2016年08月

2016年08月31日

・葛の花 踏みしだかれて 色あたらし この山道を 行きし人あり


*************** 名歌鑑賞 **************


葛の花 踏みしだかれて 色あたらし この山道を
行きし人あり      
                  釈迢空

(くずのはな ふみしだかれて いろあたらし この
 やまみちを ゆきしひとあり)

意味・・もう長いことこの島山の道を歩いているが、
    誰一人行き逢う人もない。そうした山道に
    あざやかな赤紫の葛の花が、踏みにじられ
    て、鮮烈な色を土ににじませている。ああ、
    この山道を、自分より先に通った人がある
    のだ。

    この歌は民俗採集のために壱岐(いき)に渡
    った時の作です。人気の無い山道で、予想
    もしなかった事に出会った驚き、変わった
    事をするのは自分以外にもいたという事に
    感動をしています。

 注・・葛の花=葛は豆科の草。晩夏に短い藤の花
     房を立てたような赤紫の花をつける。
    しだかれて=荒れる、乱れる。
    あたらし=新し、新鮮だ。

作者・・釈迢空=しゃくちょうくう。1887~1953。
    本名折口信夫。古典学者、民俗学者。柳田
    国男を師とした。

出典・・笠間書院「和歌の解釈と鑑賞事典」。
  


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2016年08月30日

・大宮の 内まで聞こゆ 網引すと 網子ととのふる 海人の呼び声


**************** 名歌鑑賞 ***************


大宮の 内まで聞こゆ 網引すと 網子ととのふる
海人の呼び声 
                長忌寸意吉麻呂

(おおみやの うちまできこゆ あびきすと あご
 ととのうる あまのよびごえ)

意味・・御殿の中まで聞こえてきます。網を引こうと
    網子たちを集め、音頭を取る漁師の掛け声が。

    持統上皇の大阪・難波行幸があった時、その
    地の賑わいを讃えた歌です。

 注・・大宮=神社、御殿。
    網子(あご)=地引網を引く下っ端の漁師たち。
    ととのふる=大勢の人々の行動を指揮する。

作者・・長忌寸意吉麻呂=ながのいみきおきまろ。柿本
    人麻呂とほぼ同時代に仕えた下級官吏。

出典・・万葉集・238。



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2016年08月29日

・春日山 朝立つ雲の 居ぬ日なく 見まくの欲しき 君にもあるかも


*************** 名歌鑑賞 ****************


春日山 朝立つ雲の 居ぬ日なく 見まくの欲しき
君にもあるかも 
                坂上大嬢

(かすがやま あさたつくもの いぬひなく みまくの
 ほしき きみにもあるかも)

意味・・春日山に、毎朝雲が立ち上るように、
    一日も欠かさずにお目にかかりたいと
    思うあなた様なのですよ。

    恋の歌です。

作者・・坂上大嬢=さかのうえのおおいらつめ。
    生没年未詳。大伴家持の正妻となった。

出典・・万葉集・584。



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2016年08月28日

・くれないの 薔薇ふふみぬ 我病 いやまさるべき 時のしるしに


**************** 名歌鑑賞 *****************


くれないの 薔薇ふふみぬ 我病 いやまさるべき
時のしるしに
                正岡子規 

(くれないの うばらふふみぬ わがやまい いやまさる
 べき ときのしるしに)

意味・・紅いバラの蕾が咲きそうにふくらんでいる。それ
    はちょうど、自分の病がいよいよひどくなって行
    く時のきざしのように。

    花が散れば憂(うれ)い、花が咲けば病勢の進む予
    感におののかねばならない、長くない生命を嘆き
    いとしみつつ詠んだ歌です。
    病が悪化して治る希望は無いが、それでも諦めず
    に生きる。生きている価値があるのだと、歌を詠
    み、絵を描いて楽しむ。その喜びを持っていると
    自分に言い聞かした歌です。

 注・・ふふみぬ=つぼんだ、蕾がふくらんだ。
    いや=いよいよ、ますます。
    まさる=多くなる、増す、加わる。
    しるし=証拠、兆(きざ)し。

作者・・正岡子規=まさおかしき。1867~1902。東大
    国文科中退。結核や脊椎カリエスを患う。

出典・・歌集「竹の里歌」。



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2016年08月27日

・風をだに 恋ふるは羨し 風をだに 来むとし待たば 何か嘆かむ


**************** 名歌鑑賞 ***************


風をだに 恋ふるは羨し 風をだに 来むとし待たば
何か嘆かむ
                 鏡王女
            
(かぜをだに こうるはともし かぜをだに こんとし
 またば なにかなげかん)

