2018年12月

2018年12月31日

・今日ごとに 今日や限りと 惜しめども またも今年に あひにけるかな

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                除夜の鐘

今日ごとに 今日や限りと 惜しめども またも今年に
あひにけるかな
                   藤原俊成

(きょうごとに きょうやかぎりと おしめども またも
 ことしに あいにけるかな)

意味・・大晦日の今日が来るたびに、この大晦日が最後かと
    惜しんだけれども、またもや今年の大晦日に逢った
    ことよ。

    作者88歳の作。明日知れない老境の身をかみしめて
    います。

 注・・今日ごとに=年年の大晦日の今日ごとに。
    今日や限り=今日が大晦日の最後であろうか。
    今年に=今年の大晦日である今日に。

作者・・藤原俊成=ふじわらのとしなり。1204年没。91歳。
    非参議正三位皇太后大夫。「千載和歌集」の撰者。

出典・・新古今和歌集・706。



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2018年12月30日

・濁りなき 亀井の水を むすびあげて 心の塵を すすぎつるかな

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               四天王寺・亀井の水

濁りなき 亀井の水を むすびあげて 心の塵を
すすぎつるかな    
                  藤原彰子

(にごりなき かめいのみずを むすびあげて こころの
 ちりを すすぎつるかな)

詞書・・天王寺の亀井の水をご覧になって。

意味・・濁りの無い亀井の水を手にすくいあげて飲んで、
    心の穢(けが)れを洗い清めました。

    霊水に触れて、心の煩悩の穢れを洗い清められた
    思いのさわやかさを詠んでいます。

 注・・天王寺=四天王寺。大阪市天王寺区元町にある。
    亀井の水=四天王寺の境内にあった石造りの亀
     から湧き出た霊水。
    むすび=手ですくう。
    心の塵=心の穢れ。
    すすぎ=濯ぎ。水で洗い清める。罪や恥を清める。

作者・・藤原彰子=ふじわらのあきこ。1074年没。87歳。
    一条天皇の中宮。紫式部・和泉式部などの才媛女
    房を輩出した。
 
出典・・新古今和歌集・1926。



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2018年12月29日

・埋火もきゆやなみだの烹る音

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埋火もきゆやなみだの烹る音  
                     芭蕉

(うずみびも きゆやなみだの にゆるおと)

詞書・・少年を失へる人の心を思ひやりて。

意味・・終日火桶に寄りながら、亡き人を思っている
    お宅では、葬(ほうむ)り落ちるあなたの涙の
    ために、埋火もさぞかし消えがちなことであ
    りましょう。いま私に、その涙がこぼれて、
    埋火に煮える切ない音まで、聞えてくるよう
    に思われます。

    埋火という言葉に、終日なすこともなく火鉢
    をかかえ、悲しみに沈んでいる人の面影が見
    えてきます。

 注・・埋火(うずみび)=炉や火鉢の灰に埋めた炭火。

作者・・芭蕉=1644~1694。
 
出典・・笈日記(小学館「松尾芭蕉集」)



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2018年12月28日

・神さぶる 荒津の崎に 寄する波 間なくや妹に 恋ひわたりなむ

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神さぶる 荒津の崎に 寄する波 間なくや妹に
恋ひわたりなむ
                土師稲足

(かみさぶる あらつのさきに よするなみ まなくや
 いもに こいわたりなん)

意味・・この荒津の崎に神々しく絶える間もなく、寄せ
    ては砕ける波のように、これから長い旅の間、
    絶え間なく都に残して来た妻を恋しく思い続け
    ることだろう。

    遣新羅使(けんしらきし)が詠んだ歌です。

 注・・神さぶる=神々しい気分がある、厳(おごそ)か
     である。
    荒津の崎=博多湾に臨む福岡市西公園のあたり。
    間なく=絶え間がなく。

作者・・土師稲足=はにしのいなたり。生没年未詳。736
    年韓国の南部にあった新羅国に派遣された。

出典・・万葉集・3660。



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2018年12月27日

・あさぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪 

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あさぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に
降れる白雪      
                  坂上是則
         
(あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに よしのの
 さとに ふれるしらゆき)

意味・・夜がほのぼのと明け始める頃に見渡すと、夜明け
    の月がほんのりと照っているかのように、吉野の
    里には雪が淡く積っている。

    薄明の時の雪景色を詠んでいます。

 注・・あさぼらけ=夜がほのぼのと明ける頃。
    有明の月=夜が明けてもまだ空にある月。

作者・・坂上是則=さかのうえのこれのり。生没年未詳。
    924年従五位下。三十六歌仙の一人。

出典・・古今和歌集・332、百人一首・31。



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2018年12月26日

・山寺の 入相の鐘の 声ごとに 今日も暮れぬと  聞くぞ悲しき

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山寺の 入相の鐘の 声ごとに 今日も暮れぬと 
聞くぞ悲しき           
               詠み人知らず

(やまでらの いりあいのかねの こえごとに きょうも
 くれぬと きくぞかなしき)

意味・・山寺の日暮れ時の鐘の音が聞こえてくるたびに、
    今日もまた一日が暮れたと思って鐘の音を聞く
    と、まことに悲しい気持がすることだ。

    充実したことをせずに、今日も終わってしま
    うことは悲しい、という気持です。

    参考歌です。
    かくしつつ 今はとならむ 時にこそ くや
    しきことの かひもなからめ
               花山院(詞花和歌集)

    (こうして無為に過し続けて、もう最期という
    時には、その時に後悔しても間に会わないだ
    ろう)

注・・入相の鐘=日没時につく鐘。
   今は=死に際、臨終。

出典・・拾遺和歌集・1329。 



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2018年12月25日

・熟年の 入りて茄子漬 上手くなる

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熟年の 入りて茄子漬 上手くなる  
                    
(じゅくねんの はいりてなすずけ うまくなる)

意味・・美味い漬物は、永年の試行錯誤の経験や工夫 
    の賜物。若くなくなり年を感じさせられるこの頃 
    だが、年の功で漬物を漬けるのが上手くなったと 
    自分ながら感じる。いや、漬物だけでなく料理や 
    お付き合い、その他諸々のことも。



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2018年12月24日

・我が命し ま幸くあらば またも見む 志賀の大津に 寄する白波

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                桂浜・高知県

我が命し ま幸くあらば またも見む 志賀の大津に
寄する白波             
                  穂積老

(わがいのちし まさきくあらば またもみん しがの
 おおつに よするしらなみ)

意味・・私の命が無事であったならまたも来て見よう。
    志賀の大津の湖畔に寄せる白波を。

    天正天皇を批判した罪で佐渡に流される時に
    詠んだ歌です。

 注・・ま幸く=無事に。
 
作者・・穂積老=ほずみのおゆ。709~749。佐渡に
    流されたが18年後刑を許された。

出典・・万葉集・288。



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2018年12月23日

・山道に 昨夜の雨の 流したる 松の落葉は  かたよりにけり

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山道に 昨夜の雨の 流したる 松の落葉は 
かたよりにけり
               島木赤彦

(やまみちに ゆうべのあめの ながしたる まつの
 おちばは かたよりにけり)

意味・・山道を下りながら、ふと気がつくと松の落葉
    がきれいに一方に掃きよせられたようになっ
    ている。そういえば昨夜はひどく雨が降って
    いたが、これはその時流された跡なのだなあ。

    有馬温泉に行った時に詠んだ歌です。夜来の
    雨で十分に湿りを帯びた土、きれいに片よっ
    ている松葉、まだ誰も通らない山道を踏みし
    めていくさわやかな気分を詠んでいます。

作者・・島木赤彦=しまきあかひこ。1876~1926。
    長野師範学校卒。大正期の代表的歌人。

出典・・岩城之徳篇「現代名歌鑑賞辞典」。



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2018年12月22日

・門前の 小家もあそぶ 冬至かな



前の 小家もあそぶ 冬至かな
               
                     野沢凡兆
 
(もんぜんの こいえもあそぶ とうじかな)

