2016年11月

2016年11月30日

・我が旅は 久しくあらし この我が着る 妹が衣の 垢づく見れば


************** 名歌鑑賞 ***************


我が旅は 久しくあらし この我が着る 妹が衣の
垢づく見れば
             新羅に遣わされた使人

(わがたびは ひさしくあらし このあがける いもが
 ころもの あかづくみれば)

意味・・私の旅はもう随分長くなったのだなあ。この
    私が身に付けている妻の衣が垢じみてきたの
    を見ると。

 注・・あらし=「あり」の形容詞化した語。
    着(け)る=「着あり」のつまった形。
    妹が衣=「衣・ころも」は下着。衣(きぬ)の
     対。男女が別れる時、再会を約して下着を
     交換し、会うまで脱がないという習いがあ
     った。
    新羅=朝鮮半島の東南部にあった国。新羅と
     日本は平穏でなく、使いは受付られなかっ
     た。

出典・・万葉集・3667。



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2016年11月29日

・拭へども 拭へども去らぬ 眼のくもり 物言ひかけて 声を呑みたり


**************** 名歌鑑賞 ***************

拭へども 拭へども去らぬ 眼のくもり 物言ひかけて
声を呑みたり
                   明石海人

(ぬぐえども ぬぐえどもさらぬ めのくもり もの
 いいかけて こえをのみたり)

意味・・拭っても拭っても目の曇りが無くならない。
    事の深刻さにはっと気が付いて、何と言った
    らいいのか言葉が出ない。どうしよう。

    当時不治の病であったハンセン病を患い、病
    気が進行して失明の前兆の時の状態を詠んで
    います。
    こんな状態になると多くの人は絶望感の渕に
    沈むのだが、海人は希望を捨てませんでした。

    同じ病気の同僚の背中に手で文字を書き短歌
    を詠み続けました。創作活動を生き甲斐とし
    ました。手文字は喉に吸気管を付けているの
    で声も出せない状態になったからです。

作者・・明石海人=1901~1939。ハンセン病を患い
    岡山県の愛生園で療養。手指の欠損、失明、
    喉に吸気管を付けた状態で歌集「白描」出版。

出典・・歌集「白描」。



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2016年11月28日

・ことわりや いかでか鹿の 鳴かざらん 今宵ばかりの 命と思へば


*************** 名歌鑑賞 ****************


ことわりや いかでか鹿の 鳴かざらん 今宵ばかりの
命と思へば
                   和泉式部
             
(ことわりや いかでかしかの なかざらん こよい
 ばかりの いのちとおもえば)

詞書・・丹後の国にて保昌(やすまさ)朝臣、あす狩せん
    といひける夜、鹿の鳴くをききてよめる。

意味・・鳴くのも道理ですよ。どうして鹿が鳴かないで
    しょうか。鳴きもしますよ。今宵だけの命だと
    思えば。

 注・・ことわりや=理や。当然ですよ。
    保昌朝臣=藤原保昌。1036年没。丹後守・正
     四位下。和泉式部と結婚。

作者・・和泉式部=いずみしきぶ。生没年未詳。1007
    年藤原保昌と結婚。

出典・・後拾遺和歌集・1000。



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2016年11月27日

・すがる鳴く 秋の萩原 朝たちて 旅ゆく人を いつとか待たむ


**************** 名歌鑑賞 *****************


すがる鳴く 秋の萩原 朝たちて 旅ゆく人を 
いつとか待たむ
                詠み人しらず

意味・・野には萩が一面に咲き乱れ、蜂がぶんぶんと飛び
    交う秋となった。その美しい萩の花を分けて、う
    ちの人は朝立ちの旅に出るのだが、無事に帰って
    くれるのははたしていつのことだろうか。

    きわめて交通が不便であり、また危険が多かった
    昔、旅に出る人を送る時の不安な気持や夫との別
    れを悲しむ女性の気持を詠んだものです。

 注・・すがる=腰の細い小型の蜂の古名。じが蜂。
    人=特定の人を指していう語。あの人。夫。
    いつとか待たむ=いつ帰って来ると私は待つのだ
     ろうか。「いつまで待っても帰るまい」という
     気持も含まれている。

