐれの やどりかな)

意味・・時雨降る(信濃路で)一夜の雨宿りをするのは
    侘しい限りであるが、更に言えばこの人生
    そのものが時雨の過ぎるのを待つ雨宿りの
    ようではないか。
    
    冷たい雨が降ったり止んだりするように、
    人生も良かったり悪かったりするという無
    常観を詠んでいます。

 注・・ふる=「降る」と「経る」を掛ける。
    さらに=さらに言えば。
    時雨=初冬のにわか雨。人生の無常や冬の
     始まりの侘しさを感じさせる。

二条院讃岐歌です。

世に経るは 苦しきものを 槙の屋に やすくも過ぐる
初時雨かな       
                  二条院讃岐

(よにふるは くるしきものを まきのやに やすくも
 すぐる はつしぐれかな)

意味・・世を生きながらえていくことは辛く苦しいもの
    なのに、槙の屋に降る初時雨はいとも軽々しく
    降り過ぎていくことだ。

    辛さや苦しみ、悲しみを十分味わったので、「
    やすく過ぐる」ように、これからは容易に世を
    過ごす事が出来たら良いのに、という気持を詠
    んでいます。
    なお、二条院は平家との戦いで父と子を亡くし
    ています。

 注・・世に経る=この世に生きながらえる。
    槙の屋=槙の板で葺(ふ)いた家。
    やすく過ぐる=なんの苦しみもなくさらさらと
     降り過ぎる。

作者・・二条院讃岐=にじょういんのさぬき。1141~
    1217。後鳥羽院の中宮に仕えた。

出典・・新古今和歌集・590。



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2015年12月10日

・名を聞けば 昔ながらの 山なれど しぐるる秋は 色まさりけり


*************** 名歌鑑賞 ****************


名を聞けば 昔ながらの 山なれど しぐるる秋は
色まさりけり
                 源順
              
(なをきけば むかしながらの やまなれど しぐるる
 あきは いろまさりけり)

意味・・名を聞くと、昔ながら変ることのない、長等山
    ではあるけれど、時雨が降る秋は、一段と色が
    まさることだ。

    不変の長等山が、美しく紅葉した景色を詠んで
    います。

 注・・ながら山=「長等山」と「昔ながら」を掛ける。
     長等山は滋賀県大津市の三井寺の裏山。
    しぐるる=時雨るる。秋から冬にかけて降った
     り止んだりする雨、が降る。

作者・・源順=みなもとのしたがう。911~983。従五位
    ・能登守。万葉集を読解する。「後撰和歌集」の
    撰者。

出典・・拾遺和歌集・198。



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2015年12月09日

・照る月の 冷えさだかなる あかり戸に 眼は凝しつつ 盲ひてゆくなり


***************** 名歌鑑賞 *****************


照る月の 冷えさだかなる あかり戸に 眼は凝しつつ
盲ひてゆくなり
                   北原白秋
             
(てるつきの ひえさだかなる あかりどに めは
 こらしつつ しいてゆくなり)

意味・・
ガラス戸に照っている月の光がいかにも冷え
    冷えとした冷たい感じなのは、盲(めし)いて
    ゆく眼にもはっきり分かるのだが、この冷え
    冷えしたガラス戸を、よく見えない眼で見つ
    めながら、この冷たい世界で、だんだん自分
    は盲人になってゆくのだ。

    眼底出血して入院している時に詠んだ歌です。
    失明への恐れという事態になって自分の気持
    を整理しています。    

 注・・さだかなる=はっきりしているの意。
    あかり戸=明かりをとる戸の意でガラス戸。
    凝(こら)しつつ=「凝す」はじっと見つめる。
    盲(し)ひて=「しふ」(廃ふ)は器官の働きが
     なくなる意。「盲」は「めしひて」と読む
     べきだが、リズムの上で「め」をはぶいた
     もの。

作者・・北原白秋=きたはらはくしゅう。1885~19
    42。近代詩歌にすぐれた仕事を残す。詩集
    「邪宗門」歌集「桐の花」「黒檜」。

出典・・歌集「黒檜・くろひ」(笠間書院「和歌の解
    釈と鑑賞事典」)



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2015年12月08日

・百敷や 古き軒端の しのぶにも なほあまりある 昔なりけり


**************** 名歌鑑賞 ****************


百敷や 古き軒端の しのぶにも なほあまりある 
昔なりけり
                順徳院
           
(ももしきや ふるきのきばの しのぶにも なお
 あまりある むかしなりけり)