意味・・冬至を迎えて、禅寺では一日業を休んで祝って
    いる。衆僧も暇を与えられて、思い思いに一日
    の暇を楽しんでいる。門前の小店の人達も店を
    閉めてのんびりとくつろいでいることだ。

    門前は日頃でも賑(にぎ)やかな所ではないが、
    店を閉じていっそうひっそりした様が暗示され
    ている。また、日曜日のない時代の休日を「小
    家」の人々がどれほど期待していたかの様子も
    うかがえる。    

 注・・門前=冬至には一日業を休む習慣のある禅寺
     の山門の前。
    小家=参詣客を相手とし供物を売る小さな店。
     冬至の日は僧も業を休むので小家も閉店。
    冬至=昼が一番短く夜が一番長い日。12月
     22,23日頃。この日からだんだん春が
     近づくというので仕事を休んで祝い、冬至
     粥、かぼちゃを食べ、柚子湯に入る習慣も
     ある。禅宗の僧の冬至は業を休み、心中の
     疑念を晴らすことを願う日といわれる。

作者・・野沢凡兆=のざわぼんちよう。~1714。加賀
    国(石川県)より京都に出て医者をする。芭蕉
    に師事。句誌「猿蓑」を編集。
 
出典・・句集「猿蓑」。



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2018年12月21日

・伊勢の海の 清き渚は さもあらばあれ われは濁れる 水に宿らむ

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               堂ヶ島・静岡県

伊勢の海の 清き渚は さもあらばあれ われは濁れる
水に宿らむ
                   詠み人知らず

(いせのうみの きよきなぎさは さもあらばあれ われは
 にごれる みずにやどらん)

意味・・伊勢の海の清い渚は美しく気持ちの良いところで
    ある。それはそれでよいとして、私はむしろ濁っ
    た水に宿ろう。

    私は温室で育つのではなく、濁った喧騒な俗世に
    入ってもまれて生きて行こう、という気持ちです。

出典・・玉葉和歌集・2617。



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2018年12月20日

・ふるさとの 尾鈴の山の かなしさよ 秋もかすみの たなびきて居り

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ふるさとの 尾鈴の山の かなしさよ 秋もかすみの
たなびきて居り
                  若山牧水

(ふるさとの おすずのやまの かなしさよ あきも
 かすみの たなびきており)

意味・・少年の頃から親しんだ故郷の尾鈴の山のなん
    と慕(した)わしいことであろうか。秋も昔と
    変らず美しい霞がたなびいている。

 注・・尾鈴の山=宮崎県の日向にある1405mの山。
    かなし=愛し。いとおしい、したわしい。

作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885~1928。
    宮崎県の生まれ。早稲田大学卒。尾上柴舟に
    師事。

出典・・歌集「みなかみ」(本林勝夫篇「現代名歌鑑賞
    辞典」)



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2018年12月19日

・空蝉の 唐織り衣 なにかせん 綾も錦も  君ありてこそ

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                 西陣織物

空蝉の 唐織り衣 なにかせん 綾も錦も 
君ありてこそ
               皇女和宮

(うつせみの からおりごろも なにかせん あやも
 にしきも きみありてこそ)

意味・・このような華やかな衣装も、あなたがいればこその
    ものなのに、いない今は、唐織の衣をどうしょうと
    いうのか。虚しいばかりでどうする事も出来ない。

    和宮は第14代徳川将軍家茂(いえもち)と結婚したが
    数年目に、家茂は討幕派の長州を征伐する為に出陣
    することになった。出立の時、和宮に「お土産は何
    がいいか」と聞くと、和宮は「西陣織物」と答えた。
    だが、家茂は、出陣先の大阪城にて病に伏し、西陣
    織物を和宮に届けるように頼んで死去してしまう。
    和宮が西陣織物を受け取った時に詠んだ歌です。   

 注・・空蝉=現世。はかないもののたとえ。
    唐織り衣=朝鮮・中国(唐)から伝わった織り方で作
     った衣で、高級で豪華な織物の代表。西陣織物に
     唐錦の技法を使った豪華なものがある。