意味・・風の音さえ恋心がゆさぶられるとは羨ましい
    ことです。風にさえ胸ときめかして、もしや
    おいでかと待つというのなら、何を嘆く事が
    ありましょう。
  
    自分には訪れてくれる人のあてもない嘆きを
    詠んでいます。

    万葉集の488に額田王の次の歌が並べられてい
    ます。

   「君待つと 我が恋ひ居れば 我が屋戸の 簾動かし
    秋の風吹く」

作者・・鏡王女=かがみのおおきみ。生没年未詳。額田王の
    姉か。舒明天皇(640 年頃の人)の娘または孫。

出典・・万葉集・489。

参考歌です。

君待つと 我が恋ひ居れば 我が屋戸の 簾動かし
秋の風吹く
                   額田王
                   
(きみまつと わがこいおれば わがやどの すだれ
 うごかし あきのかぜふく)

意味・・あの方のおいでを待って恋しく思っていると、
    家の戸口の簾をさやさやと動かして秋の風が
    吹いている。

    夫の来訪を今か今かと待ちわびる身は、かす
    かな簾の音にも心をときめかす。秋の夜長、
    待つ夫は来ず、簾の音は空しい秋風の気配を
    伝えるのみで、期待から失望に思いは沈んで
    行く。

 注・・屋戸=家、家の戸口。

作者・・額田王=ぬかたのおおきみ。生没年未詳。万
    葉の代表的歌人。

出典・・万葉集・488。



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2016年08月26日

・鳴く蝉を 手握りもちて その頭 をりをり見つつ 童走せ来る


**************** 名歌鑑賞 ***************


鳴く蝉を 手握りもちて その頭 をりをり見つつ
童走せ来る
                窪田空穂 

(なくせみを たにぎりもちて そのあたま おりおり
 みつつ わらわはせくる)

意味・・手の中で高く鳴いている蝉を、しっかり握り
    持って、その蝉の頭を、時々大切そうに見や
    りながら嬉しくて早く私に見せようと、子供
    が夢中で走り寄って来る。

作者・・窪田空穂=くぼたうつぼ。1877~1967。早
    稲田大学卒。早大文学部教授。

出典・・歌集「鏡葉」(桜楓社「現代名歌鑑賞辞典」)



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2016年08月25日

・神山の したもささらに 流れ出づる 御手洗川の 水のすずしさ


***************** 名歌鑑賞 ****************


神山の したもささらに 流れ出づる 御手洗川の 
水のすずしさ
                  津守国基 

(かみやまの したもささらに ながれいずる みたらし
 がわの みずのすずしき)

意味・・今も昔と変わらず神山の地中から湧き出し、さらさら
    音をたてて流れ来ている御手洗川。水は澄み、なんと
    清らかなことか。

 注・・神山=京都上賀茂神社の北方にある山。
    御手洗川=上賀茂神社の境内を流れている川。
    した=低い地域、内部、地中。
    ささら=水がさらさらと音をたてる。
    すずしさ=澄んで清らかなさま。

作者・・津守国基=つもりのくにもと。1023~1102。摂津の
     住吉神社の神主。

出典・・国基集(松本章男著「京都百人一首」)



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2016年08月24日

・はやき瀬に たたぬばかりぞ 水車 われも憂き世に めぐるとを知れ


*************** 名歌鑑賞 **************


はやき瀬に たたぬばかりぞ 水車 われも憂き世に
めぐるとを知れ      
                 僧正行尊

(はやきせに たたぬばかりぞ みずぐるま われも
 うきよに めぐるとをしれ)

意味・・流れの早い瀬に立っていないだけのことだ。
    水車よ、私もこの憂き世の中でせわしく廻
    っていると知ってくれ。

    休む事無く回り続ける水車と、憂き世に暇
    なく働き続けるわが身との共通性を詠んだ
    歌です。

 注・・憂き世にめぐる=俗世の中を右往左往しつつ
      生き長らえる。

作者・・僧正行尊=ぞうしょうぎょうそん。1055~
    1135。大僧正。

出典・・金葉和歌集・561。



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2016年08月23日

・疎くなる 人をなにとて 恨むらむ 知られず知らぬ 折もありしに


**************** 名歌鑑賞 **************


疎くなる 人をなにとて 恨むらむ 知られず知らぬ
折もありしに           
                 西行
                 
(うとくなる ひとをなにとて うらむらん しられず
 しらぬ おりもありしに)

意味・・遠ざかってゆく人を、なんだってこのように
    自分は恨んでいるのであろう。あの人に自分
    が知られなかった時、また、自分もあの人を
    知らなかった時もあったのに。

