2019年02月

2019年02月28日

・菜の花や 淀も桂も 忘れ水

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菜の花や 淀も桂も 忘れ水   
                    言水

(なのはなや よどもかつらも わすれみず)

意味・・東山からはるか西南の方角を眺めると、そこは一面の
    菜の花で埋め尽くされている。いつもなら見えるはず
    の淀川や桂川の流れも、野中の忘れ水のように、その
    花々の下に隠れてしまって見えない。

    前書きは「東山の亭にて」です。
    広い地域全体が菜の花に埋め尽くされた情景の句です。

 注・・淀=淀川。京都の町の南を流れる川。
    桂=桂川。京都の町の西を流れる川。西南の地点で淀
     川と合流する。
    忘れ水=草に覆われて見えない水。

作者・・言水=ごんすい。池西言水。1650~ 1722。松尾芭蕉
    と交流。

出典・・句集「初心もと柏」(尾形仂篇「俳句の解釈と鑑賞辞」)



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2019年02月27日

・吹きのぼる 尾の上の松に 浪ぞこす 梅さく谷の 春の川風

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吹きのぼる 尾の上の松に 浪ぞこす 梅さく谷の
春の川風
                  正徹
             
(ふきのぼる おのへのまつに なみぞこす うめさく
 たにの はるのかわかぜ)

意味・・梅の咲く谷間から春の川風が、白い花びらを
    吹き上げているが、それはまるで峰の松を浪
    が越えているようだ。

    参考歌です。
    「君おきてあだし心をわがもたば末の松山
    波も越えなむ」 (意味は下記参照)

 注・・尾の上=山の頂。
    浪=白い梅の花を比喩。

作者・・正徹=しょうてつ。1381~1459。字は清岩。
    室町中期の歌僧。

出典・・正徹詠草(岩波書店「中世和歌集。室町篇」)

参考の歌です。

君をおきて あだし心を わがもたば 末の松山 
波も越えなむ
            詠み人知らず
            
意味・・あなたをさしおいて、ほかの人に心を移すなんて
    ことがあろうはずはありません。そんなことがあ
    れば、あの海岸に聳(そび)える末の松山を波が越
    えてしまうでしょう。

    心の変わらないことを誓った歌です。

 注・・あだし心=浮気心、うわついた心。
    末の松山=宮城県の海辺にあるという山。
 
出典・・古今和歌集・1093。



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2019年02月26日

・山たかみ 都の春を みわたせば ただひとむらの  霞なりけり

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山たかみ 都の春を みわたせば ただひとむらの 
霞なりけり     
                大江正言

意味・・山が高いので、そこから都の春景色を眺望
    すると、ただ一群の春霞がたなびいている
    ばかりだ。

    八十メートルほどの高台にある長楽寺から
    春の都を眺めた景色です。霞を通して待ち
    に待った春が来た事を詠んでいます。

 注・・ひとむら=一群。ひとかたまり。

作者・・大江正言=おおえのまさとき。生没年未詳。
    従五位大隈守。

出典・・後拾遺和歌集・38。
  


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2019年02月25日

・深草の 谷のうぐひす 春ごとに あはれ昔と 音をのみぞなく

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                  うぐいす

深草の 谷のうぐひす 春ごとに あはれ昔と
音をのみぞなく
                源実朝
             
(ふかくさの たにのうぐいす はるごとに あわれ
 むかしと ねをのみぞなく)

意味・・深草の谷の鶯は、春がくるごとに、ああ昔が
    恋しいと声をたてて鳴いている。

    深草の帝(仁明天皇)を偲ぶ歌です。

 注・・深草=京都市伏見区深草。歌枕。850年に他界
     した仁明天皇はこの地に葬られた。
    あはれ=喜楽・悲哀を表す語。いとしい。

作者・・源実朝=1192~1219。28歳。頼朝の二男。右
    大臣になった翌年、鶴岡八幡宮で暗殺される。

出典・・金塊和歌集・13。



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2019年02月24日

・鶯の たえてこの世に なかりせば 春の心は  いかにかあらまし

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                うぐいす

鶯の たえてこの世に なかりせば 春の心は 
いかにかあらまし             
                  良寛

(うぐいすの たえてこのよに なかりせば はるの
 こころは いかにあらまし)

