2019年10月

2019年10月31日

ぬししらで 紅葉はおらじ 白浪の 立田の山の おなじ名もうし

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                                               薄の白波

ぬししらで 紅葉はおらじ 白浪の 立田の山の
おなじ名もうし     
                 藤原為家

(ぬししらで もみじはおらで しらなみの たつたの
 やまの おなじなもうし)

意味・・持ち主の分からない立田の紅葉を折り取る事は
    すまい。白波の立つ立田山の、その白波が意味
    する盗人という汚名を受けるのもいやだから。

 注・・白浪=盗賊のこと。後漢の末、黄巾賊が西河の
     白波谷に隠れて略奪を働いたのを、時の人が
     「白波賊」と呼んだ故事から、白波は盗賊を
     意味するようになった。白波は薄が風で揺れ
     て白波に見えるさま。
    立田山=奈良県生駒群斑鳩(いかるが)町立田。
     立田の紅葉が川面に散り敷く紅葉の名所。

作者・・藤原為家=ふじわらのためいえ。1198~1275。
    続後撰和歌集の撰者。

出典・・岩波書店「中世和歌集・鎌倉篇」。


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2019年10月30日

 植えしとき 花まちどほに ありし菊 移ろふ秋に あはむとや見し

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植えしとき 花まちどほに ありし菊 移ろふ秋に
あはむとや見し         
                  大江千里

(うえしとき はなまちどおに ありしきく うつろう
 あきに あわんとやみし)

意味・・かって植えた時には、花の咲くのが待ち遠しくて
    しかたがなかった菊であるが、それがしだいに成
    長し花が咲き色が変わりかける事が、こんなに早
    く実現しょうとは誰が思った事であろうか。    

    植えた菊が花を咲かせ、枯れて行く月日の経過が
    早いのに驚いています。

 注・・花まちどほに=花が咲くのが待ち遠しい。
    移ろふ秋=青葉が黄葉となり枯れて落葉となって
     ゆく秋。
    あはむとや見し=会うと思ったであろうか、いや
         そうとは思えない。「や」は反語。

作者・・大江千里= おおえのちさと。生没年未詳。901年

    中務小丞。


出典・・古今和歌集・271。


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2019年10月29日

霧たちて 雁ぞ鳴くなる 片岡の 朝の原は  もみじしぬらむ

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霧たちて 雁ぞ鳴くなる 片岡の 朝の原は 
もみじしぬらむ             
                詠み人知らず

(きりたちて かりぞなくなる かたおかの あしたの
 はらは もみじしぬらん)

意味・・空には霧がたちこめ、雁の鳴き声が聞こえてくる。
    秋も深くなったから、片岡の朝の原の木々はきれい
    に紅葉したことだろう。

      晩秋の自然をとらえた歌です。

 注・・片岡=奈良県葛城郡王寺町。
      朝の原=場所不明。
 
出典・・古今和歌集・252。


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2019年10月28日

山城の 石田の森の いはずとも こころのうちを 照らせ月かげ

1133


山城の 石田の森の いはずとも こころのうちを
照らせ月かげ 
   
                       
藤原輔尹
(やましろの いわたのもりの いわずとも こころの
 うちを てらせつきかげ)
意味・・山城の石田の神社の森を照らす月は、何も言わ
    ないでも、私の心の中を照らし出して欲しい。
    その月明かりよ。
    誰か私の悩み事を聞いてくれないだろうか。

 
   山城の守(かみ)になって嘆いている時、月が輝
    いている頃、いかがですかと問われて詠んだ歌
    です。
    中世の山城国は戦乱が繰り返される中、「宮座」
    という自治組織が生まれ集団で農事や神事また
    一揆にあたっていた。
    そのため、山城は治めにくい国といわれた。
    輔尹はその後1006年に山城国を辞任した。

 注・・山城=京都府の南部一帯。
    石田の森=山城国の歌枕。神社があった。
    「いはたの森」の同音で「いはず」を導く。

作者・・藤原輔尹・・ふじわらのすけただ。生没年未詳。
    山城守・大和守。従四位下。
 
出典・・詞花和歌集・304。


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2019年10月27日

みなれ棹 とらでぞくだす 高瀬舟 月の光の さすにまかせて

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みなれ棹 とらでぞくだす 高瀬舟 月の光の
さすにまかせて      
                 源師賢
               
(みなれざお とらでぞくだす たかせぶね つきの
 ひかりの さすにまかせて)