    二人の間柄が疎遠になり、つらい思いになっ
    時の慰めの歌です。恋に悩む自分に、昔は知
    らない間柄であり、めぐり逢わなかったら何
    も無かったのであるから、そう思って諦めよ
    うという気持ちを詠んでいます。

作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。鳥羽院北
    面武士であったが23歳で出家。

出典・・新古今・1297。



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2016年08月22日

・草の庵 なにつゆけしと おもひけん 漏らぬ岩屋も 袖はぬれけり


*************** 名歌鑑賞 **************


草の庵 なにつゆけしと おもひけん 漏らぬ岩屋も
袖はぬれけり   
                  僧正行尊

(くさのいお なにつゆけしと おもいけん もらぬ
 いわやも そではぬれけり)

意味・・これまで、草の庵ばかりをどうして露に濡
    れると思ったのだろう。雨露の漏らない岩
    屋でも、涙の露で袖は濡れるものだ。

    深山での修行の厳しさによる辛苦を詠んだ
    歌です。
   
 注・・つゆけし=露けし、露がちである。
    漏らぬ岩屋=草葺(くさぶき)のように雨露
      が漏れるはずがない岩屋。

作者・・僧正行尊=そうじょうぎょうそん。1055
    ~1135。天台座主、平等院大僧正。

出典・・金葉和歌集・533。




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2016年08月21日

・天離る 鄙の長道ゆ 恋来れば 明石の門より 大和島見ゆ


************** 名歌鑑賞 **************


天離る 鄙の長道ゆ 恋来れば 明石の門より 
大和島見ゆ     
               柿本人麻呂

(あまざかる ひなのながちゆ こいくれば あかしの
 とより やまとしまみゆ)

意味・・遠い田舎の長い道のりをひたすら都恋し
    さに上って来ると、明石海峡から大和の
    山々が見える。

    九州から都に上る時の歌で、家を恋しな
    がらの旅の終わりが近ずき、畿内に入れ
    た喜びを詠んでいます。

 注・・天離(あまざか)る=鄙の枕詞。
    鄙=都から離れた所、いなか。
    門(と)=瀬戸、海峡。
    大和島=明石より島のように見える生駒
      葛城連山を指す。

作者・・柿本人麻呂=かきのもとのひとまろ。七
    世紀後半から八世紀初頭の人。万葉時代
    の最大の歌人。

出典・・万葉集・・255。



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2016年08月20日

・からすめは此の里過ぎよほとどぎす


************** 名歌鑑賞 **************


からすめは此の里過ぎよほとどぎす 
                      西鶴

(からすめは このさとすぎよ ほとどぎす)

意味・・ほとどぎすの声をうるさいと歌った有名人が
    いるが、私はそうではない。カラスのやつの
    ほうがよほどうるさいのだ。カラスめが群れ
    て汚い声で鳴きたてるので、早々に此の里か
    らどこかへ行ってくれ。お前らがやかましく
    て、ほとどぎすが来ない。私はほとどぎすの
    声が聞きたいのだ。

    山崎宗鑑の歌「かしましやこの里過ぎよ郭公
    都のうつけさこそ待つらん」を逆に郭公の声
    を待ち焦がれるとした句で、そこにカラスの
    声を持って来た所に面白さがあります。
    (歌の意味は下記参照)

作者・・西鶴=さいかく。1642~1693。井原西鶴。
    西山宗因に師事。談林派の代表作者。

参照歌です

かしましや この里過ぎよ 郭公 都のうつけ 
さこそ待つらん      
                山崎宗鑑

(かしましや このさとすぎよ ほとどぎす みやこの
 うつけ さこそまつらん)

意味・・郭公があまり鳴くのでうるさい、私はもう沢山
    だから、さっさとこの里から飛び去ってくれ。
    京都では馬鹿な連中がお前の声が聞きたくて、
    さぞ待ち焦がれているだろうから、都へ行った
    方がいいぞ。

    都の風流人が郭公の声を珍重したのを、宗鑑は
    わざとこのように詠んだ歌です。   

 注・・うつけ=虚け、まぬけ、ばか。
    さこそ=然こそ、そのように、さだめし。

作者・・山崎宗鑑=やまさざきそうかん。1465~1554。戦国
    時代の連歌師・俳諧師。



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2016年08月19日

・ちりぬるを ちりぬるをとぞ つぶやけば 過ぎにしかげの 顕ち揺ぐなり


***************** 名歌鑑賞 *****************


ちりぬるを ちりぬるをとぞ つぶやけば 過ぎにしかげの
顕ち揺ぐなり
                    斉藤史 

(ちりぬるを ちりぬるをとぞ つぶやけば すぎにし
 かげの たちゆらぐなり)