出典・・古今和歌集・399。



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2016年11月26日

・たんのうを するとせぬとの 胸のうち 地獄もあれば 極楽もあり


************* 名歌鑑賞 ****************


たんのうを するとせぬとの 胸のうち 地獄もあれば
極楽もあり
                   作者未詳

(たんのうを するとせぬとの むねのうち じごくも
 あれば ごくらくもあり)

意味・・満足するかしないかは、つまるところ本人の
    心の問題である。本人が欲を出せば、どこま
    で行っても限界がない。しかし、今を地獄だ
    と思えば地獄であるし、そうではなく極楽だ
    と思えば極楽である。だから、すべては本人
    の胸の内で決まる。

 注・・たんのう=堪能。充分満足する。

出典・・山本健治著「三十一文字に学ぶビジネスと人
    生の極意」



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2016年11月25日

・秋風や藪も畠も不破の関


*************** 名歌鑑賞 **************


秋風や藪も畠も不破の関
               芭蕉 

(あきかぜや やぶもはたけも ふわのせき)

意味・・来て見れば不破の里には寂しく秋風が吹き
    わたっている。往時を偲んで関跡に立てば、
    眼前の藪や畠に秋風が吹きさわぐばかり。
    伝え聞く不破の関屋はただ風の中に幻を残
    すのみであった。

    関跡の現況を「藪も畠も」と描きだして、
    黍離麦秀(しょりばくしゅう)(亡国の遺跡
    に黍(きび)や麦などの生い茂っているさま)
    の懐古の思いを詠んでいます。

    次の歌を踏まえた句です。
    「人住まぬ不破の関屋の板びさし荒れにし
    のちはただ秋の風」  (意味は下記参照)

 注・・秋風・・ここでは暮秋の秋風。草木を枯ら
     し、万物を凋落させる風を意味し、もの
     侘びしい秋風である。
    不破の関=岐阜県不破郡関が原にあった関。
     逢坂の関が設置されて廃止になり、その
     荒廃の哀歓を詠ずる歌枕となった。

作者・・芭蕉=ばしょう。1644~1694。「野ざらし
     紀行」。

出典・・野ざらし紀行。
 
参考歌です。

人住まぬ 不破の関屋の 板廂 荒れにし後は
ただ秋の風
               藤原良経
           
(ひとすまぬ ふわのせきやの いたびさし あれにし
 のちは ただあきのかぜ)

意味・・もう関守が住まなくなった不破の関の番小屋の
    板廂。荒れ果ててしまったあとは秋風が吹き抜
    けるばかりだ。

    かっては威勢がよかったが、荒廃してしまった
    不破の関のありさまに、人の世の無常と歴史の
    変転をみつめている。
    
 注・・不破の関屋=岐阜県関ヶ原にあった。675年
     に開設、789年に廃止された。「関屋」は
     関の番小屋。

作者・・藤原良経=ふじわらのよしつね。1206年没、
    38歳。従一位摂政太政大臣。「新古今集仮名序」
    を執筆。

出典・・新古今和歌集・1601。



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2016年11月24日

・きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣かたしき ひとりかも寝む


***************** 名歌鑑賞 ***************


きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣かたしき
ひとりかも寝む
                   藤原良経 
         
(きりぎりす なくやしもよの さむしろに ころも
 かたしき ひとりかもねん)

意味・・こおろぎの鳴く霜の降りる寒い夜、むしろの
    上に自分の衣だけを敷いて、私は一人寂しく
    寝るのであろうか。

    歌の場面は「きりぎりす」や「さむしろ」の
    語により旅の仮寝や山里の一人住みが想像さ
    れます。
    この歌を詠む直前、妻に先立たれたという。

 注・・きりぎりす=現在のこおろぎ。
    さむしろ=「さ」は接頭語。「むしろ」は藁
     や菅などで編んだ粗末な敷物。
    衣かたしき=衣片敷。昔、共寝の場合は、互
     いの衣の袖を敷き交わして寝た。「衣かた
     しき」は自分の衣の片袖を下に敷くことで
     一人寝のこと。

作者・・藤原良経=ふじわらのよしつね。1169~1206。
     従一位摂政太政大臣。「新古今集仮名序」
     執筆。

出典・・新古今集・518、百人一首・91。



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2016年11月23日

・春は萌え 夏は緑に 紅の まだらに見ゆる 秋の山かも


*************** 名歌鑑賞 ****************


春は萌え 夏は緑に 紅の まだらに見ゆる
秋の山かも
             詠み人しらず 

(はるはもえ なつはみどりに くれないの まだらに
 みゆる あきのやまかも)

