2016年07月

2016年07月31日

・値なき 宝といふとも 一杯の 濁れる酒に値なき 宝といふとも 一杯の 濁れる酒に あにまさめやも


************** 名歌鑑賞 ***************


値なき 宝といふとも 一杯の 濁れる酒に
あにまさめやも    
               大伴旅人

(あたいなき たからというとも ひとつきの にごれる
 さけに あにまさめやも)

意味・・値をつけようがないほど貴い宝珠でも、
    濁り酒一杯にどうして勝るといえようか。

    気持ちが大きくなる酒の効用を詠んでい
    ます。

 注・・値なき宝=値をつけようが無いほどの宝。

作者・・大伴旅人=おおとものたびと。665~720。
    大納言、従二位。

出典・・万葉集・345。  



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2016年07月30日

・わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ 海人の釣舟


***************** 名歌鑑賞 ******************


わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ 
海人の釣舟
                   小野篁
             
(わたのはら やそじまかけて こぎいでぬと ひとには
 つげよ あまのつりぶね)

意味・・たくさんの島々を目当てとして、私は大海原に漕ぎ
    出して行ったと、家人にきっと伝えてくれ。その辺
    の舟で釣り糸をたれている漁師たちよ。

    島根の隠岐(おき)島に流罪になり、舟に乗って出発
    する時に都に残された人々に贈った歌です。
    「海人の釣舟」にしかすがりつくものがない、孤独
    と絶望が表現されています。

 注・・わたの原=広い海のこと。
    八十島=「八十(やそ)」は数の多いことを表わす。
     摂津の国難波(大阪市)から瀬戸内海の船旅になり
     島々を通り抜けるので、八十島といっている。
    海人(あま)=漁業に従事する人。

作者・・小野篁=おののたかむら。802~852。当時の第一
    級の学者で漢詩文に優れる。嵯峨上皇に遣唐使を命
    じられ、断った為隠岐の島に流された。

出典・・古今和歌集・407、百人一首・11。



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2016年07月29日

・わたのはら たつ白波の いかなれば なごりひさしく 見ゆるなるらん


わたのはら たつ白波の いかなれば なごりひさしく 
見ゆるなるらん           
                  源朝任

(わたのはら たつしらなみの いかなれば なごり
 ひさしく みゆるなるらん)

意味・・海原に立っている白波が、なんで余波がいつまでも
    静まらないのだろうか。
    あなたは私に対して恨んでいるようだが、どうして
    いつまでも腹を立てているのだろうか。もういい加
    減にしてほしいものだ。

    人にした仕打ちが憎まれていた時分、その相手に
    詠んで贈った歌です。

 注・・わたのはらたつ白波=「わたのはら(海原)」と
      「腹(立つ)」、「(腹)立つ」と「立つ(白波)」
       の掛詞。
    なごり=「余波」、海辺に打ち寄せた波が引いたあと。
        「名残」、事のあったこと、余情。この二つ
        を掛ける。

作者・・源朝任=みなもとのともとう。989~1034。従三位・
    参議。 

出典・・後拾遺和歌集・935。
    


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2016年07月28日

・神垣の 御室の山の 榊葉は 神のみ前に 茂り合いにけり


************** 名歌鑑賞 ***************


神垣の 御室の山の 榊葉は 神のみ前に 
茂り合いにけり
              詠人知らず

(かみがきの みむろのやまの さかきばは かみの
 みまえに しげりあいにけり)

詞書・・採物(とりもの)歌。

意味・・神垣に取り囲まれた神殿のある山の榊葉は
    神聖な神様をたたえるように、一面に青々
    と茂っていることだ。

    採物歌は神楽を奏す時に舞人が歌に詠まれ
    た物を手に持って舞う歌です。この場合は
    榊葉です。

 注・・神垣(かみがき)=神社の周囲にめぐらした
     垣。
    御室=貴人の住居の敬称、神社。
    神み前=神前。

出典・・古今和歌集・1074。



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2016年07月27日

・ささなみの 志賀の辛崎 幸くあれど 大宮人の 船待ちかねつ


*************** 名歌鑑賞 ***************


ささなみの 志賀の辛崎 幸くあれど 大宮人の 
船待ちかねつ 
                  柿本人麻呂

(ささなみの しがのからさき さきくあれど おおみや
 びとの ふねまちかねつ)