意味・・「散りぬるを、散りぬるを」と、いろは歌を何度も
    つぶやいていると、昔からの亡くなった人々の面影
    が悲哀を伴って浮かばれてくる。

    史の父親は昭和11年の2・26事件に関係した陸軍軍
    人である。この事件に関係した人々は死刑となった
    が史との面識のある人々であった。
    その後、太平洋戦争の多くの犠牲者を見つめ、また、
    史自身も東京で空襲を受けた。広島・長崎の原爆で
    は多くの死者の悲しみを知るこことなった。
    史も80歳、90歳となると多くいた肉親も友人もほと
    んど亡くなっていなくなってしまった。
    昔からの亡くなった人々の面影を思うと、諸行無常
    の悲しみが込み上げてくる。
    この歌は太平洋戦争の犠牲者を含め、作者が生きた
    時代の死者全てに捧げる鎮魂歌でもあります。

    なお、「いろは歌」は下記を参考にしてください。

 注・・過ぎにしかげ=亡くなった人々の面影。
    顕ち揺らぐ=表に表れゆらゆらする。思い浮かばれ
     る。
    諸行無常=全ての現象は常に変わり、不変のものは
     無いという事。

作者・・斉藤史=さいとうふみ。1909~2002。93歳。歌人・
     斉藤瀏(りゆう)の長女。父は陸軍軍人で2・26事
     件の関係者。歌集に「魚歌」「ひたくれない」。

出典・・昭和万葉集。

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「いろは歌」・「諸行無常」についての参考です。

   色は匂へど 散りぬるを   
   我が世誰そ 常ならむ     
   有為の奥山 今日越えて   
   浅き夢見じ 酔ひもせず    

(意味)
   花は咲いても散ってしまうように
   世の中にずっと同じ姿で存在し続けるもの
   なんてありえない
   人生という苦しい山道を今日もまた1つ越えたが
   はかない夢を見て酔うたりはしたくないものだ

------------------------------  
「諸行無常」とは
------------------------------
色は匂えど散りぬるを(諸行無常)

桜の花は咲き乱れても、
一瞬の春の嵐に散り果てて行く。
それは花ばかりではない。
古代に栄華を誇った文明も
いつかは廃墟になっていく。
人間もそうである。

世の中の娘は嫁と花咲きて嬶(かかあ)と
しぼんで婆婆(ばばあ)と散り行く
-----------------------------
わが世誰ぞ常ならむ(是生滅法)

この世に恒常的なものは一つもない
世の中にある全てのものは、生じると
滅亡してゆくものだ
-----------------------------
有為の奥山今日越えて(生起因縁)

この世にある全ての存在は因縁によって
生じたものである
原因があって結果が生じる、そして今の
姿になっている

「有為」は因縁があって生じること
「越える」は因縁の道理に目覚めること。
----------------------------
浅き夢見し酔もせず(酔生夢死)

酒に酔ったような、また夢を見ているような
心地で、なすことなくぼんやりと一生を過ごさない

明日ありと 思う心に ひかされて 今日も空しく
過ごしぬるかな


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2016年08月18日

・風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける


**************** 名歌鑑賞 ***************


風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の
しるしなりける  
                 藤原家隆

(かぜそよぐ ならのおがわの ゆうぐれは みそぎぞ
 なつの しるしなりける)

意味・・風がそよそよと楢の葉に吹いている、この
    ならの小川の夕暮れは、秋の訪れを感じさ
    せるが、六月祓(みなづきばらえ)のみそぎ
    だけが、夏である事のしるしなのだなあ。

 注・・ならの小川=京都市北区の上賀茂神社の中
     を流れる御手洗川。ならは地名の「な
     ら」と「楢・ブナ科の落葉高木」の掛詞。
    みそぎ=川原などで水によって身を清め、
     罪や穢(けが)れを払い除く事。ここでは
     六月祓(ばら)え(夏越しの祓え)をさす。
     六月祓えは陰暦6月30日に行われ、上
     半期の罪や穢れをはらい清める。

作者・・藤原家隆=ふじわらのいえたか。1158~1
    237。非参議従二位。新古今集」の撰者の
    一人。

出典・・新勅撰和歌集・192、百人一首・98。



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2016年08月17日

・海人の刈る 藻に住む虫の われからと 音をこそ泣かめ 世をば恨みじ


************** 名歌鑑賞 ***************


海人の刈る 藻に住む虫の われからと 音をこそ泣かめ
世をば恨みじ       
                   藤原直子

(あまのかる もにすむむしの われからと ねをこそ
 なかめ よをばうらみじ)