意味・・鶯がもしこの世の中に全くいなかったならば、
    春における人の心は、どんなに物たりなく満
    たされないことであろうか。

    鶯はホーホケキョと美声で鳴き心を癒(いや)
    してくれますが、現在は都会にいればほとん
    ど聞けなくなりました。心を癒すという意味
    で「鶯」を「趣味」と置き換えて読んだらど
    うでしょう。
    
    本歌は「世の中にたえて桜のなかりせば春の
    心はのどけからまし」です。 (意味は下記)

 注・・たえて=絶えて。少しも、全く。
    あらまし=・・であろうに。
 
作者・・良寛=1758~1831。
 
出典・・谷川敏郎著「良寛全歌集」。
      
本歌です。

世の中に 絶えて桜の なかりせば 春の心は
のどけからまし
                 在原業平

(よのなかに たえてさくらの なかりせば はるの
 こころは のどけからまし)

意味・・もしこの世の中に全く桜がなかったなら、春
    を過ごす気分は、ゆったりとして、のどかで
    あろうものを。

    春は本来のどかな季節であるが、桜を愛する
    あまり、咲くのを待ち焦がれ、散るのを惜し
    み、また雨につけ風につけ、気にかかって落
    ち着かないという気持を、反実仮想の機知を
    きかせて詠んでいます。

    親が子供の成長を心配する心と似ている。
 
作者・・在原業平=ありはらのなりひら。825~880。
    「伊勢物語」。
 
出典・・古今和歌集・53。
    



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2019年02月23日

・都人 いかにととはば 山高み 晴れぬ雲井に  わぶとこたへよ

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都人 いかにととはば 山高み 晴れぬ雲井に 
わぶとこたへよ    
               小野貞樹

(みやこびと いかにととわば やまたかみ はれぬ
 くもいに わぶとこたえよ)

意味・・都の人が貞樹はどうしているかと尋ねたら、
    山が高いので雲が晴れないように、遠国で
    つらく思って過ごしていると答えて下さい。

    住み慣れた都会から慣れない地方に転勤した
    時のように、つらい気持ちを詠んでいます。

 注・・雲井=雲のある所。遠く離れた所。
    わぶ=心細い、心細く暮すこと。

作者・・小野貞樹=おののさだき。860年頃の人。
    従五位下・甲斐守。

出典・・古今和歌集・937。 



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2019年02月22日

・あらざらむ この世のほかの 思い出に 今ひとたびの  逢うこともがな

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あらざらむ この世のほかの 思い出に 今ひとたびの 
逢うこともがな      
                   和泉式部

(あらざらん このよのほかの おもいでに いま
 ひとたびの あうこともがな)

詞書・・病に臥(ふ)せていました頃に、人のもと
    に贈った歌。

意味・・病気も重くなり、私はまもなくこの世を
    去ると思いますが、せめてあの世への思
    い出として、もう一度だけ逢って欲しい

    ものです。

    逢いたい相手は誰か不明です。
    和泉式部は4回結婚をしている。
    初めの夫、橘道貞(みちさだ)と別れると
    為尊(ためたか)親王、その死後、敦道(
    あつみち)親王と結婚。再び親王が死亡
    すると藤原保昌(やすまさ)の嫁になる。
    この歌は比較的若い頃に詠まれたと言わ

    れています。

    病気で弱っている所に好きな人が来てく
    れて、元気を出して!と言ってくれたら
    嬉しいことです。そして生きたいという
    強い希望が病気を早く治してくれる。
    そして和泉式部は4回結婚した。

    参考です

   「愛と死をみつめて」
    http://www.uta-net.com/movie/13082/


 注・・あらざらむ=生きていないであろう。
    この世のほか=「この世」は現世。来世・
     死後の世界。
    もがな=願望を表す助詞。・・であって
     ほしいなあ。

作者・・和泉式部=980頃の生まれ。70歳くらい。
     「和泉式部日記」他。

出典・・後拾遺和和歌集・763、百人一首・56。



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2019年02月21日

217  終にはと 思ふ心の なかりせば けふのくやしさ 生きてあらめや

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終にはと 思ふ心の なかりせば けふのくやしさ
生きてあらめや      
                木下幸文
               