詞書・・近江の荒れたる都を過ぐる時に作る歌。

意味・・志賀の辛崎は変わらずそのままにあるが、
    かってここで遊んだ大宮人の船は、いくら
    待ってもやって来ない。

    壬申(じんしん)の乱以後、都は大和に移っ
    たので大津の旧都は荒廃した。この嘆きを
    詠んだ歌です。

 注・・ささなみ=琵琶湖南部の古名。志賀の枕詞。
    幸(さき)く=幸福に、無事に、昔通り変わ
     らず。
    大宮人=宮中に仕える人。

作者・・柿本人麻呂=かきのもとひとまろ。生没未
    詳。奈良遷都(710)頃の人。舎人(とねり・
    官の名称)として草壁皇子、高市皇子に仕え
    た。

出典・・万葉集・30。



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2016年07月26日

・大井川 くだすいかだし 早き瀬に あかでや花の 影をすぐらん


**************** 名歌鑑賞 ****************


大井川 くだすいかだし 早き瀬に あかでや花の
影をすぐらん      
                 兼好法師
              
(おおいがわ くだすいかだし はやきせに あかでや
 はなの かげをすぐらん)

意味・・大井川を川下に漕ぎくだす筏師は、早瀬の為に
    花を満足に楽しむこともなくて、その下を過ぎ
    ることであろう。

 注・・大井川=京都市右京区嵯峨の嵐山の裾を流れる
     川。花や紅葉の名所。
    あかで=飽かで。なごり惜しい、心残りで。

作者・・兼好法師=けんこうほうし。1283年頃の生まれ。
    70歳位。後二条院の六位蔵人を経て30歳頃出家。
    作品に「徒然草」・「兼好法師家集」など。

出典・・岩波文庫「兼好法師家集・39」。



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2016年07月25日

・かくばかり めでたく見ゆる 世の中を うらやましくや のぞく月影 


**************** 名歌鑑賞 ****************


かくばかり めでたく見ゆる 世の中を うらやましくや
のぞく月影         
                               四方赤良
                
(かくばかり めでたくみゆる よのなかを うらやま
 しくや のぞくつきかげ)

意味・・これほどにめでたく見えるこの地上の世の中を、
    うらやましいと思ってか、そっと月が覗いて見
    ている。

    雲間からわずかにあらわれた月を、古歌の意を
    逆に用いて擬人化して詠んだ歌です。
    この世はただ表面がめでたく見えるだけではな
    いかと現世謳歌をみせかけだと皮肉っています。

    古歌です。
    「かくばかり経がたくみゆる世の中にうらやま
    しくもすめる月かな」 (意味は下記参照)

 注・・月影=月光、月の明かり。

作者・・四方赤良=よものあから。1749~1823。支配
    勘定の幕臣。黄表紙、洒落本、滑稽本などで江
    戸時代に活躍した。

出典・・万載狂歌集(小学館「黄表紙・川柳・狂歌」)

古歌です。

かくばかり 経がたく見ゆる 世の中に うらやましくも
澄める月かな        
                   藤原高光
               
(かくばかり へがたくみゆる よのなかに 
 うらやましくも すめるつきかな)

意味・・このように過ごしにくく思える世の中に、
    まことにうらやましくも、何の悩みもない
    ように澄んでいる月だなあ。

    澄んだ月の光を見て、その清澄な光に対し
    現実生活の悩み多いことを痛切に感じ、月
    が羨ましいと言ったものです。

 注・・経がたく=時を過ごしにくく。

作者・・藤原高光=ふじわらたかみつ。940~994。
    右近衛少将。23歳で出家。三十六歌仙の一
    人。

出典・・拾遺和歌集・435。



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2016年07月24日

・狩り暮らし たなばたつめに 宿からん 天の川原に われは来にけり


**************** 名歌鑑賞 ****************


狩り暮らし たなばたつめに 宿からん 天の川原に
われは来にけり    
                   在原業平
             
(かりくらし たなばたつめに やどからん あまの
 かわらに われはきにけり)

