2017年11月

2017年11月30日

・都には まだ青葉にて 見しかども 紅葉散り敷く 白河の関

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都には まだ青葉にて 見しかども 紅葉散り敷く
白河の関
                 源頼政
          
(みやこには まだあおばにて みしかども もみじ
 ちりしく しらかわのせき)

意味・・都を出る時には、まだ青葉である木々を見た
    のであるが、はるばる旅をして来て見ると、
    ここ白河の関には紅葉が一面に散り敷いてい
    ることだ。

    陸奥の国白河の関への長い旅の感慨を季節の
    推移によって示している。

   能因法師も同じような歌を詠んでいます。

  「都おば 霞とともに たちしかど 秋風ぞ吹く
   白河の関」
    
  (都を春霞が立つころに旅立ったが、もう秋風が
   吹いている。この白河の関では。)

  「月日に関守なし」というが、時のたつのは早い
   ものです。

 注・・白河の関=福島県白河市にあった。

作者・・源頼政=みなもとのよりまさ。1104~1180。
    非参議従三位。平家討伐の軍を起し敗戦し自
    害。

出典・・千載和歌集・365。
    


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2017年11月29日

・愚を以て身の芯となす玉の露

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愚を以て身の芯となす玉の露
                 村上護

(ぐをもって みのしんとなす たまのつゆ)

意味・・草花につけた露は滑り落ちて、はかない命で
    ある。不安定な所に身を置く露の私は愚かに
    見えるであろう。がしかし、愚かであっても
    これが私の信念なのです。草花に身を置くか
    らこそ玉の露として美しいのです。

    露ははかない事、消えやすい事に譬えられ、
    また、珠や玉として美しいものに譬えられる。
    愚は愚かな事、くだらない事の意だが、謙遜
    して言う場合もある。「荘子」の言葉に「愚
    かなるが故に道なり」と持ち上げている。
    愚には人間の賢(さか)しらな知識や損得勘定
    が働いていない。それで本当の道に合すると
    いうものです。露も愚であるからこそ美しい
    と、作者は言っています。    

作者・・村上護=むらかみまもる。1941~。愛媛大学
    卒。文芸評論家、俳人。

    


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2017年11月28日

・落ちて行く 身と知りながら もみぢ葉の 人なつかしく こがれこそすれ

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落ちて行く 身と知りながら もみぢ葉の 人なつかしく
こがれこそすれ
                    皇女和宮

(おちてゆく みとしりながら もみじばの ひと
 なつかしく こがれこそすれ)

意味・・燃えるような紅葉の彩りは、しかし、よく見ると
    風に舞って落ちてゆく。その身の不運を知りなが
    らも、その不運を嘆くだけでなく、その一葉一葉
    にも生命があり、それを燃やし尽くしている。
    私は、政略結婚でこれから嫁いで行くのだが、不運
    を嘆くのでなく、相手の心に打ち解け、いちずに
    恋慕い尽してゆかねばと思う。

    徳川将軍家茂(いえもち)に16歳で嫁いで行く道中
    で詠んだ歌です。

 注・・なつかしく=心にひかれる。
    こがれ=焦がれ。いちずに恋したう。思い焦がれ
     る。

作者・・皇女和宮=こうじょかずのみや。1846~1877。
    31歳。政略結婚で14代徳川将軍家茂(いえもち)に
    嫁ぐ。

出典・・松崎哲久著「名歌で読む日本の歴史」。



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2017年11月27日

・伊良湖崎に 鰹釣り舟 並び浮きて はがちの波に  浮かびつつぞ寄る

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伊良湖崎に 鰹釣り舟 並び浮きて はがちの波に 
浮かびつつぞ寄る          
                 西行
          
(いらこざきに かつおつりぶね ならびうきて はがちの
 なみに うかびつつぞよる)

意味・・伊良湖崎では、鰹を釣る舟が沖に並んで浮いて
    いるが、激しい風で立った荒波に揺れながら、
    浜辺を目指して近寄って来ることだ。

    詞書によると、荒天のため沖から引き返す漁民
    の様子を詠んだものです。
    

 注・・伊良湖崎=愛知県渥美郡の岬。
    並び浮き=荒天を恐れて一斉に港を目指している
     様子。
    西北風(はがち)=西北から吹く強い風。

作者・・西行=1118~1190。「山家集」。

出典・・山家集・1388。



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2017年11月26日

・憂きことを 思ひつらねて かりがねの 鳴きこそわたれ 秋の夜な夜な

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憂きことを 思ひつらねて かりがねの 鳴きこそわたれ
秋の夜な夜な    
                   凡河内躬恒
          