(ついにはと おもうこころの なかりせば きょうの
 くやしさ いきてあらめや)

意味・・終りには必ず成功すると、みずから信じる心が
    もし無かったら、現在の、このみじめな貧乏生
    活のくやしさを辛抱して生きていかれようか。

    「貧窮百首」の連作の一首です。それで、くや
    しさは貧困によるものです。くやしさの具体的
    に詠まれた歌が次の歌です。
   
   「かにかくに疎くぞ人のなりにける貧しきばかり
    悲しきはなし」 (意味は下記参照)

作者・・木下幸文=きのしたたかぶみ。1779~1821。
    香川影樹に和歌を学ぶ。
     
出典・・家集「亮亮遺稿・さやさやいこう」。

参考歌です。

かにかくに 疎くぞ人の 成りにける 貧しきばかり
悲しきはなし      
                  木下幸文 


意味・・何のかんのといっても、友は貧しい私と疎遠に
    なってしまった。なぜか、それは自分が貧窮の
    境涯にあるからである。貧しいほど人間は悲し
    いことはない。友人達さえも遠ざかってしまう
    のだから。
    
 注・・かにかくに=とにかく。

出典・・家集「亮亮遺稿・さやさやいこう」。



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2019年02月20日

・この雪の 消残る時に いざ行かな 山橘の  実の照るも見む

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                 千両

この雪の 消残る時に いざ行かな 山橘の 
実の照るも見む
                 大伴家持
            
(このゆきの けのこるときに いざゆかな やま
 たちばなの みのてるもみん)

意味・・今積もっているこの雪がすっかり消えない内に
    サア行こうよ。そして、薮柑子(やぶこうじ)の
    色づいた真っ赤な実が雪に照り映えるその美し
    さを見ようよ。

    寒さに負けずに、さあ外に出て雪景色を楽しも
    う。春もすぐそこだ。雪は今の内にしか見られ
    ないのだぞ。

 注・・消残る=すっかり消え失せず、少しでも残って
     いる時に。
    山橘=薮柑子(やぶこうじ)。常緑低木。花は白
     く真紅の円い実をつける。千両・万両と同じ。

作者・・大伴家持=718~785。大伴旅人の長男。中納
    言従三位。万葉集に入首歌数は最も多い。

出典・・万葉集・4226。



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2019年02月19日

・去るとても香は留めたり園の梅

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去るとても香は留めたり園の梅   
                    吉田松陰

(さるとても かはとどめたり そののうめ)

意味・・梅園を去った今も、梅の香が服に残っている。
    いい匂いだ。

    松蔭はペルーがやって来た時、米国の見聞を
    広めようとして密航を企てたが、実現せず、
    逆に密出国の罪で同僚の金子重輔とともに罰
    せられ牢に入れられた。同罪であるが金子は
    劣悪な牢に入れられ獄死した。その時の哀悼
    の句です。同罪でなぜ違う罰を受けるのか。
    人間はなぜ人間を差別するのかと苦悩する。

    「香」は功績であり、人間らしさを求めた
    闘魂です。

作者・・吉田松陰=1830~1859。享年30歳。1854年
    ぺりーが来航した時、密航を企て入牢。その後
    出獄して松下村塾を開講。高杉晋作、伊藤博文、
    山形有朋等を育てる。1859年の安政の大獄で
    捕らえられ獄死する。

出典・・童門冬二著「吉田松陰」。 



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2019年02月18日

・ささなみの 志賀の大わだ 淀むとも 昔の人に  またも逢はめやも

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ささなみの 志賀の大わだ 淀むとも 昔の人に 
またも逢はめやも                 
                  柿本人麻呂

(ささなみの しがのおおわだ よどむとも むかしの
 ひとに またもあわめやも)

詞書・・近江の荒れたる都を過ぐる時作った歌。 

意味・・志賀の大きな入江の水は昔のように充ちて
    人を待っているが、たとえこのように充ち
    ていても、昔の大津の宮の人々に再び会
    ことがあろうか、いやあるまい。

    志賀の大わだの淀む所で大宮人が舟遊びを
    していたことを、旧都の大宮人を待つ風情
    にみたて、そこに作者の旧都を懐かしむ心
    情を託し同時に、その不可能性に悲しみを
    感じている。

