2020年04月

2020年04月30日

さくら花 かつ散る今日の 夕ぐれを 幾世の底より 鐘の鳴りくる

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さくら花 かつ散る今日の 夕ぐれを 幾世の底より
鐘の鳴りくる
                  明石海人

(さくらばな かつちるきょうの ゆうぐれを いくよの
 そこより かねのなりくる)

意味・・さくらの花がはらはらと散り急ぐ春の夕暮れ、時を
    知らせる鐘の音に耳を澄ませば、走馬燈のように、
    美しい思い出が甦(よみがえ)って来る。

    ハンセン病のために、作者の視力は無くなり、五官
    のうち聴力しか残っていない日々死と隣り合わせの
    苦悩の中で詠んだ歌です。花びらのかすかな擦れ
    う音を感じて詠んでいます。

    どうしてこんな明るい歌が詠めるのだろうか。

    病苦の中、歌集「白描」を出版しますが、その前書
    に次の言葉が書かれています。
    「深海に生きる魚族のやうに、自らが燃えなければ
    何処にも(希望の)光はない」

    下記に追記を載せました。 

 注・・かつ散る=花が散りその上また散る。
    幾世=多くの年月。
    底=心の底、真底。ここではどん底からの思い出の意。

作者・・明石海人=あかしかいじん。19011939。昭和3年
    ハンセン病と診断され岡山県の長島愛生園で療養生活
    を送る。盲目になり喉に吸気官を付けながらの闘病の
    中、歌集「白描」を出版。

出典・・歌集「白描」。

追記です。
さくら花 かつ散る今日の 夕暮れを 幾世の底より
鐘の鳴りくる

桜がはらはら散っている夕暮れ時に、時を知らせる鐘の音が
鳴っている。それは長い長い年月にわたったどん底の苦痛を
思わせる鐘の響きに聞こえて来る。

どん底の状態、その時の気持ち。

1、癩病と診断された時のショック。
  ① 不治の病の癩病。それは治る事はなく病状は日々悪
    化してゆく。そして失明し死亡に至るその恐ろしさ。
  ② 仕事を辞めねばならない。
    これからの家族、妻と幼子二人の生活費はどうした
    らよいのだろうか。
  ③ 幼子は学校に行かせられるのだろうか。
    中程度の学校には行ってほしい。
  ④ 近所に「癩病」と知れわたったら、もうここには居
    られない。村八分の恐ろしさをどうするか。
  (気持ち)
    一時生きる気力が喪失したが家族の事を思えば何と
    してでも頑張って家族を守らなければならない。
 
2、妻子との別れの辛さ。
  療養所に行けば、お父さんお父さんと慕っていた子供と
  別れなければならない。
  (気持ち) 
  いつか子供が大きくなって面会に来てくれた時、お父さ
  んは立派な人だと誇れるような父でありたい。

3、多額の治療費はどうやって作ろうか
  治療費は月給以上かかるという。
  (気持ち)
  親が田畑を売って治療費を作ってくれた。治療しても
  病気は治らないが、親が治療費を出した甲斐があったと
  喜ばれるようになりたい。

4、手指の喪失。
  病気が進行していると思うと辛い。
  文字が書けなくなった。
  (気持ち)
  指がなくてもまだまだ腕がある、足があり歩けるのだ。
  何の不足があろうか。

5、喉の筋肉が衰えて息するのが苦しい。
  吸気管を取り付けたので話が出来ない。
  (気持ち)
  自分の意志を伝えるのに、患者である同僚の背中にこぶし
  で文字を書く。それで意志が伝えられる。

6、失明の辛さ。
  光明を無くし絶望感がただよう。
  (気持ち)
  目が見えず、話は出来ないが意志は伝えられる。歌集
  「白描」は出版できるのだ。

幾世の底より 鐘のなりくる。

絶望のどん底に落とされ
、這い上がって来た所にまたどん
底に落とされた。そのような思い出が、鐘の音を聞くたび
に走馬燈のようによみがえって来る。
しかし、多くの困難を克服した今、つらい思い出から抜け
出した美しい思い出となって、夕暮れ時の鐘の響きを聞い
ている。