意味・・春は木々がいっせいに芽吹き、夏は一面の新緑
    だったが、今は紅が濃淡さまざまな模様を描き
    だしている。素晴らしい秋の山だ。

    季節による山の色を述べて、秋の山を賞賛して
    います。

 注・・かも=詠嘆を表す。・・だなあ。

出典・・万葉集・2177。
    


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2016年11月22日

・青草に よこたはりいて あめつちに ひとりなるものの 自由をおもふ


************** 名歌鑑賞 ***************


青草に よこたはりいて あめつちに ひとりなるものの
自由をおもふ
                  若山牧水

(あおくさに よこたわりて あめつちに ひとり
 なるものの じゆうをおもう)

意味・・自分は今、青い草原に横たわっている。空は
    青く美しく晴れ、雲は白く、吹いて来る風も
    まことに清々しい。自分は一人なのだ、全く
    一人なのだ。この広い天地に生きていて、何
    をしょうと、誰からの束縛も干渉もされる事
    はない。ほんとうに自由な自分なのだ。

    結婚すると妻や子供に束縛されて自由も拘束
    される。が、今は自由だ。自由であるが孤独
    感があり寂しさもあるものだ。

作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885
    1928 早稲田大学卒。尾上柴舟に師事。
    旅と酒を愛す。

出典・・歌集「別離」(大悟法利雄著「若山牧水
    の秀歌」)



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2016年11月21日

・今はよに もとの心の 友もなし 老いて古枝の 秋萩の花


************** 名歌鑑賞 **************


今はよに もとの心の 友もなし 老いて古枝の
秋萩の花
                頓阿法師 

(いまはよに もとのこころの とももなし おいて
 ふるえの あきはぎのはな)

意味・・今はもう昔のままの心の友は一人もいない。
    老いて年を経た古枝には、秋萩の花が今年
    もまた美しく咲いているのに。

    懐旧述懐歌です。

 注・・よに=世に。(下に打ち消しの語を伴って)
     けっして、全然。
    古枝=古い枝、「経る」を掛ける。

作者・・頓阿法師=とんあほうし。1289~1372。俗
     名は二階堂貞宗。当時の和歌四天王。

出典・・頓阿法師集(岩波書店「中世和歌集・室町篇」)



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2016年11月20日

・裏戸出て 見るものなし 寒々と 曇る日傾く 枯芦の上に


*************** 名歌鑑賞 ****************


裏戸出て 見るものもなし 寒々と 曇る日傾く
枯芦の上に
                 伊藤佐千夫

(うらどでて みるものもなし さむざむと くもるひ
 かたむく かれあしのうえに)

意味・・裏戸を開けて外に出て見ると、群がり生える
    枯れ芦ばかりで何も見る物がない。空はどん
    より曇り、日も傾いて寒々とした冬の夕暮れ
    の風景である。

    次の定家の歌と比べると、荒涼とした情景が
    沈鬱と寂しさの伝わる歌です。
    前年の水害による経済的打撃や作歌上で対立
    した寂しさなのかも知れません。

    定家の歌です。
    「見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の
     秋の夕暮れ」  (意味は下記参照)
    
作者・・伊藤佐千夫=いとうさちお。1864~1913。
    明治法律学校中退。牛乳搾取業経営。

出典・・増訂 佐千夫歌集(東京堂出版「現代短歌鑑賞
    事典」)

参考です。

見渡せば 花も紅葉も なかりけり 浦の苫屋の
秋の夕暮れ
                 藤原定家
           
(みわたせば はなももみじも なかりけり うらの
 とまやの あきのゆうぐれ)

意味・・見渡すと、色美しい春の花や秋の紅葉もない
    ことだなあ。この海辺の苫葺き小屋のあたり
    の秋の夕暮れは。

    春・秋の花や紅葉の華やかさも素晴らしいが、
    寂しさを感じさせるこの景色もまた良いもの
    だ。

 注・・浦=海辺の入江。
    苫屋(とまや)=菅(すげ)や茅(かや)で編んだ、
     むしろで葺(ふ)いた小屋。漁師の仮小屋。

作者・・藤原定家=ふじわらのさだいえ。1162~12
    41。新古今集の撰者。

出典・・新古今和歌集・363。



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2016年11月19日

・残しおく そのみどり子の 心こそ 思ひやられて 悲しかりけり


************** 名歌鑑賞 **************


残しおく そのみどり子の 心こそ 思ひやられて
悲しかりけり
                 荒木たし

(のこしおく そのみどりこの こころこそ おもい
 やられて かなしかりけり)