意味・・一日中狩りをして日暮れになりましたので、
    今夜は織女さまに宿を借りることにしまし
    よう。私達は天の川原に来てしまったので
    すから。

    惟喬親王(これたかのみこ)の仲間になって
    狩りに出かけた時の事、天の川という所で
    馬を下りて川岸にすわり、酒などを飲んだ
    ついでに親王が「狩りして天の川原に至る」
    という趣旨の歌を詠みあげた所で杯を差し
    出す」と仰せられたので詠んだ歌です。

 注・・狩り暮らし=終日狩りをして日暮れになっ
     たので。
    たなばたつめ=棚機つ女。機を織る女。織
     女星の異名。
    天の川=大阪府枚方市禁野の地名。同名の
     川が流れている。
    惟喬親王=文徳天皇の第一皇子。

作者・・在原業平=ありわらのなりひら。825~881。
    美濃権守・従四位。

出典・・伊勢物語・82、古今和歌集・418。



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2016年07月23日

・去年見しに 色もかはらず 咲きにけり 花こそ物は おもはざりけれ


*************** 名歌鑑賞 ***************


去年見しに 色もかはらず 咲きにけり 花こそ物は
おもはざりけれ      
                   秦兼方

(こぞみしに いろもかわらず さきにけり はな
 こそものは おもわざりけれ)

意味・・昨年見たのと、色も変わらないで咲いて
    いるものだ。花というものは悲しみなど
    というものを思わないのだなあ。 

    親しい人が亡くなって次の年に詠んだ歌
    です。昨年と変わらずに咲いた満開の花
    によって、作者は悲しみを誘われる。

作者・・秦兼方=しんのかねがた。1036~1109。
    摂関の随身。

出典・・金葉和歌集・524。



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2016年07月22日

・うき世には よしなき梅の にほひ哉 色にこころを とめじとおもふに


*************** 名歌鑑賞 ***************


うき世には よしなき梅の にほひ哉 色にこころを
とめじとおもふに       
                  伏見院

(うきよには よしなきうめの においかな いろに
 こころを とめじとおもうに)

意味・・はかない無常のこの世には不都合な梅の花
    の匂いだなあ。この世にありとあらゆる形
    ある存在には心を留めまいと思うのに、つ
    い梅の匂いに心が乱されてしまう。

 注・・うき世=浮き世、憂き世。中世では「憂き
      世」の意が多い。つらい世の中。
    よしなき=由無き、理由がない、根拠がな
      い。
    色=仏教語の色(しき)の事。形を有し、
      感覚の対象となる生成変化する全ての
      存在。有形の万物。欲望の対象。

作者・・伏見院=ふしみいん。1265~1317。92
    代天皇。「玉葉和歌集」を勅撰。

出典・・金玉和歌集(岩波書店「中世和歌集・鎌倉篇」)



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2016年07月21日

・これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関


**************** 名歌鑑賞 *****************


これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも
逢坂の関                  
                  蝉丸

(これやこの ゆくもかえるも わかれては しるも
 しらぬも おうさかのせき)

意味・・これがあのう、こらから旅立つ人も帰る人も、
    知っている人も知らない人も、別れてはまた逢う
    という、逢坂の関なのですよ。
    
    知っている人も知らない人も、逢っては別れ別れ
    てはまた逢うという逢坂の関は人生の縮図のよう
    だといっています。

 注・・これやこの=これが噂に聞いているあのう・・、
     という言い方。
    逢坂の関=山城国(京都府)と近江(滋賀県)の
     境の関所。

作者・・蝉丸=せみまる。生没年未詳。九世紀後半の人。
    盲目で琵琶の名手。

出典・・後撰和歌集・1089、百人一首・10。



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2016年07月20日

・見渡せば 柳桜を こきまぜて 都ぞ春の 錦なりける


見渡せば 柳桜を こきまぜて 都ぞ春の 
錦なりける 
               素性法師

(みわたせば さくらやなぎを こきまぜて みやこぞ
 はるの にしきなりける)