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2020年04月29日

花の色を うつしとどめよ 鏡山 春よりのちの 影や見ゆると

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花の色を うつしとどめよ 鏡山 春よりのちの
影や見ゆると
                坂上是則
             
(はなのいろを うつしとどめよ かがみやま はるより
 のちの かげやみゆると)

意味・・花の色を、その名のように、鏡に映して、移し
    留めておくれ鏡山よ。春の過ぎ去った後も、花
    の影が見えるように。

    鏡に花の色を映して移し留め、後々までも花見
    る清々しさがあって欲しいものだ。

 注・・うつしとどめよ=「移す」に「写す」を掛ける。
    鏡山=滋賀県蒲生郡竜王町鏡にある山。鏡を連
     想させる。

作者・・坂上是則=さかのうえのこれのり。930年没。
    従五位下・加賀介。三十六歌仙の一人。
 
出典・・拾遺和歌集・73。


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2020年04月28日

うちはへて 春はさばかり のどけきを 花の心や なにいそぐらん

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うちはへて 春はさばかり のどけきを 花の心や
なにいそぐらん
                   清原深養父
             
(うちはえて はるはさばかり のどけきを はなの
 こころや なにいそぐらん)

意味・・ずっと引き続いて春はこのようにのんびりして
    いるのに、花の心はどうしてあわただしく散ろ
    うと急ぐのだろうか。

 注・・うちはへて=打ち延へて。引き続いて。

作者・・清原深養父=きよはらのふかやぶ。生没年未詳。
    清少納言の曾祖父。

出典・・後撰和歌集・92。
 

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2020年04月27日

うぐいすの 鳴くになみだの おつるかな またもや春に あはむとすらん

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うぐいすの 鳴くになみだの おつるかな またもや春に
あはむとすらん
                    藤原教良母
         
(うぐいすの なくになみだの おつるかな またもや
 はるに あわんとすらん)

詞書・・夫が亡くなった後の春、鶯の鳴くのを聞いて詠む。

意味・・鶯の鳴くのを聞いても涙が落ちることだ。生きて
    再び春に逢おうとしているのだろうか。

    夫を失って、生きてゆけそうもないほどの悲しみ
    の中でも、時は過ぎ春がめぐって来る事の感慨を
    詠んでいます。

 注・・あはむとすらん=春まで生きていられようとは思
    っていなかったのに、との意を含む。

作者・・藤原教良母=ふじわらののりよしのはは。子の教
    良は日向守・従五位上。夫は1141年11月没。
 
出典・・詞花和歌集・358。


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2020年04月26日

桃の花 君に似るとは いひかねて ただうつくしと 愛でてやみしか

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桃の花 君に似るとは いひかねて ただうつくしと
愛でてやみしか 
                 金子薫園
             
(もものはな きみににるとは いいかねて ただ
 うつくしと めでてやみしか)

意味・・桃の花を、君のようだとは言えなくて(恥ずか
    しくて)、ただ綺麗だなあと賞(ほ)めるだけで
    終わってしまった。

    桃の花といえば桃の節句を、そして万葉集の
    「春の苑くれない匂ふ桃の花下照る道に出で
    立つ乙女」を連想し、若い女性をたとえるの
    に相応(ふさ)しい花です。
    (歌の意味は下記参照)

 注・・うつくし=かわいい、いとしい、きれいだ。
    愛づ=心ひかれる、褒める、愛する。

作者・・金子薫園=かねこくんえん。1876~1951。
 
出典・・歌集「片われ月」。

参考歌です。
春の苑 紅にほふ 桃の花 下照る道に
出で立つ少女
             大伴家持
        
(はるのその くれないにおう もものはな したてる
 みちに いでたつおとめ)

意味・・春の庭園に紅の色が美しく映える桃の花、その
    木の下までも照り輝いている道に出て立って
    いる娘さんよ、ともに美しいなあ。

 注・・苑=庭園。
 
作者・・大伴家持= おおとものやかもち。718~785。
    少納言。万葉集の編纂をした。
 
出典・・万葉集・4139 。


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2020年04月25日

難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今は春べと 咲くやこの花

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難波津に 咲くやこの花 冬ごもり 今は春べと
咲くやこの花
                 王仁
              