 注・・ささなみ=楽浪。琵琶湖中南部沿岸地方
     古名。
   志賀の大わだ=今の大津湾。
   大わだ=湾曲して水の淀む所で舟遊びの適所。
   淀む=流れる水がたまりとどこおる。水
    ちる。
   淀むとも=現在淀んで(充ちて)いるが、たと
    えこのように淀んで(人を待って)いても。
     昔の人=昔ここに舟を浮かべて遊んだ大宮人。
   近江の荒れたる都=近江にある荒れはてた旧
    都。666年に大和から近江に遷都されたが
    672年の壬申の乱で兵火に焼かれ荒廃した。

作者・・柿本人麻呂=かきのもとひとまろ。生没年
    未詳。710年頃死亡。

出典・・万葉集・31。



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2019年02月17日

・灯の 影にて見ると 思ふ間に 文のうへしろく  夜は明けにけり

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灯の 影にて見ると 思ふ間に 文のうへしろく 
夜は明けにけり
               香川景樹

(ともしびの かげにてみると おもうまに ふみの
  うえしろく よはあけにけり)

意味・・灯の光によって書物を読んでいると思っている
    うちに、書物の上が夜明けの光で明るくなって、
    いつの間にか夜が明けてしまったことだ。

    読書に熱中しているうちに、思わず夜明しをし
    てしまった。時の経過も忘れる読書の楽しさ。
    明けの光に照らし出された書物の白さに気づ
    いた驚きを詠んでいます。
    
 注・・影=明かり。
 
作者・・ 香川景樹=かがわかげき。1768~1843。
 
出典・・家集「桂園一枝」(井上宗雄篇「和歌の解釈と鑑賞辞
    典」)



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2019年02月16日

・一瀬には 千遍障らひ 逝く水の 後にもあはむ 今ならずとも

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一瀬には 千遍障らひ 逝く水の 後にもあはむ
今ならずとも
                大伴像見

(ひとせには ちたびさわらい ゆくみずの あとにも
 あわん いまならずとも)

意味・・一つの瀬で千遍も妨げられては砕け散って流れ
    行く水がやがて一つになるように、先々ではお
    逢いしましよう。今でなくても。

    お互いの事情で中々会えないが、障害を乗り越
    えていつかきっと逢って恋を成就させたいとい
    う願いを詠んでいます。

 瀬=渕に対して流れの浅いところ。

作者・・大伴像見=おおともかたみ。生没年未詳。772
    年従五位上になる。

出典・・万葉集・699。



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2019年02月15日

・夜ならば 月とぞ見まし 我がやどの 庭白妙に 降り積もる雪

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夜ならば 月とぞ見まし 我がやどの 庭白妙に
降り積もる雪
                  詠み人知らず
        
(よるならば つきとぞみまし わがやどの にわしろ
 たえに ふりつもるゆき)

意味・・夜であれば月の光だと思って見るだろう。
    我が家の庭を真っ白にして降り積もって
    いる雪は。
 
    屏風画に描いた歌です。
    雪でほんのりと明るく見える夜の庭を、月
    の光と見立てて詠んだもので、画では描き
    出せないものを和歌で表現しています。

    雪景色ではあるが、夜になると月光が出て
    いるようにほのかな気持ちにさせられるで
    しょう。
 
出典・・後撰和歌集・496。



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2019年02月14日

・年を経て 変らぬ梅の 匂ひにも なほいにしえの 春ぞ恋しき

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年を経て 変らぬ梅の 匂ひにも なほいにしえの
春ぞ恋しき
                散逸物語

(としをへて かわらぬうめの においにも なお
 いにしえの はるぞこいしき)

意味・・何年も過ぎても変らぬ梅のよい香りが
    ただよっているが、やはり好きな人と、
    かって一緒に見た昔の春の梅が恋しく
    思われてくる。

注・・散逸物語=散らばって今では無い昔の
    物語。

出典・・風葉和歌集・41。



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2019年02月13日

・この世には またもあふまじ 梅の花 ちりぢりならむ ことぞかなしき

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この世には またもあふまじ 梅の花 ちりぢりならむ
ことぞかなしき   
                  行尊

(このよには またあうまじ うめのはな ちりぢりならん
ことぞかなしき)