意味・・はるかに京を見渡すと、新緑の柳は紅の桜
    をとり混ぜて、都は春の錦に見えることだ。

    眺望のきく高みから臨んで、都全体を緑と
    紅の織り込まれた錦と見たものです。
    「春の」とあるのは、ふつう、錦と見立て
    られるのが秋の山の紅葉であるためです。

作者・・素性法師=そせいほうし。生没年未詳。860
    年頃左近将監。後に出家。三十六歌仙の一人。

出典・・古今和歌集・56。



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2016年07月19日

・夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月やどるらむ


************** 名歌鑑賞 ***************


夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに
月やどるらむ      
                  清原深養父

(なつのよは まだよいながら あけぬるを くもの
 いずこに つきやどるらん)

意味・・今夜はまだ宵の口だと思っていたら
    そのまま空が明るくなってしまったが
    これでは月が西に沈む暇があるまい。
    進退窮まった月は、どの雲に宿を借り
    ているのだろうか。

    暮れたと思うとすぐに明るくなる夏
    の夜の短い事を誇張したものです。

 注・・宵=夜に入って間もないころ。

作者・・清原深養父=きよはらのふかやぶ。
    九世紀末が十世紀前半の人。清少納言
    の曾祖父。

出典・・古今和歌集・166、百人一首・36。



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2016年07月18日

・わが宿の 垣根なすぎそ ほとどぎす いづれの里も おなじ卯の花


************** 名歌鑑賞 ***************


わが宿の 垣根なすぎそ ほとどぎす いづれの里も
おなじ卯の花      
                  元慶法師

(わがやどの かきねなすぎそ ほとどぎす いずれの
 さとも おなじうのはな)

意味・・卯の花の咲いている私の住まいの垣根を
    すどおりしないで鳴いておくれ。ほとど
    ぎすよ。そなたの好きな卯の花はどこの
    里でも同じなのだから。

 注・・なすぎそ=通り過ぎるな。ここでは鳴い
      てほしいの意を込める。
    卯のはな=「卯」に「憂」をかける。

作者・・元慶法師=げんけいほうし。生没未詳。
    対馬守従五位。

出典・・後拾遺和歌集・178。



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2016年07月17日

・七夕は 今や別るる 天の川 川霧立ちて 千鳥鳴くなり


*************** 名歌鑑賞 ***************


七夕は 今や別るる 天の川 川霧立ちて
千鳥鳴くなり        
              紀貫之

(たなばたは いまやわかるる あまのがわ かわぎり
 たちて ちどりなくなり)

意味・・七夕は、今、いよいよ別れるのであろうか。
    天の川には川霧が立って、千鳥の鳴いている
    のが聞こえる。

    川霧の中から聞こえる千鳥の声が、おのずか
    ら、織女星(しょくじょせい)の忍び泣きを思
    わせる・・。

 注・・今や別るる=今いよいよ別れるのであろうか。
    千鳥鳴くなり=千鳥が鳴いているのが聞こえ
     る。

作者・・紀貫之=866~945。古今集の中心的撰者で
    仮名序を執筆。「土佐日記」の作者。

出典・・新古今和歌集・327。



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2016年07月16日

・更行ば まきのお山に 霧はれて 月影清し 宇治の川浪


*************** 名歌鑑賞 ***************


更行ば まきのお山に 霧はれて 月影清し 
宇治の川浪      
                永福門院

(ふけゆけば まきのおやまに きりはれて つきかげ
 きよし うじのかわなみ)