(うきことを おもいつらねて かりがねの なきこそ
 わたれ あきのよなよな)

意味・・つらいことを一つ一つ思い連ねるように、
    雁が連なって鳴きながら秋の夜空を飛び
    渡って行く、毎夜のように。  
   
    雁を通して作者の人生苦が歌われ
    ている。「憂きこと」は恋の思い
    だけとは限らない。

 注・・憂きことを思ひつらねて=悲しい事を並べ
     たてて陳情し。「つらね」は連らねと陳
     らね(述べ訴える意)の意味を掛けている。
    かりがね=雁。
    夜な夜な= 毎夜毎夜。

作者・・凡河内躬恒=おおしこうちのみつね。生没
    年未詳、900年前後の人。古今和歌集の撰
    者の一人。

出典・・古今和歌集・213。



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2017年11月25日

・秋風に 山の木の葉の 移ろへば 人の心も いかがぞと思ふ

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                             福島県・安達太良山

秋風に 山の木の葉の 移ろへば 人の心も 
いかがぞと思ふ
                素性法師

(あきかぜに やまのこのはの うつろえば ひとの
 こころも いかがぞとおもう)

意味・・秋風が吹けば、山の木の葉は色が変わるものである。
    私はそれを見るにつけ、人の心も木の葉と同様に変
    るのではないかと不安になってくる。

    秋風に吹かれて木々の葉が色を変えて行く。そのよ
    うに、あの人の心も変ってゆくのだろうか。最近の
    言葉に誠意が感じられない。そう思うと不安になる
    ことだ。
    
 注・・秋風=「秋」に「飽き」を掛ける。
    木の葉=「言の葉」を掛ける。

作者・・素性法師=そせいほうし。生没年未詳。858年頃左
    将監。三十六歌仙の一人。

出典・・古今和歌集・714。
 


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2017年11月24日

・夕されば 野辺の秋風 身にしみて 鶉鳴くなり  深草の里

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                       宵待草に題す・夢二

夕されば 野辺の秋風 身にしみて 鶉鳴くなり 
深草の里
                 藤原俊成
          
(ゆうされば のべのあきかぜ みにしみて うずら
 なくなり ふかくさのさと)

意味・・夕暮れになると野辺を吹き渡ってくる秋風が
    身にしみて感じられ、心細げに鳴く鶉の声が
    聞こえてくる。この深草の里では。

    捨て去られた女が鶉の身に化身して寂しげに
    鳴く晩秋の夕暮れの深草の情景です。

    この歌は「伊勢物語」の123段の話を典拠とし
    て詠んでいます。

    男に飽きられ捨てられかかった深草の里の女に、
    「私が出て行ったら、ここは深草の名の通りに
    いっそう草深くなって野原となってしまうだろ
    うなあ」と冷たく言い放つ男に対して、

    「野とならば 鶉となりて 鳴き居らん 狩に
    だにやは 君は来ざらん」

    (おっしゃるように、ここが野原となってしまう
    のなら、私は、見捨てられた場所にふさわしい
    鳥と昔からされている鶉になって鳴いている事
    にしましょう。時には狩にでもあなたが来てく
    ださらないものでないでしょうから)
 
           と答え、男はその歌に感動して出て行くのを止め
           たという話です。

    「宵待草」 参考です。
    (歌詞は下記参照)


 注・・夕されば=夕方になると。
    秋風=「秋」には「飽き」が掛けられている。

作者・・藤原俊成=ふしわらのとしなり。1114~1204。
    正三位皇太宮大夫。「千載和歌集」の撰者。
 
出典・・千載和歌集・259。

参考です。

   宵待草 https://youtu.be/uOSfZnd3wv8

       竹久夢二 作詩 多忠亮 作曲
   
   待てど暮らせど 来ぬ人を 
   宵待草の やるせなさ
   今宵は月も 出ぬそうな
   

   暮れて河原に 星ひとつ 
   宵待草の 花が散る
   更けては風 も啼くそうな
   


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2017年11月23日

・今朝の朝明 雁が音聞きつ 春日山 もみぢにけらし 我が心痛し

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今朝の朝明 雁が音聞きつ 春日山 もみぢにけらし
我が心痛し
                 穂積皇子
      