作者・・皇女和宮=こうじょかずのみや。1846~1877。31
    歳。16才の時、14代徳川将軍家茂と結婚。
 



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2018年12月18日

・君が齢 とどめかねたる 早川の 水の流れも うらめしきかな

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君が齢 とどめかねたる 早川の 水の流れも
うらめしきかな
                天璋院篤姫
               
(きみがよわい とどめかねたる はやかわの みずの
 ながれも うらめしきかな)

意味・・早川は、まるであなたの命を留めてくれないように
    速く流れて行く。水の流れを見るにつけ、あなたの
    運命が無念でたまらない。

    篤姫は13代徳川将軍家定の正室であり、14代将軍
    家茂の養母である。家茂は和宮と結婚して数年で
    病に伏せ21歳の若さで死去する。一方、和宮も31
    才の若さで死去した。和宮が箱根で病気療養中の
    時に篤姫は見舞いに行くが、その時は既に亡くな
    っていた。篤姫がその時に詠んだ歌です。

作者・・天璋院篤姫=てんしょういんあつひめ。1836~
    1883。島津の一門に生まれる。徳川家に嫁ぎ第
    13代将軍家定の正室となる。



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2018年12月17日

・奥 山の 岩垣もみぢ 散りはてて 朽葉がうへに 雪ぞつもれる

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奥 山の 岩垣もみぢ 散りはてて 朽葉がうへに
雪ぞつもれる       
                 大江匡房

(おくやまの いわがきもみじ ちりはてて くちば
 がうえに ゆきぞつもれる)

意味・・奥深い山の岩垣の紅葉はすっかり散って、朽
    葉の上に雪が積っている。

    人知れず紅葉は散り、人知れず雪が降る様を
    詠み、自分も人知れずに努力している事を暗
    示している。

 注・・岩垣もみぢ=四方を囲むように、岩の壁に
     う葛の類の紅葉、また岸壁に根を下ろし
     木の紅葉。山里にこもっている自分をた
     えている。

作者・・大江正房=おおえのまさふさ。1041~1111。
    正二位権中納言。

出典・・詞歌和歌集・156。



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2018年12月16日

・みよしのの 山の白雪 つもるらし 故里さむく なりまさるなり

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                 川瀬巴水画

みよしのの 山の白雪 つもるらし 故里さむく
なりまさるなり
                 坂上是則

(みよしのの やまのしらゆき つもるらし ふるさと
 さむくなりまさるなり)

意味・・今夜は吉野の山には雪が降り積っているだろう。
    この古い奈良の都はますます寒気がするから。

    奈良の古都に旅をした時に詠んだ歌です。
    冷え冷えと寒気が身にしみるので、同じ大和国
    の吉野を想像したものです。

    寒さに身内の身をも心配しています。

 注・・みよしの=吉野は奈良県南部の山地。「み」は
    美称の語。
    故里=古(いにしえ)の都であった奈良。

作者・・坂上是則=さかのうえのこれのり。生没年未詳。
    平安時代初期の人。三十六歌仙の一人。

出典・・古今和歌集・325。



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2018年12月14日

・冬ごもる 病の床の ガラス戸の 曇りぬぐへば 足袋干せる見ゆ

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冬ごもる 病の床の ガラス戸の 曇りぬぐへば
足袋干せる見ゆ
                正岡子規

(ふゆごもる やまいのとこの がらすどの くもり
 ぬぐえば たびほせるみゆ)

意味・・寒い冬中、家にこもって病床に臥している
    自分であるが、病室のガラス障子の曇りを
    ぬぐってみたら、庭に足袋を干してあるの
    が見えた。

    テレビも無い時代、同じ場所に臥し、来る
    日も来る日も変化の無い視覚の世界は、心
    に受ける憂悶(ゆうもん)は深いもの。その
    無変化のように見える物の中に、微妙な変
    化を目と心によってドラマとして描写して、
    自己を慰める作品となっています。