意味・・この世ではもう再び見ることはあるまい。
    そんな梅の花が散り果ててしまうのが悲しい。

    大病になり死が近づいた時、梅の花を見て弟子
    たちに詠んだ歌です。
    弟子たちが自分の死後に散り散りに分かれてし
    まうのを悲しんだもの。

 注・・ちりぢり=花が散る意に、弟子たちが散り散りに
     別れる意を掛ける。

作者・・行尊=ぎょうそん。平等院大僧正。1055~1135。

出典・・詞花和歌集・363。 



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2019年02月12日

・荒磯の 岩にくだくる 浪なれや つれなき人に  かくる心は

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荒磯の 岩にくだくる 浪なれや つれなき人に 
かくる心は
                待賢門院堀河

(あらいその いわにくだくる なみなれや つれなき
 ひとに かくるこころは)

意味・・薄情な人に懸ける恋心は荒磯の岩に砕ける
    浪であろうか。その岩のように相手の心は
    少しも動じない。私の心だけが波のように
    打ち砕けてしまう。

作者・・待賢門院堀河=たいけんもんいんのほりかわ。
    生没年未詳。1142年頃活躍した女流歌人。

出典・・千載和歌集・653。



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2019年02月11日

・小夜ふくる ままに汀や凍るらむ 遠ざかりゆく 滋賀の浦波

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小夜ふくる ままに汀や凍るらむ 遠ざかりゆく
滋賀の浦波
                快覚法師

(さよふくる ままにみぎわや こおるらん とおざ
 かりゆく しがのうらなみ)

意味・・夜が更けるにつれて波打ち際が凍って行くの
    だろうか。滋賀の浦の波の音がしだいに遠ざ
    かって聞こえて来るのは。

 注・・ままに=・・につれて。
    滋賀の浦=琵琶湖の西岸。

作者・・快覚法師=かいかくほうし。生没年未詳。

出典・・後拾遺和歌集 ・419。



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2019年02月10日

・夕されば 衣手さむし みよしのの 吉野の山に み雪降るらし

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夕されば 衣手さむし みよしのの 吉野の山に
み雪降るらし           
                 詠み人しらず

(ゆうされば ころもてさむし みよしのの よしのの
 やまに みゆきふるらし)

意味・・夕方になったので、袖の中まで寒さを感じる。
    吉野の山には雪が降っているに違いない。

    吉野は特に山が深いので、今夜の寒さでは多分
    雪になっているだろう、という事を詠んでいま
    す。

 注・・夕されば=夕方になったので。
    衣手=袖のこと。
    みよしのの=「吉野」 にかかる枕詞。音調を
     整えている。

出典・古今和歌集・317。



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2019年02月09日

・ますらをの さつ矢手鋏み 立ち向ひ 射る円方は  見るにさやけし

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ますらをの さつ矢手鋏み 立ち向ひ 射る円方は 
見るにさやけし      
                  舎人娘子

(ますらおの さつやたばさみ たちむかい いる
 まとかたは みるにさやけし)

意味・・ますらおが矢を挟み持ち、立ち向かって射る
    的、その名の円方(まとかた)浜は見るからに
    清々しいことだ。

    礼儀正しく緊張感を持って的を射ている姿は、
    見る目からすると清々しい。円方浜はその様な
    的をイメージをさせてくれる風土として詠んで
    います。

 注・・ますらを=立派な男子。
    さつ矢=猟矢。「さつ」は「幸」獲物のこと。
      狩猟に用いる矢、矢をほめていう。
    円方(まとかた)=三重県松阪市の東部。「的」
      を掛ける。
    さやけし=清く澄んでいるさま、さわやかだ。

作者・・舎人娘子=とねりのむすめ。伝未詳。
 
出典・・万葉集・61。



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2019年02月08日

・梅若菜まりこの宿のとろろ汁

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1、 梅若菜まりこの宿のとろろ汁       芭蕉

2、 梅さいてまりこへ売れるつくね芋     佃

  (うめわかな まりこのしゅくの とろろじる)
  (うめさいて まりこへうれる つくねいも)

1、 意味・・我々の目の前には梅が咲き、若菜も萌えて
        いる。道中でも、早春のそんな光景が目を
        楽しませてくれるであろう。そして駿河の
        鞠子(まりこ)の宿では、名物のとろろ汁に
        もありつくことが出来るであろう。無事の
        旅を祈っている。