意味・・漁師が刈る海藻に住む虫の名はわれから。
    その「我から」というように、二人の仲
    がしっくりゆかないのは、誰のせいでも
    無くみんな自分自身のせいなんだと泣い
    ていよう。二人の不仲を恨みがましくは
    思うまい。

    このように辛い目に会うのも、自分に原
    因があるのだからと、声をたてて泣く事
    はしても、世をうらんだりはするまい。

 注・・われから=海藻に付着している甲殻の虫、
     「我から(自ら)」を掛ける。この下に
     「(不幸を)刈る」を補って解釈する。
     「不幸」は男女間の仲たがいと解釈。
    音こそ泣め=声をたてて泣きこそしょうが。
    世=夫婦の仲、男女の仲。

作者・・藤原直子=ふじわらのなおいこ。生没年
    未詳。920年従四位下になる。

出典・・ 古今集・807。
 


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2016年08月16日

・亡き母を したひよわりて 寝たる児の 顔見るばかり 憂きことはあらじ


**************** 名歌鑑賞 ****************


亡き母を したひよわりて 寝たる児の 顔見るばかり
憂きことはあらじ         
                   橘曙覧

(なきははを したいよわりて ねたるこの かおみる
 ばかり うきことはあらじ)

意味・・亡くなった母に向って、お母さん、お母さんと
    言って泣き続けていた児の疲れて寝てしまった
    顔を見る事ほど辛いことはないだろう。

    曙覧の門人の妻が亡くなった時に詠んだ歌です。

 注・・したひ=慕ひ、慕って。
    よわりて=呼わりて、呼び続けて。
    憂き=辛い。

作者・・橘曙覧=たちばなあけみ。18121868。早く
    父母に死に分かれ、家業を異母弟に譲り隠棲。
    福井藩の重臣と親交。

出典・・岩波文庫「橘曙覧全歌集」。



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2016年08月15日

・貧しさに 妻のこころの おのづから 険しくなるを 見て居るこころ


**************** 名歌鑑賞 ****************


貧しさに 妻のこころの おのづから 険しくなるを 
見て居るこころ
                  若山牧水 

(まずしさに つまのこころの おのずから けわしく
 なるを みているこころ)

意味・・この頃の暮らしのあまりの貧しさに、妻の心が
    とげとげしくなってゆくのを、ただ黙ってじっ
    と見ている、この何と苦しい私の気持ちである
    ことか。

    献身的な妻とはいえ、生活が窮乏をきわめ、そ
    れが長く続けば、愚痴の一つや二つはつい出て
    しまう。返す言葉もない牧水は、自分の苦しい
    心をみつめることしか出来ない。

作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885~1928。
     早稲田大学卒。尾上柴舟に師事。

出典・・歌集「砂丘」。



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2016年08月14日

・暮れぬとは 思ふものから いつもただ おどろかできく 鐘の音かな


*************** 名歌鑑賞 ***************


暮れぬとは 思ふものから いつもただ おどろかできく
鐘の音かな          
                   頓阿法師
                 
(くれぬとは おもうものから いつもただ おどろかで
 きく かねのおとかな)

意味・・鐘の音に、また一日が暮れたと思いながらも、
    いつもそれだけで、世の無常を聞き取ること
    もない。

    鐘の音を無常の告知として深刻に聞かないと
    自省した歌です。

    参考です。
    祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
    娑羅双樹の花の色、盛者必衰のことわりを
    あらはす。おごれる人も久しからず。
    ただ春の夢のごとし。たけき者もつひには
    滅びぬ。ひとへに風の前の塵に同じ。
    (平家物語・序) (意味は下記参照)

 注・・鐘の音=日暮れとともに、諸行無常を知らせ
     るもの。

作者・・頓阿法師=とんあほうし。1289~1372。
    俗名は二階堂貞宗。当時、浄弁、兼好、慶運
    らと共に和歌の四天王と称された。

出典・・頓阿法師詠・306(岩波書店「中世和歌集・室
    町篇」)

参考文の意味です。

祇園精舎という寺の音には、「諸行無常」(万物はたえ
ず変化してゆく)という道理を示す響きがあり、娑羅
双樹の花の色は、「盛んな者は必ず衰える」という理法
を表している。この鐘の声や花の色が示すとおり、おご
りたかぶっている者も、久しくその地位を保つことがで
きない。それはちょうど、さめやすい春の夢のようであ
る。勢いの盛んな者も、結局は滅びてしまう。それは、
全く、風前の塵のようなものである。



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2016年08月13日

・ありしにも あらで憂き世を わたるかな 名のみ昔の 真間の継橋


************** 名歌鑑賞 ***************


ありしにも あらで憂き世を わたるかな 名のみ昔の
真間の継橋        
                    藤原良基
               
(ありしにも あらでうきよを わたるかな なのみ
 むかしの ままのつぎはし)