   「足袋干せる」の足袋は子規の物であろう。
    洗濯して干してくれている人への感謝の気
    持ちがあります。        

 注・・冬ごもる=冬の寒いうち、家の中にこもっ
     ている。
    憂悶(ゆうもん)憂えもだえること。悲し
     み悩むこと。

作者・・正岡子規=まさおかしき。1867~1902。
    35歳。東大国文科中退。肺を病み喀血して
    子規の雅号を用いる。

出典・・歌集・竹の里歌。


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2018年12月13日

・百伝ふ 盤余の池に 鳴く鴨を 今日のみ見てや  雲隠りなむ

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百伝ふ 盤余の池に 鳴く鴨を 今日のみ見てや 
雲隠りなむ
               大津皇子

(ももづとう いわれのいけに なくかもを きょう
 のみみてや くもかくりなん)

意味・・この盤余の池に鳴く鴨を今日限りに見て、
    私は死んでしまうのであろうか。
    いつも変わらず平々凡々と泳いでいる鴨が
    ああ、羨ましい。

    自己の死を凝視(ぎょうし)して詠んだ辞世
    の歌です。大津皇子は草壁皇子に対して謀
    反の心があるとして殺された。

 注・・百伝ふ=盤余の枕詞。無限に続く意を表し
     第四、五句のはかなさに対比させる。
    盤余(いわれ)=奈良県磯城郡盤余。
    雲隠り=昇天して雲の中に隠れる。貴人が
     死ぬこと。

作者・・大津皇子=おおつのみこ。663~686。23歳。
    草壁皇子への謀反の罪で処刑された。

出典・・万葉集・・416。



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2018年12月12日

・振り放けて 三日月見れば 一目見し 人の眉引き 思ほゆるかも

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振り放けて 三日月見れば 一目見し 人の眉引き
思ほゆるかも
                  大伴家持
         
(ふりさけて みかづきみれば ひとめみし ひとの
 まよびき おもほゆるかも)

意味・・大空を振り仰いで三日月を見ると、ただ一目
    見た人の美しい眉が思われてなりません。

 注・・眉引(まよび)き=眉。まゆ墨で眉を書くこと。
    思ほゆる=思い起こされる。

作者・・大伴家持=おおとものやかもち。718~785。
     大伴旅人の子。

出典・・万葉集・994。



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2018年12月11日

・古も 今も変はらぬ 世の中に 心の種を  残す言の葉

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古も 今も変はらぬ 世の中に 心の種を 
残す言の葉
                    細川幽斎

(いにしえも いまもかわらぬ よのなかに こころの
 たねを のこすことのは)

意味・・変わらない悠久の時の流れの中に、和歌は
    言葉によって心の種を残していくものである。

    次の、古今和歌集の序を詠んだものです。

    「やまとうたは、人の心を種として、万の言の葉
    とぞなれりける。世の中にある人、ことわざ繁き
    ものなれば、心に思ふことを、見るもの聞くもの
    につけて、言いだせるなり。」

    (やまとうたと申しますのは、人の心を種に
    たとえますと、それから生じて口に出た無数の
    葉のようなものであります。この世に暮らして
    いる人々は公私さまざまの事件にたえず応接して
    おりますので、その見たこと聞いたことに託して
    心に思っていることを言い表わしたものが歌で
    あります。)

 注・・古も今も=「古今和歌集」を暗示している。
    心の種=心のよりどころ、心の指針。
    言の葉=和歌。 

作者・・細川幽斎ほそかわゆうさい。1534~1610。
     名は藤孝。織田信長・豊臣秀吉・徳川家康に
     仕えた。

出典・・家集「衆妙集」。



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2018年12月10日

・岩がねに 流るる水も 琴の音の 昔おぼゆる しらべにはして

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岩がねに 流るる水も 琴の音の 昔おぼゆる
しらべにはして
                細川幽斎
           
(いわがねに ながるるみずも ことのねの むかし
 おぼゆる しらべにはして)

詞書・・日野という所に参りましたついでに、鴨長明
    といった人が、憂き世を離れて住居した由を
    申し伝えている外山の庵室の跡を尋ねてみま
    すと、大きな石の上に、松が老いて、水の流
    れが清く、清浄な心の底が、それと同じだろ
    うと推量されました。昔のことなどを思い出
    して。