詞書・・「船中の月」という題で詠みました歌。

意味・・月の光のさすのに任せて、みなれ棹を取ら
    ないで高瀬舟を川下に下している。

 注・・みなれ棹=水馴れ棹。水にひたし使い慣れ
     た棹。棹は舟を漕ぐ時に用いる棒。
    くだす=下す。舟を川下にくだすこと。
    高瀬舟=底は平たくて浅い舟。
    さすに=「光が差す」と「棹をさす」の掛詞。

作者・・源師賢=みなもとのもろかた1035~1081。
    蔵人頭、正四位下。

出典・・後拾遺和歌集・836。


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2019年10月26日

われの眼の つひに見るなき 世はありて 昼のもなかを 白萩の散る

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われの眼の つひに見るなき 世はありて 昼のもなかを
白萩の散る
                            明石海人
 
(われのめの ついにみるなき よはありて ひるの
 もなかを しろはぎのちる)

意味・・私の眼にはもはや見ることも出来ない世界が
    周囲に広がっている。私のたたずむ秋の真昼
    もそうだ。しかしそんなこととは関わりなく、
    私の眼の中では白萩が散っていることだ。

    作者は27歳でハンセン病となり、35歳頃から
    視力が不自由になる。ほとんど視力を失った
    頃に詠んだ歌です。

    健やかだった頃の眼に刻み込まれた白萩の美
    しい幻想が、作者の脳裏に今鮮やかによみが
    がえってくる。それが失明によって世界と隔
    離されてしまった悲しみを詠んでだ歌です。

 注・・白萩=豆科の植物。萩は豆のような赤紫色の
     蝶形花であるが、白萩は白色の花を咲かす。
     秋の七草のひとつ。
    
作者・・明石海人=あかしかいじん。1901~1939。
    ハンセン病のため瀬戸内海の長島愛生園で一
    生を過ごす。歌集「白描」。

出典・・歌集[白描」(「荒波力著「よみがえる万葉歌人・
        明石海人」)


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2019年10月25日

家ありや 芒の中の 夕けむり

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家ありや 芒の中の 夕けむり  
                  童門冬二

(いえありや すすきのなかの ゆうけむり)

意味・・家の周りは通常、田や畑であって作物が
    育っているはずなのだが、ここは薄に被
    われて生活をしていることだ。

    作句の動機、状況。
    貧困の部落のため、堤の修理もままなら
    ず、そのために毎年水害が発生するよう
    になった。その結果投げやりになって本
    業をやめて、遊びや博打も含めて他の余
    業に精を出すようになった。その結果、
    田や畑は薄や茅(かや)が茂るようになっ
    だ。村人の心に薄が生い茂っているのだ。
    心の中の薄や茅を刈り取らねばと言った
    ものです。
       
 注・・夕けむり=夕煙、夕食の炊飯の煙。
 
作者・・童門冬二=どうもんふゆじ。1927~ 。
    東海大学付属中学卒。歴史小説家。
 
出典・・童門冬二著「小説・内藤丈草」。 


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2019年10月24日

 露と落ち 露と消えにし わが身かな なにはのことも 夢のまた夢

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露と落ち 露と消えにし わが身かな なにはのことも
夢のまた夢                
                  豊臣秀吉
            
(つゆとおち つゆときえにし わがみかな なにわの
 ことも ゆめのまたゆめ)

意味・・露のようにこの世に身を置き、露のように
    この世から消えてしまうわが身である。

      大阪難波に城を築き栄華を誇ったことも、
    さまざまな何事もすべて夢の中の夢である。

    死の近いのを感じた折に詠んだもので結果

    的には辞世の歌となっています。    

 注・・なにはのこと=難波における秀吉の事業、また
    その栄華の意と「何は(さまざま)のこと」を
    掛けています。

作者・・豊臣秀吉=とよとみひでよし。1536~1598。

    木下藤吉朗と称し織田信長に仕える。信長の死
    後明智光秀を討ち天下を統一する。難波に大阪
    城を築く。

出典・・詠草(笠間書院「和歌の解釈と鑑賞辞典」) 



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2019年10月23日

かにかくに 物は思はじ 朝露の 我が身一つは 君がまにまに

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かにかくに 物は思はじ 朝露の 我が身一つは
君がまにまに            
                詠人しらず

(かにかくに ものはおもわじ あさつゆの わがみ
 ひとつは きみがまにまに)