意味・・自分は殺されて死んで逝くが、残された
    子を思うと、気が狂うほど心配で哀しい。

    辞世の歌です。殺される前に、乳母に託
    して逃がした一歳の息子を案じて詠んだ
    歌です。その後斬首された。

作者・・荒木たし=あらきたし。1558~1579。
    21歳。摂津(大阪と兵庫の一部)有岡城主・
    荒木村重の妻。織田信長により、家臣と
    共に京都六条河原で斬首された。

出典・・宣田陽一郎著「辞世の名句」。



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2016年11月18日

・車引き車引きつつ過ぎにけり


**************** 名歌鑑賞 ****************


車引き車引きつつ過ぎにけり
                   勝海舟

(くるまひき くるまひきつつ すぎにけり)

意味・・車夫が、車を随分引いたから、何か商売を代え
    よう代えようと思いつつも、やはり車を引いて
    いて、とうとう転業の機会がなく、それで一生
    を過ごしてしまった。
    浮世はみなこのとおりだヨ。

    転職をしたい時は、その職場に何らかの嫌な事
    がある場合が多い。それで転職したとしても今
    より良くなり面白く働けるとは限らない。収入
    も減るだろうから家族を養っていれば中々転職
    は出来ないものです。
    この職場が嫌だ、変わりたいという気持ちがあ
    れば、そこが仮の宿になり、誠心誠意力を尽く
    して働こうという気持が薄れるものです。転職
    出来ないと悟ったら、そこに根を生やす覚悟が
    大切かと思います。
    
作者・・勝海舟=かつかいしゅう。1823~1899。幕末
    の武士。

出典・・勝海舟「氷川清話」。



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2016年11月17日

・冴えわびて さむる枕に かげ見れば 霜深き夜の 有明の月


**************** 名歌鑑賞 ***************


冴えわびて さむる枕に かげ見れば 霜深き夜の
有明の月
                  藤原俊成女

(さえわびて さむるまくらに かげみれば しも
 ふかきよの ありあけのつき)

意味・・寒さに堪えかねて目覚めた枕元に射している
    光、見るとそれは霜の深く降りた夜の月明か
    りであった。

    あまりの寒さに目が覚めると、枕元には月の
    光が射しこみ、外は霜で真っ白になっている
    寒い情景を詠んでいます。

 注・・冴えわびて=寒気のきびしさに堪えかねて。
     「わび」は・・しきれなくなるの意。
    有明の月=夜が明ける頃もまだ空に出ている
     月。

作者・・藤原俊成女=ふじわらのてしなりのむすめ。
    1171頃~1252頃。後鳥羽院に歌才を認めら
    れ多くの歌合に参加。

出典・・新古今和歌集・608。
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  


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2016年11月16日

・書庫の窓 あらふ寒雨 論敵を うたむ言葉の ひとつ閃く


************** 名歌鑑賞 ***************


書庫の窓 あらふ寒雨 論敵を うたむ言葉の
ひとつ閃く
               木俣修

(しょこのまど あらうさむあめ ろんてきを うたむ
 ことばの ひとつひらめく)

意味・・調べ物を探しに書庫まで出掛けた時、その窓
    を洗うばかりに激しい冬の雨が降っていた。
    その激しい雨を見つめていると、懸案になっ
    ていた論争の相手に応えるべき筋書が閃いて
    来た。

    考え事をしていて答えが分からないので、他
    の事をしいると、何かの切っ掛けで答えが閃
    く事があります。その状態を詠んでいます。
    
 注・・うたむ=疎む。遠ざける、嫌う。

作者・・木俣修二=きまたしゅうじ。1906~1983。
    東京高等師範卒。昭和女子大教授。

出典・・歌集「天に群星」(実業之日本社「現代秀歌
    百人一首」)



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2016年11月15日

・分け入っても分け入っても青い山


**************** 名歌鑑賞 *****************


分け入っても分け入っても青い山
                   山頭火

(わけいっても わけいっても あおいやま)