(けさのあさけ かりがねききつ かすがやま もみじ
 にけらし わがこころいたし)

意味・・今日の明け方、雁の鳴く声を聞いた。ああ
    春日山は紅葉してきたであろう。つけても
    私の心は痛む。

    心が痛む気持を例えて見れば、

    就職のシーズンのニュースを聞くにつけて、
    息子が思い出されてくる。学校は出たのだが
    フリーターの生活をしている。正社員の道を
    歩むように段取りをしているだろうか。考え
    ると心が痛んでくる。
    
    この歌は穂積皇子が但馬皇女との悲恋を込め
    て詠んだ歌といわれています。

作者・・穂積皇子=ほつみのみこ。~715。天武天皇
    第五皇子。

出典・・万葉集・1513。



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2017年11月22日

・秋はなほ 夕まぐれこそ ただならぬ 荻の上風 萩の下露

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                        薬師寺遠望

秋はなほ 夕まぐれこそ ただならぬ 荻の上風
萩の下露
                  藤原義孝
              
(あきはなお ゆうまぐれこそ ただならぬ おぎの
 うわかぜ はぎのしたつゆ)

意味・・秋のあわれはいつとは区別出来ないが、やはり
    夕暮れこそただならず身にしみる。荻の上葉に
    吹く風の音、萩の下枝に置く露の玉など、もの
    のあわれはこれらにきわまる。

 注・・なほ=やはり。
    夕まぐれ=夕方の薄暗い時分。
    ただならぬ=心ひかれる、優れている。

    あわれ=しみじみとした趣き。

作者・・藤原義孝=ふじわらのよしたか。954~974。20
    歳。

出典・・和漢朗詠集・229。



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2017年11月21日

・萩寺の 萩おもしろし 露の身の おくつきどころ 此処と定めむ

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萩寺の 萩おもしろし 露の身の おくつきどころ
此処と定めむ
                落合直文

(はぎでらの はぎおもしろし つゆのみの おくつき
 どころ こことさだめん)

意味・・萩寺の萩はまことに見事なものである。はかな
    いこの身の墓所は、気の入ったこの処に決めよ
    う。

    直文は、萩の花が咲いたらいつでも見られる様
    にと家の庭に何十株の萩を植えていたという。
    萩が好きで屋号も「萩之舎」といったくらい。
    上の歌は、萩が好きで好きでたまらない、と詠
    んだ歌です。
    この歌の歌碑が萩寺に建立され、萩の名所とな
    った。

 注・・萩=豆科の低木。秋に紅紫や白色の小さな花を
     咲かす。
    萩寺=東京江東区にある竜眼寺。萩の名所。名
     前の由来は、昔、辺鄙な所であったので追剥
     がよく出るのでそれで竜眼寺は剥寺と呼ばれ
     いた。住職は機転を利かせて萩を植えて萩寺
     と呼んだといわらている。
    おもしろし=景色や芸能に心がひかられるさま。
     愉快だ、心楽しい。     
    露の身=露が、夜が明けるとすぐ消えるように、
     はかない命。
    おくつぎ=奥つ城。墓。

作者・・落合直文=おちあいなおふみ。1861~1903。
    東大古典科中退。門下に与謝野鉄幹・尾上柴舟
    ・金子薫園らが集まる。

出典・・萩之家歌集。



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2017年11月20日

・秋の夜の 長き思ひも きりぎりす いつまでともに なかむとすらん

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秋の夜の 長き思ひも きりぎりす いつまでともに
なかむとすらん
                かいばみの右大将
                 
(あきのよの ながきおもいも きりぎりす いつまで
 ともに なかんとすらん)