意味・・ああだこうだと、もう物思いはしますまい。
    朝露のように、はかない私の命は、あなた
    まかせでございます。

    あれやこれやと思い悩む事を止めて、結論を
    あなたにまかせる。朝露のようにはかない命
    になるかどうかはあなた次第です。

 注・・かにかくに=あれこれと、いろいろ。
    朝露の我が身一つ=朝露のようにはかない
     私の命。消え入りそうな私の身。元気が
     なく気が滅入りそうな私。ふさぎ込む身。

出典・・万葉集・2691。


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2019年10月22日

なけやなけ よもぎが杣の きりぎりす すぎゆく秋は げにぞ悲しき

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なけやなけ よもぎが杣の きりぎりす すぎゆく秋は
げにぞ悲しき
                   曾禰好忠
             
(なけやなけ よもぎがそまの きりぎりす すぎゆく
 あきは げにぞかなしき)

意味・・さあ、思う存分に鳴けよ。蓬が杣のきりぎりすよ。
    過ぎ去ってゆく秋というものは、しんそこ悲しい
    のだから、私も泣くからお前も鳴けよ。

 注・・よもぎが杣=蓬が杣。蓬が生い茂って杣山のように
     なっている所。「杣」は「杣山」のことで、植林
     した木を切り出す山の意。小さいきりぎりすから
     見て蓬を杣山に見立てたもの。
    きりぎりす=今のコオロギのこと。

作者・・曾禰好忠=そねのよしただ。生没年未詳。985年頃
    曾禰好忠

出典・・後拾遺和歌集・273。


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2019年10月21日

菊の香やならには古き仏達

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菊の香やならには古き仏達   
                    芭蕉

(きくのかや ならにはふるき ほとけたち)

意味・・昨日から古都奈良に来て、古い仏像を拝んで
    まわった。おりしも今日は重陽(ちょうよう)
    で、菊の節句日である。家々には菊が飾られ
    町は菊の香りに満ちている。奥床しい古都の
    奈良よ。慕(した)わしい古い仏達よ。

    重陽の日(菊の節句・陰暦9月9日)に奈良で詠
    んだ句です。菊の香と奈良の古仏の優雅さと
    上品さを詠んでいます。

作者・・松尾芭蕉=1644~1694。「奥の細道」、
   「笈(おい)の小文」など。
 
出典・・小学館「日本古典文学全集・松尾芭蕉集」。


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2019年10月20日

帰り来て 見むと思ひし 我がやどの 秋萩すすき 散りにけむかも

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帰り来て 見むと思ひし 我がやどの 秋萩すすき
散りにけむかも
                  秦田麻呂 

(かえりきて みんとおもいし わがやどの あきはぎ
 すすき ちりにけんかも)

詞書・・遣新羅使人(けんしらぎしじん)が佐賀県の唐津
    市から壱岐の島に向かう時、玄海の荒海を見て
    詠んだ歌。

意味・・都に帰りついて見る事が出来るだろうと思って
    いた、我が家の秋萩やすすき、あの花々はもう
    散ってしまっただろうか。

    順調に旅が進んでいたら、今は都に帰りついて
    見る事が出来たはずの秋萩やすすき。だが、
    対馬で病気が蔓延し遣新羅使の中にも病気にか
    かる人が出て旅が遅れていた。その不安を詠ん
    だものです。

 注・・新羅(しらぎ)=韓国東南部にあった国。736年
     6月に遣新羅使が出発。
    帰り来て=帰京した立場に身を置いての言い方。
    散りにけむかも=秋も半ばを過ぎた事を嘆く言
     葉。「に」は完了の助動詞。

作者・・秦田麻呂=はだのたまろ。生没年未詳。736年
     遣新羅使となる。

出典・・万葉集・3681。


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2019年10月19日

あしびきの 山田の案山子 汝さへも 穂拾ふ鳥を 守るてふものを

1218


あしびきの 山田の案山子 汝さへも 穂拾ふ鳥を
守るてふものを
                  良寛

(あしびきの やまだのかかし なれさえも ほひろう
 とりを もるちょうものを)

意味・・狭い山間(やまあい)の田の案山子よ、お前までも穂を
    ついばむ鳥から稲を守るというのに、私は人々の役に
    立つ事が出来ないで情けないことだなあ。