意味・・夜が更けてゆくと、やがて槙尾山にかかって
    いた霧も晴れ、澄み切った月の光が、宇治の
    川浪にきらめいている。

 注・・まきのお山=宇治川沿いにある槙尾山。

作者・・永福門院=えいふくもんいん。1271~1342。
    藤原実兼(西園寺太政大臣)の娘、伏見天皇の
    中宮。

出典・・岩波書店「中世和歌集・鎌倉篇」。



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2016年07月15日

・ときはなる 松の緑も 春くれば いまひとしほの 色まさりけり


************** 名歌鑑賞 ***************


ときはなる 松の緑も 春くれば いまひとしほの
色まさりけり     
                源宗干

(ときわなる まつのみどりも はるくれば いま
 ひとしおの いろまさりけり)
 
意味・・松の緑は一年中、色が変わらないが、その松
    までも春が来たので今日は一段と色がまさっ
    ていることだ。

    「松の緑も」というこで、他の木々には当然
    春色が訪れている事を語っています。

 注・・ときは=常盤、永久に状態の変わらないこと。
    いまひとしほ=さらに一段と。

作者・・源宗干=みなもとむねゆき。939年没。正四位
    右京大夫。

出典・・古今和歌集・24。



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2016年07月14日

・手をついて 歌申しあぐる 蛙かな


************* 名歌鑑賞 **************


手をついて 歌申しあぐる 蛙かな
                   山崎宗鑑

(てをついて うたもうしあぐる かわずかな)

意味・・雨模様の空の下で、けろりとした顔で
    鳴いている蛙の様子は、まるで偉い人
    の前でかしこまって、手をついて歌を
    申し上げているような姿である。

   「古今集」仮名序の「花に鳴く鶯、水に
    住む蛙の声を聞けば、生きとし生ける
    ものいづれか歌をよまざりける」とい
    う有名な一節を念頭に置いています。

作者・・山崎宗鑑=やまざきそうかん。1540年
    頃没。将軍足利義尚に仕えた。

出典・・阿羅野(あらの)(笠間書院「俳句の解釈
    と鑑賞事典」)



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2016年07月13日

・さざ浪や 志賀の都は 荒れにしを 昔ながらの 山桜かな


**************** 名歌鑑賞 ****************


さざ浪や 志賀の都は 荒れにしを 昔ながらの 
山桜かな
                 平忠度
             
(さざなみや しがのみやこは あれにしを むかし
 ながらの やまざくらかな)

詞書・・旧都(廃都)に咲く花の心を詠む。

意味・・志賀の古い都はすっかり荒廃してしまったけれど、
    昔のままに美しく咲き匂っている長等山の山桜よ。

    古い都を壬申(じんしん)の乱で滅んだ大津京に設
    定し、その背後にある長等山の桜を配して、人間
    社会のはかなさと悠久(ゆうきゅう)な自然に対す
    る感慨を華やかさと寂しさを込めて表現していま
    す。

 注・・さざ浪=志賀の枕詞。
    ながら=接続詞「ながら」と「長等山」の掛詞。
    長等山=滋賀県大津市にある三井寺の背後にあ
     る山。桜の名所。
    壬申の乱=天智天皇の死後(672年)、皇位継承
     を巡る天皇の実子の大友皇子と天皇の実弟大
     海皇子の争いに端を発した古代最大の内乱。

作者・・平忠度=たいらのただのり。1144~1184。平
    家全盛の時も傍流的な存在で正四位・薩摩守で
    終わる。歌人として有名。

出典・・千載和歌集・66、平家物語。



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2016年07月12日

・由良の門を 渡る舟人 梶を絶え 行へも知らぬ 恋の道かな


*************** 名歌鑑賞 ****************


由良の門を 渡る舟人 梶を絶え 行へも知らぬ 
恋の道かな
                曾禰好忠

(ゆらのとを わたるふなびと かじをたえ ゆくえも
 しらぬ こいのみちかな)

意味・・由良の瀬戸を漕ぎ渡っていく舟人が、梶がなく
    なって行く先も分からずに漂よううに、これから
    の行く末の分からない恋の前途だなあ。

    ただてさえ潮流の激しい海峡で、梶を無くして
    しまった舟人が、どうすることも出来ずに翻弄
    (ほんろう)されてしまう。それと同じように、
    自分の恋もこれからの先のことがまるで分から
    ない、というものです。