意味・・秋の夜が長いように、長く待ち続ける私の
    恋の悩みも、きりぎりすよ、いつまで一緒
    に泣こうと思っているのか。

    参考はフォレスタの
    「愛して愛して愛しちゃったのよ」です。
    歌詞は下記にあります。


 注・・思ひ=恋慕う気持、願い、望み。
    散逸物語=現在は散らばって現存しない物語。

作者・・かいばみの右大将=散逸物語に出て来る主人公。
    かいばみ(垣間見)は隙間から覗き見る意。

出典・・風葉和歌集・301。


参考です。

   愛して愛して愛しちゃったのよ
               作詞・作曲 浜口康之介

   愛しちったのよ  愛しちったのよ
   あなただけを   死ぬ程に
   愛しちったのよ  愛しちったのよ
   寝てもさめても  ただあなただけ 
   生きているのが  つらくなるよな長い夜
   こんな気持ちは  誰もわかっちゃくれない
   愛しちったのよ  愛しちったのよ
   あなただけを   命をかけて

   いつからこんなに いつからこんなに
   あなたを好きに  なったのか
   どうしてこんなに どうしてこんなに
   あなたの為に   苦しいのかしら
   もしもあなたが  居なくなったらどうしょう
   私一人じゃ    とても生きちゃいけない
   愛いしちったのよ 愛しちったのよ
   あなただけを   命をかけて
   あなただけを   命をかけて
   命をかけて 



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2017年11月19日

・秋の野の くさむらごとに をく露は 夜なく虫の なみだなるべし

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秋の野の くさむらごとに をく露は 夜なく虫の
なみだなるべし
                  曾禰好忠
               
(あきののの くさむらごとに おくつゆは よるなく
 むしの なみだなるべし)

意味・・秋の野のどの草むらにも置いている露は、夜
    ないた虫の涙に違いない。

    虫の鳴き声を悲しみの泣き声と聞き、露はその
    涙だと考えたもの。

 注・・なく=「鳴く」と「泣く」の掛詞。

作者・・曾禰好忠=そねのよしただ。生没年未詳。十世
    紀後半の人。中古三十六歌仙の一人。

出典・・詞花和歌集・118。



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2017年11月18日

・高松の この嶺も狭に 笠立てて 満ち盛りたる  秋の香のよさ

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高松の この嶺も狭に 笠立てて 満ち盛りたる 
秋の香のよさ
                詠み人知らず
                 
(たかまつの このみねもせに かさたてて みち
 さかりたる あきのかのよさ)

意味・・高松のこの峰も狭しとばかりに、ぎっしりと
    傘を突き立てて、いっぱいに満ち溢(あふ)れ
    ているきのこの、秋の香りの何とかぐわしい
    ことか。

    峰一面に生えている松茸の香りの良さを讃え
    た歌です。

 注・・高松の嶺=奈良市東部、春日山の南の山。
    笠立てて=松茸の生えている姿を、傘を地に
     突き立てたと見た表現。
    秋の香=ここでは秋の香りの代表として松茸
     の香り。

出典・・万葉集・2233。



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2017年11月17日

・忘るなよ たのむの沢を 立つ雁も いなばの風の 秋の夕暮れ

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忘るなよ たのむの沢を 立つ雁も いなばの風の
秋の夕暮れ        
                 藤原良経

(わするなよ たのむのさわを たつかりも いなばの
 かぜの あきのゆうぐれ)

意味・・田つづきの沢を飛び立って北に帰っていく雁も、
    帰っていったら、稲葉を風の吹き渡る秋の夕暮
    れを忘れないで、また来てくれよ。
 
 注・・たのむの沢=田続きの沢。
    いなば=稲葉。「往なば」を掛ける。

作者・・藤原良経=ふじわらのよしつね。11691206。
    太政大臣。新古今和歌集の仮名序作者。

出典・・新古今和歌集・61。



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2017年11月16日

・筑波嶺の 峰のもみじ葉 落ち積り 知るも知らぬも なべてかなしも

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筑波嶺の 峰のもみじ葉 落ち積り 知るも知らぬも
なべてかなしも          
                 詠み人知らず

(つくばねの みねのもみじば おちつもり しるも
 しらぬも なべてかなしも)

意味・・筑波の峰にもみじが散っているが、そのもみじ
    のようにきれいな人、私の知人であってもなく
    ても会う人は皆、愛(いと)しいものですよ。

意味・・筑波山の峰のもみじ葉が沢山散り重なっている
    ように、美しい女性が大勢集まっており、すで
    に知っている女性も、まだ知らない女性もすべ
    て愛(いと)しく思われます。