    会社勤めも人々の役に立っています。

 注・・あしびき=山の枕詞。
    てふ=という。

作者・・良寛=りょうかん。1758~1831。

出典・・谷川敏朗著「良寛全歌集」。


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2019年10月18日

吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を  嵐といふらむ

         1322


吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 
嵐といふらむ         
                  文屋康秀

(ふくからに あきのくさきの しおるれば むべやま
 かぜを あらしというらん)

意味・・吹くとすぐに、秋の草も木もたわみ傷つくので、
    なるほど、それで山から吹き降ろす風を「荒し」
    と言い、「嵐」とかくのだろう。

    実景としては、野山を吹きまくって草木を枯らし
    つくす晩秋の風景を詠んだものです。
    山と風の二字を合わせて「嵐」になるという文字
    遊びにもなっています。

    二字を合わせて文字にした歌、参考です。

    雪降れば 木毎に花ぞ 咲きにける いづれを梅と
    わきて折らまし    (意味は下記参照)
  
 注・・しをるれば=しぼみ、たわみ傷つくので。
    むべ=なるほど。 
    嵐=荒々しいの「荒し」を掛けている。

作者・・文屋康秀=ぶんやのやすひで。生没年未詳。890
    年頃の人。六歌仙の一人。

出典・・古今和歌集・249、百人一首・22。
  
参考歌です。

雪降れば 木毎に花ぞ 咲きにける いづれを梅と 
わきて折らまし          
                 紀友則

(ゆきふれば きごとにはなぞ さきにける いずれを
 うめと わきておらまし)

意味・・雪が降ったので、木毎(きごと)に花が真っ白に
    咲いた。「木毎」と言えば「梅」のことになる
    が、さて庭に下りて花を折るとすれば、この積
    雪の中から、どれを花だと区別して折ればいい
    のだろう。

作者・・紀友則=きのとものり。貫之とは従兄弟にあた
      る。古今集の撰者であったが途中
で没した。

出典・・古今和歌集・337。


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2019年10月17日

心ありて もるとなけれど 小山田の いたづらならぬ かかしなりけり

1404


 心ありて もるとなけれど 小山田の いたづらならぬ
かかしなりけり
                  仏国法師
 
(こころありて もるとなけれど おやまだの いたずら
 ならぬ かかしなりけり)
 
意味・・山間の小さな田に、心があってその田を守って
    いるわけではない案山子であるが、決して無益
    でなく、無駄ではないのだ。
 
    案山子は蓑や笠を付け弓矢を持って、何も思わ
    ずただ立っているだけで、無駄のように見られ
    るが、それなりに鳥や獣を追い払うという役目
    を果たして いる。
 
    心はそのどこにも囚われず、無心になってい
    る案山子のようになりたいと詠んだ歌です。
    胸の中を空っぽにして執着心のない心にして
    おくことが大切である、と。

    私たちはいつも何かが心に引っ掛かっている。
    大したことではなく、他人から見れば何でもな
    いことが、その人にとっては大きく胸に残る。
    そしてそのことで苦しむことがある。

    例えば人から注意されると不愉快さが後まで残
    ることがある。    
    どんなことでも胸にとどめない、執着しないこ
    とが大切であるのだが、難しいものである。
 
 注・・いたづら=役に立たない、無益だ。
 
作者・・仏国法師=1241~1316。後嵯峨天皇の皇子。
    臨済宗の僧。
 
出典・・不動智神抄録(鎌田茂雄著「心と身体の鍛錬法」)


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2019年10月16日

はれずのみ 物ぞ悲しき 秋霧は こころのうちに 立つにやあるらん

1280


はれずのみ 物ぞ悲しき 秋霧は こころのうちに
立つにやあるらん      
                和泉式部

(はれずのみ ものぞかなしき あきぎりは こころの
 うちに たつにやあらん)

意味・・ただもう心がうっとうしくて物事を悲しく
    思うばかり。秋霧は外ばかりでなく私の心
    の中にも立つゆえであろうか。
 
    何をしてもポカばかりして、事が運ばない。
    こんな気分の時の歌です。

 注・・はれずのみ=晴れずのみ。心の晴れる事なく。
    物ぞかなしき=物事を悲しく思う。

作者・・和泉式部=いずみしきぶ。生没年未詳、980
    年頃の生まれ。「和泉式部日記」など。
 
出典・・後拾遺和歌集・293。
 

 