 注・・門(と)=海峡。
    由良の門=丹後国の歌枕。京都府宮津市の由良
     川河口。流れが激しい。
    かじ=櫓(ろ)や櫂(かい)梶(かじ)などの操船に
    用いる道具。舵(かじ)ではない。

作者・・曾禰好忠=そねのよしただ。11世紀後半の人。
    丹後掾(じょう)。

出典・・新古今和歌集・1071、百人一首・46。



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2016年07月11日

・たのしみは 妻子むつまじく うちつどい 頭ならべて 物をくふ時


************** 名歌鑑賞 **************


たのしみは 妻子むつまじく うちつどい 頭ならべて
物をくふ時         
                    橘曙覧

(たのしみは めこむつまじく うちつどい かしら
 ならべて ものをくうとき)

意味・・私が楽しみとするのは、妻と子供たちと
    仲良く集まり、頭を並べて一緒にものを
    食べる時。おいしいね、おいしいねとう
    なずき合いながら口に運ぶ時は本当に楽
    しい。

    うなずき合うということは、次の歌のよ
    うに親しみあう為の基本ですね。

   たのしみは 君の口癖 「そうか」が 耳に優しく
   聞こえてくる時           
                     破茶

   (うん、そうかそうか、そうだそうだ、と
    うなずき合って聞いてくれる人。こうい
    う人と一緒にいると、心を開いて何でも
    おしゃべりしたくなるものだ。私はこん
    な時に優しい気持になり親しみも深まっ
    て本当に楽しいものです。)

作者・・橘曙覧=たちばなあけみ。1812~1868。
    早く父母に死に分かれ、家業を異母弟に
    譲り隠棲。福井藩の重臣と親交。

出典・・岩波文庫「橘曙覧全歌集」。

作者・・破茶=はちゃ。メールマガジンで「楽し
    みは・・する時」の歌を詠んでいる人。

出典・・メールマガジン。



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2016年07月10日

・あしきだに なきはわりなき 世の中に よきを取られて われいかにせむ


*************** 名歌鑑賞 ******************


あしきだに なきはわりなき 世の中に よきを取られて
われいかにせむ 
                   作者不明            

意味・・世の中には、悪い物でさえ、無いとどうしょうも
    なく都合の悪いことがあるものなのに、良き(斧)
    を取り上げられてしまって、私はどうしたらよい
    ものでしょうか、途方にくれています。

    説話物語に出て来る歌です。
    ある男が他人の山林で盗伐していて、山番に斧
    を取り上げられてしょんぼりしている折、山番
    に今の状況を歌に詠めば許す、と言われて詠ん
    だ歌です。芸(和歌を詠む事)は身を助ける、と
    いう説話です。また、「悪い物も無いと都合の
    悪い」となぞなぞのように取れますのが、「必
    要悪」も説いています。たとえば、物が腐食す
    ることは人間にとっては悪いことだが、物を分
    解して土に戻すことは自然界にとっては大切な
    働きです。ストライキは生産を止める事なので
    悪い事ですが、働く人の労働条件を良くするの
    で必要悪です。また「心を鬼にする」ことも時
    には必要です。
   
 注・・わりなき=どうしょうもない、するすべがない。
    よき=「斧」と「良き」を掛ける。
    心を鬼にする=可愛そうだとか、気の毒だとい
     う気持になった時、人間の情を持たない鬼の
     ようなつもりになって、相手のため非情な態
     度に出る事。
      
出典・・宇治拾遺物語。



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2016年07月09日

・駿河なる 宇津の山べの うつつにも 夢にも人に 逢はぬなりけり


駿河なる 宇津の山べの うつつにも 夢にも人に 
逢はぬなりけり            
                  在原業平

(するがなる うつのやまべの うつつにも ゆめにも
 ひとに あわぬなりけり)