意味・・いくら進んでも青い山ばかりだ。街は見えない。
    街にたどり着くまで、青い山を分け入って分け
    入って進まねばならないのだ。
    旅の始めだが、この困難は今だけでなく、これ
    からも付きまとうことだろう。

    熊本から宮崎そして四国へと行乞の旅を始めた
    頃に詠んだ歌です。
    托鉢をしながらの旅です。山で路を間違ったり
    飲み水が無くなったら命に関わります。全力を
    尽くしながらの旅です。

    山頭火は行乞を通じてその日その日を力一杯生
    きています。

    参考は、陶淵明の漢詩「歳月人を待たず」です。
        (下記参照)

 注・・行乞=僧侶が鉢を持ち、民間の家ごとに施食を
     受ける修行、托鉢。

作者・・山頭火=さんとうか。種田山頭火。188219
            40。荻原井泉水に師事。「層雲」に出句。母と
           弟の自殺、家業の酒造業の失敗など不幸が重な
     る。禅僧として行乞流転の旅を送る。

参考です。

「歳月人を待たず」  陶淵明

人生に根蒂(こんてい)無く
飄(ひょう)として陌上(ひゅくじょう)の塵の如し
歓(かん)を得なば当(まさ)に楽を作(な)すべし
斗酒(としゅ)もて比隣(ひりん)
を聚(あつ)む
盛年(せいねん)は重ねて来たらず
一日 再び晨(あした)なり難し
時に及んで当(まさ)に勉励(べんれい)すべし
歳月 人を待たず

大意・・人の命のはかなさは、道に舞い上がる埃の
    ようなものではないか。機会があれば楽し
    み、一緒に酒を飲もうではないか。今日一
    日の事は、再び明日同じものが巡って来な
    いのだ。従ってこの時期にあっては、楽し
    むべき時に楽しみ、勉強すべき時に勉強し
    なければならない。歳月というものは、決
    して人が老いて行くのを待ってくれないも
    のだ。
    充実した一日一日を送りたいものだ。



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2016年11月14日

・あさぢはら ぬしなき宿の 庭の面に あはれ幾世の 月かすみけむ


**************** 名歌鑑賞 *****************


あさぢはら ぬしなき宿の 庭の面に あはれ幾世の
月かすみけむ
                  源実朝

(あさじはら ぬしなきやどの にわのおもに あわれ
 いくよの つきかすみけん)

意味・・畑にもされずに浅茅を生した原で、主人のいない
    家の庭に、いったい月は幾年月、澄んだ光で照ら
    して来たことだろう。

    現在の高齢化社会で、若い人は都会に出て行き、
    故郷は空き家になり、人も訪れずに荒れ果てた様
    と同じです。

 注・・あさぢはら=浅茅原。丈の低い茅が生えている原。
    すみ=「住み」と「澄」を掛ける。

作者・・源実朝=みなもとのさねとも。1192~1219。28
    歳。征夷大将軍。鶴岡八幡宮で甥に暗殺された。

出典・・金槐和歌集。



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2016年11月13日

・行く年や猫うづくまる膝の上


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行く年や猫うづくまる膝の上
                    夏目漱石

(ゆくとしや ねこうずくまる ひざのうえ)

意味・・今年が終わろうとする時期は決まって町も人も
    忙しそうで、慌ただしい。そんな時に、膝の上
    に猫を抱いている人がいる。猫にとっては膝の
    上はお決まりの場所。いつものように喉をなら
    してうとうとし始める。膝の上で丸まっている
    猫の温もりが感じられて幸せだ。

    行く年を振り返りながら、いつも同じ状態で年
    が越せるのは一番幸せだ、という思いです。

    知人に、定年後70才前まで嘱託で働いている人
    がいます。スポーツマンとしも活躍しています。
    二か月ほど前はスポーツマンとして元気な姿を
    見せていましたが、先日咽喉癌で入院したと聞
    きました。そして漱石のこの句を思い出しまし
    た。病気もせず、仕事の失敗もせず、いつもの
    通りに猫を抱いて年を越せられたら幸せだと。

作者・・夏目漱石=なつめそうせき。1867~1916。東
    大英文科卒。小説家。

出典・・大高翔著「漱石さんの俳句」。



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2016年11月12日

・あはれなり わが身の果てや 浅緑 つひには野辺の 霞と思へば


**************** 名歌鑑賞 *****************


あはれなり わが身の果てや 浅緑 つひには野辺の
霞と思へば
                 小野小町

(あわれなり わがみのはてや あさみどり ついには
 のべの かすみとおもえば)