意味・・宮中の古びた軒端の忍ぶ草を見るにつけても、
    偲んでも偲びつくせないほど慕(した)わしい
    ものは、昔のよき御代なのである。

    宮中の古い建物に生えている忍ぶ草によって
    象徴されるのは、皇室の権威の衰えであり、
    王朝の室町から武家の鎌倉への時代の変遷の
    中、過去の時代の繁栄ぶりと現在の衰退ぶり
    の嘆きを詠んでいます。

 注・・百敷=「大宮」にかかる枕詞。ここでは宮中。
    しのぶ=「偲ぶ」と「忍ぶ草」を掛ける。忍
     ぶ草は羊歯類の一種、邸宅が荒廃している
     さまを表現。
    なほ=やはり。
    あまりある=度を超している。ここでは、偲
     んでも偲びきれないの意。
    昔なりけり=皇室の栄えていた過去の時代。

作者・・順徳院=じゅんとくいん。1197~1242。
    後鳥羽天皇の第三皇子。承久の乱により佐渡
    に配流された。

出典・・続後撰集・1205、百人一首・100。



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2015年12月07日

・皆人を 寝よとの鐘は 打つなれど 君をし思へば 寝ねかてぬかも


**************** 名歌鑑賞 ****************


皆人を 寝よとの鐘は 打つなれど 君をし思へば
寝ねかてぬかも     
                 笠女郎

(みなひとを ねよとのかねは うつなれど きみを
 しおもえば いねかてぬかも)

意味・・皆の者寝よという時の鐘は鳴っているが、
    あなたを思うと眠ろうにも眠れません。

    悩みを持たない世の常の人と比べて、
    ひとり、恋にもだえる気持ちを詠んだ
    歌です。
    その後、片思いだと観念して次の歌を
    詠んでいます。
   「相思はぬ人を思ふは大寺の餓鬼の後方に
    額づくがごと」(意味は下記参照)

 注・・鐘=時守が亥の刻(午後十時頃)、人の
     寝静まるべきとされ時に打つ鐘。
    かてぬ=・・できない。

作者・・笠女郎=かさのいらつめ。生没年未詳。
    大伴家持と交渉のあった女性歌人。

出典・・万葉集・607。

参考歌です。

相思はぬ 人を思ふは 大寺の 餓鬼の後方に 
額づくがごと         
               笠女郎

(あいおもわぬ ひとをおもうは おおでらの がきの
 しりえに ぬかずくがごと)

意味・・互いに思わない人を一方的に思うのは、大寺
    の餓鬼を後方から額をこすりつけて拝んでい
    るようなものだ。

    片思いは仏ならぬ餓鬼に、しかも後方から拝
    むように、何のかいもないことだと、我が恋
    を自嘲するものです。

 注・・相思はぬ=片思いのこと。
    後方(しりえ)に=後から。

出典・・万葉集・608。 


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2015年12月06日

・あはれにも たえず音する 時雨かな とふべき人も とはぬすみかに


*************** 名歌鑑賞 ***************


あはれにも たえず音する 時雨かな とふべき人も
とはぬすみかに   
                  藤原兼房

(あわれにも たえずおとする しぐれかな とうべき
 ひとも とはぬすみかに)

意味・・感心にもたえず音がしている時雨だなあ。
    当然訪ねて来るはずの人だって、いっこう
    に音沙汰のないこの住みかに。
    誰か遊びに来ないかなあ。

 注・・あはれ=しみじみとした趣、感心だ。

作者・・藤原兼房=ふじわらのかねふさ。1004~
    1069。播磨守・正四位。

出典・・後拾遺和歌集・380。



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2015年12月05日

・信濃なる すがの荒野を 飛ぶ鷲の つばさもたわに 吹くあらしかな


************** 名歌鑑賞 **************


信濃なる すがの荒野を 飛ぶ鷲の つばさもたわに
吹くあらしかな      
                 賀茂真淵

(しなのなる すがのあらのを とぶわしの つばさも
 たわに ふくあらしかな)