(なにわづに さくやこのはな ふゆごもり いまは
 はるべと さくやこのはな)

意味・・難波津に咲き出した梅の花。今こそ自分に
    ふさわしい季節となって咲いているよ。
   
 注・・難波津=摂津国の歌枕。大阪市淀川河口近辺。
    この花=木に咲く花。桜や梅の花。ここでは
     梅の花。
    冬ごもり=「春」の枕詞。

作者・・王仁=わに。生没年未詳。百済から渡来した
            人。漢字や儒教を伝える。

出典・・古今和歌集・仮名序。 


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2020年04月24日

春日野は 今日はな焼きそ 若草の つまもこもれり  我もこもれり

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春日野は 今日はな焼きそ 若草の つまもこもれり 
我もこもれり             
                 詠人知らず

(かすがのは けふはなやきそ わかくさの つまもこもれり
 われもこもれり)

意味・・春日野の番人よ、せめて今日だけは春日野を焼か
    ないで欲しい。我が愛する妻もこの野で遊んでい
    るのだし、私も遊んでいるのだから。

    野遊びに来た都会人の立場で詠んだ歌です。
    野を焼くのは新しい草が生えやすくするため春の
    仕事です。

 注・・春日野=奈良市春日野公園。都人の遊楽地となっ
     ていた。
    な・・そ=その動作を禁止する。・・してくれる
     な。
    若草=「つま」の枕詞。

出典・・古今和歌集・17、伊勢物語12段。
    


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2020年04月23日

老いぬとて 松は緑ぞ まさりける わが黒髪の 雪の寒さに

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老いぬとて 松は緑ぞ まさりける わが黒髪の
雪の寒さに
                 菅原道真
             
(おいぬとて まつはみどりぞ まさりける わが
 くろかみの ゆきのさむさに)

意味・・老いてしまってでも松はますます緑を深く
    していることだ。私は、自分の黒髪が雪の
    ように白くなって、寒々とした思いでいる
    のに。

 注・・わが黒髪の雪の寒さに=自分の黒髪が、嘆
     きの為に雪のように白髪に変り、寒々と
     した思いでいるのに。

作者・・菅原道真=すがわらのみちざね。845~903。
    正一位太政大臣。藤原時平の讒言(ざんげん)
    で太宰権師(だざいごんのそち)に左遷され、
    大宰府に配流された。配所で2年後に没する。
    当代随一の漢学者。
 
出典・・新古今和歌集・1694。
 


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2020年04月22日

木々の心 花ちかからし 昨日けふ 世はうすぐもり 春雨ぞ降る

1366

 
木々の心 花ちかからし 昨日けふ 世はうすぐもり
春雨ぞ降る
                 永福門院 

(きぎのこころ はなちかからし きのうきよう よはうす
 ぐもり はるさめぞふる)

意味・・木々はその心の中で、もうすぐ花を咲かせようと
    思っているらしい。そんな昨日今日、世はうす曇
    り、花を咲かせる春雨が静かに降っている。

    春に会って雨を受け、生き生きとした木々。そこ
    から今にも花を咲かせたい、という生命力を感じ
    とっています。

 注・・ちかからし=「近かかるらし」で「る」の落ちた表現。
     近いようだ、近いらしい。

作者・・永福門院=えいふくもんいん。1271~1342。伏見
     天皇の中宮。「玉葉和歌集」の代表的歌人。
 
出典・・玉葉和歌集。


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2020年04月21日

散る花を なげきし人は このもとの 淋しきことや かねて知りけむ

1371

 
散る花を なげきし人は このもとの 淋しきことや
かねて知りけむ      
                  紫式部

(ちるはなを なげきひとは このもとの さびしき
 ことや かねてしりけん)

意味・・夫は常々、この桜が散るのを惜しがったもの
    です。花(自分)なき後の、子供達の行く末
    を案じていたのでしょう。

    夫の藤原宣孝(のぶたか)が亡くなった後、庭
    の桜が見事に開花した時に詠んだ歌です。

    林芙美子の言葉、参考です。
       花の命は 短くて 苦しきことのみ 多かりき

 注・・このもと=木の下。転じて、たよる人。
    淋しい=寂しい、経済的に貧しい。

作者・・紫式部=むらさきしきぶ。970~1016。源氏
    物語の作者。

出典・・家集「紫式部集」。
 


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2020年04月20日

吉野山 峰の白雪 いつ消えて 今朝は霞の  立かはるらん

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                                                         吉野山