    春秋の二回、男女が集まって舞う行事で詠まれ
    た歌です。

 注・・筑波嶺=茨城県筑波山。
    知るも知らぬも=私が知っている人も知らない
     人も。
    なべて=すべて。
    かなし=愛し。いとしい、心がひかれる。

出典・・古今和歌集・1096。
   


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2017年11月15日

・山里は 秋こそことに わびしけれ 鹿の鳴く音に 目を さましつつ

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      猿丸太夫の歌「奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿の 声聞く時ぞ秋は悲しき」
      の下句が書かれている。

山里は 秋こそことに わびしけれ 鹿の鳴く音に
目をさましつつ                 
                 壬生忠岑

(やまさとは あきこそことに わびしけれ しかのなく
 ねに めをさましつつ)


意味・・山里では、秋がほかの季節と比べてひときわ寂し
    くてならぬものだ。どこかで鳴く鹿の声にしばしば
    眠りを覚まされると、次から次へと物思いに追われ
    てなかなか寝つけない。

    山里はわびしい所、そこに住む己のわびしい思いを
    基調として、これに、わびしい時としての秋、また
    その夜、さらに、わびしさを誘う鹿の声・・と、
    わびしさの限りを尽くした趣です。

    山里のわびしさ・・人がいないので暖かく接してく
     れる人がいない---寂しさ。
    己のわびしさ・・明るい見通しや希望がなかったり、
     悩み事があったり---憂鬱感。
    秋のわびしさ・・木の葉が落ち、草木が枯れていく
     のと、自分の体力の衰えを重ねる---悲哀感。
    夜のわびしさ・・静かで心細い。
    鹿の鳴き声・・聞くと一緒に泣きたくなる---哀れさ。

 注・・わびし=気落ちして心が晴れないさま。せつない。
     心細い、もの寂しい。
    鹿の鳴く音=牡鹿(おじか)の妻恋の声で、哀れさを
     誘われる。

作者・・壬生忠岑=生没年未詳。907年頃活躍した人。古今集
     の撰者の一人。

出典・・古今和歌集・214。



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2017年11月14日

・命とて 露を頼むに かたければ ものわびしらに鳴く 野辺の虫

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命とて 露を頼む かたければ ものわびしらに
鳴く野辺の虫                 
                在原滋春

(いのちとて つゆをたのむ かたければ ものわび
 しらに なくのべのむし)

意味・・この露が命をつなぐ頼りの水だと思っても、
    それすらはかなく消えてゆく運命なのだか
    ら、野辺の虫がものさびしく鳴くのも当然
    である。
 
    物名「にがたけ(竹の一種)」を読み込んだ
    歌ですが、晩秋の悲哀感を歌っています。

 注・・命とて=これが命の綱だと。
    かたければ=難ければ、困難なので。
    ものわびしらに=なんとなく心細そうに。

作者・・在原滋春=ありはらのしげはる。業平(82
    5年生れ)の次男。

出典・・古今和歌集・451。



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2017年11月13日

・白露に 風の吹きしく 秋の野は つらぬきとめぬ 玉ぞ散りける

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白露に 風の吹きしく 秋の野は つらぬきとめぬ
玉ぞ散りける
                文屋朝康 

(しらつゆに かぜのふきしく あきののは つらぬき
 とめぬ たまぞちりける)

意味・・白露にしきりに風が吹いている秋の野は、ひも
    で貫き留めていない玉が散り乱れているようだ。

    薄の葉や萩の枝などに露をいっぱい集めた木
    草が秋風に揺さぶられ、露がその度ごとに白
    く輝きながら散っている情景です。

 注・・白露=草葉の上で露が白く光るのを強調した
     表現。
    吹きしく=「しく」は「頻く」で、しきりに
     ・・するの意。

作者・・文屋朝康=ぶんやのあさやす。生没年未詳。
     九世紀後半の人。

出典・・後撰和歌集・308、百人一首・37。



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2017年11月12日

・月よみの 光を待ちて 帰りませ 山路は栗の  いがのしげきに

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月よみの 光を待ちて 帰りませ 山路は栗の 
いがのしげきに         
                良寛