意味・・信濃の国にある須賀の荒野を飛ぶ鷲の翼も
    たわむほどに激しく吹く嵐であるよ。

 注・・すがの荒野=長野県松本市のあたり。

作者・・賀茂真淵=かものまぶち。1697~1769。
    万葉集などの古学の国文学者。本居宣長
    など門人を多数育成。

出典・・河出書房「蕪村・良寛・一茶」。

 



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2015年12月04日

301 三日月の また有明に なりぬるや うきよにめぐる ためしなるらん


**************** 名歌鑑賞 ***************


三日月の また有明に なりぬるや うきよにめぐる
ためしなるらん    
                 藤原教長

(みかづきの またありあけに なりぬるや うきよに
 めぐる ためしなるらん)

意味・・三日月が再び有明月となったが、こうして
    夜々に廻り廻る月が、人が憂き世に輪廻す
    る証しなのだろうか。


    人の世の栄落を月の満ち欠けに譬えている。

    栄えていても油断していると落ちぶれるし、
    落ちぶれていても努力精進していればまた

    栄えるものだ、と詠んでいます。

 注・・有明=夜明け近くまで出ている月。
    うきよ=憂き世。つらい世の中。
    めぐる=廻る。月が空を廻るの意と、人の
     生き続ける意を掛ける。輪廻する。
    ためし=試し。証拠、手本。

作者・・藤原教長=ふじわらののりなが。1109~ 。

    参議正四位下。保元の乱で常陸(むつ)に配
    流された。

 出典・・詞花和歌集・351。


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2015年12月03日

300 うづくまる薬の下の寒さかな


*************** 名歌鑑賞 **************


うづくまる薬の下の寒さかな
                  内藤丈草

(うずくまる くすりのもとの さむさかな)

前書・・ばせを翁の病床に侍りて。

意味・・師芭蕉の病状は重い。師の病を案じながら
    火鉢の薬釜のそばでうずくまっていると、
    寒さがひしひし迫ってくる。また心配の為
    心も寒い。

    芭蕉臨終の数日前の吟です。
    つのる不安を「寒さ」に込められています。

 注・・うづくまる=しゃがんで丸くなること。
    寒さ=冬の気温の寒さだけでなく、心理的
     な寒さも含めている。心の寒さ。

作者・・内藤丈草=ないとうじょうそう。1662~1704。
            尾張犬山藩士。後に遁世(とんせい・世を逃れ
    隠居すること)した。

出典・・丈草発句集(笠間書院「俳句の解釈と鑑賞辞典」) 


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2015年12月02日

301 今ぞ知る 二見の浦の 蛤を 貝合とて おほふなりけり


***************** 名歌鑑賞 ****************


今ぞ知る 二見の浦の 蛤を 貝合とて おほふなりけり

                   西行

(いまぞしる ふたみのうらの はまぐりを かいあわせ
 とて おおうなりけり)

意味・・今初めて分かったことだ。都では貝合わせと
    いって、この二見の浦の蛤を合わせて遊んで
    いるということが。

    相当の身分の有りそうな女性達がなにかあり
    げそうに貝を拾っている。貧しい海の生活者
    ならいざ知らず、が、身分の高い人達のする
    事としてふさわしくない。はて、どうしてだ
    ろうかと思っていると、都では貝合わせの遊
    戯がありその為に拾っている、と聞いて詠ん
    だ歌です。

 注・・二見の浦=三重県伊勢市の海岸。
    貝合=蛤の貝殻に絵や歌を書き、カルタ取り
     のようにして合わせる遊び。
    おほふ=覆う・被う、かぶせる。貝合わせを
       すること。

作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。鳥羽院の
    北面武士。23才で出家。

出典・・山家集・138。



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2015年12月01日

300 ありしにも あらずなりゆく 世の中に かはらぬものは 秋の夜の月


**************** 名歌鑑賞 ***************


ありしにも あらずなりゆく 世の中に かはらぬものは
秋の夜の月           
                   明快

(ありしにも あらずなりゆく よのなかに かわらぬ
 ものは あきのよのつき)

意味・・昔のようでは無くなってゆくこの世の中で、
    変わらないものは秋の夜の月だけだ。

    自分の姿や世間の様子が昔と変わって行く
    中で、月の美しさだけは昔と変わらない羨
    ましさ、世の無常さを詠んでいます。

 注・・ありし=以前の。昔の。
    無常=全ての物が生滅変転して留まらない事。

作者・・明快=みょうかい。986~1070。 天台座主。


出典・・詞花和歌集・98。


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