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2019年10月15日

ありしにも あらずなりゆく 世の中に かはらぬものは 秋の夜の月

1296



ありしにも あらずなりゆく 世の中に かはらぬものは
秋の夜の月           
                   明快

(ありしにも あらずなりゆく よのなかに かわらぬ
 ものは あきのよのつき)

意味・・昔のようでは無くなってゆくこの世の中で、
    変わらないものは秋の夜の月だけだ。

    自分の姿や世間の様子が昔と変わって行く
    中で、月の美しさだけは昔と変わらない羨
    ましさ、世の無常さを詠んでいます。

 注・・ありし=以前の。昔の。
    無常=全ての物が生滅変転して留まらない事。

作者・・明快=みょうかい。986~1070。 天台座主。


出典・・詞花和歌集・98。


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2019年10月14日

秋萩に 置きたる露の 風吹きて 落つる涙は 留めかねつも

1303


秋萩に 置きたる露の 風吹きて 落つる涙は
留めかねつも     
                山口女王

(あきはぎに おきたるつゆの かぜふきて おつる
 なみだは とどめかねつも)

詞書・・大伴家持に贈った歌。

意味・・萩の花に宿っている露が風に散るように、
    私があなた恋しさに流す涙は、はらはらと
    こぼれ落ちて留めることが出来ません。
    
    悲恋の涙を玉の露のように美しく詠んだ歌
    です。

作者・・山口女王=やまぐちのおおきみ。伝未詳。

万葉集・・1617。


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2019年10月13日

三日月の また有明に なりぬるや うきよにめぐる ためしなるらん

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三日月の また有明に なりぬるや うきよにめぐる
ためしなるらん    
                 藤原教長

(みかづきの またありあけに なりぬるや うきよに
 めぐる ためしなるらん)

意味・・三日月が再び有明月となったが、こうして
    夜々に廻り廻る月が、人が憂き世に輪廻す
    る証しなのだろうか。


    人の世の栄落を月の満ち欠けに譬えている。

    栄えていても油断していると落ちぶれるし、
    落ちぶれていても努力精進していればまた

    栄えるものだ、と詠んでいます。

 注・・有明=夜明け近くまで出ている月。
    うきよ=憂き世。つらい世の中。
    めぐる=廻る。月が空を廻るの意と、人の
     生き続ける意を掛ける。輪廻する。
    ためし=試し。証拠、手本。

作者・・藤原教長=ふじわらののりなが。1109~ 。

    参議正四位下。保元の乱で常陸(むつ)に配
    流された。

出典・・詞花和歌集・351。

 



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2019年10月11日

大比叡の 峰に夕いる 白雲の さびしき秋に なりにけるかな

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大比叡の 峰に夕いる 白雲の さびしき秋に
なりにけるかな
               八田知紀
 
(おおひえの みねにゆういる しらくもの さびしき
 あきに なりにけるかな)

意味・・比叡の峰に夕暮れ時にかかっている白雲が寂
    しく感じられる秋に、もうなったものだなあ。

    夏雲が秋雲と変わった様子を見て、秋のおと
    ずれを感じ、また、冬が近づく事を寂しく思
    って詠んでいます。

 注・・大比叡=比叡山。滋賀県大津市と京都市にま
     たがる848mの山。延暦寺の根本中堂が有名。

作者・・八田知紀=はったとものり。1799~1873。
    幕末の鹿児島藩士。香川景樹に師事。
 
出典・・家集「しのぶ草」。


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2019年10月10日

おきあかし 見つつながむる 萩のうへの 露吹きみだる 秋の夜の風

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おきあかし 見つつながむる 萩のうへの 露吹きみだる
秋の夜の風         
                    伊勢大輔

(おきあかし みつつながむる はぎのうえの つゆ
 ふきみだる あきのよのかぜ)

詞書・・物を思うことがあった時分、萩を見て詠
    んだ歌。

意味・・眠れず起きて夜を明かし、外を見ながら、
    しみじみと物思いをしていると、萩の上
    の露に吹き乱れている秋の夜の風は。

    物思いとは、作者の下の娘が家出した事
    といわれている。
    萩の上の露の一点に目をやり、もの思い
    をしている様子です。作者の心は萩の露
    (涙)となっている。
    
 注・・おきあかし=起き明かし、寝ないで居明
     かす。
    見つつながむる=見ながら物思いに沈む。
    吹きみだる=風がさかんに吹いている。

作者・・伊勢大輔=いせのだいふ。生没年未詳。
    筑前守高階成順の妻。中古三十六歌仙の
    一人。
 
出典・・後拾遺和歌集・295。 


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2019年10月08日

白川の 関屋を月の もる影は 人の心を 留むるなりけり

1254 (2)
 