(つきよみの ひかりをまちて かえりませ やまじは
 くりの いがのしげきに)

意味・・月の光が明るく射すのを待ってお帰りなさい。
    山路は栗のいがが多くて危ないですから。

    訪れた親友に少しでも長く引きとめようとする
    気持を詠んでいます。やさしく暖かい心が込め
    られています。

 注・・月よみ=月の異名。

作者・・良寛=りょうかん。1758~1831。越後出雲崎に神官の
    子として生まれる。18歳で曹洞宗光照寺に入山。

出典・・谷川俊朗著「良寛歌集」。



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2017年11月11日

・きりぎりす 声はいづくぞ 草もなき しらすの庭の 秋の夜の月

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きりぎりす 声はいづくぞ 草もなき しらすの庭の
秋の夜の月
                  永福門院

(きりぎりす こえはいずくぞ くさもなき しらすの
 にわの あきのよのつき)

意味・・こおろぎよ、お前の声はどこから聞こえて来る
    のか。草もない白洲の庭に輝く秋の夜の月光の
    もとで。

 注・・きりぎりす=現在のこおろぎのこと
    しらす=白洲。白い砂を敷いた庭。

作者・・永福門院=えいふくもんいん。1271~1342。
    伏見天皇の中宮。

出典・・風雅和歌集・556。



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2017年11月10日

・秋の夜の 月の光を 見るごとに 心もしのに  古へ思ほゆ

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秋の夜の 月の光を 見るごとに 心もしのに 
古へ思ほゆ
                   良寛

(あきのよの つきのひかりを みるごとに こころも
 しのに いにしえおもおゆ)

意味・・秋の夜は、澄み切った月の光を見るたび、その昔、
    身を犠牲にして老人を救おうとした兎のことが
    しみじみと思われることだ。

    「月の兎」の題で詠んだ歌です。

    以下は参考です。(長いので暇の時に見て下さい)

    「月の兎」の話です。

    ずっと昔の時代にあったという。猿と兎と狐とが
    ともに暮らすことの約束をして、朝には一緒に野
    山をかけ回り、夕方には一緒に林へ帰って休んで
    いた。このようにしながら、年月がたったので、
    天帝がそのことをお聞きになって、それが事実で
    あるかどうかを知りたいと思って、老人に姿を変
    えてその所へ、よろめきながら行って言うことに
    は「お前達は種類が違うのに、同じ気持で仲良く
    過ごしているという。本当に聞いた通りである
    ならば、私の空腹をどうか救ってくれ」と言って
    杖を投げ出して座りこんだところ、「それは、た
    やすいことです」と言って、しばらくしてから、
    猿は後ろにある林から、木の実を拾って帰って来
    た。狐は前にある河原から、魚をくわえて来て、
    老人に与えた。兎は、あたりをしきりに飛び回っ
    たが、何も手に入れる事が出来ないまま帰って来
    たので、老人は「兎は気持が他の者と違って、思
    いやりがない」と悪し様に言ったので、かわいそ
    うに兎は心の中で考えて、言った事は「猿は柴を
    刈って来て下さい。狐はそれを燃やして下さい」
    と。二匹は言われた通りにした所、兎は炎の中に
    飛び込んで、親しくもない老人に、自分の肉を与
    えた。老人はこの姿を見るやいなや心もしおれる
    ばかりに、天を仰いで涙を流し、地面にひれ伏し
    ていたが、しばらくして、胸を叩きながら言った
    事は、「お前達三匹の友達は、誰が劣るというの
    ではないが、兎は特に心がやさしい」と言って、
    天帝は、兎のなきがらを抱いて月の世界の宮殿に
    葬ってやった。
    この話は、今の時代にまで語り続けられ、「月の
    兎」と呼ばれている。
 
作者・・良寛=1758~1831。
 
出典・・谷川敏郎著「良寛全歌集」。
 
 


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2017年11月09日

・さそはれて おぼえず月に 入る野辺の 左は小萩 右は松虫

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さそはれて おぼえず月に 入る野辺の 左は小萩
右は松虫
                   木下長嘯子
           
(さそわれて おぼえずつきに いるのべの ひだりは
 こはぎ みぎはまつむし)