意味・・あはれだなあ、私の亡きがらは荼毘に付せられ、
    浅緑色の煙と立ち昇り、お終いには野辺に立ち
    なびく霞になってしまうと思うと。

    辞世の句と言われています。
    いずれは霞となってしまう身、だから小さな事
    にくよくよせずに、前向きに生きて行って欲し
    い。
    
 注・・浅緑=霞の色をいう。
    野辺の霞=火葬されて立ちなびく煙を暗示。

作者・・小野小町=生没年未詳。六歌仙。

出典・・新古今和歌集・758。



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2016年11月11日

・命一つ 身にとどまりて 天地の ひろくさびしき 中にし息す


***************** 名歌鑑賞 ****************


命一つ 身にとどまりて 天地の ひろくさびしき
中にし息す
                窪田空穂

(いのちひとつ みにとどまりて あめつちの ひろく
 さびしき なかにしいきす)

意味・・命一つ、他のものはすべて、老いたがゆえに無く
    なっているが、最後に大切な命だけは残っている。
    欲望、志、目標といったものも無くなり寂しいが、
    この広い天地自然の中に静かに自分は生きている
    のだ。

    77才の時に「老境」という題で詠んだ歌です。
    命一つ以外何も無い。もう失う物は無い。気楽な
    気持ちで老境を楽しもう。あるがまま、思うまま
    に生きて行こう。

    命一つ以外に何も無い状態にするのは困難がつき
    まといます。常に「断捨離」と念仏のように唱え
    ていなければ出来ません。

    断:入ってくるいらない物を断つ。     
    捨:家にずっとあるいらない物を捨てる。    
    離:物への執着から離れる。

    不要な物を断ち、捨てることで、物への執着から
    離れ、自身で作り出している重荷からの解放を図
    り、身軽で快適な生活を心掛けることです。

作者・・窪田空穂=くぼたうつぼ。1877~1967。早稲田
    大学卒。国文学者。

出典・・歌集「丘陵地」(実業之日本社「現代秀歌百人一
    首」)



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2016年11月10日

・一夜寝ば 明日は明日とて 新しき 日の照るらむを 何か嘆かむ


*************** 名歌鑑賞 ****************


一夜寝ば 明日は明日とて 新しき 日の照るらむを
何か嘆かむ
                 半田良平 

(いちやねば あすはあすとて あたらしき ひのてる
 らんを なにかなげかん)

意味・・つらい苦しいことの連続の日だか、一晩寝たら
    明日は明日で新しい日が照るであろう。だから
    どうして嘆いたりしょうか。    
 
    作者には三人の息子がいた。昭和17年に次男を
    昭和18年に長男を肺結核で失う。昭和20年には
    三男を戦死で失い、自分も肋膜を病んで病臥し
    ていた。この頃に詠んだ歌です。明るさのない
    苦難の続く日々であるが、それでも明日を信じ
    て「新しき日の照る明日」と希望を持って生き
    抜く。「明日は明日の風が吹く」明日は明日で
    なるようになるのだから、くよくよしても始ま
    らない。嘆いたりはしないぞ。

作者・・半田良平=はんだりょうへい。1887~1945。
     生涯私立東京中学に勤務。窪田空穂に師事。
     
出典・・歌集「幸木」。
  


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2016年11月09日

・後世は猶 今生だにも 願はざる わがふところに さくら来て散る


***************** 名歌鑑賞 ****************


後世は猶 今生だにも 願はざる わがふところに 
さくら来て散る
                山川登美子

(ごせはなお こんじょうだにも ねがわざる わが
 ふところに さくらきてちる)

意味・・もう残り少ない私の命。この世の幸せどころか、
    来世の極楽さえも願うことはありません。今、
    療養している床の中に、私を慰めるように、桜
    の花びらが、心の中で散っています。

    結核が進行し、身体が蝕(むしば)まれて助かる
    見込みがない時、床に臥せて詠んだ歌です。

    もう直に私は死ぬことでしょう。でも今は、桜
    の花が散りかかっているような安らかな気持ち
    です。それで何ももう望んではいません。

 注・・後世=来世。
    今生=この世、この世に生きている間。

作者・・山川登美子=やまかわとみこ。1879~1909。
    大阪梅花女学校卒。鉄幹を慕っていたが親の
    勧めた人と結婚。夫は翌年死亡。結核が元で
    死亡、29歳の若さであった。