 吉野山 峰の白雪 いつ消えて 今朝は霞の 
立かはるらん
               源重之

(よしのやま みねのしらゆき いつきえて けさは
 かすみの たちかわるらん)

意味・・いったい吉野山の峰の白雪はいつの間に消え
    て今朝は霞に立ち替わったのだろう。

    吉野山の白雪が消え、霞へと替わった景色を
    見て、いよいよ春になったと喜びを詠んでい
    ます。

作者・・源重之=みなもとのしげゆき。生没年未詳。
    従五位下相模権守。1004年頃60余歳で死去。

出典・・拾遺和歌集・4。

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2020年04月19日

天つ空 ひとつに見ゆる 越の海の 波をわけても 帰るかりがね


 
1391 (2)

 
天つ空 ひとつに見ゆる 越の海の 波をわけても
帰るかりがね
                 源頼政

(あまつそら ひとつにみゆる こしのうみの なみを
 わけても かえるかりがね)

意味・・空と海がひとつになって見分けがつかない、は
    るか彼方の越の海の、荒い波路を乗り越えてで
    も帰って行く雁だなあ。
 
    昔のよき時代に帰りたい作者の想いを帰雁に思
    い入れている。

 注・・越の海=北陸の海。「来し」を掛ける。
    波をわけても=帰るべき季節になったので、北
     国の荒い波路を乗り越えてでも。

作者・・源頼政=みなもとのよりまさ。1104~1180。
    平氏と対立し宇治川の合戦に負けて自害した。

出典・・千載和歌集・38。


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2020年04月17日

のどかにも やがてなり行く けしきかな 昨日の日影 今日の春雨

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 のどかにも やがてなり行く けしきかな 昨日の日影
今日の春雨
                    伏見院

(のどかにも やがてなりゆく けしきかな きのうの
 ひかげ きょうのはるさめ)

意味・・(もうすぐ四月)早くものどかになって行く様子
    だなあ。昨日のうららかな日ざし、今日のこの
    静かに降る春雨。

 注・・やがて=すぐさま、ただちに、まもなく。


作者・・伏見院=ふしみいん。1265~1317。「玉葉和歌
    集」を撰集させた。

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2020年04月16日

わが宿の 梢ばかりと 見しほどに よもの山辺に 春はきにけり

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 わが宿の 梢ばかりと 見しほどに よもの山辺に
春はきにけり
                  源顕基

(わがやどの こずえばかりと みしほどに よもの
 やまべに はるはきにけり)

意味・・わが家の梢だけに花が咲いて、春が来ている
    と思っているうちに、あちこちの山のあたり
    に山桜が咲き春が来たことだ。

 注・・梢ばかりと=(桜の)木の枝先に(花が咲いて春
     が来た)と。
    よもの山辺=四方の山辺。あちらこちらの山の
     あたり。

作者・・源顕基=みなもとのあきもと。1000~1047。
    従三位権中納言。

出典・・後拾遺和歌集・106。


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2020年04月15日

谷川の うち出づる波も 声たてつ うぐひすさそへ 春の山風

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谷川の うち出づる波も 声たてつ うぐひすさそへ
春の山風
                 藤原家隆

(たにがわの うちいずるなみも こえたてつ うぐいす
 さそえ はるのやまかぜ)

意味・・谷川の氷を破って勢いよく流れ出る白波も声を
    たてている。さあ、お前も鳴けよと、うぐいすを
    誘い出しておくれ。梅の香を運ぶ春の山風よ。

    選びぬかれた言葉で技巧を凝らして詠んだ歌です。
    波の白は視覚、波の音、期待するうぐいすの声
    は聴覚、そして、春風は頬にさわる触覚であり、
    梅の香をもたらす臭覚である。