白川の 関屋を月の もる影は 人の心を
留むるなりけり        
               西行

(しらかわの せきやをつきの もるかげは ひとの
 こころを とむるなりけり)

意味・・白川の関守の住む家に漏れ入る月の光は
    能因法師の昔を思い出させ、旅人の心を
    ひきとめて立ち去り難くさせることだ。

    詞書によれば、白河の関に旅をした時、
    月が美しく照っていたので、能因法師を
    思い出され、関守の住む家の柱に書き付
    けた歌です。

    能因法師を思い出した歌は、
    「都をば霞とともにたちしかど秋風ぞ吹
    く白川の関」です。

 注・・白川の関=福島県白河市にあった関。
    関屋のもる=関守の住む家。
    もる影=「漏る」と「守る」を掛ける。

作者・・西行=1118~1190。23歳で出家する前は
    鳥羽院の北面武士であった。

出典・・山家集・1126。



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2019年10月07日

おとにきき めにみいりよき 出来秋は たみもゆたかに いちがさかえた


 
1255


おとにきき めにみいりよき 出来秋は たみもゆたかに
いちがさかえた       
                   四方赤良

とにきき にみいりよき きあきは みも
 ゆたかに ちがさかえた)

詞書・・「おめでたい」という五文字を句の上に置いて、
    農業の心を詠めと人が言ったので。

意味・・うわさに聞いていたが、じっさい目に見ても、
    実りのよい秋である。民の暮らしも豊かで、
    市も栄えてまことにめでたいことだ。

    ある言葉を各句の上に一字ずつ置いた形を折句
    といっています。

 注・・みいり=「見入り」と「実入り」を掛ける。
    出来秋=秋の稲のよく実った頃。
    いちがさかえた=市が栄えた。昔話・おとぎ話
     などの末尾に用いる決まり文句。めでたし、
     めでたし。

作者・・四方赤良=よものあから。1749~1823。黄表
    紙・洒落本・滑稽本・狂歌などで江戸時代活躍
    した。

出典・・狂歌「万載」(小学館「狂歌」)


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2019年10月06日

秋風に独り立ちたる姿かな


 
1259



秋風に独り立ちたる姿かな    
                                          良寛

(あきかぜに ひとりたちたる すがたかな)

意味・・秋の風が肌寒く吹いている。その風に吹かれて
    独り立ち尽くして、どのように生きるべきか、
    また世の人の幸せのためには、どうしたら良い
    かと、思い悩んでいると、心までが冷たく感じ
    られる。これが私に与えられた姿なのかなあ。

    この秋風には一種の悲愴感が感じられます。
    例えば、芭蕉の次の二つの句のように。

    「野ざらしを心に風のしむ身かな」

    (道に行き倒れて白骨を野辺にさらしてもと、
    覚悟をきめて、旅を出で立つ身に、ひとしお
    秋風が身にしみることだ)

    「塚も動け我が泣く声は秋の風」
          (意味は下記参照)     

    生き難い人々の苦しみに思いを寄せて、しきり
    に涙を流す良寛です。

 注・・独り立ちたる姿=この姿には、哀愁・寂寞・孤独
     悩みといった種々の感情が投影されている。

作者・・良寛=1758~1831。

参考句です。

塚も動け我が泣く声は秋の風   
                                           芭蕉

(つかもうごけ わがなくこえは あきのかぜ)

意味・・自分の来るのを待ちこがれていて死んだという
    一笑(俳人の名)の墓に詣でると、あたりは落莫
    (らくばく)たる秋風が吹き過ぎるのみである。
    私は悲しみに耐えず、声を上げて泣いたが、その
    私の泣く声は、秋風となって、塚を吹いてゆく。
    塚よ、この秋風に、我が無限の慟哭がこもって
    いるのだ。塚よ、秋風に吹かれている塚よ、我が
    深い哀悼の心に感じてくれよ。



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2019年10月04日

太秦の 深き林を 響きくる 風の音すごき 秋の夕暮れ

1267 (2)



太秦の 深き林を 響きくる 風の音すごき
秋の夕暮れ        
              小沢蘆庵

(うずまさの ふかきはやしを ひびきくる かぜのと
 すごき あきのゆうぐれ)