意味・・過ぎた昔と違って、今はつらい人生を渡る
    ことだ。真間の継橋のように、名だけは昔
    のままに継いでいるが。

    昔の摂政関白の良き時代を述壊した歌です。

 注・・名=藤原一族の一流の名声。
    真間の継橋=下総国の歌枕。「継橋」は橋
     板を継ぎ渡した橋。真間は「昔のまま」
     を掛ける。

作者・・藤原良基=ふじわらのよしもと。1320~
    1388。北朝の天皇に仕えて摂政関白を長
    期務める。北朝と南朝との戦乱の時代に生
    きる。

出典・・詠百首和歌・97(岩波書店「中世和歌集・
    室町篇」)  
  


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2016年08月12日

・花いばら 故郷の路に 似たるかな


*************** 名歌鑑賞 ****************


花いばら 故郷の路に 似たるかな  
                      蕪村
                   
(はないばら こきょうのみちに にたるかな)

前書・・かの東皐(とうこう)にのぼれば。

意味・・細い野路をたどって行くと、咲き乱れる野茨の
    芳香にいつしか包まれる。見覚えのあるこの路、
    そういえば幼い頃、これとそっくり同じ小路に
    遊んだことがあるような気がする。

    母の慈しみを抱き郷愁を詠んだ句で、次の三句
    が連句として詠まれています。

愁いつつ 岡にのぼれば 花いばら

(うれいつつ おかにのぼれば はないばら)

意味・・愁いを胸に秘めながら岡を登って行くと、そこ
    に野茨の可憐な白い花が咲いている。そのひっ
    そりした香りがやさしく私を包み込んでくれる。

前書きと三句を連記すると、

  かの東皐にのぼれば、
  花いばら故郷の路に似たるかな
  路たえて香にせまり咲くいばらかな
  愁いつつ岡にのぼれば花いばら

三句連作の意味・・かの陶淵明が故郷の田園に帰って
  東皐に登ったように、私もこの岡を登って行くと、
  野茨が芳香を漂わせて咲き乱れ、いつしか故郷の
  小路をたどっているような錯覚におそわれる。
  やがてその小路も絶えて、ひときわ強く野茨の香
  りが迫るように匂って来る。やるかたなき郷愁に
  耐えながら、私はなおも野茨の咲き乱れる岡を登
  って行く。

 注・・花いばら=高さ2mくらいのバラ科の半蔓性
     低木。多数の細い枝に棘がある。初夏に白
     い小花をつけ、芳香を漂わせる。
    東皐(とうこう)=東の岡。陶淵明の「帰去来
     辞」の一節。
    愁いつつ=旅愁や郷愁など遠い眺望を持った
     愁いであり、桃源郷に遊ぶ心境。

作者・・蕪村=ぶそん。与謝蕪村。17161783。
    池大雅とともに南宗画の大家。

出典・・あうふう社「蕪村全句集・1176」。



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2016年08月11日

・我が背子が 古家の里の 明日香には 千鳥なくなり 妻待ちかねて


************** 名歌鑑賞 ***************


我が背子が 古家の里の 明日香には 千鳥なくなり
妻待ちかねて         
                  長屋王

(わがせこが ふるへのさとの あすかには ちどり
 なくなり つままちかねて)

意味・・あなたが引っ越して行き古家だけが残って
    いる明日香の里では、しきりに千鳥の鳴く
    声がします。きっと連れ合いが、来るのを
    待ちかねて鳴いているのでしょう。

    明日香より藤原京に移り住んだ旧友を偲ん
    び、その人に送った歌です。

 注・・背子=この歌のばあい、男性同士が親しん
    で呼ぶ語。友よ。
    古家=藤原京に遷都した後、かっては住み
     馴れていたが今は住まなくなった家。

作者・・長屋王=ながやのおおきみ。676~729。
    正二位左大臣。

出典・・万葉集・268。



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2016年08月10日

・恋しさは その人かずに あらずとも 都をしのぶ 中に入れなん


*************** 名歌鑑賞 ***************


恋しさは その人かずに あらずとも 都をしのぶ
中に入れなん      
                  藤原有定
               
(こいしさは そのひとかずに あらずとも みやこを
 しのぶ うちにいれなん)