意味・・岩に流れている水も、琴の音の澄んで奏でて
    いた昔が偲ばれるような調べとなって聞えて
    くる。

    川の流れる音に、鴨長明が琴を弾いている姿
    を思い浮かべて詠んだ歌であり「方丈記」と
    重ね合わせて詠んでいます。

    「方丈記・序」です。

    ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの
    水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ
    消えかつ結びて、久しくとどまりたる例なし。
    世の中にある人と栖(すみか)と、またかくの
    ごとし。   

 注・・鴨長明=1216年没。「方丈記」が有名。
    外山(とやま)=人里近い山。
    岩がね=大地に根を下ろしたような岩。
    琴の音の昔おぼゆる=鴨長明が琴を奏じた昔。
    はして=愛して。いとおしく。

作者・・細川幽斎=ほそかわゆうさい。1534~1610。
    織田信長に仕え丹後国を拝領。豊臣秀吉・徳川
    家康に仕える。
 
出典・・家集「衆妙集」(小学館「中世和歌集」)
  


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2018年12月09日

・いざ行かむ 行きてまだ見ぬ 山を見む このさびしさに 君は耐ふるや

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横山大観画「秩父霊峰」

いざ行かむ 行きてまだ見ぬ 山を見む このさびしさに
君は耐ふるや
                   若山牧水

(いざゆかん ゆきてまだみぬ やまをみん この
 さびしさに きみはたうるや)

意味・・さびしい、実に寂しい。さあ出かけましょう。
    どこか初めての土地に出かけ、まだ見たこと
    のない山の姿にでも接したらこの寂しさから
    脱けられそうな気がするけれど、恋人よ、あ
    なたはこんな寂しさにいつまでも耐えられま
    すか。私はもうこの寂しさの中にじっと辛抱
    してはいられません。

    この歌は恋人を誘うような形をとってはいる
    が、真剣に誘いかけているというよりは、そ
    ういう形を借りて作者自身の寂しさを語って
    います。

    この歌の寂しさとはどういうものであろうか。
    努力を人に認められるまでに行かない寂しさ、
    別れの寂しさ、孤独の寂しさ・・。


作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885~1928。
    早稲田大学卒。尾上柴舟に師事。

出典・・歌集「別離」(大悟法利雄著「若山牧水の秀歌」)




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2018年12月08日

・百くまの 荒き箱根路 越えくれば こよろぎの磯に 波のよる見ゆ

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百くまの 荒き箱根路 越えくれば こよろぎの磯に
波のよる見ゆ
                 賀茂真淵

(ももくまの あらきはこねじ こえくれば こよろぎの
 いそに なみのよるみゆ)

意味・・限りなく曲がり目のある箱根峠の道を越えて来る
    と、こよろぎの磯に波が寄せるのが見える。

    箱根峠から下界を見た景観の新鮮さを詠んでいま
    す。風景は、初めて見る時が最も印象に残ります。
    殊に、一つの風景から他の風景に変った時に強く
    感じられる。陰鬱で単調な山の景色から、明るく
    広い海の景色に移った時が印象が強い。また、き
    つい上り坂を登りきった安堵感も美しい風景にな
    って見えてきます。

 注・・百(もも)くま=百曲。「百」は限りなき数をいった
     もの、「くま」は道の曲がり目。
    こよろぎの磯=神奈川県大磯の海岸。

作者・・賀茂真淵=かものまぶち。1697~1769。本居宣長
    (もとおりのりなが)ら多数の門人を育成する。

出典・・賀茂翁家集(河出書房新社「日本の古典「蕪村・良寛・
    一茶」)



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2018年12月07日

・よそながら かげだに見むと 幾度か 君が門をば すぎてけるかな

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よそながら かげだに見むと 幾度か 君が門をば
すぎてけるかな
                 樋口一葉

(よそながら かげだにみんと いくたびか きみが
 かどを すぎてけるかな)