 注・・うち出づる波=解けた氷の間をほとばしり出る
     波。
    春の山風=花の香を運ぶという春の山風。花は
     早春の香りの高い花で梅の花。

作者・・藤原家隆=ふしわらのいえたか。1158~1237。
    新古今和歌集選者の一人。

出典・・新古今和歌集・17。


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2020年04月14日

たづねつる 宿は霞に うづもれて 谷の鶯 一声ぞする

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たづねつる 宿は霞に うづもれて 谷の鶯
一声ぞする
                 藤原範永
 
(たずねつる やどはかすみに うずもれて たにの
 うぐいす ひとこえぞする)

意味・・霞に埋もれた家を訪ねあてると、折から谷の
    鶯の一声が聞こえて来る。

         霞のかかった春の風景。そこに鶯の鳴き声が
    聞こえる。風雅な景色を詠んでいます。

作者・・藤原範永=ふじわらののりなが。生没年未詳。
     正四位摂津守。
 
出典・・後拾遺和歌集・23。


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2020年04月13日

むっとして もどれば庭の 柳かな

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むっとして もどれば庭の 柳かな 
                    大島寥太

(むっとして もどればにわの やなぎかな)

意味・・なにか腹の立つことがあり、むっとした気持で
    外から戻ってくると、庭の柳が風のままに揺れ
    ていた。それを見て教わる気がした。

    風に逆らわない柳を見て、人に逆らわず何事も
    「風に柳」と上手に受け流すべきだと反省した
    句です。

作者・・大島寥太=おおしまりょうた。1718~1787。
    芭蕉の功績を広める事業に努めた。


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2020年04月12日

八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を

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八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る
その八重垣を
                須佐之男命
              
(やくもたつ いずもやえがき つまごみに やえがき
 つくる そのやえがきを)

意味・・すばらしい雲が盛んに出て、立ちのぼっている。
    その立ち出ずる雲の作る、幾重もの垣・・それは
    まさに「出雲八重垣」だ。妻を籠(こも)らせる為 
    に八重垣を作っている。なんとその垣の見事さよ。

    宮殿を造る地を探している時に詠んだ歌です。

 注・・八雲立つ=出雲の枕詞。
    籠(ご)み=籠(こも)る、中に入れる。

作者・・須佐之男命=すさのおのみこと。古代伝承の神。

出典・・古事記。


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2020年04月11日

たのしみは 常に見なれぬ 鳥の来て 軒遠からぬ  樹に鳴きし時

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たのしみは 常に見なれぬ 鳥の来て 軒遠からぬ 
樹に鳴きし時      
                  橘曙覧

(たのしみは つねにみなれぬ とりのきて のき
 とおからぬ きになきしとき)

意味・・私の楽しみはあまり見たことのない珍しい小鳥が
    やって来て、家の軒先近くの樹に止まってさえず
    るのを耳にした時です。

    小鳥のさえずりが聞けることはいいものですね。

作者・・橘曙覧=1812~1868。福井藩の重臣と親交。
 
出典・・岩波文庫「橘曙覧全歌集」。

    参考です。
    たのしみは 遠来の客 もてなして 次なる再会
    約束する時

                       破茶

意味・・珍しい人とのおしゃべりもいいものです。長年
    逢わない人が、近くに来たのでといって訪ねて
    
来た。一杯飲みながら懐かしい昔話に花が咲く
    事
になる。このような事は嬉しいことであり、
    また
の再会の約束も楽しいことだ。

    人との心のこもったお付き合いをしていたおか
    げ
です。

作者・・破茶=はちゃ。ハンドルネーム。

出典・・インターネット。



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2020年04月09日

百草の 花の盛りは あるらめど したくだしゆく  我ぞともしき

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百草の 花の盛りは あるらめど したくだしゆく 
我ぞともしき
                良寛
                 
(ももくさの はなのさかりは あるらめど したく
 だしゆく われぞともしき)