意味・・月の光に誘われて思わず分け入った野辺の、
    左には萩の花が咲き、右では松虫が鳴いて
    いる。

 注・・さそわれて おぼえず月に=月に誘われて
     おぼえず、の語順を変えて表現。この事
     により「さそわれて」が強調されている。

作者・・木下長嘯子=きのしたちょうしようし。1569
    ~1649。豊臣秀吉に仕える。和歌は細川幽斎
    に学ぶ。家集「挙白集」。
 
出典・・「挙白集」。


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2017年11月08日

・秋は来ぬ 年も半ばにすぎぬとや 荻吹く風の  おどろかすらむ

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秋は来ぬ 年も半ばにすぎぬとや 荻吹く風の 
おどろかすらむ            
                寂然法師
           
(あきはきぬ としもなかばに すぎぬとや おぎ
 ふくかぜの おどろかすらん)

意味・・ほら秋がきたよ、この一年も、はや半分以上
    過ぎてしまったよ、と荻の葉を吹く風が昨日
    までと違った音をたてて警告しいてるのかな。

    一年の推移の速さを思う人生的な味わいの歌
    となっています。

 注・・荻=稲科の多年草、ススキに似てそれより高
     い。1.5mほどになる。
    おどろかす=はっと気づかせる。

作者・・寂然法師=じゃくねんほうし。1120年頃の生
    まれ。唯心房と称す。従五位下・壱岐守に至る
    が出家。西行と交流。

出典・・千載和歌集・230。



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2017年11月07日

・紅葉ばの 過ぎにし子らが こと思へば 欲りするものは 世の中になし

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紅葉ばの 過ぎにし子らが こと思へば 欲りするものは
世の中になし             
                   良寛

(もみじばの すぎしこらが こともえば ほりするものは
 よのなかになし)

意味・・亡くなってしまった愛(いと)しい子供のことを
    思うと、その悲しみのために、欲しいと思うもの
    はこの世の中に何ひとつとして、ないことだ。

    本歌は、

    「紅葉ばの過ぎにし子らとたづさわり遊びし磯を
     見れば悲しも」(万葉集) です。

    (死んでしまった子供と、手を取り合って遊んだ
     磯を見ると悲しいことだ。)

 注・・紅葉ば=「過ぎ」の枕詞。
    過ぎ=時がたつ、終わる、死ぬ。

作者・・良寛=1758~1831。

出典・・谷川俊朗著「良寛歌集」。



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2017年11月06日

・我のみぞ 憂きと思へど 雲いにも 雁鳴きわたる 秋の夕暮れ

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我のみぞ 憂きと思へど 雲いにも 雁鳴きわたる
秋の夕暮れ
                 良寛

(われのみぞ うきとおもえど くもいにも かりなき
 わたる あきのゆうぐれ)

意味・・この世を生きるのがつらいのは、私だけと思っ
    ていたところ、この秋の夕暮れに、雁もつらそ
    うに大空を飛んで行くよ。

 注・・憂き=つらい。
    雲い=雲井。空、雲。

作者・・良寛=りょうかん。1758~1831。

出典・・谷川俊朗著「良寛歌集・334」。



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2017年11月05日

・おほかたの 秋来るからに わが身こそ かなしきものと 思ひ知りぬれ

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                               大分県・耶馬渓観音岩

おほかたの 秋来るからに わが身こそ かなしきものと
思ひ知りぬれ             
                   詠み人知らず

(おおかたの あきくるからに わがみこそ かなしき
 ものと おもいしりぬれ)

意味・・地上すべての物に秋が来るとともに、悲しい
    思いにさせられるが、この自分自身こそ、悲
    しいものであると、身に沁みて分かったこと
    である。

    秋になると物悲しい思いにさせられるが、そ
    れは秋という季節が悲しくさせると思ってい
    たが、自分自身こそ、その悲しみの根源だと
    悟ったというのです。

    実りの秋、収穫の秋、清々しく気持ちの良い
    秋のはずなのだが・・。主役を終え一線を退
    いた者にしては、草木が枯れ始め寂しく、
    また厳しい冬が近づく事が、自分の身体に
    あわさって悲しくなって来たのだろうか。    