意味・・ただ顔が見たさにこらえきれなくなった夕
    べ、気づかれないようにこっそりと彼の家
    の門の前を行ったり来たりするのです。

    樋口一葉は明治五年に生まれ結核で亡くな
    ったのは明治二十九年。この時代には自由
    に生きることをはばむさまざまな制約があ
    った。一葉は家庭の事情から戸主になって
    しまったので、他家へ嫁ぐわけにはゆかな
    い身になってしまった。一葉が愛した恋人
    も兄弟を養う戸主だったので、二人は結ば
    れない仲となった。彼との結婚は出来ない
    ものの恋はあきらめることが出来ませんで
    した。

 注・・よそながら=それとなく、間接的に。
           戸主=旧民法での用語。一家の長で戸主権
     を持ち、家族を養う義務のある者。

作者・・樋口一葉=ひぐちいちよう。1872~1896。
    24歳。作家。「たけくらべ」「にごりえ」。

出典・・樋口一葉和歌集(林和清著「日本のかなしい
    歌」)
 



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2018年12月06日

・鐘の音の 絶ゆるひびきに 音をそへて わが世つきぬと 君に伝へよ

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鐘の音の 絶ゆるひびきに 音をそへて わが世つきぬと
君に伝へよ
                   浮舟

(かねのおとの たゆるひびきに ねをそえて わがよ
 つきぬと きみにつたえよ)

意味・・寺の鐘の音が消えてゆく響きに、私の泣き声を
    添えて、私の人生は終わったと、風よ母君に伝
    えておくれ。

    源氏物語「浮舟」の一節です。
    大君を喪(うしな)った薫は、大君に似た浮舟を
    恋して宇治の屋敷に囲います。それを見つけ出
    したのが匂宮(においのみや)。薫のふりをして
    暗闇の夜に出かけ、浮舟と一夜の契りをかわし
    てしまうのです。薫を裏切ってしまった浮舟は
    罪の意識にさいなまされながらも、匂宮にひか
    れてもうどうしようもない状態です。頭では薫
    に感謝しながら、体は匂宮のとりこになってい
    る浮舟。どちらも選ぶこともできずにいると、
    ついに恐れていた日が来ます。薫に知られてし
    まったのです。薫は二度と匂宮が浮舟に近づか
    ないように家来を大勢見張らせます。そこへ命
    の危険をおかしてでも逢いたいと匂宮がやって
    来るのです。追い詰められた浮舟は、ひそかに
    屋敷を抜け出し、宇治川に身を投げる覚悟を決
    めます。私ひとりがいなくなれば、と考えた末
    のことです。なにかよくない予感をおぼえた母
    がよこした手紙に、浮舟は辞世の歌を書きつけ
    ます。私の一生はこれで終り、泣きさけぶ声を
    そえて、おろかな女がはかなくなったことを愛
    する君に伝えて下さい、と。しかし、浮舟は死
    ねなかったのです。・・・。

作者・・浮舟=源氏物語「浮舟」の巻の主人公。

出典・・源氏物語「浮舟」。



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2018年12月05日

・樵りおきし 軒のつま木も 焚きはてて 拾ふ木の葉の つもる間ぞなき

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樵りおきし 軒のつま木も 焚きはてて 拾ふ木の葉の
つもる間ぞなき
                   上原しん

(こりおきし のきのつまきも たきはてて ひろう
 このはの つもるまぞなき)

意味・・煮炊きのために樵り置いていた薪がなくなり、
    木の葉を集めて焼(く)べてみたが、あっという
    間に燃え尽きて、その木の葉さえ積もることが
    ない。

    貧しい生活を歌いながら、志に向けて堪え抜い
    ていく決意となっています。

    しんの夫は若狭小浜藩の武士であったが、幕府
    に建白書を出したので藩を追われ浪人の身とな
    った。その後、ペリーの来航で吉田松陰らと共
    に尊王攘夷を唱えて奔走したので、生活は困難
    を極めていた。なお、しんは貧弱のため29歳
    で病死した。

 注・・建白書=意見を申し述べた書き物。

作者・・上原しん=うえはらしん。1827~1855。29歳。
    若狭小浜藩の梅田雲浜と18歳で結婚。



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2018年12月04日

・人皆に 見捨てられたる 床の上に わがおさな児が 眼をひらきいる

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人皆に 見捨てられたる 床の上に わがおさな児が
眼をひらきいる
                 木下利玄