出典・・岩波文庫「山川登美子歌集」。



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2016年11月08日

・思ふにし 死にするものに あらませば 千たびぞわれは 死にかへらまし


**************** 名歌鑑賞 ****************


思ふにし 死にするものに あらませば 千たびぞわれは
死にかへらまし
                   笠女郎

(おもうにし しにするものに あらませば ちたびぞ
 われは しにかえらまし)

詞書・・大伴家持に贈る歌。

意味・・片思いの辛さがつのって死んでしまうもので
    あるなら、私は千回も思いつめて死ぬことを
    繰り返しているでしょう。

    身分違いで叶えられない恋の嘆き悲しみです。

    恋で苦しんでいる気持ちは分る、分るよ、笠
    女郎さん。私も何度も経験しましたよ、と慰
    めてやりたいものです。

 注・・大伴家持=718~785。少納言。万葉集の編纂
    を行う。

作者・・笠女郎=かさのいらつめ。伝未詳。家持と交際
    のあった女流歌人。



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2016年11月07日

・中々に とはれし程ぞ 山ざとは 人もまたれて さびしかりつる


***************** 名歌鑑賞 ****************


中々に とはれし程ぞ 山ざとは 人もまたれて
さびしかりつる
                木下長嘯子

(なかなかに とわれしほどぞ やまざとは ひとも
 またれて さびしかりつる)

意味・・かえって訪問されていた時の方が、もしかして
    人が来るかもしれないと自然と待たれて、山里
    は寂しいものだなあ。

    寂しさの中でも、「自分は見捨てられている」、
    「誰からも相手にされない」と思う寂しさが
    一番辛いものです。
    人が全く訪ねて来なかったら、誰からも顧みら
    れないという寂しさが湧いて来て辛いものです
    が、いつしか諦めてしまう。
    ところが、時たま人が訪ねて来ていると、私は
    まだ忘れられた存在ではないと安心する。だが、
    もう訪ねて来る頃だと思っていても人は誰も来
    ない。すると自分は見捨てられたのかなあ、と
    寂しさが募って来る。
    なまじっか期待しがいのある方が寂しいと詠ん
    だ歌です。
    
 注・・中々に=なまじっか、かえって。
    程=時分、頃、時。
    つる=・・してしまう。

作者・・木下長嘯子=きのしたちょうしょうし。1569~
    1649。秀吉の近臣。若狭の城主。関ケ原の戦い
    を前に逃げ、武将としての面目を失い、京の東
    山に隠棲。

出典・・家集「挙白集」(小学館「近世和歌集」)



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2016年11月06日

・秋風の 千江の浦廻の 木屑なす 心は依りぬ 後は知らねど


**************** 名歌鑑賞 ***************


秋風の 千江の浦廻の 木屑なす 心は依りぬ
後は知らねど
                詠み人しらず

(あきかぜの ちえのうらみの こつみなす こころは
 よりぬ のちはしらねど)

意味・・秋風の吹く千江の浜辺に、木の屑や貝殻や海藻
    などの小さな塵芥が流れ寄っています。それら
    は波のまにまに打ち寄せられて、いつしか、そ
    の浜辺にたまったもの。私の恋の思いも、ちょ
    うど塵芥のようなもので、あなたに対する慕情
    は、絶え間なく私の心の浜辺に打ち寄せ続け、
    高まり、つのるばかり。でも、この思いがかな
    えられるかどうか、その行く末を知ることは出
    来ないけれど。
    
 注・・秋風の=「吹く」などの述語が省かれている。
    千江の浦廻=所在未詳。「浦廻」は海岸の湾曲
     したところ。
    木屑(こつみ)=木積とも。木の屑。海岸に打ち
     寄せられる諸々の塵。
  
出典・・万葉集・2724。



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2016年11月05日

・引き分けて 見れば心の 刃なれ 寄れば忍の もじなりけり


***************** 名歌鑑賞 *****************


引き分けて 見れば心の 刃なれ 寄れば忍の
もじなりけり
                
(ひきわけて みればこころの やいばなれ よれば
 しのぶの もじなりけり)