意味・・私は今駿河の国にある宇津の山のほとりに来て
    いますが、現実にお会い出来ないのはもちろん、
    夢の中でさえもお会いすることが出来ません。
    (あなたはもう、私を思ってくださらないので
    すね)

    当時は、相手が思っていてくれる時は、その姿
    が夢に出ると信じられていた。「夢にも人に逢
    はぬ」は、その人がすでに自分のことを思って
    いないのではと嘆いているのです。

 注・・駿河なる宇津の山=静岡県宇津谷峠。「宇津」
     で「うつ」を導いています。
    うつつ=現実。

作者・・在原業平=ありわらのなりひら。825~880。
    従四位上。蔵人頭。六歌仙の一人。

出典・・伊勢物語・9段。



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2016年07月08日

・一軒の茶店の柳老いにけり


************ 名歌鑑賞 ***************


一軒の茶店の柳老いにけり
                                                        蕪村

(いっけんの ちゃみせのやなぎ おいにけり)

意味・・道のほとりに見慣れた一軒の茶店があり
    ます。そしてこれも見覚えのある柳の木
    が、しばらくここを通らなかった間に、
    気のせいか、だいぶ老木になったように
    見えます。

作者・・蕪村=ぶそん。与謝蕪村。1716~1783。
    南宗画も池大雅とともに大家。

出典・・春風馬堤曲(竹西寛子著「松尾芭蕉句集・
    与謝蕪村句集」)



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2016年07月07日

・玉の緒よ 絶えねば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする


************** 名歌鑑賞 ***************


玉の緒よ 絶えねば絶えね ながらへば 忍ぶることの
弱りもぞする              
                   式子内親王

(たまのおよ たえねばたえね ながらえば しのぶる
 ことの よわりもぞする)

意味・・私の命よ、絶えるならいっそ絶えてしまえ。
    もし、生き長らえたら、心に秘めた耐え忍ぶ
    力が弱まって、恋が外にあらわれてしまうと
    いけないから。 

    恋している相手にも、世間にも知られまいと
    する恋を詠み、心に秘めた恋の苦しさに耐え
    きれなくなった瞬間を歌ったものです。

 注・・玉の緒=命のこと。

作者・・式子内親王=しょくしないしんのう。生没年
    未詳。後白河天皇の第三皇女。賀茂神社の斎
    院を勤め後に出家する。

出典・・新古今和歌集・1034、百人一首・89。



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2016年07月06日

・花散りし 庭の木の葉も 茂りあひて 天照る月の影ぞまれなる


************** 名歌鑑賞 ***************


花散りし 庭の木の葉も 茂りあひて 天照る月の 
影ぞまれなる         
                  曾禰好忠

(はなちりし にわのこのはも しげりあいて あまてる
 つきの かげぞまれなる)

意味・・花の散った庭の桜の木の葉も、今はもう
    茂りあって、空に照る月の光がわずかに
    しかささないことだ。

 注・・花=桜の花。
    まれ=稀、たまにしかないさま。

作者・・曾禰好忠=そねのよしただ。生没年未詳。
    977年従六位丹後掾(たんごのじょう)。

出典・・新古今和歌集・186。



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2016年07月05日

・寂しさを いかにせよとて 岡べなる 楢の葉しだり 雪の降るらん


*************** 名歌鑑賞 ***************


寂しさを いかにせよとて 岡べなる 楢の葉しだり
雪の降るらん             
                  藤原国房

(さびしさを いかにせよとて おかべなる ならのは
 しだりに ゆきのふるらん)

意味・・寂しさをこの上どうせよというので、岡の
    ほとりに立っている楢の葉を垂れさせて、
    雪が降っているのであろうか。

    田舎の宿で降る雪を眺めていると、寂しさ
    がいよいよ深まって来て、詠んだ歌です。

 注・・いかにせよとて=どのようにせよというのか。
    しだり=垂り、下に垂れる。

作者・・藤原国房=生没年未詳。平安時代後期の人。
    従五位石見守。

出典・・新古今和歌集・670。



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2016年07月04日

・郭公 花橘は にほふとも 身をうの花の 垣根忘れな


************** 名歌鑑賞 ***************


郭公 花橘は にほふとも 身をうの花の 
垣根忘れな
             西行

(ほとどぎす はなたちばなは におうとも みをうの
 はなの かきねわすれな)