(ひとみなに みすてられたる とこのうえに わが
 おさなごが めをひらきいる)

意味・・医者にも手の打ち様が無く、もう助からないと
    言われている我が幼児は目を開いて私をじっと
    みつめている。

 注・・見捨てられ=病気が治らないと言われている。
    床の上=病床に臥して。

作者・・木下利玄=きのしたりげん。1886~1925。39
    歳。東大国文科卒。佐々木信綱に師事。

出典・・歌集「銀」(武川忠一編「短歌の鑑賞」)



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2018年12月03日

・かくしつつ 遊び飲みこそ 草木すら 春は生ひつつ 秋は散りゆく

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かくしつつ 遊び飲みこそ 草木すら 春は生ひつつ
秋は散りゆく
                  坂上女郎
             
(かくしつつ あそびのみこそ くさきすら はるは
 おいつつ あきはちりゆく)

意味・・今宵はこうして楽しく遊んだり飲んだりして
    下さい。草や木でさえ、春には生い茂りなが
    ら秋にはもう散ってゆくのです。

    草木を例として人生の短さを述べ、生きてい
    る間は楽しく遊び飲もうという享楽的な心を
    歌っています。

作者・・坂上女郎=さかのうえいらつめ。生没年未詳。
    大伴旅人の異母妹。

出典・・万葉集・995。



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2018年12月02日

・淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に 幾夜寝覚めぬ 須磨の関守

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淡路島 かよふ千鳥の 鳴く声に 幾夜寝覚めぬ
須磨の関守      
                源兼昌

(あわじしま かようちどりの なくこえに いくよ
 ねざめぬ すまのせきもり)

意味・・淡路島から通って来る千鳥の悲しそうに鳴く
    声に、いったい幾夜眠りを覚ましてしまった
    ことだろうか、ここ須磨の関の関守は。

    冬の夜、荒涼とした須磨の地を通り過ぎる旅
    人は、向いの淡路島から飛び通って来る千鳥
    の鳴き声を聞き、旅人の旅愁が関守のわびし
    い心を思いやった歌です。千鳥の鳴き声は、
    もの寂しさを誘うものとされていました。

    参考歌です。

   「友千鳥もろ声に鳴く暁は一人寝覚めの床も頼
    もし」です。   (意味は下記参照)

 注・・淡路島=兵庫県須磨の西南に位置する島。
    須磨=神戸市須磨区。古くは関所があった。
    関守=関所の番人。

作者・・源兼昌=みなもとのかねまさ。生没年未詳
    12世紀初めの人。

出典・・金葉和歌集・270、百人一首・78。

参考歌です。

友千鳥 もろ声に鳴く 暁は 一人寝覚めの
床も頼もし         
              源氏物語・須磨

(ともちどり もろこえになく あかつきは ひとり
 めざめの とこもたのもし)

意味・・多くの千鳥が声をそろえて鳴く暁は、一人で
    目を覚まして床の中で泣いていても、泣く仲
    間がいるので頼もしい。

    泣くのは好きな人との別れです。



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2018年12月01日

・花も枯れ 紅葉も散らぬ 山里は さびしさをまた 訪ふ人もがな

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花も枯れ 紅葉も散らぬ 山里は さびしさをまた
訪ふ人もがな
                西行
             
(はなもかれ もみじもちらぬ やまざとは さびしさを
 また とうひともがな)

意味・・秋草の花も枯れ、紅葉も散りつくした山里は、
    花や紅葉が美しかった時と同じく、この寂しさ
    をも訪れてくれる人のあってほしいものだ。
 
    定年退職して、はなやかな活動の場も無くなっ
    て寂しくなったが、以前と同じ様に人との交流
    がしたいものだ、というような気持ちです。

 注・・また訪ふ人もがな=秋草・紅葉の美しかった折
     同様、この冬の寂しい折にも訪れてくれたら
     との願望。

作者・・西行=さいぎょう。1118~1190。鳥羽院北面
    の武士であったが、23歳で出家。家集「山家集」。
 
出典・・山家集。
 


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