 注・・おほかた=世間一般。普通であること。
    わが身こそ=私の身の上こそ。「こそ」は
    「おほかた」の人の中でも自分一人が特に。

出典・・古今和歌集・185。



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2017年11月04日

・大荒木の 森の下草 老いぬれば 駒もすさめず 刈る人もなし

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                         熊本・大津街道

大荒木の 森の下草 老いぬれば 駒もすさめず
刈る人もなし

詠み人知らず

(おおあらぎの もりのしたくさ おいぬれば こまも
 すさめず かるひともなし)

意味・・大荒木の森の根本に生えている草も成長しすぎ
    て古くなったので、馬も喜んで食べないし、刈
    る人もいない。

    肉体の柔らかさが無くなった老人の嘆きです。

 注・・大荒木=奈良県宇智郡の荒木神社付近の森。
    すさめず=物事に興じない。

出典・・古今和歌集・892。



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2017年11月03日

・寂しさに 秋成が書 読みさして 庭に出でたり 白菊の花

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             潔白(白菊)故に哀れ(鶉)を誘う

寂しさに 秋成が書 読みさして 庭に出でたり
白菊の花      
                北原白秋

(さびしさに しゅうせいがふみ よみさして にわに
 いでたり しらぎくのはな)

意味・・雨月物語を読んでいて、あまりに心悲しく
    なったので、途中で置いて庭に出た。そこ
    にはその悲しさを誘った純愛の心をそのまま
    あらわしたような白い菊が咲いていた。

    雨月物語の「菊花の契」は丈部左門という
    武士が、道中病気で困っていた赤穴宗右衛門
    を助け、それより兄弟の契を結んだ。宗右衛門
    が去るにあたって、菊花かおる重陽の日(9月
    9日)には必ず訪ねてくると再会を約束して去っ
    たがまもなく捕らわれの身となる。逃れられ
    ないので自殺して亡霊となり、約束の日の夜更
    けようやく左門の所へ訪ねて来たという話です。

    「寂しさ」は人情のあわれさへの感動です。    

 注・・秋成=上田秋成(1734~1809)。雨月物語等。
    秋成が書=雨月物語。

作者・・北原白秋=きたはらはくしゅ。1885~1942。
    城ヶ島の雨、ペチカ、からたちの花、等を書い
    た詩人。




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2017年11月02日

・此の道や行く人なしに秋の暮れ

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此の道や行く人なしに秋の暮れ    
                  芭蕉

(このみちや ゆくひとなしに あきのくれ)

意味・・晩秋の夕暮れ時、一本の道がかなたに続いて
    いる。その道は行く者もなく寂しげだが、自
    分は一人でその道を通っていこう。

    秋の暮れの寂しさと芭蕉の孤独感を詠んで
    います。「此の道」は眼前にある道と同時に
    生涯をかけて追求している、俳諧の道でも
    あります。

 注・・この道や=「俳諧の道」も含まれている。「
     や」は「ああこの道は」という詠嘆の意が
     含まれている。真に自分の俳諧の道に志す
     人の少ない孤独の思いを嘆ずる気持ちです。

作者・・芭蕉=ばしょう。1644~1694。

出典・・笈(おい)日記。



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2017年11月01日

・入日さす 麓の尾花 うちなびき たが秋風に 鶉鳴くらん

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入日さす 麓の尾花 うちなびき たが秋風に
鶉鳴くらん     
                源通光

(いりひさす ふもとのおばな うちなびき たが
 あきかぜに うずらなくらん)

意味・・夕日のさす麓の尾花がなびき、その中に
    伏して、だれの飽き心のためにか、秋風に
    辛(つら)くなって、鶉は鳴いているので
    あろうか。

    夕日のさす山麓の秋風になびく尾花の中
    でわびしく鳴く鶉に、男の飽き心に泣き
    わびている女性の面影を見ています。

 注・・入日=夕日。
    尾花=薄の穂。
    なびき=横に倒れ伏す。尾花がなびく意
     と鶉が伏すの意を掛ける。
    秋風=「秋」に「飽き」を掛ける。
    鶉=「鶉」の「う」に「憂し」を掛ける。

作者・・源通光=みなもとのみちてる。1248年没。
    62歳。従一位太政大臣。

出典・・古今和歌集・513。
   


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