意味・・太秦の深い林を響かせながら吹いてくる
    風の音がすさまじい秋の夕暮れよ。

    竹林の唸る音だろうか。

 注・・太秦(うずまさ)=京都市右京区の地名。
      当時は郊外で、ここから御室(おむろ)・
     嵯峨のあたりにかけて竹林が多かった。

作者・・小沢蘆庵=おざわろあん。1723~1801。
    漢学にすぐれ、官山茶(かんさざん)や頼山
    陽と交流。

出典・・家集「六帖詠草」(東京堂出版「和歌鑑賞
    辞典」) 



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2019年10月03日

いかばかり しづのわが身を 思はねど 人よりも知る 秋の悲しさ

1278


いかばかり しづのわが身を 思はねど 人よりも知る
秋の悲しさ              
                   散逸物語・
                   道心すすむる君

(いかばかり しずのわがみを おもわねど ひとより
 もしる あきのかなしさ)

詞書・・秋の悲哀は、華やかに時めいている貴人の
    心には届かない、という心を。

意味・・わが身の卑しさをそれほども思わないけれ
    ども、人よりも秋の悲哀をいっそう感じて
    います。
 
    白楽天の詩、
    城柳(せいりゅう)宮槐(きゅうかい)漫(みだ)り
    がはしく揺落(ようらく)すれども 秋の悲しみ
    は貴人の心に至らず
    (都の町筋の柳、宮中の槐(えんじゅ)の木の葉
    たちは、秋風に吹き乱されて散り果ててしまっ
    たけれども、季節の愁い悲しみというものは、
    華やかに時めく貴人の心には感じないでありま
    しょう・・人々の愁い哀しみは感じないであり
    ましよう)
    この詩の心を詠んだ歌です。

     「あざみの歌」参考です。
 http://duarbo.air-nifty.com/songs/2007/08/post_1a3d.html

   1 山には山の愁いあり

     海には海のかなしみや
     ましてこころの花園に
     咲きしあざみの花ならば

   2 高嶺(たかね)の百合のそれよりも
     秘めたる夢をひとすじに
     くれない燃ゆるその姿
     あざみに深きわが想い


 注・・しづ=賤。卑しい者。身分の低い者。

作者・・道心すすむる君=散逸物語に出て来る主人公。

出典・・風葉和歌集・337。

 

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2019年10月02日

身に近く 来にけるものを 色変る 秋をばよそに 思ひしかども

1277


身に近く 来にけるものを 色変る 秋をばよそに
思ひしかども 
                 六条右大臣室

(みにちかく きにけるものを いろかわる あきをば
 よそに おもいしかども)

意味・・私の身辺に来ていたのに。草木の色変る
    秋を、かかわりのないものと思っていた
    けれども。

    男の飽き心に気づいて嘆き心を詠んでい
    ます。

    本歌は「身に近く秋や来ぬらむ見るまま
    に青葉の山もうつろひにけり」です。
         (意味は下記参照)

 注・・色変る=草木の色の変る秋。男の心変わ
     りを暗示。
    よそに=関係の無いものと。

作者・・六条右大臣室=ろくじょううだいじんの
    しつ。生没年未詳。源顕房(従一位右大臣)
    の妻。

出典・・新古今和歌集・1352。

本歌です。
身に近く 秋や来ぬらむ 見るままに 青葉の山も
うつろひにけり         
                  紫の上

意味・・身に近く秋が来たのでしょうか(私も飽かれ
    る時になったのかしら)。見ているうちに、
    青葉の山も紅葉に色変わりしてしまった。

    紫の上が光源氏の飽き心を嘆いた歌です。

出典・・源氏物語。 


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2019年10月01日

秋風の 吹きにし日より 音羽山 峰のこずえも  色つきにけり

1272


秋風の 吹きにし日より 音羽山 峰のこずえも 
色つきにけり          
                                                紀貫之

(あきかぜの ふきにしひより おとばやま みねの
 こずえも いろつきにけり)

意味・・秋風が吹き始めた初秋の時から風の音が絶え間
    なくするが、その音羽山を今日眺めると、峰の
    こずえまですっかり紅葉している。

 注・・音羽山=京都と滋賀県の境にある山。音羽山の
       「音」と、風の「音」を掛ける。

作者・・紀貫之=868~945。土佐の守。古今和歌集を
    撰進。古今集の仮名序を著す。

出典・・古今和歌集・256。


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