意味・・沢山の草には、それぞれ花の盛りがある
    ようだが、次第に衰えていく私の身には
    まことに恨めしいことだ。

   「したくだしゆく我ぞともしき」を「しら
    でたち行く我ぞかなしき」とした別本も
    あります。 

 注・・したくだし=次第に衰える。
    ともしき=うらめしい。

作者・・良寛=1758~1831。

出典・・ 良寛歌集・538 。



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2020年04月08日

葉隠れに 散りとどまれる 花のみぞ 忍びし人に 逢ふ心地する

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葉隠れに 散りとどまれる 花のみぞ 忍びし人に
逢ふ心地する
                  西行

(はがくれに ちりとどまれる はなのみぞ しのびし
 ひとに あうここちする)

意味・・葉隠れにわずかに散り残っている花を見る時は、
    それこそ心ひそかに思っている人に逢えたよう
    な気持ちがするよ。

    散り残った花が葉に隠れてわずかに見えるのに
    寄せた恋の歌です。

作者・・西行=1118~1190。

出典・・山家集・599。

    


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2020年04月07日

かげ絶えて くる夜は しらぬ うき中も 猶たのまるる さきがにのいと

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かげ絶えて くる夜は しらぬ うき中も 猶たのまるる
さきがにのいと
                    内山淳時
             
(かげたえて くるよはしらぬ うきなかも なお
 たのまるる さきがにのいと)

題・・寄虫恋

意味・・姿を見せなくなっていつ来るか分からないような
    つらい中でも、やはり完全に切れたわけではない
    と思って、蜘蛛の糸のようなものだけれど、頼り
    にせずにはいられない。

    蜘蛛の糸のようなごくわずかなつながりに期待し
    た恋の想いです。

 注・・かげ絶えて=姿を見せなくなる。
    さきがにのいと=蜘蛛の糸。

作者・・内山淳時=うちやまあつとき。1723~1788。
    狂歌の四方赤良の師匠。
 
出典・・家集「遺珠集」(小学館「近世和歌集」)


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2020年04月06日

学徒みな 兵となりたり 歩み入る 広き校舎に 立つ音あらず

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学徒みな 兵となりたり 歩み入る 広き校舎に
立つ音あらず
                 窪田空穂
            
(がくとみな へいとなりたり あゆみいる ひろき
こうしゃに たつおとあらず)

意味・・学生はみな兵士となった。歩み入った広々とした
    校舎には、物音を立てる者もなく、ひっそりして
    いる。

    昭和18年、各大学、高等専門学校の学生達は「学
    徒出陣」といって陸海軍部隊に入隊した。残った
    学生もいたが殆どの大学の校舎は閑散としていた。
    この歌には、出陣した学生達が無事で早く帰って
    来て欲しいという作者の気持も感じられます。

作者・・窪田空穂=くぼたうつぼ。1877~1967。早大文
    学部教授。

出典・・歌集「冬木原」。


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2020年04月05日

ただ恋し うらみ怒りは 影もなし 暮れて旅籠の 欄に倚るとき

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ただ恋し うらみ怒りは 影もなし 暮れて旅籠の
欄に倚るとき
                 若山牧水 
 
(ただこいし うらみいかりは かげもなし くれて
 はたごの らんによるとき)

詞書・・耶馬溪にて。

意味・・こうして一人幾山河を越えてはるばると旅を
    続けていると、何かにつけて思われるのは恋
    しい人のこと。いろいろな場合のその言葉や
    態度などが思い出されて、時には恨みや怒り
    がこみあげて来るような事もあったが、日が
    暮れてからこうしてこの小さな旅館の古びた
    手すりに寄って暗い戸外を見ていると、妙に
    心細くて、これまで時には恨んでみたり怒っ
    てみたりしていたことなど跡方もなく消えう
    せて、ただ恋しさばかりがひたひたと満ち溢
    れて来る。ああ恋しい。何とかして逢いたい
    なあ。

 注・・欄=欄干、手すり。

作者・・若山牧水=わかやまぼくすい。1885~1928。
     早稲田大学卒。尾上柴舟に師事。

出典・・別離。


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2020年04月04日

今日に明けて 昨日に似ぬは みな人の 心に春の 立ちにけらしも

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今日に明けて 昨日に似ぬは みな人の 心に春の
立ちにけらしも
                   紀貫之

(きようにあけて きのうににぬは みなひとの こころに
 はるの たちけらしも)