意味・・ほとどぎすよ、花橘は香り高く匂うとも、
    お前がもう宿らなくなるので、身をさび
    しく思っている卯の花の垣根のことも忘
    れないで欲しい。

    ほとどぎすは陰暦四月は卯の花に、五月
    花橘に宿るとされた。

 注・・う=「卯」と「憂」の掛詞。

者・・西行=さいぎょう。1118~1191。

出典・・山家集・196。



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2016年07月03日

・直き木に 曲がれる枝も あるものを 毛を吹き疵を いふがわりなき


************** 名歌鑑賞 ***************


直き木に 曲がれる枝も あるものを 毛を吹き疵を 
いふがわりなき     
                  高津内親王

(なおききに まがれるえだも あるものを けをふききずを
 いふがわりなき)

意味・・真っ直ぐな木にだって曲がった枝がある
    ものなのに毛を拭いて疵を探しだすよう
    に非難する世間の人のわけが分からない
    ことだ。

    作者の振る舞いを咎める人々に対して
    反発して詠んだ歌です。

 注・・毛を吹き疵をいふ=強いて他人の欠点を
     暴くこと。
    わりなき=道理が通用しない、どうしょ
     うもない。

作者・・高津内親王=たかつないしんのう。841
    年没。嵯峨天皇の妃。

出典・・後撰和歌集・1155。



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2016年07月02日

・柳こそ 伐れば生えすれ 世の人の 恋に死なむを いかにせよとぞ


************** 名歌鑑賞 ***************


柳こそ 伐れば生えすれ 世の人の 恋に死なむを
いかにせよとぞ          
                 詠人知らず

(やなぎこそ きればはえすれ よのひとの こいに
 しななんを いかにせよとぞ)

意味・・柳なら伐ればまた生えるでしょうがこの世の
    私は違う。私が恋の苦しみに死のうとしてい
    るのにどうしろとおっしゃるのですか。全く
    相手にしないで、死ねというのですか。

    失恋の苦しみを詠んでいます。

 注・・世の人=相手にされない自分を客観的に言
     ったもの。

出典・・万葉集・3491。



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2016年07月01日

・浮世には かかれとてこそ うまれたれ ことわりしらぬ 我が心かな


**************** 名歌鑑賞 ****************


浮世には かかれとてこそ うまれたれ ことわりしらぬ
我が心かな       
                   北条重時

(うきよには かかれとてこそ うまれたれ ことわり
しらぬ わがこころかな)

意味・・憂さ辛さのあるのも浮世なら、楽しみがあるのも
    浮世である。我々、人間はその浮世に寄り掛かっ
    て住んで行けと神仏の思召しに従って生まれたの
    である。それゆえ、悲しみもあれば苦しみもある
    ものだ。この道理を知らなかった自分は、あさは
    はかだった。浮世の常を知れば、何も自分ばかり
    が苦しいのでも、辛いのでもないのだ。

    北条重時が家訓で次のような事を言った時に詠ん
    歌です。
    思わぬ失敗をしたり、不慮の災難に遭ったりなど
    して嘆かわしい事が起こったとしても、むやみと
    嘆き悲しんではなりませぬ。これも前世の報いだ
    と思って、早くあきらめなさるがよい。それでも
    悲嘆の心がやまぬならば、上記の歌を口づさみ、
    唱えていると、自然に嘆きの心も忘れて行くだろ
    う。

 注・・浮世=思いのまま楽しんで過ごす世の中。憂き世
       を掛ける。
    憂き世=辛い世の中、苦しみの満ちた世の中。
    かかれ=寄りかかる、つながりが出来る。

作者・・北条重時=ほうじょうしげとき。1198~1261。
    鎌倉幕府2代執権北条義時の3男。鎌倉幕府の要職
    を歴任した。



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