意味・・私への恋しさは、意中の人の数の中に入って
    いなくとも、せめて都を思い懐かしむ人の中
    に入れて下さい。

    橘為仲朝臣が陸奥守になって行く時の離別の
    歌です。自分を忘れないで欲しいというささ
    やかな願望です。

 注・・その人かず=恋しい人に数えられるべき人。

作者・・藤原有定=ふじわらのありさだ。1043~1094。
    淡路守、従五位上。

出典・・金葉和歌集・347。



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2016年08月09日

・夏山の 夕下風の 涼しさに 楢の木陰の たたま憂きかな


************** 名歌鑑賞 ***************


夏山の 夕下風の 涼しさに 楢の木陰の 
たたま憂きかな  
              西行

(なつやまの ゆうしたかぜの すずしさに ならの
 こかげに たたまうきかな)

意味・・夏山の夕暮れ時には、木の下を吹いてくる風
    の涼しさに、楢の木陰からなかなか去り難い
    ことだ。

 注・・夕下風=夕方に木陰を吹いてくる風。
    たたま憂き=立ち去る(たたまく)のがつらい。

作者・・西行=さいぎよう。1118~1190。俗名佐藤
    義清(のりきよ)。鳥羽上皇の北面武士であっ
    たが23歳で出家。「新古今集」では最も入
    選歌が多い。

出典・・山家集・233。



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2016年08月08日

・かたがたの おやのおやどち いはふめり この子のちよを思ひこそやれ


*************** 名歌鑑賞 **************


かたがたの おやのおやどち いはふめり この子のちよを 
思ひこそやれ 
                    藤原保昌

(かたがたの おやのおやどち いわうめり このこの
 ちよを おもいこそやれ)

詞書・・子の袴着をしました時に、父方母方の祖父 
    が出席しました時に詠んだ歌。

意味・・父方母方の親の親同士が孫の袴着を祝って
    いるようです。子の子(孫)が輝かしく長生
    する事を私も心から願っています。

    「かたがたのおやのおやどち」と「子の子
     のちよ」の表現の面白さを詠んだ歌です。   

 注・・袴着=男子が初めて袴を着ける儀式。五歳
      または七歳に行った。
    かたがたの=方々の。双方の。
    おやのおやどち=親の親同士。
    いはふ=祝う。
    この子=「この子」と「子の子」を掛ける。
    ちよ=千代。千年、非常に長い月。

作者・・藤原保昌=ふじわらのやすまさ。~1036。
    正四位、丹後守。和泉式部の夫。

出典・・後拾遺和歌集・448。



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2016年08月07日

・おほかたは 月をもめでじ これぞこの 積もれば人の老いとなるもの


***************** 名歌鑑賞 ****************


おほかたは 月をもめでじ これぞこの 積もれば人の
老いとなるもの     
                   在原業平
             
(おおかたは つきをもめでじ これぞこの つもれば
 ひとの おいとなるもの)

意味・・たいていのことでは、月を賞美することはやめよう
    と思う。なぜなら、この月というやつは、積り積も
    ると人が老人となる、その月なのだから。

    年配の者達が集まって月見をした時の歌です。空の
    月と年月の月を掛け、軽く老いの嘆きを機智的に歌
    ったものです。

 注・・おほかた=一般的に、大抵の場合は。
    めでじ=愛でじ、賞でじ。心をひかれない。
    月=空の月と年月を掛ける。

作者・・在原業平=ありわらのなりひら。825~881。美濃
    権守(みのごんのかみ)従四位上。六歌仙の一人。
   「伊勢物語」の作者。

出典・・伊勢物語・88段、古今和歌集・879。



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2016年08月06日

・いつしかと 起きうからでも みゆるかな 咲くやあしたの床夏の花


*************** 名歌鑑賞 ****************


いつしかと 起きうからでも みゆるかな 咲くやあしたの
床夏の花               
                    慶運
                    
(いつしかと おきうからでも みゆるかな さくや
 あしたの とこなつのはな)

意味・・早く起きるのは辛(つら)いといった様子もなく、
    初々しく咲いている朝方の床夏の花よ。

    早起きして、早朝に見る新鮮な撫子を描写した
    歌です。

 注・・いつしか=何時しか。早く。これから起きるは
     ずの事態を待ち望む意を表す。
    起きう=起き憂。起きるのが辛い。
    みゆる=そのように見える。
    咲くや=「や」は反語の意を表す。咲くのだろ
     うか、いや咲くのではない。
    床夏の花=撫子の古名。

作者・・慶運=けいうん。生没年未詳。1295年ごろの生
    まれ。70歳ぐらい。当時、兼好、頓阿、浄弁ら
    とともに和歌の四天王といわれた。

出典・・慶運百首(岩波書店「中世和歌集・室町篇」)



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2016年08月05日

・撫子は いづれともなく にほへども おくれて咲くは あはれなりけり


*************** 名歌鑑賞 **************


撫子は いづれともなく にほへども おくれて咲くは
あはれなりけり        
                  藤原忠平

(なでしこは いづれともなく におえども おくれて
 さくは あわれなりけり)