       乙州(おとくに)が江戸に出立する餞別とし
       て詠んだ句です。

2、 意味・・梅の咲く頃になると人々は芭蕉の「梅若菜
       まりこの宿のとろろ汁」の句を思い出して
       道中、鞠子の宿では、必ずとろろ汁を食べ
       るであろうから、さぞかし、とろろ汁の材
       料である「つくね芋」がよく売れるであろ
                   う。

       芭蕉の句を茶化しています。

    注・・まりこの宿=鞠子の宿。東海道の宿駅(静岡
        市丸子)。とろろ汁が名物。
       つくね芋=やま芋の一種。塊茎(かいはい)は
        手のひら状をしている。
 
作者・・芭蕉=ばしょう。松尾芭蕉。1644~1694。
    佃=つくだ。伝未詳。江戸時代の川柳作家。

出典・・複本一郎著「俳句と川柳の楽しみ方」。



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2019年02月07日

・あづまのの けぶりの立てる 所みて かへり見すれば 月かたぶきぬ

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あづまのの けぶりの立てる 所みて かへり見すれば
月かたぶきぬ
                  柿本人麻呂
            
(あずまのの けぶりのたてる ところみて かえり
 みすれば つきかたぶきぬ)

意味・・東の方の野に、朝の煙の立っている所を望み
    見て、振り返って見ると、月は西に傾いている。

    人麻呂が軽皇子(かるのみこ)のお供をして案
    騎野(あきの)に来た折、かって皇子の父君で 
    ある草壁皇子の狩のお供をして案騎野に来た
    時のことを回想し、草壁皇子に対する追憶と
    憂愁とを詠んだ歌です。

    炊飯の煙を見て、民の生活が安定している事
    に安心し、振り返ってみると、これは草壁の
    皇子の思いやりのある政治の賜物だと回想し
    ています。

    原歌は、「東野炎立所見而反見為者月西渡」
    です。
    賀茂真淵は「ひんがしの野にかぎろひ立つ見
    えてかへり見すれば月傾きぬ」と訓んでいま
    す。 (意味は下記参照)

 注・・けぶりの立てる=朝餉の炊飯の煙。煙が立つ
     事は生活が安定している事を暗示している。
    かへりみすれば=「後ろを振り返る」と「過
     去を回顧する」の意を掛ける。
    軽皇子=42代文武天皇。草壁皇子の子。
    案騎野=奈良県宇陀郡大宇陀のあたり。

作者・・柿本人麻呂=生没年未詳。万葉時代の最大の
    歌人。
 
出典・・玉葉和歌集・1124。

参考歌です。

東の 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 
月傾きぬ
                 柿本人麻呂
            
(ひんがしの のにかぎろいの たつみえて かえりみ
 すれば つきかたぶきぬ) 
    
意味・・東側の野には曙の光が美しく射し染めているのが見える、
    後を振返って見ると、西の空には月が傾いて没しよう
    としている。
   (東の方を眺めると炊飯の煙があちこちと立っている。
    これは民の生活が安泰していることだなぁ。
    振返って昔を思うと、親の草壁皇子が民に軸足を置いた
    政治が行われた賜物だ。憂愁を感じさせられるものだ)

    この歌は、軽皇子(かるのみこ)が安騎(あき)の野(奈良
    県宇陀郡)の旅に人麻呂がお伴した時、親の草壁皇子と
    この地に同伴した時を懐旧して詠んだものです。

注・・かぎろひ=炎、曙の光、朝餉の煙。
    かへり見すれば=「後を振返る」と「昔を振返る」を掛
    ける。
 
出典・・万葉集・48。



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2019年02月06日

・うちきらし さえし雪げに たち変わり のどかにかすむ 春の空かな

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うちきらし さえし雪げに たち変わり のどかにかすむ
春の空かな
                   散逸物語

(うちきらし さえしゆきげに たちかわり のどかにかすむ
 はるのそらかな)