意味・・「忍」の文字を分解すると、「心」の上に「刃」を
     乗せたものである。ゆえに「忍」の文字は「心に
     刃物を突き付けても、じっとこらえる」という意
     味である。

       忍耐ということは刃物を突き付けられても耐える
      というように、難しいことである。でもでも、つい
                つい詰まらない事に腹を立てたり、少し苦しい事が
                あると音を上げてしまう。これではいけないので
               る。

出典・・山本健治著「三十一文字に学ぶビジネスと人生の極意」。



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2016年11月04日

・山の上に たてりて久し 吾もまた 一本の木の 心地するかも


******************* 名歌鑑賞 *******************


山の上に たてりて久し 吾もまた 一本の木の
心地するかも
                 佐々木信綱

(やまのうえに たてりてひさし われもまた いっぽんの
 きの ここちするかも)

意味・・山の上の雄大な自然に立っていると、循環を繰り返して
    自然の摂理に生きている一本の木の心地がするものだ。

    山の木は風で枝葉が吹き飛ばされることもあるし、日照
    りで泣かされることもあるだろう。がしかし、それでも
    若葉を茂らせ花を咲かせている。そして実を結んで行く
    のである。
    辛い事、楽しいことを織り交ぜて老いて行く私は、まさ
    に一本の木の心地がするのである。

作者・・佐々木信綱=ささきのぶつな。1872~1963。万葉集研
    究者。文化勲章受章。

出典・・歌集「豊旗雲」(実業之日本社「現代秀歌百人一首」)



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2016年11月03日

・梟よ 尾花の谷の 月明に 鳴きし昔を 皆とりかへせ


*************** 名歌鑑賞 ****************


梟よ 尾花の谷の 月明に 鳴きし昔を
皆とりかへせ
             与謝野晶子

(ふくろうよ おばなのたにの げつめいに なきし
 むかしを みなとりかえせ)

意味・・吹く風に靡(なび)き、月明かりに照らされた
    尾花は風情があるものだ。梟よ、その尾花が
    咲いている谷間で、若くして元気に鳴いてい
    た頃の日々を覚えているかい。お前もそんな
    昔に戻りたいだろうなあ。私も若々しい時に
    戻りいものだ。

    亡くなる前年の秋に、身の衰えを哀しみ元気
    であった頃の昔を回想して詠んだ歌です。

作者・・与謝野晶子=よさのあきこ。18781942
    堺女学校卒。与謝野鉄幹と結婚。「明星」の
    花形となる。

出典・・歌集「白桜集」。



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2016年11月02日

・年々の わが悲しみは 深くして いよいよ華やぐ いのちなりけり


***************** 名歌鑑賞 *****************


年々の わが悲しみは 深くして いよいよ華やぐ
いのちなりけり
                岡本かの子

(としどしの わがかなしみは ふかくして いよいよ
 はなやぐ いのちなりけり)

意味・・年々辛さや悲しみは多くなっているが、生きる
    力は更に強くなっている。

    人間関係のまずさや病気などの苦しみは中々なく
    なるものではない。でもこんな時でも作者は華や
    かな生き方をしていると歌っています。

    苦しい現状を見つめつつ、それを忘れるように
    他の生き方に一途に没頭して生きていると言って
    いるのだろうか。

    「どのような道をどのように歩くとも、いのち
    いっぱいに生きればいいぞ」  相田みつお

作者・・岡本かの子=おかもとかのこ。1889~1939。跡見
    女学校卒。歌人・作家・仏教研究家。

出典・・岡本かの子著「小説・老妓抄」。



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2016年11月01日

・恋しけば 来ませわが背子 垣つ柳 末摘みからし われ立ち待たん


**************** 名歌鑑賞 ***************


恋しけば 来ませわが背子 垣つ柳 末摘みからし
われ立ち待たん
                 作者未詳

(こいしけば きませわがせこ かきつやぎ うれつみ
 からし われたちまたん)

意味・・そんなに恋しいなら来て下さい、あなた。垣根
    の柳の枝先を枯らしてしまうほどに摘み取り摘
    み取りしながら、私はずっと門口に立ってお待
    ちします。

    男に答えた形をとりながら、切実に待つ女心を
    歌っています。

 注・・垣つ柳=垣根の柳。

出典・・万葉集・3455。



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