詞書・・春立つ日詠める。

意味・・今日このように夜が明けて、昨日と違っているよう
    に見えるのは、すべての人の心に春が来たからであ
    るらしいなあ。

    季節の移り変りも、結局は節目節目の気構えによる
    ものだ、という心を大切にした歌となっています。
   
作者・・紀貫之=きのつらゆき。780~945。土佐守。古今集
    仮名序の作者。三十六歌仙の一人。


出典・・玉葉和歌集。


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2020年04月03日

ふるさとの蟹の鋏の赤いこと

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ふるさとの蟹の鋏の赤いこと        
                    山頭火
    
(ふるさとの かにのはさみの あかいこと)

意味・・流浪の旅から戻り、故郷に入って先ず目につい
    た蟹だか、この蟹の鋏の何と赤いことだろう。
    何と美しいことだろうか。一味違って見えてく
    る。

    心情のこだわりから故郷を出たものの、久し振
    りに帰って来た故郷はやはり懐かしい。温かく
    感じられる。小川で遊んで取っていた蟹もやさ
    しい目で迎えてくれた。故郷はいいものだ。

作者・・山頭火=さんとうか。種田山頭火。1882~1940。
     母と弟の自殺、家業の酒造業の失敗などの
     不幸が重なり出家。禅僧として行乞流転の
     旅を送る。荻原井泉水の「層雲」に出句活躍。

出典・・金子兜太「放浪行乞・山頭火120句」。


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2020年04月02日

四十年 ともにすごしし ことごとも 夢みる如く ここに終りぬ

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四十年 ともにすごしし ことごとも 夢みる如く
ここに終りぬ
                  林圭子 

(よんじゅうねん ともにすごしし ことごとも ゆめ
 みるごとく ここにおわりぬ)

詞書・・誕生日。

意味・・かえりみて四十年ともに生活した思い出は、
    夢を見るようにあっけなく過ぎ去って行く。
    彼の誕生日の今日、ともに過ごした事を思
    い出した寂しい日はここに終わった。

    夫が亡くなった翌年の彼の誕生日に、思い
    出を詠んだ歌です。

作者・・林圭子=はやしけいこ。1896~1989。窪田
    空穂の妻。跡見女学校卒。

出典・・歌集「ひくきみどり」(東京堂出版「現代
    短歌鑑賞事典」)


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2020年04月01日

遊びせむとや 生まれけむ 戯れせむとや 生まれけむ 遊ぶ子供の 声きけば  我が身さへこそ ゆるがるれ

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遊びせむとや 生まれけむ 戯れせむとや 生まれけむ
遊ぶ子供の 声きけば  我が身さへこそ ゆるがるれ

                    
(あそびせんとや うまれけん たわむれせんとや うまれけん
 あそぶこどもの こえきけば わがみさえこそ ゆるがるれ)

意味・・私は、遊びをしようとして生まれて来たのか。
    戯れをしょうとして生まれて来たのか。
    無心に遊ぶ子供の声を聞いていると、この汚れ
    きった身体でさえ揺さぶられてしまう。

    遊女が落ちぶれた身に後悔して謡った歌です。
    遊びとは音楽、戯れとは舞踏のこと。かって
    舞姫は芸を見せては身を売る遊女と同意義で
    あった。
    貧しい農民の子なのだろうか、身を売るしか
    生活のすべのない女が、流浪の果てに道端の
    石に腰を降ろして過去を振り返ります。
    私はこんな生活のために生まれて来たのか。
    遊び女、戯れ女とさげすまれ、もう心も身体
    もぼろぼろになってしまった。
    目の前では子供らが、なにも憂いのない溌剌
    とした声をあげて遊んでいる。
    私もこんな時があったのか、この汚れた身の
    底から激しく揺さぶられる。
    ああ、あの無邪気な子供の子を聞いていると
    悲痛な思いになってゆく。

       梁塵秘抄のこの歌を初音ミクが歌っています。
    https://www.youtube.com/watch?v=g-8tlCijZ2Q

 注・・梁塵秘抄=平安時代の末期に編まれた歌謡集。
     1180年頃、後白河法皇によって編まれる。

出典・・ 梁塵秘抄・359。
 

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