意味・・一面に曇り冷え込んだ雪模様とは打って変って、
    今日はのどかに霞む春空だ。

    病気の治癒、失敗の後の成功、失恋のあとに恋人が
    現れる・・。こんな時の嬉しい気持を詠んでいます。

注・・うちきらし=打ち霧らす、雪や霧などが空を曇らす。
   さえし=冴えし、ひどく冷え込む。

出典・・樋口芳麻呂著「王朝物語秀歌選」。



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2019年02月05日

・梅の花 それとも見えず 久方の 天霧る雪の  なべて降れれば

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梅の花 それとも見えず 久方の 天霧る雪の 
なべて降れれば     
                柿本人麻呂

(うめのはな それともみえず ひさかたの あまぎる
 ゆきの なべてふれれば)

意味・・これではどれが梅の花だか区別がつかない。
    空を霧のようにかき曇らせる雪が一面に降っ
    ているので。

    寒さの中の厳しさにも耐えて美しい花を咲か
    せている白梅。だが枝に雪が積もり花がどれ
    だか分らない。     

 注・・それとも見えず=どれであるのか区別がつか
     ない。
    久方=天・日・月・雨などの枕詞。
    天霧る=天が一面に霧りわたる。
            なべて=一面に。
    なべて降れれば=一面に降り積もってている
    ので。

作者・・柿本人麻呂=生没年未詳。710年頃没。
    万葉集を代表する歌人。

出典・・古今和歌集・334。



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2019年02月04日

・袖ひちて むすびし水の こほれるを 春立つけふの 風やとくらむ

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袖ひちて むすびし水の こほれるを 春立つけふの
風やとくらむ        
                  紀貫之


(そでひちて むすびしみずの こおれるを はるたつ
 けふの かぜやとくらん)

意味・・暑かった夏の日、袖の濡れるのもいとわず、
    手にすくって楽しんだ山の清水、それが寒さ
    で凍っていたのを、立春の今日の暖かい風が、
    今頃は解かしているだろうか。

 注・・ひちて=漬ちて。侵って、水につかって。

作者・・紀貫之=872年生。土佐守。古今和歌集の撰
    者。

出典・・古今和歌集・2。



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2019年02月03日

・見ればただ なんの苦もなき 水鳥の 足に暇なき 我が思いかな

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見ればただ なんの苦もなき 水鳥の 足に暇なき
我が思いかな
                  水戸光圀

(みればただ なんのくもなき みずとりの あしに
 ひまなき わがおもいかな)

意味・・一見すれば、水に浮かぶ鳥はなんの苦もないように
    泳いでいる。それと同じように、他人から見ればの
    んきそうに見えるけど、自分は大変なのだ。

    水鳥はスイスイと水面に浮いているように思える。
    でも、水面下では足をひっきりなしに動かして、見
    えない所で苦労している。
    他人のやっている事は、気楽で簡単にそうに見える。
    しかし自分でやって見ると、以外に簡単にいかない
    のが常。自分が同じ事を行う時に初めてその大変さ
    が分かる。

作者・・水戸光圀=みとみつくに。1628~1700。徳川家康
    の孫。第五代将軍徳川綱吉の長老として幕政に影響
    力を持つ。



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2019年02月02日

・うづみ火の あたりは春の ここちして ちりくる雪を 花とこそ見れ

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うづみ火の あたりは春の ここちして ちりくる雪を
花とこそ見れ         
                   素意法師

(うずみびの あたりははるの ここちして ちりくる
 ゆきを はなとこそみれ)

意味・・灰の中にいけてある炭火のあたりは暖かくて 
    春のような気持ちがして、散ってくる雪を花
    のようにながめていることだ。

 注・・うづみ火=埋火。火鉢の灰の中にいけてある
     炭火。

作者・・素意法師=そいほうし。生没年未詳。紀伊守・
    従五位となったが出家した。
 
出典・・後拾遺和歌集・402 



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2019年02月01日

・夜を寒み 朝戸を開き 出で見れば 庭もはだらに み雪降りたり

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夜を寒み 朝戸を開き 出で見れば 庭もはだらに
み雪降りたり           
                 詠み人知らず

(よをさむみ あさとをひらき いでみれば にわも
 はだらに みゆきふりたり)

意味・・昨夜は寒かったが、朝、戸をあけて外へ
    出て見ると、何と庭一面まだらに雪が降
    り積もっている。

 注・・はだら=斑。雪や霜がまだらに降ったさま。
 
出典・・万葉集・・2318。 



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