意味・・撫子はどれがどうとも優劣つけがたく美しく
    咲き映えているが、遅れて咲いた撫子は特に
    可憐に思われる。そのように子供達はだれも
    区別なく可愛いものだが、遅く生まれた子供
    というものは、とりわけ可愛いものだ。

    忠平の末の子が撫子の花を持っていたので、
    母親に花に添えて詠んで持たせたものです。
    末子は他の兄弟より年が離れていた。

 注・・にほへども=美しく色づいているが。
    あはれ=いとしい。

作者・・藤原忠平=ふじわらただひら。879~949。
    太政大臣。

出典・・後撰和歌集・203。



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2016年08月04日

・三河なる 二見の道ゆ 別れなば 我が背も我れも ひとりかも行かむ


*************** 名歌鑑賞 ***************


三河なる 二見の道ゆ 別れなば 我が背も我れも
ひとりかも行かむ
               高市黒人

(みかわなる ふたみのみちゆ わかれなば わがせも
 われも ひとりかもゆかん)
       
意味・・三河の国の二見の道で別れてしまったら、
      あなたも私も、この先一人で寂しく旅を
    することになるのでしょうか。

    一、二、三の数字を詠み込んだ、洒落の
    歌です。

 注・・三河なる二見の道=愛知県豊川市国府町
     と御油(ごゆ)町との境。
    ゆ=動作の時間的空間的起点を表す。
    かも=疑問の意を表す。・・なのか。

作者・・高市黒人=たけちのくろひと。生没年未
    詳。700年頃の地方の下級官吏。

出典・・万葉集・276。



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2016年08月03日

・蛤や 塩干に見へぬ 沖の石


************** 名歌鑑賞 ***************


蛤や 塩干に見へぬ 沖の石   
                  西鶴

(はまぐりや しおひにみえぬ おきのいし)

意味・・潮干狩りで蛤を拾おうと思うが、アサリと違
    って少々浜辺から遠く、水の多く残っている
    所にいるので、なかなか見つからない。
    そこで思うのだが、百人一首にもある、
    「わが袖は潮ひに見えぬ沖の石の人こそしら
    ねかはくまもなし」
    という和歌の、袖の涙が人に見えぬというの
    と同じで、潮干の時でもなかなか見つからな
    いのは、蛤が沖の海中にあって姿を見せない
    石と同様に、見えないからだ。

 注・・塩干=潮干狩り、引き潮の時と解してもよい。
    沖の石=沖の海中にあって姿を見せない石。
    「百人一首」の歌「我が袖は潮ひに見えぬ沖
     の石の人こそしらねかはくまもなし」を暗
     示している。

作者・・西鶴=さいかく。1642~1693。井原西鶴。
    西山宗因に師事。談林派の代表作者。「好色
    一代女」等が有名。


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2016年08月02日

・わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の 人こそ知らね かわく間ぞなき  


************** 名歌鑑賞 ***************


わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の 人こそ知らね
かわく間ぞなき  
                 二条院讃岐

(わがそでは しおひにみえぬ おきのいし ひとこそ
 しらね かわくまぞなき)

意味・・私の袖は、引き潮の時にも海中に隠れて見え
    ない沖の石のように、人は知らないだろうが
    涙に濡れて乾く間もありません。

    恋ゆえの悲しみの涙を、人に見せない切ない
    思いを詠んだ歌です。

    「百人一首」では結句は「かわく間もなし」
    となっています。

 注・・潮干=引き潮の状態をさす。
    沖の石=沖の海中深く沈んでいる石で、潮が
     引いてもその姿を現さない。
    人こそ知らね=人は知らないが。

作者・・二条院讃岐=にじょういんのさぬき。1141
    ~1217。後鳥羽天皇の中宮・宜秋門院任子
    (ぎしゅうもんいんにんし)に仕える。

出典・・千載和歌集・760、百人一首・92。



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2016年08月01日

・いかなれば 同じ一つに 咲く花の 濃くも薄くも 色を分くらむ


*************** 名歌鑑賞 ****************


いかなれば 同じ一つに 咲く花の 濃くも薄くも
色を分くらむ               
                 良寛

(いかなれば おなじひとつにさくはなの こくも
 うすくも いろをわくらん)

意味・・どうしたことで、同じ一つの時期に咲く花が、
    濃い色や薄い色に色を分けて咲くのだろうか。

    人は持ち場や立場でする事が違うように、ま
    た、得て不得手があるように、皆同じでは
    く、人も色々な花を咲かせるものです。

 注・・いかなれば=どうして。

出典・・谷川俊朗著「良寛全歌集・460」。


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